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第一幕

間話・ロジャード・スミス

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最初はギルドを辞めさせられ、行く当てもなく、ダメ元でフェルストリー家の騎士団への採用テストに参加したのが始まりだった

俺は大陸で名を馳せた冒険者クラン【紅鉄の剣】に所属し、チームとして頑張ってきたが、リーダーのヤツと意見のぶつかり合いで、クランを離脱…………
一人でやってきたが貴族の気に入らねえ依頼を断ってたら、辞めさせられた

最終的ランクはSSS級と最上位まで来てたがそれも呆気なく失った
生きる為に金が居るから、嫌いな貴族の騎士団採用テストに参加した
内容は簡単な実践演習とテスト、あとは簡単な面接だけだったが初めてフェルストリー家領主とあった日の事は今でも覚えてる

今まで貴族の事は嫌いだった……
ヤツらは俺達、平民の事を何も考えてないクソ野郎共だ……
そう思ってたが、ガラルド伯爵は面接を始めて直ぐに『好きな酒とかある?』と聞いてきたから思わず爆笑してしまった

そこから酒の話で盛り上がって、結局、夫人が止めてくれなかったら、きっといつの間にか、酒盛りをしていたかも知れない………

それくらいフェルストリー伯爵なら従ってもいいと思った

こうしてフェルストリー家の騎士団に入団したが正直のところ、簡単すぎて欠伸がするほどだ
フェルストリー領は魔物の出現数は低い方で被害は無い
災害も無く、盗賊が出れば捕えると言う簡単な仕事だが、俺は最近、それでもいいと思った

前まではギルドに入れば、依頼、依頼と騒ぎ、仕事をこなしていたがこう言うスローライフも悪くないと思った
そうして過ごす中、フェルストリー伯爵家に子供が産まれた

産まれたのは双子で、シモン坊ちゃんとフローラ嬢ちゃんだ
フローラ嬢ちゃんは女だが、シモン坊ちゃんは男だからいつか、剣を教えたりしたいとは思っていた

だが、9歳の春頃……
シモン坊ちゃんが意識不明の重傷を負った
今でも覚えてる……
駆けつけた時、大量の荷台の荷物にシモン坊ちゃんが下敷きになっていて、救助した時、頭から血を流し、動かなかった……
ガラルド伯爵が必死に呼びかけてる横でフローラ嬢ちゃんがずっと泣きじゃくりながら大声でシモン坊ちゃんを呼び続けている光景は忘れる事が出来ない……

事故を起こした荷馬車を調べたが特に変な場所は無く、誰かが仕組んだ形跡が無いから、事故は行為的ではなく、偶然的なモノだった

それから一週間後に目を覚ましたと聞いて、安心した……
だが、『これではシモン坊ちゃんは剣を触れねえな』とボソッと呟いた
まぁ、剣を触れなくても貴族の仕事は出来る……
それに会った時にシモン坊ちゃんの性格は優しすぎるから剣は合わないだろう

そう思ってたが、目を覚ました次の日にはシモン坊ちゃんがこの訓練所に姿を見せた
今まで訓練所にはガラルド伯爵が一緒に来ていたのだが、今日はあのメルのメイドと一緒だ
しかも木剣を構えれば、素振りを始めた

その素振りを見て、ある違和感が出た
シモン坊ちゃんの剣の太刀筋が出来過ぎている……
まるで既に剣を触り、振ってきた経験があるように見えたからだ

だから俺はシモン坊ちゃんに話しかけ、いつ頃から剣を学んだかを聞こうとした
だが、それは坊ちゃんの言葉で聞けなかった

「俺と勝負してくれ」

そう言った時、俺は正直、坊ちゃんが何で言ってきたかは分からない
単なる気まぐれかもしれない……
だが、勝負と言っても相手は、まだ9歳だ……

正直、負けるはずがねえ……

適当にあしらって、終わりにすれば満足するだろう……
そう思っていた……
坊ちゃんの一撃を受け止めるまでは……

「なっ!?」(何だ!?この威力!?)

坊ちゃんの動きは一瞬だった
俺の懐に潜り込めば、突きを繰り出してきたから剣で防いだ
だが、その威力は9歳の力ではなかった
片手で防いだが、こんなのを何発も喰らっていたら、コッチの手がイカれる

(切先で剣を弾いただと!?)

次に坊ちゃんが体を回転させると剣が弾かれた
坊ちゃんは背中を向いて、気づいてないだろうが俺は完全に右側に隙を作ってしまった
すると坊ちゃんはその回転を利用し、俺の腹目掛けて剣を振ってきた

「ちぃ!?」

全力で坊ちゃんの一撃を防いだがすぐに体を回転させ、また懐に入ってきた
しかもその位置は完全に間に合わねえ位置だった

(やられる!?)

そう思った瞬間、俺は完全に無意識に魔法を使い、坊ちゃんの背中に土柱をぶつけ、吹き飛ばしていた

しかも本気の一撃だ……
普通の子供なら骨が逝っちまう程の威力だろう…

(流石に非はこちらにある……
クビにされても仕方ねえ……)

坊ちゃんに謝罪しながらそう思っていると坊ちゃんは俺を見るとあろう事か笑ってきた

「いや、大丈夫だ……
魔法無しとは言ってないからな
こちらとしてはいい経験が出来た」

笑顔を向けて、俺にそう言ってきた
まるでさっきの一撃は効いてないように見える
その後、坊ちゃんが「また鍛錬に付き合ってもらえると助かる」と言ってくれば、俺は言葉を詰まらせながら返事を返した
その後、メルに肩を貸してもらいながら去ってく坊ちゃんを見送った

見送る中、坊ちゃんが枷が何たらって、呟いてるのが聞こえてきた

「ロジャード!!」

少しして俺は騎士団長室で待ってれば、騎士団団長であるバッカスが慌てて入ってきた

「聞いたぞ!!
シモン様に魔法を当てたと!!
他の騎士たちも慌ててたぞ!?」

バッカスは俺の肩を掴み、慌てた様子をしてた

「あぁ………、だがさっきメルが来て『お咎め無しです』って言ってきたぞ」

「全く………、お前は…………」

椅子に座り、バッカスが汗を拭うと真剣な顔をして俺を見てきた

「んで……、シモン様について進言があると聞いたが何だ?」

「あぁ、シモン坊ちゃんがこの9年間で、何処に行っていたか……、剣を振る機会があったか……
そしてこれは現状……、俺とお前しか知らねえ調査となるが……
シモン坊ちゃんを襲う可能性がある貴族、何でもいい……、調査を進言する」

坊ちゃんはこっそりと剣の鍛錬を積んできたならあの太刀筋にも納得がある
そして坊ちゃんの中にある実力や可能性を注視し、害をなそうとする輩が俺達に気付かれずにシモン坊ちゃんに何らかの呪印の魔法を仕掛けてたなら、坊ちゃんはずっと一人で抱え込んできたと思う

シモン坊ちゃんのあの優しい性格は本心だろうがその下には誰にも負けない精神のようなモノを俺は見た
だから坊ちゃんは人知れずに努力を続けていた

「フェルストリー家を……、シモン坊ちゃんを殺させてたまるか……」

シモン坊ちゃんは絶対に大物になる……
その可能性を潰させてたまるか……

俺とバッカスはこうして密かにフェルストリー家に纏わる全ての関係に調査へと躍り出た



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