孤児院経営の魔導士

ライカ

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本編

ノア・イシュタールの実力

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月明かりが照らす森を少し進むと巨大な岩壁が目の前に現れた
ここの岩壁は、数百年前の地殻変動の際に生まれたと聞いているが実際の所、どの年代に生まれたのかは、定かではない
そしてその岩壁に亀裂が走ったかのように、大きな谷の入り口が不気味に空いていた
以前からここに入っては危険とギルドでも注意喚起をされるほど、この谷には、何かが潜むと言われている

(だが………、まさか本当に潜んでいたとはな……………)

谷に入れば、俺はクスリと笑っていた口を閉し、魔力を引き上げ、谷を探る
するとかなり奥の方に大きな反応があった
魔力の波がその大きな反応にぶつかり、形を表していけば、見知った形をしていた

(【アスファンクスエレファント】の形か……………
いや、牙の大きさで言うなら【ロゴスゾウ】か…………
イグニスの話だと、牛型と聞いていたが…………
どうやら暗闇で正確に確認は出来てなかったようだな
まぁ、騎士達なら仕方ないが光帝達が居ても正確には測れなかったか
後で鍛え直すように言っておくか)

谷を歩いていけば、時折、小さな地鳴りのようなモノが足から伝わってくる
どうやら谷の広くなってる所をグルグルと回っているようだ
だが、谷の壁が酷く崩れ、今にも崖崩れが起きそうな程だ
谷の壁に何度も突進し、ぶつけたんだろう

(奴ら……………、一人残らず消し去っても遺物が残ってるとはな…………
ホント…………、胸糞が悪くて、苛立ってくる…………)


無意識の内に拳を強く握りしめていたが、そろそろ目的地近くになり、手を広げて一度息を吐けば、物陰から先を覗き込んだ
この先は、先程、魔力を広げた際に確認した空間だ
先は酷く不気味な暗さだが、幸い今日は雲一つない夜空だった為、月明かりが照らし、十分な明るさがそこに降り注いでいた
そしてそこに大きな影が蠢くのが見えた

(アレがゴーレムか)

蠢くゴーレムは、軽く人の数倍は、大きく、外から見ても剣などの武器は、通さなそうな外殻をしている
そしてゴーレム特有の目の光がチラチラと何かを求め、彷徨っている
そしてゴーレムの額部分を見れば、そこに紋章のようなモノが見えた

(ホント……………、いつ見ても気持ち悪いマークだ)

岩陰から出て、歩き出せば、ゴーレムがこちらに気付いたのか、すぐに体を反転させ、こちらを向いてきた

「………………悪いが無機物とは言え、本来なら壊したくねぇが、奴等が作ったお前を残すわけにはいかねえんだ
塵すら残さず…………、俺が消し去る」

呟きながら俺は空間魔法で杖を取り出せば、ゴーレムは低い起動音と共に俺に向かって突っ込んできた




「…………………始まった」

魔力の流れを感じ、私はボソッと呟いた
魔法帝が結界を張った気配は感じ、そこから魔力を感じなかったが、ここまで感じるとは……………

「魔法、帝…………
本気…………、だす………」

「あぁ…………、この魔力の流れ…………
あの時以来だ………」

隣で立っている光帝も谷の方を見ているのに気付きながら私も答えた
魔法帝が張った結界は我々、帝でも感知が出来るか、分からないくらいだ
そして気付いたら終わってしまっていた
だが、アレから数年…………
私達も一段と鍛錬を重ね、魔法帝に近づけたと思っていた…………
だが…………、今の魔法帝は以前の魔法帝では無い
昔よりも一段と強くなられている………

「………魔法帝、無事、終わる?」


「何を言ってるの?
魔法帝の本気を一度、目にしているのよ
心配は、無用でしょう?」

「…………ん」

光帝がらしくも無い事を言ってたから、言い返したけれど、この子ったら、私をからかってるわね…………
全くもー……………
光帝に少し呆れていたら足元が揺れ始めた
意識を向け、騎士達に指示を飛ばそうとしたが、揺れはすぐに止まった

「……………どうやら激しい戦闘のようね」

揺れの具合から戦闘がどのくらいのモノか、予想を立てた私の頬を伝う汗に気付き、私は、空を見上げた
ただ…………、魔法帝の無事を祈って…………




「………………ちっ、派手に暴れるな」

舌打ちをしながら崩れた岩の上に着地をすれば、俺はまっすぐ前を向いた
視線の先では、崖にぶつかった際に崩れ、上に乗った岩を落としながらゴーレムがゆっくりとこちらを向き直していた
あれから数回、突進してくれば、杖にエンチャントしたインパクトを叩き込んだが、角が壊れる形跡はない
もちろん胴体の方にも何度か、叩きつけたが、こちらも同じくヒビが入る様子はない

考えていれば、ふと、先程の突進を思い出した
突進の際、ゴーレムは、踏み込み一回だけで猛スピードで突っ込んでくる
その際…………、地面は揺れてなかった

「全く…………、奴らめ…………
面倒なモノを残していったな」

俺は小さく舌打ちしながら目の前のゴーレムを睨んだ
恐らくこのゴーレムは、俺を消すために隠してあった、いわゆる隠し球ってヤツだろう
突進の際や攻撃を受けた際、足裏から反磁力魔法を発生し、宙に体を浮かす
それでインパクトの衝撃が半減され、ヤツはピンピンし、突進の助走は要らんって、事か…………

そんな考察をしていれば、ゴーレムは、また体勢を低くすれば、猛スピードで突進をしてきた
息を吐き、岩の上から跳べば、足場になってた岩は、一瞬にして粉々に砕け散った
それを脇目に杖にエンチャントを施せば、今度はゴーレムの背中目掛け、杖を振り下ろした

バギン‼︎

「っ…………」

だが、振り下ろした杖は、ゴーレムが振り上げてきた鼻に防がれた瞬間、真ん中から折れ、宙を舞い、崖に突き刺さった
ゴーレムの背に一度、足を付けば、すぐさま跳び、距離を取れば、手元の杖を見た

(【デスメタル】性の杖が壊れたか…………)

デスメタル
極めて珍しい【メタルスライム】
その集合体である【メタルスライムキング】の変異種である【デスメタルキング】から作られた杖…………
その強度は、最大級魔法でも折れたり、傷つかない為、コレを使って作られたモノは、極めて少ない………
その一つである杖が真ん中から綺麗に折れていた

(思えば…………
この杖とは、戦時中からの付き合いだったな……………
長いこと…………、世話になったな、相棒………
この依頼が終わったら、ちゃんと………、弔ってやる)

杖をしまい、大きく息を吐けば、改めてゴーレムを見た
ゴーレムは、既に突進の構えをしていて、すぐにでも突っ込んで来ようとしている
だが、それはすぐに変わった
今、まさに突撃しようとした瞬間、ゴーレムは、その巨体を横へ滑らせ、火の槍を避けたのだった

「ここまででお前の性能は、把握した
余程、精巧に作られたのだろう…………
そこまで精巧に作られておきながら人の為に使えないとは…………
お前も災難であったな」

俺は、ゆっくりと歩み始めながら俺の周りには、魔法陣が飛び交う
その一つが俺の右手前にくれば、バチバチと音を鳴らしながら形を形成していく

「だから…………
お前の役割を終わらせてやる」

そしてソレを掴み、引き抜けば、ソレは雷で作られた太刀であった
その太刀は、刀身は青白い光を放ち、一振りすれば、雷がバチバチと音を立てている

「全魔力解放…………
【魔装具】…………、起動………」

冷たい声が谷に響く中、ゴーレムは今度こそ、俺に突っ込んで来た
猛スピードで迫ってくる中、左手を上げ、振り払えば、俺の前方に氷の壁が形成され、ゴーレムの突進を防いだ
ゴーレムの突進は、谷を広げてしまうほどの威力……………
だが、その氷の壁はヒビが入るところか、傷一つ、付いていなかった
ゴーレムが体勢を崩した時、俺は、すぐに氷の壁を解除し、ゴーレムの真下に潜り込めば、太刀を振り上げた
すると、硬い装甲をしていたゴーレムの体に一線、走れば、真っ二つに斬り裂いた

元々、魔装具とは俺の魔力を直接、武具にしているのと同じだ
属性も相まってるが、俺の性質上、魔法を直接放つより、エンチャントしたり、こうして武器にする方が強い
まぁ、魔法も死ぬ気で覚えたから魔法帝って、呼ばれてるんだけどな…………

そんな事を思いながらトドメを刺そうと太刀を振り下ろそうとすれば、急に地鳴りが始まった
そしてゴーレムの足元から光が流れ込んでると思えば、ゴーレムが足を振り抜いてきた

反応に遅れ、太刀で受け止めたが、吹き飛ばされ、崖に叩きつけられたが、冷静にゴーレムの様子を見た
ゴーレムは、足元からの光が流れ込んでから傷がどんどん直っていっている

「やはり傷付けば大地からエネルギーを吸収して直してたか…………
時間をかければ、厄介だな」


ボソボソと呟きながら俺は目を閉じ、魔力を太刀に流し込む
すると、太刀は、一瞬、雷となり分散するがすぐにバチバチと言う音と共に形を形成していく
先程の太刀では無く、ソレは射程があり、刃の所が薄明に光り輝く………

「一点集中…………」

その槍を掴み、深く息を吐きながら構えれば、ゴーレムは、突進の構えをとっていた

(恐らくゴーレムのコアが地面から魔力を吸うのは、合ってる
それがエネルギー供給だけだと思ったが、傷を直す時も吸うとなれば……………
もはや猶予は無い
コアごと、ゴーレムを吹き飛ばす)


バチバチと雷が槍に集まっていけば、不気味な程、暗い谷がそこだけ日中のように明るくなっていた
そしてゴーレムが突進をしてくれば、槍を逆手に持てば、思いっきり引き絞り、ゴーレム目掛けて投擲した

槍は、真っ直ぐゴーレムに飛んでいき、そしてゴーレムの脳天を捉えた途端、激しい爆発が起きた
その爆発は、ゴーレムを中心にどんどん広がり、谷の崖を少し広げ、最後には、雷の粒子が散りながら収まった

谷の崖の上に転移をしていたが、その爆発は、如何に強い衝撃なのかは、知れている

(少し抑えたが…………、強すぎたか………)

息を吐き、苦笑いを浮かべながら谷の底を見れば、爆発の影響で生まれたクレーターの真ん中にゴーレムだったと思われる瓦礫があった
そこに転移し、近くで探れば、丁度、そのゴーレムの腹の中心部があった所に砕けたクリスタルの破片が散らばっていた

(コアか………
ふぅ…………、少し遅くなったが終わったな)

コアだったクリスタルの破片を魔力で集めれば、今度こそ完全に砕いて、粉々にすれば、俺は踵を返し、谷を去った




水帝と光帝に報告などを任せ、俺は、転移で孤児院から少し離れた所に出た
仮面などを空間魔法にしまえば、ゆっくりと帰路に付けば、ズキリ、と背中に痛みが走り、顔を少し歪めた

(いけね…………
岩が刺さっていたか………
このまま戻ったらティア達に怒られる)

俺は魔力で背中に刺さった岩を探れば魔力で掴み、引き抜いた
そしてすぐに【ヒール】で傷を癒してからリフレッシュをかけて血糊などを落とした
他に傷が無いか、確認していれば、いつの間にか、孤児院の門まで帰ってきていた
時間的には、まだ四時くらいだ
まだ寝てるだろう、と、予想しながら俺は門を開けた

「あっ、いんちょー♪」

「フルーレ?」

門を潜り、戸締りをしていれば、不意に呼ばれ、見れば、スィーと、人魚の【フルーレ】が近づいて来た
一応、人魚の子が居るから魔力で水を浮かせ、自由に行き来できるようにしている
今のフルーレは、水の中に入りながら浮遊魔法を使っているのと同じ感じだ

「起きていたのか?」

「んーーー♪」

俺は、しゃがみ、フルーレを抱き上げれば、フルーレは嬉しそうに俺の首に腕を回して抱きついてきた
濡れない魔法をかけてるが、本当に便利だな…………
作ったの俺だけど…………

「いんちょー、お出かけしてたの?」

「あぁ、少しな」

「そうなんだー、おかえりなさい♪」

ふと、フルーレが俺の顔を見ながら聞いてきて、それに答えれば、ニパッ、と、笑いながらおかえりと言ってきた

「………あぁ、ただいま」

俺は、そんなフルーレの頭を撫でながら孤児院に入ろうと歩み始めた

「今日の朝食は何だろうな?」

「フルーレ、ゼリー食べたい!!」

「はははwww
それならアンに頼まないとな」

そんないつものやりとりをしながら俺は、またいつもの日常へと戻っていった

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