孤児院経営の魔導士

ライカ

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本編

チェルナーム孤児院の日常・3

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「それじゃあ行ってくるわね~」

「数日後には戻るから」

「あぁ、頼むな」

まだ日も昇らない時間…………
ノリフェロとロシュネが馬車に乗り、ブエルゼスに出発したのを見送れば、俺は欠伸を噛み殺した
二人には、以前、ボロリに頼まれたブエルゼスの新しく開く孤児院の指導者として、向かってもらった
ブエルゼスの孤児院がようやく開く事で、問題は、解決に一歩、向かうだろう
馬車が見えなくなれば、孤児院に入り、自室に向かおうとすれば、視界の端で何かが動くのが見えた

「……………?」

目線を向ければ、それはフワフワの綿であった
近付いて、拾えばその綿は温かく、まるで先程、ここに落ちたのだと思えるくらいだ

「…………あー、そういえばもうそんな時期か」

俺は綿をポケットにしまえば、自室に向かうのをやめ、倉庫へと足を進めた

日が昇り、快晴の空の元、子供達を庭に集めれば、俺、ティア、アクシア、アンの四人が椅子の前に立った

「さて、毎年恒例のとなってるが、皆、冬毛を整えようか
獣人以外の子は、手伝ってな?」

「「「はーーーい」」」

俺がそう伝えれば、子供達は、元気よく返事をしてくれた

獣人は、冬に近付くと、毛などが冬毛になり、絡まったり、増えすぎると抜けたりするから、俺達がその毛を整えてあげる事が恒例となっている

前までは、専門の散髪屋さんに頼んでいたが、今は、俺達だけでも出来る様になった


「それじゃあ皆、いい子に一列に並んでね」

ティアがそう言いながら微笑めば、獣人の子供達は、きっちり一列に並んでくれた

獣人の子達を椅子に座らせれば、それぞれ作業を開始した
子供だから毛は柔いから、勢いよくやれば、肌を傷つけてしまう…………
だから集中力を使う

「あら?
マナリア、前より毛がサラサラして気持ちいいわね」

「えへへ~♪」

「こら!!
【ガイルス】、動かない!!」

「ぶーーー!!」

ティアは、優しく毛を撫でながら鋏を動かし、安心させながら切っていく
アンは……………、ジッとしてるのが苦手なガイルスか………
苦労するな…………

「はい、じゃあ次は…………、【フォルネ】ね
おいでー」

「はーーい♪」

アクシアは、流石と言うべきか…………
慣れた手付きで次々と座った子達の冬毛を切り、整えていっている
元々、アクシアはこういった事が得意だったな…………
流石は、ラミア族と言えるな………

「いんちょー、まだ~?」

「あぁ、もう少しだぞ
【ルーネ】」

狼族のルーネに聞かれて、俺はそう言いながら、毛をゆっくりと切っていく
俺は三人とは違くて、風魔法を手に宿し、所々で解放して切っていくのだが、こう見えても、鋏より簡単だ
撫でるように髪を切り、そこをケアをしていく
前までは鋏を使ってやっていたが、俺はコレがあってるみたいだ

「ほら、終わったぞ」

「わーーい♪」

俺がそう告げれば、ルーネは立ち上がり、駆け足で孤児院に入っていった
毛を切った子は、孤児院に入り、セフィレナ達がお風呂に入れてくれている
こういう時、すぐにお風呂に入れるようにセフィレナ達に頼んどくのがいつもの事だが、今回は、冬毛もそんなに多くは無さそうだからお風呂も長風呂には、ならないだろう

「院長、次は俺だ」

「ディボレスか、わかった
座ってくれ」

ディボレスが椅子に座ったのを見て、俺は冬毛を切っていく
しかしディボレスの様子が落ち着きが無く、俺をチラチラと見てきているのが、見えた

「どうした?」

「あっ、いや……………」

聞けば、歯切れの悪い返事を返してきたディボレスに俺は、遮音結界を簡易に張った

「結界を張ったから大丈夫だ
これで話せるぞ」


「あ、あぁ……………」

冬毛を切りながら俺が言えば、ディボレスは俯くと、覚悟を決めたかのように顔を上げた

「院長、俺…………、さ…………
好きな奴が居るんだ」

ディボレスの言葉に俺は驚きもせず、手を動かす
ディボレスも年頃の青年だ
恋の一つはあると、思っていたが…………
まさか俺に相談してくるとは、な………
この手の相談は、普段はティア達が聞いていたが…………

「そうか、告白はしたのか?」

「」

問い掛ければ、ディボレスは、首を左右に振った

「その、さ…………
今更、その…………、言うのが恥ずかしくてな………」

ディボレスの反応を見る限り、想い人にピン、と来た
どうやらオルシアか、アナシアのどちらかだろう…………
だから、俺に相談してきたんだな

ディボレスにとって、二人は、一番の親友だ
そんな二人のどちらかを好きになったのなら、気持ちに戸惑いと躊躇いが生まれたのだろう

二人のどちらかを取れば、片方を傷つけてしまう…………
ディボレスは、優しいからその事で迷ってんだろう

「ディボレス、俺は、あまりそう言った経験が無いから分からないんだが…………
必要なのは、お前がどのように想っているかだ
本当にお前が死ぬまで傍に居たい、幸せにしたいと想ったのなら、その想いを正直にぶつけてみろ
お前が、真剣に考えたのなら必ずいい方に向かうはずだ」

「……………うん、ありがとう
父ちゃん」

真剣に答えれば、ディボレスは、安心したように微笑めば、そう言ってきた
…………今だけは、父ちゃん呼びを許そう
注意できる空気じゃないしな

「俺、決めたよ
ちゃんと気持ちを伝えるよ
オルシアとアナシアに!!」

「ふぇ?」

ディボレスの言葉に呆気に取られれば、ディボレスは冬毛が切り終わってると知れば、お風呂に入りにいってしまった

「…………ふ、二人か~……………」

取り残された俺は、呆気に取られながらボソッと呟いた
一応、複数婚は国が認めているが…………
イグニスも、父さんも嫁一筋って、感じだったからな……………

ま、まぁ、ディボレスが決めた事には、反対できんな…………

その後、ニコニコ顔の三人の姿を見て、結果がどうだったかは、聞くまでもなかった

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