52 / 145
第三章 魔族姫と白髪の聖女編
52:協力
しおりを挟む
「意外だったな。てっきり泣くかと思ったんだが」
シュトラール城の裏庭にて、サラマンダーがそう溢した。エレナはグリフォンを撫でる手を止めると、少しだけ俯く。
「……そりゃ、傷ついてますよ。でもそれ以上に私は怒っています。今のノームは殿下の言う通り、正気じゃない。レイナに何かされたんだ。……それに、想い人の涙を見て奮い立たない人間はいないでしょう」
「!」
(──まさか、こんな状況になってはっきりと自分の気持ちに気づくなんてね)
エレナはふっと口元を緩めると、自分の両頬を強く叩いた。そしてサラマンダーに振り向く。風がそよいで、その金髪がエレナの笑顔をより魅力的に飾る。サラマンダーの胸がドキッと微かに乱された。
「明日の婚約式が始まる前に私は必ずノームを正気に戻してみせます。テネブリスには魔法に詳しい妖精やエルフが沢山いるんだから、絶対に彼にかけられた魔法のヒントがあるはずです」
「そうか。ならば──俺も協力してやる。元々そういうつもりだったしな」
サラマンダーの一言にエレナはこてんと首を傾げる。サラマンダーはそんなエレナにため息を溢した。
「今回の兄上とレイナの婚約の件、父上は勿論猛反対している。だがあの性悪女に恩恵教の権威を武器に脅されていてな。あの女、臆病な父上の性格を非常によく理解してやがる。だから父上も苦肉の策として魔法云々の専門家であるテネブリスの協力を仰げと俺に言ってきた。もしテネブリスの協力でこの件をどうにかしてくれたのならば、シュトラールはテネブリスを正式な国家として認める、ともな」
「!」
エレナは目を見開いた。
テネブリスは現状、人間の国々に「国家」として認められていない。魔族達で勝手に形成されている野蛮な小国規模の組織にしか思われていないだろう。だが、もしシュトラールという大国を後ろ盾にできたら──。エレナは口角が上がる。ノームを救う理由が一つ増えてしまった。
……と、ここでサラマンダーががしがし頭を掻く。これはどうやら彼が照れくさくなった時の癖のようだ。
「……ま、まぁ、そんな建前がなくても俺はお前に協力してやるつもりだったがな。……と、ととっ、友達だから、な! か、感謝しろよっ!」
「! ……ぶっ! あはははは!」
素直になれないサラマンダーにエレナはお腹を抱えて笑い出す。サラマンダーが頬を赤らめて「なんだよ!」と怒った。
「ふふ、すいません。まさか貴方にそんなこと言われるとは思ってなくて。でも嬉しいです。ありがとうございます、サラマンダー殿下」
「っ、べ、別に! じ、時間がないんだからさっさとグリフォンに乗れ! ……あぁ、あと、」
サラマンダーはまた頭を掻いた後──
「……サラマンダーでいい」
「え?」
「だ、だから、と、友達なんだろ!? それなりの口調と呼び方をしろと言っているんだっ! お、お前が本当に俺を友達と思っているなら……」
顔を見せないように先にグリフォンに乗る。エレナもそんな彼の後ろに乗って、彼の腹に腕を回した。耳のすぐ傍でエレナのクスクス声が聞こえる。グリフォンに乗るためだとはいえ、背後からエレナに抱きしめられる体勢にサラマンダーは心臓が破裂しそうであった。
「うん、分かったよサラマンダー。お言葉に甘えることにする。これからもよろしくね」
「っ、お、おう……」
そしてついに、エレナとサラマンダーはテネブリスへ飛び立った。
明日に迫ったシュトラールとスペランサ、二つの国家を巻き込んだ婚約パーティを阻止するために。──大切な人を、救うために。
シュトラール城の裏庭にて、サラマンダーがそう溢した。エレナはグリフォンを撫でる手を止めると、少しだけ俯く。
「……そりゃ、傷ついてますよ。でもそれ以上に私は怒っています。今のノームは殿下の言う通り、正気じゃない。レイナに何かされたんだ。……それに、想い人の涙を見て奮い立たない人間はいないでしょう」
「!」
(──まさか、こんな状況になってはっきりと自分の気持ちに気づくなんてね)
エレナはふっと口元を緩めると、自分の両頬を強く叩いた。そしてサラマンダーに振り向く。風がそよいで、その金髪がエレナの笑顔をより魅力的に飾る。サラマンダーの胸がドキッと微かに乱された。
「明日の婚約式が始まる前に私は必ずノームを正気に戻してみせます。テネブリスには魔法に詳しい妖精やエルフが沢山いるんだから、絶対に彼にかけられた魔法のヒントがあるはずです」
「そうか。ならば──俺も協力してやる。元々そういうつもりだったしな」
サラマンダーの一言にエレナはこてんと首を傾げる。サラマンダーはそんなエレナにため息を溢した。
「今回の兄上とレイナの婚約の件、父上は勿論猛反対している。だがあの性悪女に恩恵教の権威を武器に脅されていてな。あの女、臆病な父上の性格を非常によく理解してやがる。だから父上も苦肉の策として魔法云々の専門家であるテネブリスの協力を仰げと俺に言ってきた。もしテネブリスの協力でこの件をどうにかしてくれたのならば、シュトラールはテネブリスを正式な国家として認める、ともな」
「!」
エレナは目を見開いた。
テネブリスは現状、人間の国々に「国家」として認められていない。魔族達で勝手に形成されている野蛮な小国規模の組織にしか思われていないだろう。だが、もしシュトラールという大国を後ろ盾にできたら──。エレナは口角が上がる。ノームを救う理由が一つ増えてしまった。
……と、ここでサラマンダーががしがし頭を掻く。これはどうやら彼が照れくさくなった時の癖のようだ。
「……ま、まぁ、そんな建前がなくても俺はお前に協力してやるつもりだったがな。……と、ととっ、友達だから、な! か、感謝しろよっ!」
「! ……ぶっ! あはははは!」
素直になれないサラマンダーにエレナはお腹を抱えて笑い出す。サラマンダーが頬を赤らめて「なんだよ!」と怒った。
「ふふ、すいません。まさか貴方にそんなこと言われるとは思ってなくて。でも嬉しいです。ありがとうございます、サラマンダー殿下」
「っ、べ、別に! じ、時間がないんだからさっさとグリフォンに乗れ! ……あぁ、あと、」
サラマンダーはまた頭を掻いた後──
「……サラマンダーでいい」
「え?」
「だ、だから、と、友達なんだろ!? それなりの口調と呼び方をしろと言っているんだっ! お、お前が本当に俺を友達と思っているなら……」
顔を見せないように先にグリフォンに乗る。エレナもそんな彼の後ろに乗って、彼の腹に腕を回した。耳のすぐ傍でエレナのクスクス声が聞こえる。グリフォンに乗るためだとはいえ、背後からエレナに抱きしめられる体勢にサラマンダーは心臓が破裂しそうであった。
「うん、分かったよサラマンダー。お言葉に甘えることにする。これからもよろしくね」
「っ、お、おう……」
そしてついに、エレナとサラマンダーはテネブリスへ飛び立った。
明日に迫ったシュトラールとスペランサ、二つの国家を巻き込んだ婚約パーティを阻止するために。──大切な人を、救うために。
0
お気に入りに追加
3,060
あなたにおすすめの小説
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
温泉聖女はスローライフを目指したい
皿うどん
恋愛
アラサーの咲希は、仕事帰りに酔っ払いに背中を押されて死にかけたことをきっかけに異世界へ召喚された。
一緒に召喚された三人は癒やしなど貴重なスキルを授かったが、咲希のスキルは「温泉」で、湯に浸かる習慣がないこの国では理解されなかった。
「温泉って最高のスキルじゃない!?」とうきうきだった咲希だが、「ハズレ聖女」「ハズレスキル」と陰口をたたかれて冷遇され、城を出ることを決意する。
王に見張りとして付けられたイケメンと共に、城を出ることを許された咲希。
咲希のスキルがちょっぴりチートなことは誰も知らないまま、聖女への道を駆け上がる咲希は銭湯を経営して温泉に浸かり放題のスローライフを目指すのだった。
逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!
九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。
しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。
アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。
これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。
ツイッターで先行して呟いています。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる