黄金の魔族姫

風和ふわ

文字の大きさ
上 下
104 / 145
第五章 エレナと造られた炎の魔人

91:スぺランサへの招待状

しおりを挟む
 ヴォルゴビエールでの任務を無事に終えたエレナはレガンの背に乗ってテネブリスまで送り届けられることになった。村人達がエレナと三勇者達を中心に円を描いている。もうすぐ大好きな父親、世界一可愛い弟に会えると思うとエレナは胸が弾んだ。

「ではな村長、また何かあればすぐに報告してくれ」
「ははぁ、この度は本当にありがとうございましたノーム殿下。そしてエレナ様、サラマンダー殿下、ウィン殿下も……」

 サラマンダーとウィンは村長の大袈裟なお辞儀に軽く頷くのみ。エレナはぎこちない笑みを返した。
 ──するとエレナはふとどこからか視線を感じる。何やら嫌な予感がした。恐る恐るそちらを見てみると、なんとウィンがエレナの方に熱い視線を向けているではないか。バチッと視線が重なる。これはどうあっても無視できない。エレナはひゅっと息が止まった。それだけではない。ウィンはエレナと目を合わせるだけではなく、なんとグリフォンから降り、エレナに接近してきた。エレナと婚約破棄してから今までろくに彼女に接してこなかったウィンがついに動いたのである。ノームがそれに気づき、すぐに警戒態勢をとる。エレナは突然の彼の行動に石になった。

「エレナ、ずっと君に渡したかったものがあるんだが」
「えっ……」
「これを、君に」

 真っ白な封筒に、久しく見ていなかったスぺランサ王国の紋章が挿されている。エレナがウィンからそれを若干震える手で受け取ろうとするが、ノームが直前でそれを奪った。彼はウィンににっこり微笑む。

「エレナに招待状のようだが──まさかエレナ一人をスぺランサに招待するわけではありませんよね、ウィン殿下」
「……。えぇ、勿論。ノーム殿下、サラマンダー殿下の招待状もここに。近々僕の誕生祭があるのでね。ぜひ同志である君達にも参加していただきたい。エレナ……、」
「っ、」
「──頼む。こんなことを言える立場ではないことは重々承知しているが、君に、僕の特別な日を祝ってほしいんだ」

 ウィンの切なげな声にエレナはさらに石になった。ノームが後ろからエレナを引き寄せたことで我に返る。そしてノームはエレナがウィンに何か返事をする前にレガンを飛び立たせた。明らかにエレナとウィンを遠ざけようとするノームの行動にエレナは非難の声を上げる。すると彼はぐったりとエレナの肩に額を乗せた。

「……まさか、行かないよな」

 レガンの飛行が安定すると、ノームがポツリとそう尋ねてきた。エレナは少しだけ考えた後、「行くよ」とはっきり言う。ノームが後ろで戸惑っているのが息遣いで分かった。

「同盟国として行かない方が不自然だもん。今後のテネブリスの国交の為にも参加しないと」
「そ、それはそうかもしれないが……ウィン殿下は明らかにお前を意識しているだろう! それにお前は彼に婚約破棄された上、処刑されそうになったんだぞ!? 嫌に決まっているだろう」
「……、」

 沈黙が続く。するとノームは自分を責めるようにため息を吐いた。

「すまない。今のは余が悪かった。お前のせいにしてしまっていた。余が嫌なんだエレナ。お前をなるべくウィン殿下に近づけさせたくない。彼はお前に執着しているような素振りを見せている。お前だって薄々気づいているんじゃないのか? ……頼むエレナ、行くな」

 ノームの腕がさらに強くエレナの腰に回される。エレナは片手でその腕に触れた。

「でもノーム、私はあの処刑のことをズルズル引きずるのも嫌なんだ。もうウィン様に対して恋愛感情も何も未練たらしいことはないからこそ、行かなきゃ。それにノームとサラマンダーも一緒に行ってくれるんでしょ? 私にとって二人以上の強い味方はいないよ」
「……そうか。わかった! 余も腹を据える! この際だ、ウィン殿下の前で余らの仲を見せつけてやらねばな! サラマンダーと二人でしっかりエレナを守る!」
「ありがとう、ノーム」

 自分の意思を尊重してくれる優しい恋人にエレナは心からの感謝を伝える。



***

 

 ──テネブリス城 中庭にて。

「──エレナだ!! エレナが帰ってきた!」

 上空から中庭で小さな桃色がピョンピョンと飛び跳ねているのが見えた。エレナは思わず頬を緩める。その正体は勿論、エレナの弟のリリィである。エレナがノームに支えられてレガンから降りると、リリィが思いきりエレナに抱き着いてきた!

「エレナ! おかえりなさい!!」
「わっ。ふふ、ただいまリリィ」

 リリィはエレナを全力で抱きしめる。そしてそんな絡み合う二人をさらに抱きしめる巨大な影があった。……魔王だ。

「おかえり、エレナ」
「パパ! ただいま!」

 エレナの華やかな笑顔が咲き乱れる。するとゾロゾロと魔族達がエレナを取り囲んでいった。テネブリス城専属コック長のアドラメルクが「お嬢! 無事でよかった! おいおめぇら! お嬢のご帰還だぁ! 今夜はごちそうだぞ!!」と声をあげると厳つい顔つきのドワーフ達が一斉に拳を突き上げる。ノームは少しだけその疎外感に寂しくなったが、エレナが嬉しそうに笑っている姿は好きだったのでただ見守っていた。──が、リリィと目が合う。リリィはノームを認識するなり(今の今までエレナしか見えていなかったようだ)、可愛らしいその表情を崩して睨みつける。まぁ要はリリィの中で「大好きなエレナを取られたくない!」という弟心がむくむくと育っているということだ。ノームは苦笑した。

 ……と、ここでエレナは傍にいたアムドゥキアスにウィンからもらった招待状を手渡す。そしてウィンの誕生祭に招待されたことを皆に話した。それを聞いて色めきだしたのは女性陣だ。再びエレナを飾り付けできる機会が訪れ、やる気に満ちている。一方で男性陣はエレナをスぺランサに行かせることへの不安を述べていた。エレナのパーティ参加を巡るテネブリス城男女大戦争が再び勃発するかと思われたが、エレナの意思を尊重し、結局は女性陣が勝利を収めたのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。 でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。 果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか? ハッピーエンド目指して頑張ります。 小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。

処理中です...