黄金の魔族姫

風和ふわ

文字の大きさ
上 下
90 / 145
【没】第五章 エレナと不屈の魔導士たち

90:シュトラールへの招集

しおりを挟む
※この【エレナと不屈の魔導士たち】は没案として公開したままにすることにしました。
つまりは九十話からまた書き直すということです。
このお話は番外編などでまたリベンジするかもしれないし、しないかもしれません。
ひとまず削除も勿体ないので公開だけ。ややこしくなってしまい、申し訳ございません。



 ──リリィがエレナの弟になって、半年の月日が流れた。
 その間に四季によって色が変わる花、シーズンフラワーが白く色づく季節──つまりは冬がやってきたのだ。冬の白化粧を纏ったテネブリス城はもうすぐ第二回目の建国記念日テネバ―サリーが開催されることも相まって、皆が慌ただしく働いていた。そんな中、テネブリス城の中庭に一頭のグリフォンが着地する。

「エレナ!」

 グリフォンから降りるなり、自分を待っていた愛しい恋人を抱きしめるノーム。最近のノームは男性魔族達の殺意視線ビームに耐性がついてきたらしく、こうして人前でもスキンシップが激しくなった。中庭でそんなノームを待っていたエレナは慌ててノームの腕から離れる。魔王が目の前で二人のやりとりを見ていたからだ。恋人とのやり取りなどあまり親に見られたくないものだろう。それに魔王はノームと自分の恋人らしい光景を見ると機嫌が悪くなるという厄介な体質を持っているので、後のアムドゥキアスの負担を減らす為のエレナの気遣いでもあった。

「……エレナ、行っちゃうの?」

 そんな甘え声と共に、エレナのドレスがぐいっと引っ張られる。見ればエレナの弟のリリィがうるうると大きな瞳でこちらを見上げているではないか。その天使のような愛らしさに悶えない者などこの世界にいない。エレナは我慢できずにリリィを抱きしめる。

「ごめんね、リリィ! 私、シュトラールにテネブリス代表として招集されたから行かなきゃならないの。すぐ戻れるようにするからね。それまでベルゼブブさんと遊んでいてね」
「本当!? 約束だよ! 絶対早く帰ってきてね? 絶対だよ! ……絶対、ね?」

 ──この時、リリィの視線はノームに向けられていた。それには明らかに敵意が含まれている。要するに、今のリリィの言葉は「余計なことは考えずに用事が終わったらエレナをさっさとテネブリスに返せよ?」とノームへの牽制であるという事だ。この半年間で「大好きなエレナを取られたくない!」というリリィの弟心も随分と成長したものだな、とノームはため息を溢す。

「ではエレナ、行こうか」
「うん。じゃあ皆、行ってきます!」
「気を付けるのだぞ。何かあればすぐにわたしの魔法陣に念じなさい」
「うん、分かってるよパパ!」

 魔王のいつもの見送り文句を軽く受け止めて、エレナはノームと共にテネブリスを飛び立った。
 ノームの相棒のレガンによる空の旅は楽しいものだが、冬の間は身体に当たる風がとてつもなく冷たい。エレナはアムドゥキアスに被せてもらった黒いローブで必死にそれに耐える。

(しまった、あと一枚上着を着てくるんだった! シュトラールは気温が暖かい国だから油断してた。道中のことまで考えてなかったよ……)

 ふるふる震えるエレナの身体。ノームがそれに気づいて自分のローブを一枚、彼女に渡した。

「エレナ、これを着ろ。少しはマシになる」
「え、でも……」
「余のことは気にするな。男だからな。それに勇者の加護もある。このくらいの寒さならば問題ない。……恋人だろう? それくらい格好つけさせてくれないか」
「……ありがとう」

 エレナは大人しくノームのローブを被る。ローブからほんのりと彼の温もりと残り香を感じた。ノームの優しさで胸が満たされたエレナは頬をこれでもかというほど緩ませながら、後ろから彼をさらに強く抱きしめる。冷たい風が気にならなくなるほど、エレナの身体が温まった。
 ……エレナとノームが心を通わせてもうすぐ九ヶ月だが、二人はこのように順調に愛を育んでいる。

 シュトラール城の裏庭にレガンが到着した。エレナはノームに支えられて、レガンから降りる。裏庭にはノームの側近のイゾウと、サラマンダーが待っていてくれていた。

「イゾウさん! お久しぶりです」
「お久しぶりですエレナ様。お元気そうで何よりでございます」

 普段はクールなイゾウの表情がにっこり綻ぶ。以前エレナとイゾウは悪魔に捕らえられるという同じ窮地を経験した。それによってエレナの前では基本無表情なイゾウも笑みを浮かべることが多くなっていた。
 次にエレナの視線がサラマンダーに移る。エレナと目が合うなり、彼はすぐに目を逸らした。

「サラマンダーも、わざわざ待っていてくれてありがとね」
「っ、別に。お、お前の間抜け面をいち早く拝んでやろうかと思っただけだっ!」
「サラマンダー殿下はエレナ様を心配していらっしゃったのですよ。今日は勇者三人とエレナ様が我が国に招集された日。つまりそれはエレナ様が元婚約者であるウィン様と対面す──、」
「おい! 余計なことを言うな!」

 イゾウの言葉が終わる前に彼を慌てて止めるサラマンダー。エレナは隠しきれない彼の優しさに思わずにっこり微笑む。
 
 ──そう、今日は「対セロ・ディアヴォロス同盟」の要である勇者三人とテネブリス代表としてエレナがシュトラール城に招集された。どうやらセロについての新しい情報を共有する為の話し合いがあるらしい。ちなみに例の婚約式では一応気を失った彼にエレナは治癒魔法を施しているのだが──その時は状況だけに会話という会話はしていなかった。故にエレナは過去彼女を処刑しようとしたウィンと今日初めてまともに対面することになるのだ。

「心配してくれてありがとねサラマンダー。でも私は大丈夫。もう処刑されそうになった記憶なんてあんまり覚えてないんだ。その後にもっと凄いことがたくさん起こったからね」
「……そうかよ。ならいい」

 そんな二人のやり取りを見て、ノームは誰にも気づかれないように眉を顰める。例の婚約式でウィンに言われたことを思い出したのだ。

 ──『貴方がレイナの方に目を向けてくれてよかった。これで気兼ねなく僕はエレナを取り戻すことが出来るわけだ』

 ノームはさりげなくエレナの手を握った。エレナはキョトンと首を傾げる。今日、あんなことを呟いたウィンがエレナに干渉してこないわけがないとノームはどこか確信していた。もしその時が来たら、絶対に渡すものか。そんな決意を込めて、エレナの手を引く。

 一行はついに招集場所である城の談話室にたどり着いた。そしてそこには今回皆を招集した枢機卿と、見知らぬ男とウィンが既に彼らを待っていたのだ。部屋に入った途端、ウィンの視線が繋がれたノームとエレナの手に突き刺さる。その後枢機卿がエレナににこやかに話しかけている間、ウィンとノームの鋭い視線がぶつかり合っていたのだった……。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

なりすまされた令嬢 〜健気に働く王室の寵姫〜

瀬乃アンナ
恋愛
国内随一の名門に生まれたセシル。しかし姉は選ばれし子に与えられる瞳を手に入れるために、赤ん坊のセシルを生贄として捨て、成り代わってしまう。順風満帆に人望を手に入れる姉とは別の場所で、奇しくも助けられたセシルは妖精も悪魔をも魅了する不思議な能力に助けられながら、平民として美しく成長する。 ひょんな事件をきっかけに皇族と接することになり、森と動物と育った世間知らずセシルは皇太子から名門貴族まで、素直関わる度に人の興味を惹いては何かと構われ始める。 何に対しても興味を持たなかった皇太子に慌てる周りと、無垢なセシルのお話 小説家になろう様でも掲載しております。 (更新は深夜か土日が多くなるかとおもいます!)

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

温泉聖女はスローライフを目指したい

皿うどん
恋愛
アラサーの咲希は、仕事帰りに酔っ払いに背中を押されて死にかけたことをきっかけに異世界へ召喚された。 一緒に召喚された三人は癒やしなど貴重なスキルを授かったが、咲希のスキルは「温泉」で、湯に浸かる習慣がないこの国では理解されなかった。 「温泉って最高のスキルじゃない!?」とうきうきだった咲希だが、「ハズレ聖女」「ハズレスキル」と陰口をたたかれて冷遇され、城を出ることを決意する。 王に見張りとして付けられたイケメンと共に、城を出ることを許された咲希。 咲希のスキルがちょっぴりチートなことは誰も知らないまま、聖女への道を駆け上がる咲希は銭湯を経営して温泉に浸かり放題のスローライフを目指すのだった。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...