眠り姫は子作りしたい

芯夜

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第一章 眠り姫は子作りしたい

36 村長への報告

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男達がオークの国跡地に向かい、残る女三人は村を目指して森を抜けた。
シャルロッテが案内するまでもなく、目印を残していたという二人に付いて歩いただけだ。

それなのにシャルロッテは途中でくらっときてしまい、アネットとライラにとても心配された上に、アネットにお姫様抱っこされている。
確実に魔力を使いすぎたせいなのだが、余計な心配をかけてしまった。

シャルロッテはお昼寝の向かい合った抱っこ。話をする時の背中を預けた抱っこ。グラスが運んでくれる時の腕に座らせて貰う抱っこ。
そして今回、横抱きにされる抱っこを覚えた。

抱っこに色んな種類があることを覚えて、これは新しいとはしゃぐシャルロッテは幼子そのもので。
その元気そうな様子を見た二人は安心した。
急に倒れた時には心配したが、これだけ元気があれば大丈夫だろうと思ったのだ。

寄り道をしつつもその微笑ましい状態のまま村に着き、村長の家へと向かう。
出立前に女性陣だけが先に戻ることがあれば、村長宅に泊めてもらえるように交渉をしておいた。
有事の際には立てこもることも、集会の会場にすることも考えられていて、村の中で唯一の二階建て家屋なのだ。

「おや?皆様、お早いお帰りですね。それで、その……いかがだったでしょうか?」

昼前に帰宅した三人を家に招き入れ、お茶の準備をしながら村長が問いかける。

近くの街から派遣されてきた騎士たちは村を守っており、森の奥まで分け入ることが無い。
そのため騎士の一部が、多量のオークが居たというのは出まかせなのではないかと噂していることを知っていた。
稀に出てはくるが、はぐれだと言われても疑わない程度の頻度だ。

だが狩人の妻が行方不明になったのは事実であり、その妻を探す際に五体以上のオークの群れを数か所で見かけたという報告があった。普通は単体か、多くても二体なのにだ。
田舎すぎる村に住む人々は、嘘を吐くような人間たちではない。それも探しに出て早めに切り上げた者たちは皆同様の報告だったのだ。
村長は間違いなくオークの集落が出来ていると思っていた。

村人たちにはもしものときには村を捨てて逃げることを伝えているし、いつでも逃げられるように最低限の家財道具は荷造りさせている。

緊張した面持ちの村長にアネットが答えた。
普段はリーダーで夫のゲイルが受け答えするが、彼が居ない時はアネットが担当だ。

「確かにオークの集落はあったよ。魔物に遭わなきゃ、子供でも辿り着ける位置にね。正直なところ、今までこの村が襲われてないのが不思議なくらいには育ってたよ。」

嘘偽りのないアネットの言葉に、村長の顔は青褪めた。

こんな辺鄙な村に訪れるのは一部の行商人くらいだ。
討伐の為に冒険者達は来てくれるだろうか。
それよりも集まったとして、どれくらいの期間でこの村に到達するだろうか。

Aランク冒険者たちはかなりの早さで来てくれたが、人数が多ければ多いほど時間がかかるだろう。

「そう、ですか……。村人を守るには、すぐにでも村を発った方がいいでしょうか?もしものときは逃げ出せるように、村人たちには準備をさせております。」

女だけが帰ってきたのは、そのための連絡と苗床にされない為だろうと考えた村長は自ら切り出した。
しかしアネットは首を振る。

「その必要はないよ。今リーダーたちが確認しに行ってるけど、殲滅できているはずだからね。少なくともキングと取り巻きは倒してるから、あとは集落を壊すだけだよ。」

「ほ、本当ですか!?ま、まさか……キングが居たなんて……。」

「男衆は集落を焼き払って帰ってくるだろうから、明日か明後日には戻るはずだよ。一応、細かいことはその報告を待って欲しいわ。」

「もちろんです!あぁ、ようやくゆっくり眠れそうです。お三方もお疲れでしょう。お連れ様が戻られるまで、お食事はこちらで準備いたしますので、二階へどうぞ。準備出来次第湯桶もお持ちしますので、汚れを落としてしっかりお休みになってください。騎士達が何と言おうと、家族と共に一階でお守りしますので。」

ようやくその顔に笑みを浮かべた村長は、三人を二階へ促した。
村長宅に三人が泊まる意味が騎士対策だという事もしっかり理解しており。村の恩人を困らせてなるものかと宣言しておく。

この見目麗しい女性達になにかあれば、この村で次に何か起こったとしても。冒険者の助力は得られなくなるだろう。
愛着のある大切な村ではあるが、国の中では取るに足らない辺境の村であることも理解していた。

「気を使ってもらって悪いね。ありがたく休ませてもらうよ。食事を世話になるのなら……。」

「シャルちゃん。狩ったホーンラビットを出してくれるかしら?五匹とも全部、村長さんに渡してほしいの。」

ライラに促され、シャルロッテは持たされていたウエストポーチの中からホーンラビットを取り出した。
女神のような衣装に茶色い革で出来たウエストポーチは不恰好だが、誤魔化すためには必要な処置だった。『ストレージ』を見せるわけにはいかない。

「はい。血抜きも浄化も済んでいるから、あとは捌けば食べられる状態よ。」

本来魔物肉には濃厚な魔素が籠っており、ただ倒しただけでは食べられない。
厳密には食べられなくはないが、全てを体内で魔力として取り込むことが出来ないので腹を下してしまう。浄化せずに食べるのは、遭難時など緊急事態だけだ。

魔物肉とは浄化することで、ようやく人が消化吸収して食べられる肉になるのだ。

「良かったらその肉を使っておくれ。シャルちゃんは物凄く少食だから、運んでくる食事は二人分で良いからね。余った肉は村人に配ってもらっても良いよ。お産を控えた奥さんもいたでしょ?皮や魔石は、駄賃としてとっておいておくれ。」

「……っ!深く感謝いたします。さぁ、こちらへ。」

深々と頭を下げた村長に付き添われ、掃除の行き届いた二階の広間に通された。

恐らく会話中に用意してくれていたのだろう。
湯桶とメンの手ぬぐいが人数分、直ぐに部屋に届けられた。終わったら引き戸になっている扉の前に出してくれたら良いという。
引き戸なのは、立て籠もる時につっかえ棒をはめるためだった。

「シャルちゃんは魔法で済ませちゃうことが多いだろうけど、今日は湯を使わせてもらったらいいよ。わざわざ人数分用意してくれたのに綺麗なまま返すと、向こうが気にしちゃうからね。」

「平民は井戸から汲んだ水で身体を拭くことが多いので、こうして薪を使ってお湯を準備してくれるのは珍しいことなんですよ。冒険者に対して用意してくれるのは、それだけ感謝していたり好意を持っていますという行動でもあるんです。身体の拭き方は知っていますか?」

「風邪を引いていた時にリュクスが教えてくれたわ。今日は魔力を使いすぎたから、私もありがたく湯を頂くわ。でも背中をお願いしても良いかしら?途中からちゃんと一人でも拭けるようになったんだけど。背中だけは拭けなくて、いつもリュクスが拭いてくれていたの。」

「えぇ、もちろんです。先に顔を拭いてください。その後に背中を拭きますね。」

「分かったわ。」

アネットとライラは昨夜、シャルロッテの子作りの知識とその身体と心の成長具合の歪さについて聞いていた。
保護者会がお開きになった後。【氷刃】の四人から折り入って頼みたいことがあると細かい事情を聞いたのだ。

それを抜きにしても、どうやら目の前の美人に惚れたらしいリュクスはどんな気持ちで身体を拭くことを教えてやったのだろうかと、二人はにやけ顔で視線を交わした。

聞いていて分かっていることとはいえ、それはもう清々しいほどに潔くすっぽんぽんになったのだ。
その豊満な胸も細い腰も、小ぶりで丸みはあるのに引き締まったお尻も。全てが丸見えでも一切気にする様子が無い。

背中を拭くためにその肌に触れれば、白く艶のある肌の手触りも良い。
もちっとしていて肌に吸い付くような、世の中の女性が欲しいと思ってもなかなか手に入らないきめの細かい素晴らしい肌だった。

背中を拭いてもらったシャルロッテは、首から下をしっかり隈なく拭き上げていく。
もちろんそれには股も含まれていて、それをリュクスが教えてやったという事だ。

身体を拭き終えたシャルロッテは『ストレージ』から二つの壺を取り出した。
これはお風呂上りなどに必ず塗るように言われているクリームだ。
ビオラから出来れば毎日でも清潔にした肌に塗らないとダメだと言われている。

だが見たところ、アネットもライラも何も塗っていないようだ。
たしかにシャルロッテにはストレージがあって壺が割れる心配がないが、持ち運ぶには不便だものねと勝手に納得する。

「良かったら、背中にクリームも塗ってもらえるかしら?ビオラにちゃんと塗るように言われているの。小さいほうが顔用で、大きいのは身体用よ。良かったら二人も使ってちょうだい。」

「いいのかい?これはシャルちゃんのだろ。」

こういった手入れの化粧品があることは知っているが、なかなか平民では手の届かないものだ。
特に冒険者は生傷も絶えないため、肌の手入れは傷の治療ついでのポーションを振りかける程度である。
これで日焼けも綺麗になるので、パーティーに女性が居れば使用期限間際のポーションがきっちり消費される。一種の美容品扱いだ。

ちなみに使用期限が近付いたポーションは、意中の女性にプレゼントされることもある。
女性も喜ぶし、備えは必要だが捨てるよりも有意義な使い方だし、惜しみなく使えるしで。無駄のないプレゼントになるのだ。
消耗品の管理をしていて、それを買い揃えられるだけの稼ぎがあるというアピールにもなる。

「えぇ、もちろんよ。肌が綺麗な方が男性は喜ぶから、お手入れは出来るだけ毎日必要だってビオラが言っていたわ。匂いが苦手だったら申し訳ないのだけれど、街に戻れば旦那様に反動が来るでしょう?出先でお手入れが難しいのは分かるけれど、できるだけ綺麗なお肌の方が子作りの時に喜ばれるわ。」

このやりとりだけで【氷刃】が言う、何故か子作りに執着しているという話に納得しそうになる。
二人は苦笑しながらもありがたくクリームを使わせてもらった。そのお菓子のような甘ったるい香りは、シャルロッテの好きな匂いを選んだ結果である。

クリームを使わせてもらい久しぶりのもちっと肌に感動する二人の傍らで、シャルロッテは二人の衣服に『クリーン』をかけた。
シャルロッテのローブは付与魔法のお陰で常時綺麗になるので必要ない。

それぞれまた装備を付け直し、シャルロッテは解けるが結べないためホルターネックの部分を結んでもらい。
使い終わった湯桶を部屋の外へ出した。
あとは夕食までゆっくり過ごすことが出来る。

いつでも寝れるように人数分の寝袋を取り出しておき、それぞれその上に座った。
本当にただ広い部屋でローテーブルが一つあるだけ。雑多なものは扉付きの戸棚に仕舞われているのか、二階は余計な物のない広間だった。



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