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第一章 非公式お茶会
22 魔法と魔物と言えば冒険者③
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Side:アークエイド10歳 冬
今日は冒険者として活動したいと、母上に直談判した。
母上が俺達が魔物退治に行きたいと話していたのを知らないわけがないし、既に俺以外の三人は親の許可を得てきている。
恐らく反対するつもりなどなく、意志の確認をしただけだろう。
だが、何をきっかけに反対されるか分かったものではない。
内心、冷や冷やしながら返答した。
俺が今回お茶会で許可をとったのは、国王や王妃とは普段おいそれと会える関係ではないからだ。
結果、細かい決め事はあるが、お茶会とは別に友人達と会うことができるようになった。
魔道具や冒険者として指導してくれる講師も用意してくれるらしい。
まさに至れり尽くせりだ。
アシェルの綺麗な銀髪も魔道具で色を変えてしまうらしい。
残念だが、確かに淡すぎる色合いは平民にはほぼいないので、目立ってしまうのを避けるためにも仕方ないだろう。
それよりもその魔道具はピアスなのだが、見たところアシェルはピアス穴は開いていない。
これは守護ピアスをプレゼントできるのではないだろうか。
貴族は大体、小さい時に母親から贈られるのが一般的だ。一般的というだけで贈らない家ももちろんある。
物心つく前かつき始めたころに魔晶石をつけたピアスをつけ、その魔晶石に安全と健康を祈りながら魔力を籠めるのだ。
籠めた魔力の属性や量で、ある程度望んだ色にすることができる。
大体は送り主の髪色か目の色だ。
“私があなたを守ります”という願いが込められている。
アークエイドの左耳にはアンジェラがつけてくれた、サファイアブルーのピアスがついている。
右耳はおしゃれ用なので、左耳にあわせてサファイアを使ったピアスだ。
午後の自由時間にピアッサーを持って書庫へ行くと、アシェルは目聡く気が付いたようだ。
開けさせてほしいというと、とりあえず許可はくれた
だが、嗜虐趣味とは。痛めつける趣味はないが、アシェルの身体に他の奴が傷をつけるのは許せないし、初めてのピアスなのだ。俺がつけてやりたかった。
というよりも、その単語をどこで知ったのだろうか。
ピアスはクリーンをかけてあけてやるつもりが、消毒の重要性についてしっかり語られてしまった。
この辺りは流石、医師家系ということだろうか。
このまま自分でやると言われてはたまらないと、医務室に消毒薬を貰いに行こうかと思ったら、アシェルが出してくれた。
のだが、まじまじと見たホルスターには、沢山の薬瓶がささっている。
メイディー家はホルスターを身体のどこかに身に着け、マナポーションを始めとした薬剤を持ち歩いているというのは有名な話だが。そこに何が入っているのか気になった。
一応答えてくれたが、明らかに刺さっていた本数とアシェルの言ってる本数が噛み合わない。
どうも残りは言いたくないようだが、隠し事をされるのが気に入らない。
少しだけしつこいかなと思いつつ、その内容を聞きだした。
渋々教えてくれた内容は——まぁ、さらっと言えるものではないなと思った。
ご丁寧に薬効まで説明してくれたが、何も言わずに使われたら誰も対処できないだろう。
衛兵に捕まることを心配するのであれば持ち込まなければいいのにと思わなくもないが。俺達に使うつもりがないということは、不測の事態の際には俺達を守るために使ってくれるということだろうか。
その気持ちは嬉しいと思う。
アシェルの守護ピアスの色はお任せと言ってもらったので、闇魔法をしっかり籠めて俺の髪色と同じ漆黒にした。
アシェルは全く気にしていないようだが、本来異性から相手の色の装飾品を贈られることの意味を分かっているのだろうか?
——いや、そもそも異性とは思われていないし、解かっていないか。
意味は伝わっていないとしても、アシェルが俺の色を身に着けてくれていることに心が満たされる。
ただの自己満足であることは分かっているのだが、それでも嬉しいのだ。
いつかドレスや装飾品まで全てプレゼントしたいのだが、果たしてアシェルのデビュタントはどちらで行うのだろうか?
さすがに男装ではないことを祈りたい。
これからの冒険者活動で、もっと一緒に居られる時間が増えると思うと楽しみだ。
========
Side:グレイニール16歳 春
先日母であるアンジェラから手紙が届いていたので、弟のアークエイド達が冒険者パーティーを組むことになったのは知っていた。
その上で間違いなく荒れるであろう二人を、頑張って宥めろという指令付きだ。
(荒れる予想はしていたとはいえ。)
王立学院の中等部・高等部共用となっている生徒会室には、どんよりとした空気が漂っている。
グレイニールはそっと妹のアビゲイルに視線をやるが、逸らされてしまった。
普段では絶対見られない姿——落ち込みすぎて机に突っ伏している——のは幼馴染のアレリオンとアルフォードだ。
「手紙で事後報告……可愛いアシェが怪我をしたら……。」
「俺家にいたのに……相談……されてない。メルも知ってたのに……。」
さきほどからこの調子で、生徒会室にやってくる執行部のメンバーは挨拶だけして、軒並み回れ右をして帰っていく。
それを咎めることもできないこの状況に、今日何度目か分からないため息を吐く。
(暴れなかっただけマシと思うべきか。)
下手に声をかけようものなら絡まれることが解りきっているので、アビゲイルと二人、紅茶を飲みながらこの重苦しい空間に居座っている。
本当は自室に帰ってしまいたいが、彼らが暴れ出した時に止められるのはグレイニールとアビゲイルだけなのも分かっているので、こうして居座ることしかできない。
この幼馴染達は中々優秀なのだが、どうもシスコンを拗らせているきらいがある。
普段は微笑ましいことこの上ないのだが、妹達のことになると暴走する傾向があるのはどうしようもなかった。
(いや、表向きは三男と養女の義妹か。)
ぶつぶつ言ってる内容から察するに、冒険者体験が楽しかったとか、得た素材がどうのとか書かれていたのだろう。
危険だから反対したいのに嬉しそうだから反対できない、という言葉も聞こえる。
アビゲイルにそっと耳打ちされる。
「これ、確実に反対されないように事後報告ですわよね?」
「間違いなくな。」
こそこそっと会話を終え幼馴染達を見やる。
せめて明日の朝までには立ち直ってほしいものだとまたため息を一つついた。
今日は冒険者として活動したいと、母上に直談判した。
母上が俺達が魔物退治に行きたいと話していたのを知らないわけがないし、既に俺以外の三人は親の許可を得てきている。
恐らく反対するつもりなどなく、意志の確認をしただけだろう。
だが、何をきっかけに反対されるか分かったものではない。
内心、冷や冷やしながら返答した。
俺が今回お茶会で許可をとったのは、国王や王妃とは普段おいそれと会える関係ではないからだ。
結果、細かい決め事はあるが、お茶会とは別に友人達と会うことができるようになった。
魔道具や冒険者として指導してくれる講師も用意してくれるらしい。
まさに至れり尽くせりだ。
アシェルの綺麗な銀髪も魔道具で色を変えてしまうらしい。
残念だが、確かに淡すぎる色合いは平民にはほぼいないので、目立ってしまうのを避けるためにも仕方ないだろう。
それよりもその魔道具はピアスなのだが、見たところアシェルはピアス穴は開いていない。
これは守護ピアスをプレゼントできるのではないだろうか。
貴族は大体、小さい時に母親から贈られるのが一般的だ。一般的というだけで贈らない家ももちろんある。
物心つく前かつき始めたころに魔晶石をつけたピアスをつけ、その魔晶石に安全と健康を祈りながら魔力を籠めるのだ。
籠めた魔力の属性や量で、ある程度望んだ色にすることができる。
大体は送り主の髪色か目の色だ。
“私があなたを守ります”という願いが込められている。
アークエイドの左耳にはアンジェラがつけてくれた、サファイアブルーのピアスがついている。
右耳はおしゃれ用なので、左耳にあわせてサファイアを使ったピアスだ。
午後の自由時間にピアッサーを持って書庫へ行くと、アシェルは目聡く気が付いたようだ。
開けさせてほしいというと、とりあえず許可はくれた
だが、嗜虐趣味とは。痛めつける趣味はないが、アシェルの身体に他の奴が傷をつけるのは許せないし、初めてのピアスなのだ。俺がつけてやりたかった。
というよりも、その単語をどこで知ったのだろうか。
ピアスはクリーンをかけてあけてやるつもりが、消毒の重要性についてしっかり語られてしまった。
この辺りは流石、医師家系ということだろうか。
このまま自分でやると言われてはたまらないと、医務室に消毒薬を貰いに行こうかと思ったら、アシェルが出してくれた。
のだが、まじまじと見たホルスターには、沢山の薬瓶がささっている。
メイディー家はホルスターを身体のどこかに身に着け、マナポーションを始めとした薬剤を持ち歩いているというのは有名な話だが。そこに何が入っているのか気になった。
一応答えてくれたが、明らかに刺さっていた本数とアシェルの言ってる本数が噛み合わない。
どうも残りは言いたくないようだが、隠し事をされるのが気に入らない。
少しだけしつこいかなと思いつつ、その内容を聞きだした。
渋々教えてくれた内容は——まぁ、さらっと言えるものではないなと思った。
ご丁寧に薬効まで説明してくれたが、何も言わずに使われたら誰も対処できないだろう。
衛兵に捕まることを心配するのであれば持ち込まなければいいのにと思わなくもないが。俺達に使うつもりがないということは、不測の事態の際には俺達を守るために使ってくれるということだろうか。
その気持ちは嬉しいと思う。
アシェルの守護ピアスの色はお任せと言ってもらったので、闇魔法をしっかり籠めて俺の髪色と同じ漆黒にした。
アシェルは全く気にしていないようだが、本来異性から相手の色の装飾品を贈られることの意味を分かっているのだろうか?
——いや、そもそも異性とは思われていないし、解かっていないか。
意味は伝わっていないとしても、アシェルが俺の色を身に着けてくれていることに心が満たされる。
ただの自己満足であることは分かっているのだが、それでも嬉しいのだ。
いつかドレスや装飾品まで全てプレゼントしたいのだが、果たしてアシェルのデビュタントはどちらで行うのだろうか?
さすがに男装ではないことを祈りたい。
これからの冒険者活動で、もっと一緒に居られる時間が増えると思うと楽しみだ。
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Side:グレイニール16歳 春
先日母であるアンジェラから手紙が届いていたので、弟のアークエイド達が冒険者パーティーを組むことになったのは知っていた。
その上で間違いなく荒れるであろう二人を、頑張って宥めろという指令付きだ。
(荒れる予想はしていたとはいえ。)
王立学院の中等部・高等部共用となっている生徒会室には、どんよりとした空気が漂っている。
グレイニールはそっと妹のアビゲイルに視線をやるが、逸らされてしまった。
普段では絶対見られない姿——落ち込みすぎて机に突っ伏している——のは幼馴染のアレリオンとアルフォードだ。
「手紙で事後報告……可愛いアシェが怪我をしたら……。」
「俺家にいたのに……相談……されてない。メルも知ってたのに……。」
さきほどからこの調子で、生徒会室にやってくる執行部のメンバーは挨拶だけして、軒並み回れ右をして帰っていく。
それを咎めることもできないこの状況に、今日何度目か分からないため息を吐く。
(暴れなかっただけマシと思うべきか。)
下手に声をかけようものなら絡まれることが解りきっているので、アビゲイルと二人、紅茶を飲みながらこの重苦しい空間に居座っている。
本当は自室に帰ってしまいたいが、彼らが暴れ出した時に止められるのはグレイニールとアビゲイルだけなのも分かっているので、こうして居座ることしかできない。
この幼馴染達は中々優秀なのだが、どうもシスコンを拗らせているきらいがある。
普段は微笑ましいことこの上ないのだが、妹達のことになると暴走する傾向があるのはどうしようもなかった。
(いや、表向きは三男と養女の義妹か。)
ぶつぶつ言ってる内容から察するに、冒険者体験が楽しかったとか、得た素材がどうのとか書かれていたのだろう。
危険だから反対したいのに嬉しそうだから反対できない、という言葉も聞こえる。
アビゲイルにそっと耳打ちされる。
「これ、確実に反対されないように事後報告ですわよね?」
「間違いなくな。」
こそこそっと会話を終え幼馴染達を見やる。
せめて明日の朝までには立ち直ってほしいものだとまたため息を一つついた。
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