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第一章 非公式お茶会

37 王都組最後の非公式お茶会①

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Side:アシェル12歳 冬



年が変わって1月に入り、王都組は最後の非公式お茶会の為に集まっていた。
冒険者活動も先月までで一旦終えているので、次に王都組が集まるのは王立学院の入学式だ。

今日も差し入れの仕分けを終え、お昼まで雑談しながらおやつタイムだ。

「今日は比較的菓子類が少ないんだな。」

エラートがテーブルに置かれたマドレーヌを摘まみながら言う。

「今日は日用品が多かったな。まさかの双子達宛てもあったし。」

「インクとかノートとかー。消耗品は地味に嬉しいかもねー。」

アークエイドとマリクがそういうので、アシェルはネタばらしすることにする。

「僕ら来年から王立学院にはいるでしょ?秋のお茶会の時に、お菓子より消耗品の方が嬉しいよねって話をしたから。それとなーく、朝のご令嬢達にリクエストしておいたんだ。」

「あーアシェが手を回してたのか、納得だな。」

「なんてリクエストしたのー?」

「個別で入学祝をとかって言ってた子もいたから、家として受け取れないから、1月の朝頂くものは入学祝として気持ちだけでも受け取るよって。せっかくならお菓子じゃなくて、学院生活で使わせてもらえる消耗品とかが嬉しいなって言っておいたよ。」

「よくご令嬢達が消耗品を送るのを了承したな。大抵は長く使ってほしいとか言いそうなのに。」

「消耗品なら同じものをいくつ貰っても、ちゃんと皆からの気持ちを使うことができるからって言ったら納得してくれたよ。万年筆とか貰っても書き心地の好みもあるし、一人のだけ使うってわけにもいかないでしょ?かと言って全く使わないのも失礼だし。」

皆素直に受け入れてくれたよーと笑っているアシェルの膝の上で、メルティーが呆れたような表情で言う。

「アシェお義兄様にそう言われて消耗品かお菓子以外を贈ってきたなら、そのご令嬢は心臓に毛が生えてるか、悪質な嫌がらせですわよ。」

その言葉にうんうんと頷く幼馴染達。

「ふふ、そうだね。一人くらい我の強い子がいるかと思ったけど、皆いい子だね。しばらくはインクもノートも買い足さなくていいくらい貰っちゃったよ。」

実用的な黒インクから、赤や青、その他敢えてカラフルなインクのセットを用意してくれたご令嬢もいて、ノートも学院が推奨しているものが沢山贈り物として渡されていた。

どれもそこまで高いものではないのだが、消耗品だからこそ小さな積み重ねは馬鹿に出来ない。
節約になるのはとても嬉しい。

「アシェお義兄様が学院入学と同時に、アンお義兄様が卒業ですわよね。一緒に学院生活を送りたかったって嘆く未来が見えますわ。」

「逆にアル兄様は喜びそうだよね。アン兄様に何か卒業祝いプレゼントしないとなぁ。アークはグレイニール殿下に何か贈るの?」

アレリオンとグレイニールは今年の最高学年なので卒業だ。
アレリオンは父のアベルと同じ、宮廷医務官としての就職が決まっている。
グレイニールは王太子として執務と公務にあたることになるのだろう。

「教育をした侍女を贈ることになっている。」

いつもと変わらない表情で言われた言葉に耳を疑う。

「え?」

「だから侍女だ。」

聞き間違いではないらしい。

「……なぁ、人って贈り物か?」

「んー?ふつーは贈り物じゃないかもー?」

「僕も違うと思う。」

「わたくしにも分からない感覚ですわ。」

満場一致で、侍女は贈り物ではないという結論に至る。

「軽度の戦闘をこなせる侍女だ。教育を施した信頼できる人材は貴重だからな。……今月中に発表になるが、兄上の婚約が決まった。ゆくゆくは王太子妃につけるための侍女として贈るんだ。」

王族の内情が正式発表前に話されるのは本来であれば良くないことなのだが、幼馴染達を信頼してアークエイドは話してくれる。

「祝いは公式発表されてから各家からで頼む。今言われても言づけないからな。」

口々にお祝いを言おうとした気配を察して、ぴしゃりと言い切られてしまう。

「分かったけど、それじゃ参考にならないよ。どうしよっか、メル。」

少し甘えたような声を出して膝の上のメルティーに抱き着けば、腕の中からも悩むような声が聞こえる。

「何を贈っても喜んでくれると思うからこそ、決め難いですわよね。」

「だよねぇ。」

贈り物の内容にもよるが、もし高価なものを贈るのであればそろそろ手配をしておかないと間に合わない。

「なんか身に着けるものとかどうだ?」

エラートが助け船を出してくれる。
それももちろん考えたのだが。

「公爵令息で次期当主だし、服も装飾品も腐るほどあると思うよ?ご令嬢のドレスみたいに流行り廃りの激しいものでもないし。婚約者もいないから、それにちなんだ色の何かを贈るってわけにもいかないし。」

「女性相手でしたら、装飾品はアリですわよね。流行りのデザインのものでも、カラーやデザインで合わせるドレスが変わってきますもの。」

「お仕事とか、普段使いできるものわー?」

今度はマリクだ。

「白衣は制服みたいなものだから、支給されるって言ってた気がする。錬金関連……の道具はアン兄様には不要だよねぇ。」

「ですわね。器具がないとお薬を作れないのは、わたくしだけですもの。大がかりなものなら使うでしょうけれど、それだと個人持ちじゃなくて邸に共用として配置しますし。」

「難しいねー。」

うーんと悩んでいると、今度はアークエイドが助け船を出してくれる。

「普段使いしやすい装飾品で、ループタイとカフスボタンで良いんじゃないのか?ありきたりだが、家紋をデザインとして取り込めば特別感もでるだろ。」

具体的な案にアシェルとメルティーはそれだ!と表情を輝かせた。

「ループタイやカフスボタンなら普段使えるね。」

「アンお義兄様は跡継ぎだから、家紋入りでもずっと使えますわ。」

「ありがと、アーク。皆も。」

にこっと皆に笑いかければ、良かったねと笑みが返ってくる。

「職人の当てはあるのか?」

「うん。馴染の工房があるから、そこに頼むつもりだよ。」

「ならいい。」

その言葉を区切りに話題が変わり、学院に入ってからの生活について想像しながらお喋りに耽った。





こうしてお茶会としてこの離宮にくるのも最後かと思うと感慨深くて、いつも冬の午後は書庫に籠るのだが、今日はゆっくり散歩をすることにした。

「サーニャ、外套を貰える?」

「どうぞ。」

サーニャに広げてもらった上着と外套に腕を通し、しっかりと前を合わせ止める。

室内は空調が効いていてベスト姿でも問題ないが、外は快晴だが真冬なのでかなり寒い。

「今日は外に出るのか?」

いつも通り書庫に行くと思っていたであろうアークエイドに問いかけられる。

「うん。長年通った離宮だけど、今日で見納めでしょ。せっかくだから、ゆっくり敷地内を見て回りたいなって。」

「そうか……一緒に行ってもいいか?」

「僕は別に構わないけど、アークからしたら珍しいものじゃないでしょ?」

「構わないなら準備する。ちょっと待ってくれ。」

アークエイドもサロンに控えている侍女に上着と外套を着せて貰い隣に立った。

「待たせたな。」

「いうほど待ってないよ。それじゃのんびり周ろうか。」

言って左手を差し出してしまい、慌てて引っ込める。

「ごめん、ついメルと庭を散歩する時の気分で。」

癖でごめんねと謝れば、ずいっと左手を差し出された。

「手……繋いでいくの?」

「その方が温かいだろ。」

「僕冷え性だよ?流石に申し訳ないよ。」

アシェルは温まるかもしれないが、アークエイドは温もりが逃げるばかりになってしまう。

断ったのだが右手は有無を言わせずアークエイドに握られてしまい、手の平からじんわり温もりが伝わってきた。

「それならなおさらだ。いくぞ。」

「ん、ありがと。」

二人で手を繋いで庭へ出た。
その姿を二人の母親が微笑ましいわね、と笑った声は、二人の耳には届かなかった。



庭に出てすぐの芝生が広がる草原エリアでは、エラートとマリクが警備の騎士まで巻き込んで模擬戦をやっていた。
騎士達はこのサロン近辺の守護が仕事なので、サロンと目の鼻の先のこの場所で遊んでいる分には問題ないのだろう。
騎士達的には訓練の一環なのかもしれない。

二人ともこの寒空の下、汗だくでベスト姿だ。
風邪を引かないか心配だが、毎年毎月のように繰り返されているであろう光景なので、声はかけずにそのまま通り過ぎていく。

恐らくこのあと帰るまでに、二人はお風呂に突っ込まれるのだろう。



そのまま歩いて今度は庭園エリアに入る。

冬なので花をつけている生垣や花壇は少ないが、それでも随所に目につくように植わっていて、流石王宮だと言わざるを得ない。

「冬でもこれだけ楽しめる庭園って凄いよね。」

感心して口にすると「そうか?」と疑問が返ってくる。
そういえばアークエイドにはこの王宮の姿が普通なのだったと思い、アシェルは邸の庭を思い起こしながら説明する。

「我が家はこんなに緑も花も残ってないよ。特にハーブ園の方は、冬は結構寂しいかなぁ。あ、でも地上の葉っぱが枯れてたように見えても、春になると一斉に芽吹くから、その時はちょっとわくわくするかな。植物の生命力って凄いなって思うよ。」

今の寂しい庭を思い少し暗くした表情を、今度は春先の芽吹きを思い明るく綻ばせれば、釣られたようにアークエイドの顔が綻ぶ。
僅かに楽しそうに微笑まれた。

「それは一度見てみたいものだな。」

「ふふ、機会があったら見においでよ。壮観だからさ。」

ゆったりと歩きながら珍しい植物や薬になりそうな植物を見つけては、気分が上がりわくわくと説明をする。
それを隣でアークエイドが黙って聞いて頷いてくれる。

楽しい気分でゆったりと隅々まで庭園エリアを見て回り、森林エリアへ踏み込んだ。



細い小道がL字で、庭園エリアから北西の離宮へ繋がるように伸びている。

この森林エリアは常緑樹林になっていて、冬になっても空を覆うように葉が茂っていた。
枝葉の作る木陰に入ると太陽からの温もりが無くなり、一瞬身体がぶるっと震える。

「寒いか?」

「ん、ちょっとだけ。でも手が温かいから大丈夫だよ。」

笑いかければ「そうか。」とだけ返ってくる。

小道からは逸れずにのんびり歩を進めて、森林エリアの中ほどまで来た。

そういえば去年の秋はここで、リリアーデを回復するためにキスしたなぁなんて思っていると、右手がつっかえ立ち止まる。
アシェルが振り返れば、急に立ち止まったアークエイドが口を開いた。

「ここ。」

「どうしたの?」

「リリィとキスしてただろ?」

え、あれを見てたの?どこからどこまで?と考えながら慌てるアシェルを横目に、アークエイドは続ける。

「俺が見たのは何か話して、リリィとキスを始めたところまでだ。後からデュークに聞いたが、リリィは潜在消費を起こしてたらしいな。」

「あーうん。待って。え、本当に見てたの?キスシーンを幼馴染に見られてたって、知りたくなかったかも。恥ずかしすぎるんだけど。」

かーっと赤くなった顔を隠すように左手で覆えば、くくっとアークエイドの笑う声がする。

「普段から恥ずかしいセリフを言ってのけるアシェでも、それは恥ずかしがるんだな。」

「ちょっと、人を何だと思ってるのさ。」

「女ったらしだろ?」

「えー最近言われなくなってほっとしてたのになぁ。」

「言わなくても、皆そう思ってるだけだ。」

「うわー酷い。」

冗談を言い合うように掛け合いをしながら。お互いクスクス笑い合う。
アークエイドは昔に比べて、目に見えて笑ってくれるようになったと思う。

ひとしきり笑って、いつもの無表情に戻ったアークエイドにじっと見つめられる。

その瞳を覗き返すと、すっとアークエイドの右手が伸びてきて顎に添えられた。
アシェルより少しだけ高くなった目線に合わせるように少し顎を上げられ、親指で唇を撫でられる。

「あ、アーク……?」

あまりに意味深すぎるその行動に、ドキドキする心臓から気を逸らすために小さく問えば、アークエイドの薄い唇が開かれた。

「……し慣れてそうだったな。キス。」

「そう……かな?」

これはキスに慣れてそうなことを咎められているのだろうか。
そういえばリリアーデからも遊び慣れているのか聞かれた気がする。

それともキスをしようとせがまれているのだろうか。
いや、アシェルは男として生活している。物好きか経験値を積むためでない限り、それはないだろう。

アークエイドの意図が解らず、何もできないまま沈黙が流れる。

(ど、どうしたらいいんだろう。せめて右手のけてくれないかな。)

アークエイドの親指は先程から、アシェルの唇の柔らかさを確かめるように撫でたり、ふにふにと押したりを繰り返している。

「今までにも誰かとキスしたことがあるのか?」

その質問に一瞬なんと答えたものかと思うが、前世の人物たちは存在しないのでカウントしなくていいだろうと判断する。

「まさか。リリィがファーストキスだよ。……それにあれは治療だから、ファーストキスに数えていいのかも分からないくらいだし。」

そう。
リリアーデとしたキスは、性的なものではなくて治療行為だ。
治療だと考えるとファーストキスと呼んでいいのか悩ましくなってくる。

(あれだ、父親のチューがファーストキスって言われる並みの違和感だ。)

そう一人で勝手に結論を出すと、最後に唇をひと撫でした手が離れていった。

「そうか。」

「うん。」

一体何だったんだろうかと思うが、アークエイドは何事もなかったかのように歩き出してしまい、慌ててアシェルも歩みを合わせる。

(アークの知りたかったことは知れた……ってことでいいんだよね?)

そっと横目にアークエイドの顔を盗み見たが、そこにはいつもと変わらない表情があるだけだった。





森林エリアを抜けて、今度は南に向かって歩いていく。

歩いていくと王宮の壁の横を通り、王宮と離宮を繋ぐ渡り廊下に行き当たる。
あとはこの渡り廊下を進めばいつものサロンだ。

「これはこれは、アークエイド殿下。ご友人と仲良くお散歩ですかな。」

離宮へと歩み出した背中側から声がかかり、アシェルとアークエイドは振り向いた。

そこに立つ恰幅のいい壮年の男性を見て慌てて手を離そうとするが、逆にぎゅっと握りこまれてしまう。

「……ウォレン侯爵殿。本日の執務は?」

すっと冷えた視線を受けた壮年の男性——ウォレン侯爵は、そんなアークエイドの表情も短い言葉も気にすることなく返事をしてくる。

「勿論仕事中ですよ。女王陛下への伝言を伝えに来ただけですので。」

「副宰相殿がわざわざか。」

「他に手空きの者がおりませんでしたからな。……ところで、殿下。隣の彼を紹介してはいただけないのですかね。」

ウォレン侯爵にじろっと、上から下まで品定めするように見られ居心地が悪い。

「……友人のアシェル殿だ。」

そう言ってパッとアシェルの右手が解放される。

「ただいま殿下の紹介に預かりました。メイディー公爵の子、アシェルと申します。以後お見知りおき下さい。」

姿勢を正して礼をすれば、ウォレン侯爵も口を開く。

「ほぉ。私はイヴェール・ウォレン、侯爵を名乗らせていただいている。王宮で副宰相をさせていただいているよ。アシェル殿の話は、うちの娘からよく聞いているよ。ミリアリア・ウォレンと言えば覚えがあるかな?」

腹の中の見えない上っ面の笑みに気づきつつ、アシェルも笑顔で答える。

「ウォレン嬢の父君でしたか。お嬢様には大変お世話になりましたのに、ご挨拶が遅くなってしまって申し訳ありません。学院に入られたご息女は息災でしょうか?」

ウォレン嬢とはあくまでのここだけでの関わりだと含みを持たせたが、それが正しく伝わったのかは分からない。

「毎月楽しみにしていた時間が無くなって嘆いておりましたよ。そうだ、良かったらお二人を食事に招待したいのですが、いかがでしょうか?」

ニコニコと言われ、アシェルは口をつぐむ。
これにはアークエイドが答えるべきだ。

(わざわざ話しかけてきたと思ったらこれが狙いか。王子様は大変だね。)

アークエイドは少し思案し口を開いた。

「この場にいるのは公けにはしていない。ホームパーティーへの誘いなら、それぞれの家へ手紙を出してくれ。」

もっともな言い分に、ウォレン侯爵は首を振る。

「おぉ、言葉が足りませんでしたな。我が家への招待ではなく、我が家の運営するレストランへ、お二人をご招待したいのですよ。」

「……レストランへ?」

訝しげなアークエイドの声に「えぇ。」と答えたウォレン侯爵は続ける。

「お二人だけで食事ができるように個室を用意させていただきますし、お食事代もこちらが負担しますのでお気になさらずに食事をしていただきたいのです。」

賄賂の代わりともとれるその発言に、アークエイドの声がさらに冷ややかなものになる。

「ウォレン侯爵のメリットがないな。」

「いえ、ただ提供するだけではなく、食事のあとアンケートにお答えいただきたいのですよ。是非、うちのレストランのサービスが高位貴族の方にも通用するのか。もし悪い点があればご指摘いただいて、サービスの改善に努めたいのです。」

全く動じた様子のないまま、ウォレン侯爵はレストランへ二人を招くことのメリットを並べる。
確かに一般的な貴族や豪商と、王族と公爵家の子息からの視点では、所作やマナーなど求めるところは変わってくるのだろう。高いレベルに合わせたほうが、他の利用者も気持ちよく利用できるはずだ。

個室でプライバシーにも配慮し、余計な人間が同席しないのであれば、乗ってもいい相談だと言えるかもしれない。
少なくとも、なんのしがらみのないアシェルにはそう思えた。

少し悩んだアークエイドが問いかける。

「アンケートに答えるのは問題ない。だが、これを理由に優遇することもなければ、そこから繋がる縁ができるわけでもない。それでもいいんだな?」

「もちろんです。貴重なご意見を聴ける機会ですので、是非お越しいただきたい。」

「アシェ。一緒に食事に行ってくれるか?勿論断ってくれても構わないが。」

最終的にはこちらに振るのか、と少しアークエイドを恨めしく思いながら、アシェルは綺麗な微笑みを浮かべた。

「ウォレン侯爵のご厚意に感謝します。どれほど参考になるかわかりませんが、是非ご協力させていただければと思います。」

「そうですか!ありがとうございます。店の詳細については後程、殿下へお伝えさせていただきますね。お二人でご都合の良い日時を教えて頂けましたら、こちらで店の方へは連絡しますので。」

「分かった。用件はそれだけか?」

「はい、お時間を頂きありがとうございました。」

「失礼する。」

ぺこりと頭を下げるウォレン侯爵にアシェルも頭を下げ、アークエイドの隣に並んで離宮へと戻った。



「ねぇ、アーク。食事会、引き受けて大丈夫だった?」

サロンの入り口に近づき、少し不安だったことを話す。

「どちらでもいいと思ったからアシェに聞いたんだ。問題ない。」

「そっか、なら良かったよ。」

アシェルはほっと胸を撫でおろす。

「日時を決めてしまいたいが……少し待っててくれ。母上に報告だけはしておく。」

「うん、分かった。」

サロンに入り、暖かい室内でそれぞれ侍女に外套と上着を預け、アークエイドは応接間のアンジェラの元へ向かった。

そして特に問題ないことが確認され、二人で日時を決め、ウォレン侯爵から承諾が取れ次第、メイディー家へ手紙が届くことに決まった。
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