黄金の魔族姫

風和ふわ

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最終章 エレナと黄金の女神編

116:攫われる

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「んもぅ! 何も修行の時までついてこなくて大丈夫なのに!」
「そうはいきません。貴女に何かあればエレナ様専属執事として顔が立ちませんから」

 サラマンダーの一件から一か月近く経とうとしているある日、テネブリス禁断の森にて。ここでは日課である治癒魔法の修行にきていたエレナがぷっくりと頬を膨らましていた。というのも、サラマンダーの一件以来、彼女の友人となった悪魔──ベルフェゴールがエレナに対して過保護であるのが原因である。ちなみにノームとサラマンダーも今この森で各々魔法の修行に励んでいる。

、私は貴方と友人になったんであって、従者にしたつもりはないんだけど?」
「おっと、失礼しました。では友人として、貴女の傍に居させてください」
「それなら別にいいけど……」

(少し前までは敵同士だったのに、友人になった途端やけに私を気にかけてくれるんだよなぁ。今までの行いを反省して、名前もベルフェゴールではなくシルバーと呼んでくれだなんてやけに熱っぽくお願いされたのも気になるし。まぁいいけど)

 するとそこで、エレナの影からひょっこりと悪魔サタンが顔を出す。彼はどうやらベルフェゴール、否、シルバーをどうにも気に入らないらしい。

「おい、シルバー。あまりエレナを困らせるな。としてお前の過干渉は見過ごせない」

 エレナの相棒。その言葉にシルバーの眉がピクリと吊り上がった。そんな二人の険悪な雰囲気にエレナはため息を溢す。

「もう! 喧嘩しないの! どうして二人はそんなに仲が悪いの!?」

 喧嘩の原因であるエレナがぷりぷり怒る。これにはサタンとシルバーも慌てて態度を改める必要があると判断し、にらみ合うのをやめて互いにそっぽを向いた。



 ──しかし、その瞬間だ。二人が同時に動き出す。



「……えっ?」

 エレナは、目を見開いた。ひゅっと息が止まる。いつの間にか、自分がシルバーに横抱きされていることに気づいたからだ。ついでに今まで自分が立っていた地面が大きく抉れていることにも。視界が回る。

「な、なにがおこって、」
「おやおや、惜しかったんだけど」
「!?」

 森の茂みから何者かが現れる。見たことがある銀髪に、血のような赤い瞳。原初の悪魔セロ・ディアヴォロス。エレナはヒヤリと背筋が凍った。どうしてセロがここに、と言葉を発しようとしたがそれは叶わない。もう一人、彼の隣に誰かがいることに気づいたからである。こちらもエレナにとって見慣れた人物だった。いや、といってもいいかもしれない。

「ウィン、様……?」

 そう、ウィン・ディーネ・アレクサンダーだ。既に決別したはずのエレナの元婚約者であり、スぺランサ王国次期国王の彼がどうしてここにいるのだろうか。
 ウィンはニタリ、と不気味な笑みを浮かべた。美形の笑みであるはずだというのに、エレナは本能的に気持ちが悪いと眉を顰める。

「エレナ、嗚呼、僕のエレナ! どれだけ君に会いたかったことか!」
「ウィン様!? どうして貴方がここに!? それにどうしてセロと一緒にいるの!?」
「ウィンとは意見が一致してね。良き友人になったんだ」

 セロがクスクス笑う。しかしその背後から、サタンが繋がれた両手の拳を振り落とした。ズドンッと地震に近い轟音が辺りに響く。

「光に近づくな。諸悪の根源!」
「あーもう、鬱陶しい! ボクの友人の邪魔をしないでくれるかな!」
「がっ、」

 セロの風魔法が四方八方から容赦なくサタンを襲う。彼の逞しい両腕が宙を飛んだ。エレナは言葉を失ったが、我に返るなりサタンの下へ駆け寄ろうとする。シルバーがそんなエレナを腕に閉じ込めた。

「今は駄目ですエレナ様! 吾輩から離れてはなりません!」
「でも、サタンさんが!!」
「大丈夫! 彼の腕は治ります! それよりも今は貴女の方が、」
「僕のエレナにっ──気安く触るなっ!!」

 エレナはシルバーからの拘束が解けたと同時に背後から水しぶきを感じる。見るとシルバーが宙に浮いた球状の水に覆われており、脇腹から血が滲んでいた。どうしていいか分からず混乱するエレナにゆっくり歩み寄るのはウィンだ。

「エレナ。こんな手荒な事をしてすまない。だが僕はもう一度、君とやり直したかったんだ」
「な、なにを言っているのですかウィン様! もう私はスぺランサ王国には戻りません! もう貴方とは決別したんです! こんなことやめてください! 私と貴方はもう二度と──」
「やり直せるとも! ずっと僕は思っていた。君の隣にいることが許されていたあの頃に、時が戻ればいいと! そうすればもう一度、いや! 君を大事にする。君自身を、ただのエレナを愛するから……」
「何を言っているの? 時を戻すなんて、そんな……」

 エレナはハッとする。思わず後ずさってしまった。ウィンの目が、。原初の悪魔であるセロと呼応するように赤く蠢く真っ赤な瞳がエレナを離さない。

「ウィン様、まさかっ!」
「おかえりエレナ、これで君は僕のものだ。ノームになんかに渡さない。渡すもんか。もう永遠に君を離さないから……!」

 その時、ウィンがエレナの頬にそっと触れる。その瞬間、エレナの意識が闇に葬られた。ウィンは倒れた彼女を抱きしめる。そしてその額にそっと口づけを落とした。しばらく彼女を愛おしげに見つめた後、そっと地面に横たわらせた。

「──さぁ、行こう。僕達だけの世界へ」

 ウィンはそう呟くなり、エレナの隣に倒れた。と、同時にシルバーを拘束していた水魔法も解除される。セロの姿はいつの間にか消えていた。故にシルバーと、両腕の失ったサタンと、酷く冷たくなったエレナとウィンの身体がその場に残されたのである……。
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