黄金の魔族姫

風和ふわ

文字の大きさ
上 下
105 / 145
第五章 エレナと造られた炎の魔人

92:テネブリスの天使

しおりを挟む
 ──ウィン・ディーネ・アレクサンダー誕生祭 当日。

「エレナのドレス姿が待ち遠しいな、サラマンダー」

 ノームの浮ついた声にサラマンダーは腕を組み、そっぽを向く。しかしどうにもそわそわと落ち着かない彼も実はエレナの晴れ姿を心待ちにしている一人だった。魔王、リリィを始めとした城の男性陣が和気あいあいとエレナのドレスの色を予想し合っている。そして、ついに──

 ──城内と中庭を繋ぐ扉が開いた。

「────、」

 皆がしんと静まり返る。扉の向こうから現れたのは純白のドレスに身を包んだ──使

「…………っ、」

 ノームは目を擦る。そしてもう一度そちらを見ると、そこにいたのは紛れもないエレナだった。いつも一つにまとめられている金髪は解放され、金色のベールのように彼女の上半身を包む。その金色のベールには小さな宝石の屑が散りばめられていた。肝心のドレスはおそらく絹で構成されており、エレナの金髪に合わせたのか黄金の刺繍がとても映える。シンプルなデザインでありながらも、だからこその圧倒的な美しさ。そしてその背中には大きなリボンが存在を主張しているのだが、ノームとサラマンダーにはそれがまさに天使の羽に見えて仕方がなかった。黙る男性陣に対してエレナが不安げに首を傾げる。

「み、みんな? どう、かな……似合ってる、かな」
「綺麗だ!」

 一番にそう言い放ったのは勿論ノーム。ノームの声をきっかけに彼女に見惚れてしまっていた男性陣が次々に興奮まじりの歓声を上げた。中庭の熱が一気に高まる。エレナの頬がピンク色に染まった。彼女の背後にはエレナを飾り付けした女性陣達が満足げに頷いている。エレナが一歩一歩歩く度に絹に浮かんだ光が流れていき、それがまた周囲が目を離せない要因となっていた。エレナはまず魔王の前に立つ。魔王がらしくもなく狼狽えていた。彼を見上げる。

「パパはどう思う? 変じゃない?」
「……言っただろうエレナ。お前が似合わないドレスがこの世にあるわけがない、とな。今回もとても似合っている。綺麗だ。わたしは、こんなに美しい娘と共にあることができて本当に誇らしいよ」

 エレナの顔が照れ臭そうにふにゃりと緩んだ。魔王はその柔らかい頬を撫で、そっとエレナの背中を押した。「行ってこい」、と。その先にはノームがいる。エレナは幸せそうに微笑んだ。白いドレスが風に揺られる。その後ろ姿がなんだか花嫁のように見えて、魔王は何とも言えない気持ちに蝕まれた。ちなみに魔王の隣にいたアムドゥキアスは我慢できずに号泣している。

「ノーム!! お待たせ!」
「あ、あぁ……」

 ノームは未だにエレナの晴れ姿に目が慣れないでいた。いつもは歯の浮くような台詞でエレナを翻弄する彼だが、今回ばかりは翻弄されてしまっている。そしてサラマンダーはというと“気にしていないフリ”をする余裕もないのか、エレナに目が釘付けであった。脳内では「綺麗だ」という言葉が素直に浮かんでいるというのに、彼の口はあくまで意地っ張りであるようだが。

「……ふん、ま、まぁまぁ、だな!」
「む。そこは素直に褒めてくれてもいいんじゃない?」
「あ、兄上が散々褒めちぎるだろうよ、どうせ」
「そうだな。余の恋人がこんなにも美しく、愛いことを早く大陸中に見せつけたいぞ」

 エレナの顔を隠そうとする金髪をノームが遮る。そしてそのまま晒されたエレナの額に口づけた。ちゅっと甘いリップ音が場に響く。周囲の魔族達からの視線の圧が一層増すが、ノームはもはや慣れてしまったようだ。
 ノームとサラマンダーはエレナの期待以上のドレス姿に心を奪われたが、エレナもエレナで見慣れない彼ら二人の正装姿にドキドキしていた。彼らの普段着はシュトラールが比較的気温の高い環境であることから、王族にしてはラフな格好である。しかし今の彼らはきっちりと立派な礼装を着こなしており、ついでにオールバックだ。

「二人もすっごく似合ってる! カッコいいよ!」
「!!」

 エレナの言葉にノームとサラマンダーの顔が同時に熱くなった。
 ──と、そうしている内に時間はどんどん過ぎていく。三人はリリスに急かされ、慌ててスぺランサへ向かうのであった……。



***



 エレナがパーティ会場であるスぺランサ城の中庭に降り立つと、それはもう周りの視線を集めた。ヒソヒソと聞こえてくる内緒話がどこか怖い。少し前まではエレナにとってこの国は敵地アウェーであったのだからエレナが恐れるのも無理はなかった。ノームがそんな彼女をしっかりエスコートする。サラマンダーもノームの反対側の彼女の隣をさりげなく陣取った。そして──

「──よ、よく来てくれたね、エレナ。君の恩情に感謝するよ」

 中庭で待機していたのだろうか、頬を桃色に染めたウィンがさっそく近づいてくる。エレナはそんな彼を見上げたが、彼の熱い視線に耐え切れずに顔を背けた。

「こんばんはウィン殿下。貴方の誕生に祝福申し上げます」
「しゅ、祝福申し上げます……ウィン殿下」

 エレナが口を迷わせていることに気づいたノームがすかさず挨拶をしてくれたので、エレナはそれに釣られて声を出すことができた。ウィンが照れたように唇で弧を描く。

「三人とも、この場に来てくれたことを心から感謝する。今夜はぜひ思う存分楽しんでくれると嬉しいよ」

 口ではそんな軽い挨拶が流れては来るが、その瞳はやはりエレナから離れないままで──エレナは少しの不安をごまかす様に、ぎゅっと拳を握り締めた……。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...