眠り姫は子作りしたい

芯夜

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第一章 眠り姫は子作りしたい

31 装備と付与魔法

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「ローレン、コンラッド。今までずっと添い寝をしてもらってごめんなさい。二人は番なのに私と寝なくてはいけなくなって、とても嫌だったでしょう?無理をさせてごめんなさい。今日からずっと、夜はリュクスが添い寝してくれることになったの。だから、もう二人の邪魔をすることは無いわ。それに番がいる獣人にも番にも、子作りを申し込んでは駄目だと知っているの。だから、聞かなかったことに出来ないとは分かっているけど、忘れてほしいの。知らなかったとはいえ、失礼なことを言ってしまってごめんなさい。」

発情期が終わって戻って来たローレンとコンラッドに告げられたのは、そんな謝罪だった。

リュクスとグラスから説明は受けていたが、どうやら獣人の発情期や番について正しく理解しているようである。

それでも肉欲や快楽について理解は出来ていない。
本当に残念な子供だった。

「気にしないでください。僕は気にしてませんから。むしろ、ゆっくり眠れて良かったくらいです。」

「必要な事だったし、コンラッドとシャルがどうこうなんて思ってねぇから。気にしなくて良いぜ。けどよ……コンラッド。俺と寝るのが不満なのか?冒険者稼業に支障が出ても困るし、普段は寝るのを邪魔してねぇだろうが。」

「えぇ、普段はそうかもしれませんね。出来れば一人で寝たいのに、何故か僕の部屋に来て寝ることを除けば。その尻尾も巨体も暑苦しいんです。夜くらい一人で寝させてください。」

「俺がでけぇんじゃなくて、コンラッドがちっせぇだけなの。」

「ローレンの尻尾はふかふかで気持ち良いのに……。二人はとっても仲良しね。」

ふふふと笑うシャルロッテにローレンは気を良くし、コンラッドは疲れた表情を滲ませた。

とりあえずこれで憂いは晴れたと、ギルマスからの伝言を告げる。

「そういえば、昨日。【氷刃】が全員揃ったら、一度冒険者ギルドに顔を出してほしいって言われたわ。恐らく緊急クエストになるけれど、それを私の力量を見る試験にしたいらしいの。」

「それを早く言ってください。ローレンに謝るより、そちらの方が先です。」

「そんなことないわ。コンラッドは分からないかもしれないけれど、獣人にとって番は命よりも大切なモノよ。その番に子作りを申し込んで、あまつさえ添い寝までしてもらったんだもの。私は最初に出会ったあの日に、殺されても文句を言えなかったことをしたの。謝罪は当然で、何よりも優先すべきことだわ。」

そうなんですか?とコンラッドの視線が問いかけてくるが、ローレンはノーコメントだ。

確かにそうなのだが、あの時は既に子供の戯言レベルに思うことが出来ていたし、コンラッドになんの感情も寄せていなかったから許容できた。
先日までの添い寝も子守の一環だから問題なかった。

だがその本能的な独占欲を、自分の命より大切なモノだと、改めて口にされるのは少しばかり気恥ずかしい。

「緊急クエストの可能性があるなら、すぐにでも動ける準備をしていこう。準備が出来次第、ギルドに向かう。内容と予想期間に合わせて、それでも足りないものがあったら買い揃えてクエストに挑む。いいか?」

「揃ったらっつー話だし、多分そんな切羽詰まってねぇと思うけど。食料はアーティファクトに多めに突っ込んだから、暫く大丈夫だぜ。」

魔障の大森林から戻って資金は潤沢にあったし、出先で人数が増えるというイレギュラーを経験したため。
どうせ腐らないのだから、少し多めに食材を持っておけばいいという結論に至ったのだ。

持ちすぎてしまうと容量を圧迫してしまうが、そもそも長期遠征の時は事前にもう一度準備する。
ニ、三日が一週間かそこらに伸びても問題ない程度の食料を蓄えているだけだった。

「シャルさんの力量を見るという事は、合同クエストかギルドの人間も付いてくるでしょうし。クエストの内容よりも、シャルさんの実力を見せてしまって良い人選か、それとも隠しながらである必要があるのか。そちらの方が大切でしょう。」

「よく分からないけれど、ビオラが朝一でギルドに向かってるはずよ。多分、今日訪れるでしょうからって。だからどうしたらいいか教えてくれるはずだわ。」

「だったら安心ですね。支度を整えてきます。」

孤児院で全員揃っての朝食を終えた【氷刃】は一旦別れ、それぞれの身支度を整えた。

シャルロッテの姿は言わずもがな。
ビオラがローブだと言い張る露出度の高い白地に金糸の施されたワンピースと、同色と刺繍のケープだ。

スカート部分はローブらしくストレートなシルエットで、ギャザーの寄った柔らかい布が惜しみなく使われていた。但し、あいかわらず捲ればすぐにでもパンティが見えそうなほどそのスリットは深い。

ブラジャーはローブとセットにされている専用のもので、その面積は最低限。
背中に金糸で編まれた細いレースがあり、連なるレースは少しずつ幅が太くなり、密度を上げ。辛うじて胸の頂きを隠していた。色付いた場所は覆っているが、レースであるが故に少なからず透けており。レース越しに頂きの場所がハッキリと分かってしまう。
装飾に使われているのと同じ金糸で作られた細い組紐で左右のレースは繋がっていて、その胸元は丈の短い編み上げになっていた。
谷間を作りつつも支える機能は最低限であり、明らかに見せることが目的のものだ。
なんなら組紐が柔肉に食い込んでいて、男の目に大変毒な状態になっている。

着替えを見ていたリュクスは知っているが、ローブで隠れるパンティも金糸を使った細い組紐とレースで作られていた。
ローライズのそれはほぼ紐であり、とある世界ではマイクロビキニと呼ばれるもの。
腰骨の下で食い込む紐は二本で、Tバッグになっていてほとんど何も隠していない。その細い紐やレースが食い込んでいるのではないかと、見ているほうが心配になるものだった。
上下どちらも、閨着でもないのに着ているほうが男の情欲を掻き立てる下着だ。

ワンピースはホルターネックになっていて、細い腰から伸びる2本の帯を首の後ろで結ぶだけだ。
ビオラは結ぶだけだからこそアレンジが効くと言っていたが、ただ首の後ろで結ぶだけでは胸部がけしからんことになりすぎる。
少しでも肌の露出を抑えるために、リュクスの手で首元でクロスされ結ばれていた。

胸を隠すための帯の途中には丸い金環が付いており、そのせいで帯状の布がギュッと寄せられ、豊満な胸を隠す役目を放棄しかけている。
しかしその金環にも役目があり、そこにケープを止めることで隠す気の全くない背中を半分ほど隠せた。
肩は出ているし、腰も丸見えだが、ブラジャーのレースが丸見えではなくなるだけまだマシなのだろう。

その身体のラインも、豊満な胸の柔らかさも、その白く綺麗な素肌さえも。
ほぼ隠す気が無く、むしろ男達に見せつけるために作られたデザインだった。
ビオラは一体シャルロッテをどうしたいのだろうか。

どこか女神を思わせる神聖さに、男の欲を掻き立てる淫靡さを兼ね備えた、見た目には防御力皆無のそれは。惜しみなく魔物素材が使われており、更にはシャルロッテの付与魔法がガッツリかかっていた。
その辺で売っている防具より遥かに防御力の高い代物となっている。
国宝だと言われてもおかしくない代物だ。

ちなみに近所でクエストをする時にもこの女神風衣装で出かけていたため、テッサとマリンの二人は気が気じゃなかったのだ。
冒険者ギルドでは不躾な輩に絡まれることも覚悟していたのだが、それはもう既になされた後。
どれだけ魅力的でもそれは目の保養にするだけに留まり、被害を被ることは無かった。

むしろその状態で反動を知らない大人の子守をするテッサに同情は集まり。マリンと良い仲らしいと知っている最近孤児院を出た冒険者は、惑わされるなよ、とこっそり声を掛けにいっていた。

大半の冒険者は、これから先一緒に行動するであろう【氷刃】にエールを送っていたくらいだ。
煩悩に支配されて早死にするんじゃないぞと。



身支度を終えホームに集まった皆に、シャルロッテは『ストレージ』の中から取り出したものをプレゼントする。
ビオラと度々出かけていた理由であり、昨日受け取ってきたばかりのものだ。

「これ、使ってほしいの。私には無理だから、ちゃんと腕のいい鍛冶師を見つけて、素材もできるだけ指定して作ってもらったわ。前に少し見せて貰ったから、重量は問題ないと思うけれど……。ローレンは、もし手に馴染まなければ、また今度使ってちょうだい。調整できるようにそれを鍛えた鍛冶屋を紹介するわ。付与をしたから大丈夫だと思うのだけれど、クローはちょっとした感覚の狂いが影響すると思うから。グラスが大剣、リュクスは双剣、コンラッドが弓よね。皆色々ついてるのだけれど、グラスの大剣には衝撃緩和を付けたから、少しは魔物の攻撃を受けるのが楽になるはずよ。盾の役目もあるって言ってたから、少しでも負担を減らすために付けたわ。リュクスのは魔力が馴染みやすくなっているから、今までのように使っても壊れることは無いと思うわ。それに武器からの抵抗がない分、必要な魔力量も減るわよ。コンラッドは弓を沢山持ってるって聞いたから、短弓にしたの。これは練習が必要だから、直ぐには使えないけれど。魔力を使うから矢を番える必要のない物よ。訓練すれば、5連射や同時発射くらいなら簡単にできるようになるわ。十分に持っていると思うけど、矢って消耗品だから。使えるようになると便利よ。」

その下手をしなくても国宝級の代物を前に、リュクス達はどうしたものかと悩む。

シャルロッテが色々ついていると言ったのだ。
言葉の通り、本当に色々付与されているのだろう。
たった一つの付与魔法が施されただけでも値段が跳ね上がるのに、シャルロッテのローブにはありとあらゆる付与が施されていることを考えると。武器にも複数付与されているのは分かり切っている。

しかもシャルロッテは恐らく武器を見る目が肥えている。
そのシャルロッテが腕が良いと言った鍛冶屋に、明らかに庶民が手にすることのない金属を使ったであろう煌めき。弓はその弦がキラキラと光っていて、魔物素材か下手をしたら金属でできている。

「……やっぱり、武器は命を預けるものだから、人からは受け取れないかしら?でも、今まで使ってた安物は駄目よ。認められるのは、状況に応じて使い分けてるっていうコンラッドの弓だけ。だから弓は汎用性を重視したわ。パーティーでの戦闘位置は、どうしても短弓が活躍すると思ったし。矢が尽きれば弓は使い続けられないけど、これなら魔力さえあれば撃てるでしょう。リュクスは論外。グラスとローレンの武器は、そろそろ危ないわ。丁寧に手入れをしているから、今までもっているだけよ。いつその役目を終えてもおかしくないわ。だから、受け取って欲しいの。」

「分かった、有り難く受け取ろう。」

「良かったわ。あ、仕舞う前に、ちょっと待って。えぇと……このスクロールの上に武器を置いて、魔力を流してほしいの。ほんの少し吸われるだけだから、今からクエストでも問題ないわ。」

いそいそとシャルロッテが四枚のスクロールを配った。

それは何やら緻密に描かれていて、最近少しは術式を見慣れてきたリュクス達にも何が何だか分からない。

「多分、それは見ても分からないと思うわ。ソレは伝えるつもりのない知識だから、ダミーをたっぷり書き加えているの。もしこれが読み解けたなら、その人は術式にとても造詣が深い天才よ。そういう人になら伝わっても良いのかもしれないわね。さ、早く魔力を流して、ギルドに向かいましょう。」

伝えるつもりが無いのであれば、聞いても教えて貰えないだろうと。
促されるままに魔力を流した。

シャルロッテの言う通り、ほんのちょっぴり魔力を吸われただけだった。確かにこれならばクエストに影響はないだろう。

魔力を流すことでそれぞれの武器が淡く光り、すぅっとスクロールに描かれていた術式が消えた。
武器が光った際、何か文字のようなものも光ったような気がしたが、特別溝があったり何か描かれているわけではなかった。

「ちゃんと魔力の登録が出来たわね。今ので所有者登録が出来たから、もし無くしたり盗られてもちゃんと手元に返って来るわ。一定距離離れていて、マジックバッグやストレージに仕舞いこまわれなければ、だけれどね。さぁ、行きましょう。」

誰も聞かなかったのに、その効果をさらっと暴露された。

この調子でギルド監視の特別昇格クエストを受けることが出来るのかと、リュクス達は小さな溜息を溢すのだった。

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