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第三章 魔族姫と白髪の聖女編
70:初めての口づけ
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「その、だな。余は、余は……え、エレナが、その、」
なかなか言葉を吐き出せずにいるノームを前に、エレナはふとベッドの脇に置いてある髪飾りが赤に染まっていることに気づいた。それを指摘するとノームがハッとする。そして彼はエレナの眼前へその髪飾りを持ってきた。
「エレナ、これ……余がお前に贈ったものだな?」
「うん、そうだね」
「お前には言ってなかったんだがこれは傍にいる人間の感情によって色を変える。今は赤色だろう? その、それはつまり、こっこれは、余の──お、お前への気持ちを表しているんだ」
エレナは髪飾りの赤にパチパチ瞬きを繰り返す。そうして眉を下げた。
「えっと、つまりノームは私に怒ってるってこと?」
「!? ち、違う馬鹿! あーもう!! 察しろ鈍感! アホ! おたんこなす! これはそのっ! 余がお前をっ、──あ、あ……愛していると言っているんだ!!!」
「!!!」
愛している。その言葉の意味は流石にエレナでも理解できた。ぽぽぽ、とエレナは頬を染める。ノームも釣られてさらに顔を赤らめたがもう後には引けない。エレナの手を握りしめ、その瞳に懇願する。
「エレナ。この戦いが終わって互いに結婚する年齢に達したら、余の妃になってくれないか。余はお前しかいらない。余の隣にお前以外がいるのは考えられないんだ。必ずっ、お前を幸せにする。だから、」
「いいよ」
あっさり。そう、驚くほどあっさりエレナは頷いた。
ノームはそんなエレナにあんぐりと口を開ける。
「えっ、は? ……?? ……、……っ!? はぁ!? ほ、本当かっ!? 本当に意味を分かっているのか!?」
「ちょっと、馬鹿にしないでよ。これでも一応婚約者もいたんだしちゃんと分かってるってば。……まぁ、ノームへの気持ちに気づいたのはつい先日だけど」
「余への、気持ち?」
「……好きだよ」
エレナはぷいっとノームから顔を逸らし、デビルトマトのように真っ赤になった顔を見せまいとした。そうして若干震えているものの彼女は告げる。
「私もノームが好きだよ。大好きだよ。落ちこぼれなんて言われ続けても、優しい心のままであり続けた貴方が。自分よりも他人を思いやれる貴方が。『私と一緒にいる未来を諦めたくない』と言ってくれた貴方が。そして何より──、今そうして私の告白に号泣してる貴方がね!」
「──っ、~~っ!! え、えれなぁ……!!」
せっかくエレナが気の利いた告白をしようと思考を巡らせていたというのに、そんな涙でぐちゃぐちゃの間抜け面を見せられてしまえば思考も放棄してしまう。エレナは噴き出した。ノームがぐすぐすとエレナの首元に顔を埋める。エレナは痛みを我慢しながらなんとか腕を動かし、そんな彼の頭を撫でた。
「まったく、肝心なところで格好がつかないんだから。普通ここって私が泣くべきじゃない?」
「うぅ、ずまん……。つい感極まってしまって。……ふふ、余は本当に幸せ者だな。この世の誰よりも愛しいお前と、この先もずっと一緒にいることを許されたのだから」
そう子供のように微笑むノームにエレナの心臓は落ち着くことを知らない。
……と、ここでエレナはやけにノームが熱っぽい視線を送ってきていることに気づく。両頬を彼の固い手によって包まれた。彼がベッドに片手を置くと、ぎしっと音が鳴る。動けないエレナにノームの半身が覆いかぶさってきたのだ。
吐息まじりの「いいか?」という問いにエレナは無意識のうちに頷いてしまう。
そして──
「…………、」
「…………んっ」
互いの唇が、恐る恐る触れ合った。最初はたったの一瞬。一度顔を離して目が合う。そこからどうしようかとエレナが悩んでいると再度ノームが目を閉じたのでそれに合わせた。エレナ自身、今の一瞬では物足りないと感じていたのだ。もう一度唇が重なる。今度は二秒ほど。その次は五秒、その次は──唇が重なる度に触れ合う時間が次第に長くなっていった。
互いの熱い吐息が混じり合い、息苦しさを感じる。しかしその息苦しさがどこか心地よく思ってしまうほどに二人は互いに溺れていくのだった……。
この先、勇者であるノームは勿論のこと、魔族テネブリスの一員としてエレナも対セロ・ディアヴォロスとの戦いに身を投じることになるだろう。命の危機だって、いくつも訪れるはずだ。
だが、目の前の恋人や家族、故郷を失うことに比べたら何も怖くない。こちらに牙を剥くというのならば必ず悪魔は倒す。
二人は口づけを交わしながら、全く同じ決意を胸に秘めていた。
人間と魔族。そして悪魔。この日をきっかけに世界は動いていく。三者が織りなす渦に二人がどのように巻き込まれ、立ち向かっていくのか──それは神ですら予測できないのかもしれない。
なかなか言葉を吐き出せずにいるノームを前に、エレナはふとベッドの脇に置いてある髪飾りが赤に染まっていることに気づいた。それを指摘するとノームがハッとする。そして彼はエレナの眼前へその髪飾りを持ってきた。
「エレナ、これ……余がお前に贈ったものだな?」
「うん、そうだね」
「お前には言ってなかったんだがこれは傍にいる人間の感情によって色を変える。今は赤色だろう? その、それはつまり、こっこれは、余の──お、お前への気持ちを表しているんだ」
エレナは髪飾りの赤にパチパチ瞬きを繰り返す。そうして眉を下げた。
「えっと、つまりノームは私に怒ってるってこと?」
「!? ち、違う馬鹿! あーもう!! 察しろ鈍感! アホ! おたんこなす! これはそのっ! 余がお前をっ、──あ、あ……愛していると言っているんだ!!!」
「!!!」
愛している。その言葉の意味は流石にエレナでも理解できた。ぽぽぽ、とエレナは頬を染める。ノームも釣られてさらに顔を赤らめたがもう後には引けない。エレナの手を握りしめ、その瞳に懇願する。
「エレナ。この戦いが終わって互いに結婚する年齢に達したら、余の妃になってくれないか。余はお前しかいらない。余の隣にお前以外がいるのは考えられないんだ。必ずっ、お前を幸せにする。だから、」
「いいよ」
あっさり。そう、驚くほどあっさりエレナは頷いた。
ノームはそんなエレナにあんぐりと口を開ける。
「えっ、は? ……?? ……、……っ!? はぁ!? ほ、本当かっ!? 本当に意味を分かっているのか!?」
「ちょっと、馬鹿にしないでよ。これでも一応婚約者もいたんだしちゃんと分かってるってば。……まぁ、ノームへの気持ちに気づいたのはつい先日だけど」
「余への、気持ち?」
「……好きだよ」
エレナはぷいっとノームから顔を逸らし、デビルトマトのように真っ赤になった顔を見せまいとした。そうして若干震えているものの彼女は告げる。
「私もノームが好きだよ。大好きだよ。落ちこぼれなんて言われ続けても、優しい心のままであり続けた貴方が。自分よりも他人を思いやれる貴方が。『私と一緒にいる未来を諦めたくない』と言ってくれた貴方が。そして何より──、今そうして私の告白に号泣してる貴方がね!」
「──っ、~~っ!! え、えれなぁ……!!」
せっかくエレナが気の利いた告白をしようと思考を巡らせていたというのに、そんな涙でぐちゃぐちゃの間抜け面を見せられてしまえば思考も放棄してしまう。エレナは噴き出した。ノームがぐすぐすとエレナの首元に顔を埋める。エレナは痛みを我慢しながらなんとか腕を動かし、そんな彼の頭を撫でた。
「まったく、肝心なところで格好がつかないんだから。普通ここって私が泣くべきじゃない?」
「うぅ、ずまん……。つい感極まってしまって。……ふふ、余は本当に幸せ者だな。この世の誰よりも愛しいお前と、この先もずっと一緒にいることを許されたのだから」
そう子供のように微笑むノームにエレナの心臓は落ち着くことを知らない。
……と、ここでエレナはやけにノームが熱っぽい視線を送ってきていることに気づく。両頬を彼の固い手によって包まれた。彼がベッドに片手を置くと、ぎしっと音が鳴る。動けないエレナにノームの半身が覆いかぶさってきたのだ。
吐息まじりの「いいか?」という問いにエレナは無意識のうちに頷いてしまう。
そして──
「…………、」
「…………んっ」
互いの唇が、恐る恐る触れ合った。最初はたったの一瞬。一度顔を離して目が合う。そこからどうしようかとエレナが悩んでいると再度ノームが目を閉じたのでそれに合わせた。エレナ自身、今の一瞬では物足りないと感じていたのだ。もう一度唇が重なる。今度は二秒ほど。その次は五秒、その次は──唇が重なる度に触れ合う時間が次第に長くなっていった。
互いの熱い吐息が混じり合い、息苦しさを感じる。しかしその息苦しさがどこか心地よく思ってしまうほどに二人は互いに溺れていくのだった……。
この先、勇者であるノームは勿論のこと、魔族テネブリスの一員としてエレナも対セロ・ディアヴォロスとの戦いに身を投じることになるだろう。命の危機だって、いくつも訪れるはずだ。
だが、目の前の恋人や家族、故郷を失うことに比べたら何も怖くない。こちらに牙を剥くというのならば必ず悪魔は倒す。
二人は口づけを交わしながら、全く同じ決意を胸に秘めていた。
人間と魔族。そして悪魔。この日をきっかけに世界は動いていく。三者が織りなす渦に二人がどのように巻き込まれ、立ち向かっていくのか──それは神ですら予測できないのかもしれない。
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