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第三章

商業小国 アパー

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小さな馬車の荷台に揺られる事、早二日……
未だに目的地には付かず、のんびりと外を眺めているのだが……
ようやく本来の目的である主人公捜索に手を出せたのは大きな進展だ
これから向かう国は小国だが、商業を中心としており、国のあらゆる商業がそこに集っては売上競争をしている
【商業小国 アパー】……
その近郊での依頼をするのが冒険者としての初の仕事だ
仕事内容は簡単なモノで【アパー近郊に生えてる薬草の納品】だ

アパーはその土地が特殊で生えてる草や木々に微量ながら魔力が流れている
今回はその薬草を数個の納品が依頼だ

外はまだ森だが先ほどから雰囲気が変わり始め、見たことの無い木々が生えてるのが目に入ってきている事からアパー領土に入ったと見ていいだろう

視線を中に戻すとミュレーヌは馬車酔いでぐったりとしている
先程、酔い薬を飲ませたから暫くは大丈夫だろう
ネロは俺から貰った剣を改めて見ている
やっぱり将の娘なだけあって、剣には興味が惹かれるのであろう
さっきから剣を見ながら頬が緩みっぱなしだ

そしてユキは俺の膝を枕にして、ゴロゴロと甘えてきている
やる事が無くて暇なのか、俺の膝に急に寝転がると「撫でて」と言ってきたから片手でユキの頭を撫でている
ユキもすっかりリラックスしているのか、喉をゴロゴロと鳴らしながら目を閉じ、うっとりしている

「ふふふ すっかり仲良しね」  「母上……  屋敷に戻らなくていいんですか?」  「大丈夫よ シモンちゃん優先にするって、言ってきたから♪」  「おぅふ……」

そして……、何故だか知らないけど母上が付いてきた
母上は俺の前に座っていて、俺とユキを見ながら聖母のような笑みを浮かべていた

母上の言い草だとヌリークが無茶振りされたと見る……

(帰ったらマッサージでもしてやろう……
母上がすまない……)

そんなヌリークを憐れみながら心の中で謝罪していると母上が外を見た

「シモンちゃん 見えてきたわよ」

母上の言葉に俺も外を見ると森を抜け、少し離れた所に防壁が見えた
アパーの防壁は特殊なモノで、その特徴は黒い壁に赤い血管みたいな魔力が流れている
その製造方法は【古代魔術】が関わってる為、一般には公開されてないらしい……

「あれがアパーですか」  「えぇ 小さいけど王都等の国にとってはとても重要な小国よ」

俺が呟くと母上はそう言ってきて、杖を取り出した
いよいよ馬車を下りるのかと思ったがまだ距離がある
即ち……

「母上 馬車後方 左に三」

手短にそう伝えると母上は何かを唱えると言った方角から物凄い音がした
荷台の外を見ると大きな氷山に狼が三匹、氷漬けにされているのが見えた

「狼でしたか」  「シモンちゃんもいいサーチよ 私が手を出さなかったら、シモンちゃんが片付けてたかもね」

母上に褒められ、少し照れてるとまた《サーチ》に反応があった
数は六 隊列を整えてこちらに向かってきている

(盗賊か……  下手に邪魔なんてされたくねえしな
遠距離で速攻で沈める)

盗賊だと分かり、俺が魔法を構えようとした瞬間、俺の隣で召喚陣が現れ、見るとアモンが現れた

「失礼します 我らが主人様よ」  「アモン? どうした?」  「少し報告が……、と虫ケラが邪魔ですね」

アモンがそう言って、指を鳴らした瞬間、《サーチ》に反応があった盗賊の反応が消えた

「辺り一帯、吹き飛ばしてないよな?」  「安心してください 対象の上半身のみ、灰にしました」

俺が聞くとアモンは簡潔にそう言うとチラッと母上を見た
母上はアモンを見ても警戒せず、まるで「シモンちゃんの友達ね」と言わんばかりにニコニコとしている

やりづらそうだな……

「主人様 先程の続きで報告が……
ベルゼブブとベルフェゴールの二人から入りました」

「何?」

ベルゼブブとベルフェゴールからの報告と聞いて、俺は思わず聞き返した
恐らくだがミュレーヌ達の調査の件だと思うが頼んだのはベルゼブブだけのはず……

「ベルゼブブがベルフェゴールに協力を要請した模様で、二人別の箇所を調査しているみたいです」

きっと俺の表情を見て、察したのだろうか、アモンが簡潔に報告してくれた
確かに二箇所を調べるのにベルゼブブの部隊だけじゃ足りないか……

(いや、足りるよな?
アイツの全軍合わせて、一万は居るんだぞ?)

ベルゼブブの配下を思い出したが数えると一万は超えていた
何故、NPCのベルゼブブに配下があるかと言うとテイムした際にベルゼブブの補助機能という事で解放された軍勢でレベルはベルゼブブより低いが、それでも高レベル帯が一万はいる
アルタナシア・ドリームではあまり活躍させてやる機会がなかったが……

「まぁ、いいか アモン 報告を」

「は、まずはベルゼブブよりの報告で[王都教会内の不正事実及び、本当の聖女を追放し、新たになった聖女には力が無いのと真っ黒だったよ]との事
この事から察するに主人様の奴隷であるミュレーヌはその偽物の聖女にあらぬ罪を背負わされ、追放
その後に奴隷となったと考えられます」

ベルゼブブの報告の後、アモンの見解を聞くと俺は「確かに……」と納得した
あのミュレーヌの拒絶ぶりは恐らくだが、あらぬ罪を背負わされた際に教会に何らかの刑罰、罵詈雑言、最悪的には性便器にさせられ、最後には奴隷として売られたと考えられる……

それでトラウマを持ち、あんなに拒絶反応を示したとしか考えられない……

「そしてベルフェゴールからの報告では[ガンボルト将軍の汚職罪は虚偽のモノ……  犯人特定済み 指示を待つ]との事です
この事からガルボルト将軍に罪を着せ、それで一族を消し、その後釜を狙う輩の線を私は推します」

ベルフェゴールからの報告とアモンの見解に俺は顎に手をやると考えた
確かにアモンの見解はわかるが、それをその国の王が見抜けぬ筈がない……
何故ならネロの性格を見て、ガンボルト将軍の中身が見えた
彼は恐らく職務に忠義を尽くし、汚職などする筈がない
一族を消すと言っていたが現にネロは奴隷になっている
逃げてる途中で捕まったか、戦って捕まり、売られたかの二択だ……

「……アモン ベルゼブブに伝えろ
王都で一人 頼れるヤツが居る
ソイツにこの件の事を伝えろ 恐らくだが奴はすぐに動き出す 第一王子のアルフレットを頼れ
ベルフェゴールには証拠が集まり次第、いつも通りにやれと伝えろ」

「承知しました」

アモンは俺の言葉を聞き、すぐに行動すべく戻っていった

「うーん、シモンちゃんが立派でお母さん……  涙出てきちゃった……」  

母上を見ると感涙の涙を流している
そんな事で泣かないでください!?
せめて俺が結婚するか、功績残したらの時におもいっきり泣いてください!?

母上の反応にツッコミを入れつつ、ふと視線を感じ、見るとミュレーヌとネロが俺を見てきていた
まぁ、先ほどの内容を聞けば当然か

「安心しろ お前らが思ってるような事にはならねえよ
最後まで面倒みる」

彼女達の表情を見ると一目当然、(捨てられる)と思った絶望顔をしていたから、そう伝えると打って変わって満面の笑みを浮かべた

こんな性格になっちまった原因があるとするならその元凶にはキツイ仕置きをしてやらねえとな……

(あとでベルゼブブ達にチャットしとくか
[出来る限り.痛ぶり、苦しませ、簡単に死ねないという絶望を刻み込め]てな)

正直、こう思ってるが躊躇いがないのは元からだ
元より悪魔王である彼らをテイムした際にそういうロールプレイをしていたからな
悪魔の誓約者ならこれくらい残酷で充分だろう……

(でも……  これでもアイツには届かなかったんだよな……
悪魔王全員を召喚したが全部、跳ね除けられ、タイマンに持ってかれた……)

今でも目を閉じるとその光景が目に浮ぶ……
動き出した瞬間、ベルゼブブとベルフェゴールの首が飛び、一瞬にしてルシファー以外が全滅……
ルシファーも反応できたが結局の所、心臓を貫かれてた

その時の絶望感は計り知れない……  あん時ほど頭に来たこともなかった……

「あっ、アパーに入るわ」

昔を思い出していると母上の声に窓の外を見る
空は快晴……  あの時と同じように雲が無い……

そんな空を俺は少し恨んでしまった……

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