44 / 145
第三章 魔族姫と白髪の聖女編
44:乱入者
しおりを挟む(灰色の狼? あれって……禁断の森に生息しているグリッドウルフじゃ……!! どうしてこんな所に……っ!?)
エレナは慌ててサラマンダーに背後を指す。
「で、殿下! 後ろ、後ろ!! 後ろに狼が!」
「はぁ? んな分かりやすい嘘に騙されるかよ。馬鹿かお前」
「……っ!」
グリッドウルフがぐっと前足を折り曲げ、今にもサラマンダーの背中に飛びかかろうとしている。エレナは唇を噛みしめ、力いっぱいサラマンダーを抱きしめた。サラマンダーの身体がビクリと揺れる。
「っお、おいっ! 何して──」
「すみません殿下! おりゃあっ!!」
エレナはそのまま全力で気が緩んだサラマンダーを地面に投げつけた。グリッドウルフが飛びかかってくる。エレナはそれを──己の左腕で受け止めた。鋭い牙がエレナの腕に食いこんだ。エレナは痛みで叫んだが、万が一の為に所持していた樹人の種を握りしめる。
「──咲けっっ!!」
エレナの手の平でぐんぐん成長するソレはグリッドウルフの身体に巻き付いて締め付けていく。グリッドウルフはエレナから牙を離すと、地面に身体を摩擦しながら苦しそうにもがいていた。エレナはダラダラと血が垂れる左腕に眩暈がし、膝をつく。我に返ったサラマンダーがエレナの身体を支えた。
「っ、お前、今魔法を使ったのか? いや、それよりもどうして俺を庇った!」
サラマンダーがエレナの真っ赤な左腕に酷く動揺する。エレナはうっすら微笑むと、そのままサラマンダーの腕に抱かれた。彼の肩に額を乗せる。
「すみません、今は、とても話せる状態じゃなくて……はぁっ、少し、寄りかからせていただけますか……うっ、い、……ふ、」
「はぁ? 待つって何を、」
するとサラマンダーは噛まれたエレナの腕から黄金色の光が発せられていることに気づいた。エレナの身体を翻してそこを凝視すると、みるみるエレナの傷が癒えていくではないか。サラマンダーは言葉を失う。
「なっ、お前……っ!」
「うぅっ、あ……っはぁ、はぁ、」
エレナの額に汗が滲んでいった。息も荒くなり、苦し気に眉が寄せられる。己を治癒する力がエレナの体力を奪っていっているのだ。そんな彼女にサラマンダーは歯を食いしばった。
「馬鹿野郎……っ、どうして俺なんかを庇いやがった! 見殺しにすればよかったんだ! お前の大切な男を今まで散々虐げてきた俺を……っ、お前自身も侮辱した俺を……!!」
「……、……っ。さぁ。考えるより先に、身体が動いたから……理由なんて、思いつきませんっ……。はぁ、はぁ、うっ……でも、強いて言うならば、私がっ、貴方にはその価値があると判断したから、そうしたんだと思いますよ……っ」
エレナは苦しみながらもうっすら微笑み、サラマンダーを見上げる。サラマンダーはそんなエレナに唖然とした。黄金色の輝きを纏うエレナの笑みに目を奪われたのだ。
──しかしその時。サラマンダーがエレナに何かを言う前に、数人の甲高い女性の悲鳴がパーティ会場の方から聞こえてきた。裏庭まで悲鳴が聞こえてくるほどの何かが起こっているのだろうか。レガンが何かを察したように己を繋ぐ鎖を引きちぎろうとしていた。
「ぐるるっ!! ぎゃう!」
エレナがなんとか半身を起こすと、レガンは彼女に何かを伝えたそうにする。グリッドウルフを嘴で指した後にパーティ会場にそれを向けた。その動作を繰り返す。エレナはハッとなって、立ち上がった。
「おい! もう動いていいのかよ!」
「大丈夫、です……それよりも会場に行かないと。悪い予感がするんです……っ。ノーム殿下が、危ないかも……っ、うっ」
まだ腕から血を流れているというのに無理をして歩き出すエレナにサラマンダーは舌打ちをする。そして強引にエレナを横抱きすると、パーティ会場へ走り出した。エレナはサラマンダーの突然の変化と、己の身体が軽々と抱かれたことにキョトンとする。彼はエレナの顔を敢えて見ようとしない。
「……非常に不本意だが、お前には借りが出来た」
その一言だけを呟く彼にエレナは目を見開いた。エレナが彼の今までのノームへの言動を肯定することはこの先一生ない。しかし、エレナの中の彼自身への印象がこの時大きく変わったのも事実である。それに気になったのは先程の彼の言葉。
(さっき、彼は自分の事を『俺なんか』って言っていた。今までの言動に負い目を感じていたような節も見られる。私は今まで彼を傲慢な性格だと思っていたけれど、もしかしたら本質はその真逆なのかも……)
エレナはサラマンダーの横顔を眺めながら、そんな事を思った。
0
お気に入りに追加
3,060
あなたにおすすめの小説
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
温泉聖女はスローライフを目指したい
皿うどん
恋愛
アラサーの咲希は、仕事帰りに酔っ払いに背中を押されて死にかけたことをきっかけに異世界へ召喚された。
一緒に召喚された三人は癒やしなど貴重なスキルを授かったが、咲希のスキルは「温泉」で、湯に浸かる習慣がないこの国では理解されなかった。
「温泉って最高のスキルじゃない!?」とうきうきだった咲希だが、「ハズレ聖女」「ハズレスキル」と陰口をたたかれて冷遇され、城を出ることを決意する。
王に見張りとして付けられたイケメンと共に、城を出ることを許された咲希。
咲希のスキルがちょっぴりチートなことは誰も知らないまま、聖女への道を駆け上がる咲希は銭湯を経営して温泉に浸かり放題のスローライフを目指すのだった。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる