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第二幕

間話 ヒュレム・オーリクス

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『お前は一族の恥だ』

いつからだろう……   そのように言われ始めたのは……
私は吸血鬼一族に産まれ、皆と普通に過ごしてきた
それが当たり前だと、思っていた……

目の前で人間の子供が病で死ぬまで……

人間は簡単に死ぬ……  病気であれ、簡単に命を失う……
それでも私は初めて友人と言える友達を病で失った……

それ以来、私は薬師の道を進み出した
どんな険しい道だとしてもそれが命を救う方法の一つだと信じて、人間に扮して、薬学を学び、皆伝を貰い、ようやく薬師としての道を進むはずだった……

だけど、一族の古老勢に人間との共存を否定する者達が私のことを毛嫌いし、命を消そうとしてきた

『ヒュレム 必ず生きろ
こっちは俺が何とかする
お前が信じたい道を俺は信じてる
必ず夢を叶えろ』

古老勢に狙われた私は育った村を逃げることとなり、私の唯一の肉親でもあった兄は私を逃してくれた
その時に色んな道具やお金などを押し付けてきた
そして兄は村に戻っていった
きっと古老勢を説得する為に……

私は必死に逃げた
兄に言われた通り、生き延びる為、また兄に会う為に……
それから数百年は、過ぎてしまった……
今は森の中の廃邸に住み、ひっそりと暮らしている
そう言えば、ここの領土の名前が変わり、街が発展していった
確か領主の名は……、フェルストリーと言う貴族らしい……
そしていつからか、この森は瑠璃の森と呼ばれるようになっていた
確かに、瑠璃色に光り輝いた事があったが、そんなに不思議な事なのか?

薬を少し作り、それを街の医師の所に売る
そんな暮らしに私は満足していたが、欲を言えば、もっと薬を作って、それを出来るならこの領土全体に配りたい……
それが叶うわけがない……
だからできるだけ薬の効果が良いやつを作り、それを身近な街の人達の為に使おう……
そう思っていた……

「フェルストリー家の薬師として雇うという形で、貴女を保護すると言うのはどうでしょうか?」

目の前の子供は何を言ってるのだろうか?

今の私の気持ちを言うならば、こうだっただろう……

突然、私の家に訪れてきた子供……
シモンは私がメスを首筋に押し付けても、怖がるどころか、冷静に話してきた

見るからに子供らしくない……
そして私に薬師として、雇いたいとまできた

そして利益とか言っているがもうその時点で、私は彼に興味を持った
私の薬を評価してくれて、フェルストリー領土の領民を救う為に薬を作って欲しいと言ってくれた

それだけで私は目の前の子供……、いや、シモンの事に興味が増して、彼を知りたいと思ってしまった

もちろん彼の取り引きに了承し、すぐに廃邸を出発した
あそこは長らく住んでいたから愛着はあるが、帰って来ないわけでもない
たまにあの家に帰っては掃除でもしよう………

そう思いながら私は隣のシモンを見た
シモンは木々を跳びながら、迷う事なく進んでいる
そんな様子に目が離せなかった……

森の外に出ると彼の馬車が止めてあり、それに乗り込めば、フェルストリー伯爵の屋敷に向かった

道中、彼のメイドが仕切りに私のことを、シモンに聞いてる様子から彼女はシモンを主人以上の感情を抱いてると感じた

(何故、少しモヤッとしたのだ?)

そんな様子を見ていたら、少しだけ胸がモヤッとして、手を置いた
彼を見てると何でこんな事を感じたのだろうか……
そんな事を考えていれば、フェルストリー伯爵の屋敷に到着した

すぐさまシモンが伯爵様に私を会わせて、説明をし、雇いたいと言えば、伯爵様はすぐに「いいよ」と軽い返事を返した

あまりにも気の抜ける返事で私が呆気に取られていると、伯爵様は微笑んだ

「昔、吸血鬼族の者と知り合い、今では旧友の仲でな
だから、君を信じることにした
なーに、私は人より見る目が有ると自負している
それにシモンが言うのだから間違い無いだろうからな」

伯爵様の言葉に何か聞き返せたと思うが、私は何も言えなかった
ただ、私を信じてくれた……
それだけが嬉しくて、私は涙を流していた
それを見て、伯爵様は、「辛い思いをしてきたろう…   ここでは好きに暮らすといい 君も私達の家族だ」と優しく言ってくれて、シモンは黙って私の頭を撫でてくれた

もう数百……、数えるのも途方にくれた私の人生だったが、間違いなく……
私は今……、彼らに会えた幸運に初めて感謝をした

メイドの一人に客室に案内され、ベットに横になれば、私は眠ってしまい、気が付けば、次の日の明朝だった

久しぶりに熟睡が出来、目覚めのいい朝を迎えた私は少しだけと思い、屋敷を見て回ることにした

途中、従者の方々に会い、挨拶を交わしながら、彼らの庭園に出てみた
そこは綺麗な花が咲き乱れ、目移りするほど、様々な種類の花が多くあった

ふと、庭園の奥……
森の方を見れば、何かが動いたように見え、近づいて行けば……

「よーーし、そのまま
ゆっくり降ろせ」

「シモン!?」

そこにはあの廃邸よりかは、小さいが立派な一軒家がそこにあり、奥には大きな温室が三つ、並んでいて、その一つの前にシモンが手を振り、合図を出せば、羽の生えた人間がゆっくりと最後の一枚のプレートを天井に置いて、固定していってる

「ん?
ヒュレムか なんだ……
起きる前に完成させて、驚かそうと思ったのによぉ……」

「じゅ、十分、驚いてる!!
まさか一日で作ったのか!?」

シモンが私に気付けば、少し拗ねたように頬を膨らませた
その姿に少しドキッとしたが、今は目の前の建物の事に意識を向けていた

「あぁ、流石に家具とかはこれからだが、何とか内装と外装、温室までは完成させた」

シモンはそう言い、手を振れば、さっきまで作業していた羽の生えた人間が手を振り返し、消えていった

「彼らは?」 「俺の誓約獣」

私の質問に簡潔に答えれば、シモンは私の手を取り、温室の一つに入った

「こ、これは!?」

そこで見たのは、薬師なら一目見ただけでも分かる……
薬にすれば、通常よりも効果が効く、立派な薬草達がそこに植えてあった

「俺の持ち合わせの薬草を少しだけ植えておいた
これだけアレば、薬を作っても余るくらいだろ」

「あ、余るくらいって!?
コレ、月雪草よ!? それにコッチのはマンテク草!?
どれも希少過ぎて、市販に出ない薬草じゃないのよ!?」

薬草の中にはとても希少過ぎて、手に入らない薬草もあって、驚いて声を上げてしまう
特に【月雪草】と【マンテク草】は私が作れる最高難易度の薬、エリクサーの材料で、これだけ高品質なのだと、一本あれば、数十は作り出せる程のモノであった

「し、シモン
貴方、一体、どうやってコレをこんなに?」

私はシモンを振り返り、聞けば、シモンは頬を掻くと、スッと人差し指を口元に持って行った

「秘密」

そう言って、笑う彼に私の心に何が刺さった
そしてそれからドキドキが止まらなくなり、ソレを理解するのが少し遅れた

(えっ、待って……
嘘でしょ……、私、まだ子供のシモンに?
待って待って……、そんな……)

頭の中でぐちゃぐちゃになった思考をまとめようとするけど、その思考をまとめていくと、どんどんその気持ちを理解していき、私は頬を押さえた

(あ、あ、あぁーーーー!!!
どうしよう!? 私、初恋……、しちゃった……!!)

「ヒュレム?」

私が困惑し、目がグルグル回るような感覚がし、恥ずかしさでどうにかなりそうになってれば、シモンが心配そうな顔をして、私に近づいてきた

(ま、待って!?
その顔で触られたら!?)

私は一瞬、後ろに下がろうとしたが、シモンに手を握られた

「あ……」

その瞬間、私の中で何かが弾けた……

気が付けば、私はシモンを抱き寄せて、ギュッとしがみついた

「ヒュ、ヒュレム!?
一体どうした!? 腹でも痛いか!?
もしかして足りなくて怒ったか!?」

シモンが何を言ってるのか、もう構わない……
この衝動に身を任せてしまっていい……

「シモン……、ん……」

私はシモンの体に顔をグリグリ押し付け、ただシモンの匂いを嗅いでいた

(シモンの事が……、好き……
もう子供とかいいや、私の初恋……、シモンがいい……)

百を越えて、押さえ付けてた初めての感情……、初恋を自覚した私はシモンが慌ててるのを気にせず、離れる気はなかった

その後、シモンのメイドと妹、魔法の先生という女、三人から睨まれた事は気にしない…………

(いつか私の全てを貰ってもらうぞ?
私に恋を覚えさせたのだ
責任、取ってもらわないとな……)


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