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第三章 魔族姫と白髪の聖女編
62:最後の希望
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「歯を食いしばれよ、悪魔ども──!! ──咲け!!」
ノームの言葉と共に、樹人が動き出す。両側面に伸びた腕の部分がぐんぐんと伸び、レイナと他の悪魔二人を素早く拘束した。その間にノームはバルコニーから樹人の頭部に飛び乗り、そこでポカンと口を開けている枢機卿と目があった。
「猊下、無事でよかった。樹人の種は常日頃から持っていろと叩き込んでくれたドリアード殿には感謝せねばな。おかげで貴方を救えました」
「な、ななな、の、ノーム殿下!? あ、貴方は一体──!!」
そんな枢機卿にノームはにっこりする。今の彼は胸を張ってこう言えるのだ。
「猊下、今まで黙っていて申し訳ございません。実は余は──大天使ミカエル様に選ばれた土の勇者なのです」
「な、なんですと!? 貴方が、今まで空席だった最後の!?」
ノームは樹人の手に飛び降りると、今度はこちらを不安げに見上げる民衆に視線を移した。息を大きく吸う。今の彼らを奮い立たせることが出来ずに、何が王太子だ。ノームは心の中でそう呟いて、自分の出せる最大音量の声を張り上げた。
「──皆、諦めるなっ! まだここに、希望がある!! 俯くな! この理不尽に対して、怒れ!! シュトラールも、スペランサも関係ない! 今、我々人間は、侮辱されているのだ!! 自分達の未来を、大切な人を、守れ!! この土の勇者であるノーム・ブルー・バレンティアも、君達と共に悪魔へ抗ってみせよう!!」
ノームの言葉に、民衆は互いに顔を見合わせる。そしてだんだんとその顔色が変わった。人間とは何もない暗闇ではどんな存在よりも弱者に落ちる。しかし逆にたった一筋の光さえ見つけてしまえば、諦めない限りどこまででも強くなれる生物だと、ノームは知っていた。
──「おい! 女子供を守れ!! 戦えるヤツは前に出ろ!! 戦ってくれている衛兵をサポートするんだ!! これ以上下がるわけにいくか!」
──「こっちに怪我人がいるぞ! 誰か一緒に運んでくれ!!」
──「そうだ、よく考えたらどうして俺達が殺されなきゃいけないんだっっ!! ふざけるなぁっっ!!」
次々に民衆からそんな声が上がり始めた。もう誰一人、彼らの中で絶望に恐怖し涙するだけの者はいない。皆が自分達の命を侮辱した悪魔へ怒り、声を上げ、自分の出来ることに尽くそうとしたのだ。
すると樹人は拘束したレイナと男の悪魔二人を魔族達の方へ投げつけた。凄い勢いで悪魔達は吹っ飛んでいき、そのままトロールの固い腹に衝突する。そしてノームはとりあえず枢機卿を宮殿のバルコニーへ戻すと、そのまま民衆を踏まないように樹人を魔族達と交わり合う最前線へ移動させた。自分の頭上を進んでいく巨大樹人に民衆は歓声を上げる。ノームは目の前に来た樹人に戸惑う魔族達を見渡し──一番攻撃力の高いトロール達が動き出す前に樹人の種をまき散らせた。
「──咲け!」
複数の種へノームの魔力回路の最大出力が放出される。ノームは全身に激痛が走ったが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。ノームの魔力を急速に注ぎ込まれた種は爆発するように成長していき、魔族達に絡みつく。
……ここで、どうしてノームが巨大樹人を使って魔族達を一網打尽にしなかったのか、という疑問が浮かび上がるが答えは簡単だ。ノームは今目の前で並んでいる魔族達がテネブリスの者達であり、先程の自分のようにレイナに操られている可能性を考慮したのだ。ノームはどうしても彼らを傷つけるわけにはいかなかった。何故なら彼らは、テネブリスの魔族達は、自分の想い人であるエレナの大切な家族なのだから!
──するとその時、ノームの視界に影が過った。咄嗟に剣を構えると、先程飛ばした獣耳の悪魔にその刃に牙を突き立てられる。彼は己の牙を阻止されるとすぐに後方へ飛んだ。
「ぺっ! 鉄は不味いじゃんよ! 早くその美味そうな褐色肌を噛み千切ってやるじゃん死ね!!」
「出来るものならやってみろ! 悪魔なんかに余は負け──、う、……?」
ノームは言葉の途中で、己の肩に重みを感じる。するとそこには男の手。その手を辿っていけば、手の主はもう一人のオッドアイの悪魔であることに気づいた。まずい。ノームはそう直感すると、素早く剣を振ったが──刃が悪魔の皮膚に触れる前に、悪魔は二ィッと不気味に口角を上げる。
「今、触れさせていただきました。であるならば貴方様も怠惰でございます──」
「っ、なにを!」
空振った剣にノームは舌打ちをした。オッドアイの悪魔はすばやく木の枝を足場に踏み込むと身体を空で回転させ、その場から離れる。ノームは二人の悪魔に囲まれた。しかしここで、ノームは己の鼓動の異常に気付く。脳が他者によって強引にかき乱されていくような感覚。これはレイナの能力によって操られていた時にも感じたものだ。つまり、オッドアイの悪魔も精神干渉の能力者だということだろう。頭痛に顔を歪めれば、急に身体が動かなくなる。そして──
「え、れ、な……?」
ハッとする。ノームの目の前にいつの間にか血だらけのエレナが横たわっていた。腸を曝け出され、ピクリとも動かない白い彼女の無残な姿にノームは目を剥いた……。
ノームの言葉と共に、樹人が動き出す。両側面に伸びた腕の部分がぐんぐんと伸び、レイナと他の悪魔二人を素早く拘束した。その間にノームはバルコニーから樹人の頭部に飛び乗り、そこでポカンと口を開けている枢機卿と目があった。
「猊下、無事でよかった。樹人の種は常日頃から持っていろと叩き込んでくれたドリアード殿には感謝せねばな。おかげで貴方を救えました」
「な、ななな、の、ノーム殿下!? あ、貴方は一体──!!」
そんな枢機卿にノームはにっこりする。今の彼は胸を張ってこう言えるのだ。
「猊下、今まで黙っていて申し訳ございません。実は余は──大天使ミカエル様に選ばれた土の勇者なのです」
「な、なんですと!? 貴方が、今まで空席だった最後の!?」
ノームは樹人の手に飛び降りると、今度はこちらを不安げに見上げる民衆に視線を移した。息を大きく吸う。今の彼らを奮い立たせることが出来ずに、何が王太子だ。ノームは心の中でそう呟いて、自分の出せる最大音量の声を張り上げた。
「──皆、諦めるなっ! まだここに、希望がある!! 俯くな! この理不尽に対して、怒れ!! シュトラールも、スペランサも関係ない! 今、我々人間は、侮辱されているのだ!! 自分達の未来を、大切な人を、守れ!! この土の勇者であるノーム・ブルー・バレンティアも、君達と共に悪魔へ抗ってみせよう!!」
ノームの言葉に、民衆は互いに顔を見合わせる。そしてだんだんとその顔色が変わった。人間とは何もない暗闇ではどんな存在よりも弱者に落ちる。しかし逆にたった一筋の光さえ見つけてしまえば、諦めない限りどこまででも強くなれる生物だと、ノームは知っていた。
──「おい! 女子供を守れ!! 戦えるヤツは前に出ろ!! 戦ってくれている衛兵をサポートするんだ!! これ以上下がるわけにいくか!」
──「こっちに怪我人がいるぞ! 誰か一緒に運んでくれ!!」
──「そうだ、よく考えたらどうして俺達が殺されなきゃいけないんだっっ!! ふざけるなぁっっ!!」
次々に民衆からそんな声が上がり始めた。もう誰一人、彼らの中で絶望に恐怖し涙するだけの者はいない。皆が自分達の命を侮辱した悪魔へ怒り、声を上げ、自分の出来ることに尽くそうとしたのだ。
すると樹人は拘束したレイナと男の悪魔二人を魔族達の方へ投げつけた。凄い勢いで悪魔達は吹っ飛んでいき、そのままトロールの固い腹に衝突する。そしてノームはとりあえず枢機卿を宮殿のバルコニーへ戻すと、そのまま民衆を踏まないように樹人を魔族達と交わり合う最前線へ移動させた。自分の頭上を進んでいく巨大樹人に民衆は歓声を上げる。ノームは目の前に来た樹人に戸惑う魔族達を見渡し──一番攻撃力の高いトロール達が動き出す前に樹人の種をまき散らせた。
「──咲け!」
複数の種へノームの魔力回路の最大出力が放出される。ノームは全身に激痛が走ったが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。ノームの魔力を急速に注ぎ込まれた種は爆発するように成長していき、魔族達に絡みつく。
……ここで、どうしてノームが巨大樹人を使って魔族達を一網打尽にしなかったのか、という疑問が浮かび上がるが答えは簡単だ。ノームは今目の前で並んでいる魔族達がテネブリスの者達であり、先程の自分のようにレイナに操られている可能性を考慮したのだ。ノームはどうしても彼らを傷つけるわけにはいかなかった。何故なら彼らは、テネブリスの魔族達は、自分の想い人であるエレナの大切な家族なのだから!
──するとその時、ノームの視界に影が過った。咄嗟に剣を構えると、先程飛ばした獣耳の悪魔にその刃に牙を突き立てられる。彼は己の牙を阻止されるとすぐに後方へ飛んだ。
「ぺっ! 鉄は不味いじゃんよ! 早くその美味そうな褐色肌を噛み千切ってやるじゃん死ね!!」
「出来るものならやってみろ! 悪魔なんかに余は負け──、う、……?」
ノームは言葉の途中で、己の肩に重みを感じる。するとそこには男の手。その手を辿っていけば、手の主はもう一人のオッドアイの悪魔であることに気づいた。まずい。ノームはそう直感すると、素早く剣を振ったが──刃が悪魔の皮膚に触れる前に、悪魔は二ィッと不気味に口角を上げる。
「今、触れさせていただきました。であるならば貴方様も怠惰でございます──」
「っ、なにを!」
空振った剣にノームは舌打ちをした。オッドアイの悪魔はすばやく木の枝を足場に踏み込むと身体を空で回転させ、その場から離れる。ノームは二人の悪魔に囲まれた。しかしここで、ノームは己の鼓動の異常に気付く。脳が他者によって強引にかき乱されていくような感覚。これはレイナの能力によって操られていた時にも感じたものだ。つまり、オッドアイの悪魔も精神干渉の能力者だということだろう。頭痛に顔を歪めれば、急に身体が動かなくなる。そして──
「え、れ、な……?」
ハッとする。ノームの目の前にいつの間にか血だらけのエレナが横たわっていた。腸を曝け出され、ピクリとも動かない白い彼女の無残な姿にノームは目を剥いた……。
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