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第三章

主人公を探せ

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アパーに戻り、すぐに依頼主に薬草を納品しようとしたんだが、『ごめんね 店長は急に別件の仕事が入って明後日まで戻ってこないんだよね』と言われてしまい、アパーに三日程、足止めを食らうこととなった
だが俺は元々、四日を目安にアパーに居るつもりだったから問題ない

何故ならこのアパーの近郊にある村の一つに主人公が住んでいる場所があるからだ
だが残念な事にその名前を忘れてしまって、近郊全てを虱潰しに探す羽目になった

とりあえず母上には宿で依頼主の事を伝えると「じゃあ屋敷の方に一度戻って、説明してくるね」と言って、一瞬で姿を消すと三分後には戻ってきた
《ワープ》を使って、屋敷に戻るときっと父上辺りに説明したのだろうか知らないがお金の入った袋を持ってきていた

(多くない?)

一応、中を確認すると金貨が五百くらいあって少し引いた……
そして探すにあたり、俺一人での行動を取る為、ミュレーヌ達には自由時間を与えて好きに過ごしてもらうようにした

そしたらミュレーヌは号泣し、俺にしがみついてきて、ネロは俺の前で土下座すると爪先を舐めながら『捨てないで』と泣きながら悲願してきた

(……うん コイツらをこんなにした原因の奴らは一人残らず潰すように言っておこう
まぁ、アイツらのことだから一晩で肩が付くだろうがな)

そう思いつつ、二人に落ち着いてもらい、ただ自由に人として過ごしてほしいと伝えると、渋々頷いてくれた
……どんだけ俺の奴隷で居たいんだよ
それと冒険者依頼中は性奉仕は禁止と伝えた
流石に野営になった時に奉仕されてちゃあ敵わんからな
そしたら二人が絶望し切った顔をした
だから「こうした宿とかなら頼む時がある」と付け加えると満面の笑みを浮かべた

(……これ、もしヤることをしたら依存と言うか、中毒レベルにハマるのでは?)

少しの不安を置いておくと俺は街を出るとすぐさま周辺の村に向かって、駆け出した
幸いステータス的には走って、数分で着く
本来なら数時間だろうがな……

しばらく草原をかけていたがピタッと止まった
そして溜息を吐いた

「……街で好きに過ごせと言ったろ? ユキ」

振り返るとピッタリと俺の後ろを付いてきたユキが居た
街を出てからかなりスピードを上げて、走ってたがユキは離れる事無く、ピッタリと後ろを付いてきていたがユキのステータスを見るに付いてくることは可能だったな

「ご主人様 一緒いい ダメ?」

ユキはトテトテと俺に近付いてくると袖を掴み、覗き込んできた
それを見て、また溜息を吐いた
耳がペタンとし、捨て猫のようなユキを見て、突き放すなんて出来ないだろうが……

「離れるなよ」  「ん」

俺がそう言うとユキはコクンと頷くと微かに微笑んだ

(ヤバっ……  めっちゃドキッとした)

普段の無表情なユキを見ていたからその微かな微笑みでもかなりドキッとしたのは黙っておこう

ユキを連れて、数個程の村を回ったが主人公らしき人物は見つからなかった
次がアパー近郊で最後の村だ……
そこで見つからなければ、振り出しに戻ってしまう……
(できるなら見つかってくれ)と願いながら村に向けて、走っている
少しユキをチラッと見ると忍び走りで付いてきているが疲労は見て取れない
むしろ全然、疲れてなさそうだが流石に女の子を走り続けさせるのはいけないな

「ユキ 少し休むか」  「ん」

近くに丁度いい木陰があったからそこに行くとユキを座らせた
簡単に作った水筒をユキに渡すと、ユキは水筒を不思議そうに見てから首を傾げた

「ここを押すと蓋が開くから」

そう言えば使い方を教えてなかった事に気付いて、使い方を教えるとユキは水筒のボタンを押して蓋を開けるとチビチビと飲み始めた

(流石に全村を廻るのは今日中には無理か?
時間にしてもそろそろ夕暮れに近いし……)

空を見ると太陽が傾き、空は茜色に染まりそうであった
流石にこのままだと夜になってしまう……
ユキの事を考えると今日は戻って、休んだ方がいい気がする

「ユキ 今日は戻っ」

戻ると決めるとユキに視線を向けるがそこにはユキの姿は無かった

「ユ「ご主人様」うひゃおぉ!?」

居なくなって、俺が慌てたがそのすぐに後ろから声をかけられ、見るとユキが居た

「襲われてた だから助けた」

そしてユキに脇で抱えられてる二人の女性が居た

「っ、流石だ ユキ」

ユキから二人を受け取るとインベントリから回復薬を取り出して、すぐに割り、二人を回復させた

傷は擦り傷程度で問題ないが一人の女性の衣服が破られてるのを見るに盗賊に襲われて、妹と見る女性を守る為に身を差し出そうとしていたと見るのがいいだろう

「ユキ この子達を襲ったヤツらは?」  「殺した よかった?」

振り返り、ユキを見ながら襲ったヤツらの事を聞くとユキはあっさりとそう言い、首を傾げてきた

「あぁ、よくやった 偉いぞ」

そんなユキの頭を撫でるとユキは目を細めて、今度ははっきりと微笑んだ

「ご主人様 ご褒美欲しい」

そう言うとユキはそっと俺に体を寄せてくると尻尾を俺の腿に絡ませてきた

「あとで聞いてやる」

ユキの性格から自らご褒美を強請る事は言わないだろうと理解してる為、そんな事を言われると出来るだけあげたいが今は彼女達を保護が優先されるからあとで聞くと言うと、ユキは嬉しそうに耳をピコピコさせた

「ん……」

ユキが離れるのと同時頃に服を破られてる方の女が目を覚ました
一応、服は俺が時間魔法で元に戻しといたから何も問題はない

「無事か?」  「っ、ベルは!?」

恐らく妹の名前だろうか、姉は俺たちに気付き、一瞬で状況を把握すると妹の心配をした
俺が顎で隣を指せば、姉は妹の無事を確認するとギュッと抱きしめて、泣き出した

(起き抜け一発で俺達が盗賊の仲間でない事、助けてくれた事を理解したのか……
この女、状況把握が凄いな)

そんな事を思っていると姉は俺たちを見ると頭を下げてきた

「ボク達を助けてくれてありがとうございます
ボクはイリア・トパーズと言います」

「俺は……、シフォンケーキ
冒険者だ シフォンでいい」

礼を言われ、名を名乗られたから俺はシモンと名乗ろうとしたが流石に目立ちすぎていけないと思った為、いつものシフォンケーキと言う名を名乗った
隣のユキが俺をじっと見てきているがそれはあえて置いておこう

「盗賊に襲われたと見ていいが何があった?」

「ボク達は冒険者で依頼をこなしながら薬草を集めて、それを売ってお金を貯めてるんです
来年には魔法学園に入学するからその入学費を稼ぐ為に……
でも今日は森で運悪く盗賊に会ってしまい、何とか数人は倒せたけどベルが人質にされて、それで……」

そこからはイリアは体を震わせて、ベルを抱きしめた
よほど盗賊に怖い思いをしたのだろう……
だけど冒険者とは言え、彼女達を見るとなかなか伸び代がありそうで鍛えれば、強くなりそうなポテンシャルが見て取れた

「そうか それは不幸な事だったな」

「うん……、ベルはただ一人の家族だから
ベルに何かあったらボク……、ボク、は……」

そう言うとまた泣き出してしまったから泣き止むまで頭を撫でてやった

やがてイリアは泣き止み、ベルも目を覚ましたので彼女達を村に届けてやった

「今日はありがとうございました」

「いや、気にしないでくれ
冒険者として当たり前だからな」

イリアに何度も頭を下げられて、そう言ってから懐から数個、宝石を取り出すとイリアの手に渡した

「これはゴミだからな
売って資金に当ててくれ」

「いいのですか!?」

イリアは宝石を見て、慌てて俺を見てきたが言った通り、それはアルタナシア・ドリームでめっちゃ取れる宝石で今は所持カンストしてしまぅているから処理に助かる
こっちのゲームだと、一個、5セルと言う売っても金にならないから持ってるだけで困ってた

「あ、ありがとうございます!! これならボク達は学園に通えるだけでなく、美味しいご飯を食べられます!!」

イリアは喜ぶと俺に抱きついてきたが、正直な事を言うと俺はそんなに貧乏なのかと驚いていた

「シフォン様……  私はお姉ちゃんと同じように強くなれますか?」

「当たり前だ むしろ二人共、鍛えればきっと今より強くなるから頑張れ」

ベルが不安そうにそう聞いてきたから親指を立てて、笑顔でそう言うとベルの頬が赤らみ、頷いた

「あっと、そろそろ日が落ちる
俺達はもう行くよ」

「そんな……、せめて今日はウチに泊まっていっても」

「連れを待たせてるんでな」

空を確認し、そろそろ戻らないと完全に暗くなるからそう言うとイリアはそう提案してきたがミュレーヌ達を待たせてるし、それに戻らないと母上が暴走しそうで困る……

だから提案を断り、戻ると伝えた

「そうですか……  ならせめてまた会えた時にはお礼をさせてくれませんか?」

「わかった また会えるのを楽しみにしとく」

イリアにそう言われ、礼はいいと断ろうとしたがそれだとまた粘られる為、今度と言う形で言うとイリアはようやく離れてくれた

「シフォン様、ユキ様
今回は私と弟を助けていただきありがとうございました
またお会いできる日を楽しみにしております」  「バイバイ」

イリアにまた頭を下げられ、その後ろで姉に隠れながらベルが手を振っていた
(弟だったんかい)と驚きつつも彼女達に見送られ、帰路についてからしばらくして……

「あぁあー!? アイツらじゃねぇか!?」

俺は道のど真ん中を気にする暇なく、膝を付いて頭を抱え、叫んでいた

そう……  彼女達こそ、俺が探してたルミナス・エルドの主人公だった
何故、分からなかったかと言うとまさか姉弟関係になってるとは思わなかったからだ

そしてエロゲー野郎に無理やり見せられた主人公の設定集には、男の方はかなりのイケメンで男前になっていて、女の場合は可愛い王道ヒロインを形にしたような姿だ

あとになって、名前の時点で気付くべきだったが気付くなんて無理だった

何故なら彼女達に会った時の格好がイリアはズボンに軽い軽装の見た目イケメンで、恐らくかなりスタイルが良いと見た
逆にベルはワンピースを着ており、見た目完全に女だ
髪も長かったのもあるが体も女性寄りな気がした

性格も原作は知らないがかなり離れてると見ていいだろう

「どうすんだよ!? これぇぇ!?」

あの二人がストーリーの主人公だと思うと俺の将来に更に不安が残る形となってしまい、俺は叫ばずにはいられなかった

そしてその俺をじっと見ていたがそっと抱き寄せて、頭を撫でてくるユキが居た


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