黄金の魔族姫

風和ふわ

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第四章 エレナと桃色の聖遺物

78:魔王の婚活大作戦【前編】

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「妻を、娶ろうかと思う」
「はい?」

 ──魔王のその一言は、その場にいた従者達を石にする効果があった。
 全員が口をポカンと開けて、魔王の言葉を理解できない。一番最初に我に返ったのはテネブリス国王右補佐官アムドゥキアスだ。

「──はっ!! いけない、わたくしとしたことが! へ、陛下。一応お聞きしますが──いや本当は聞きなおしたくないのですが──今、なんと?」
「妻を娶ろうかと思う」

 ガーンッ! という効果音がどこからか聞こえてきそうな表情を浮かべるアムドゥキアス。そしてそのまま彼は大理石の床に倒れた。ゴブリン達が気絶した彼の身体を棒でつんつん突く。アスモデウスがそんな双子の兄に呆れつつ前に出た。

「陛下、一つよろしいでしょうか。陛下が王妃を迎え入れるというならばそれなりの準備が必要です。選ばれた相手によってこの国の運命も大きく関わってきます。しかしつい先日、原初の悪魔セロ・ディアヴォロスが出現し、今テネブリスは人間の国々との貿易かつ都市開発で慌ただしい日々を送っております。王妃を娶られるのはもう少し先でよろしいのではないでしょうか」
「──駄目だ。今、わたしは妻を娶りたい」

 これにはアスモデウスも驚く。魔王がここまで頑なに自分の願望を押し通そうとすることは珍しいからだ。彼のことだ、何か深い理由があるのだろう。アスモデウスはそれを尋ねた。魔王の顔に、影が差す。

 魔王が言うにはこうだ。今回の彼の爆弾発言の原因は(予想通りのことだが)エレナとリリィにある。先日、禁断の大森林から帰ってきた彼女らは──

 ──『エレナエレナ、“ママ”ってどんな存在なの?』
 ──『! ……あぁ、今日一緒に遊んだオリアス達がママの話をしていたから気になったのね。ごめんねリリィ、私もママがいたことないから分からないの』
 ──『ふぅん。ママってね、あったかくて優しくて、一緒にいたらふわふわぁ~ってなるんだって! アイムが言ってた!』
 ──『そう。それはとても素敵ね。ママかぁ。……ほんの少しだけオリアス達が羨ましいなぁ、なんてね』

 ──という会話をしていたようだ。魔王は偶然それを耳にし、一刻も早くエレナとリリィの為に“ママ”を──つまりは魔王の妻を見つけなければと思い至ったらしい。アスモデウスが苦虫を噛み潰したような顔をする。エレナが絡んでくると城の魔族達がとことんということを知っているからだ。案の定、魔王の話を聞きつけた魔族達が玉座の間に集まりだし、「エレナ様とリリィ様の“ママ”に相応しい女性を見つけるぞ! えい、えい、おー!」と一致団結しているではないか。魔王も雰囲気に釣られて一緒に拳を挙げている。アスモデウスはそれをどうにか止めようとするが、彼らの勢いはもう止まりそうにない。

 ……と、ここでアスモデウスの肩を叩く者がいた。それはリリスだ。比較的常識人である彼女の登場にアスモデウスはほっとしたが、

「──ねぇ。陛下の王妃候補ってサキュバスもありだと思う?」
「…………、」

 ──あっ、もうこれ駄目だわ。

 アスモデウスは絶賛婚活中のサキュバスであるリリスに氷のような視線で返事をしながら、心の中でそう呟いた。



***



 その後、魔族達はエレナとリリィに内密に魔王の妻探しのため、動き始める。
 まず手っ取り早くそれを探す方法として「ラミアの占い大作戦」を提案したのはアスモデウスだ。内容はその名の通り、魔王に相応しい女性をラミア族の占い術によって見つけてもらおうというもの。魔王もそれに賛同してさっそくラミアの占い館へ向かった。……しかし。

「──エレナ様とリリィ様ですね」
「え?」
「占い術とはこのラミアの魔力を籠めた水晶に占った相手の運命を映し出すものです。通常ならば未来は複数あるので複数人の相手が浮かび上がるのですが、陛下の運命のお相手はどんな角度から占ってもエレナ様とリリィ様しか出てこないのです。余程溺愛されていらっしゃるのねぇ……」
「なんと……!」

 魔王はやけに声を弾ませる。余程嬉しかったのかその背中からはハート型の影がぽこぽこ浮かび上がってきた。アムドゥキアスとアスモデウスは顔を見合わせると、「駄目だこりゃ」と次の作戦へ移行することにする……。
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