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第三章 魔族姫と白髪の聖女編
44:乱入者
しおりを挟む(灰色の狼? あれって……禁断の森に生息しているグリッドウルフじゃ……!! どうしてこんな所に……っ!?)
エレナは慌ててサラマンダーに背後を指す。
「で、殿下! 後ろ、後ろ!! 後ろに狼が!」
「はぁ? んな分かりやすい嘘に騙されるかよ。馬鹿かお前」
「……っ!」
グリッドウルフがぐっと前足を折り曲げ、今にもサラマンダーの背中に飛びかかろうとしている。エレナは唇を噛みしめ、力いっぱいサラマンダーを抱きしめた。サラマンダーの身体がビクリと揺れる。
「っお、おいっ! 何して──」
「すみません殿下! おりゃあっ!!」
エレナはそのまま全力で気が緩んだサラマンダーを地面に投げつけた。グリッドウルフが飛びかかってくる。エレナはそれを──己の左腕で受け止めた。鋭い牙がエレナの腕に食いこんだ。エレナは痛みで叫んだが、万が一の為に所持していた樹人の種を握りしめる。
「──咲けっっ!!」
エレナの手の平でぐんぐん成長するソレはグリッドウルフの身体に巻き付いて締め付けていく。グリッドウルフはエレナから牙を離すと、地面に身体を摩擦しながら苦しそうにもがいていた。エレナはダラダラと血が垂れる左腕に眩暈がし、膝をつく。我に返ったサラマンダーがエレナの身体を支えた。
「っ、お前、今魔法を使ったのか? いや、それよりもどうして俺を庇った!」
サラマンダーがエレナの真っ赤な左腕に酷く動揺する。エレナはうっすら微笑むと、そのままサラマンダーの腕に抱かれた。彼の肩に額を乗せる。
「すみません、今は、とても話せる状態じゃなくて……はぁっ、少し、寄りかからせていただけますか……うっ、い、……ふ、」
「はぁ? 待つって何を、」
するとサラマンダーは噛まれたエレナの腕から黄金色の光が発せられていることに気づいた。エレナの身体を翻してそこを凝視すると、みるみるエレナの傷が癒えていくではないか。サラマンダーは言葉を失う。
「なっ、お前……っ!」
「うぅっ、あ……っはぁ、はぁ、」
エレナの額に汗が滲んでいった。息も荒くなり、苦し気に眉が寄せられる。己を治癒する力がエレナの体力を奪っていっているのだ。そんな彼女にサラマンダーは歯を食いしばった。
「馬鹿野郎……っ、どうして俺なんかを庇いやがった! 見殺しにすればよかったんだ! お前の大切な男を今まで散々虐げてきた俺を……っ、お前自身も侮辱した俺を……!!」
「……、……っ。さぁ。考えるより先に、身体が動いたから……理由なんて、思いつきませんっ……。はぁ、はぁ、うっ……でも、強いて言うならば、私がっ、貴方にはその価値があると判断したから、そうしたんだと思いますよ……っ」
エレナは苦しみながらもうっすら微笑み、サラマンダーを見上げる。サラマンダーはそんなエレナに唖然とした。黄金色の輝きを纏うエレナの笑みに目を奪われたのだ。
──しかしその時。サラマンダーがエレナに何かを言う前に、数人の甲高い女性の悲鳴がパーティ会場の方から聞こえてきた。裏庭まで悲鳴が聞こえてくるほどの何かが起こっているのだろうか。レガンが何かを察したように己を繋ぐ鎖を引きちぎろうとしていた。
「ぐるるっ!! ぎゃう!」
エレナがなんとか半身を起こすと、レガンは彼女に何かを伝えたそうにする。グリッドウルフを嘴で指した後にパーティ会場にそれを向けた。その動作を繰り返す。エレナはハッとなって、立ち上がった。
「おい! もう動いていいのかよ!」
「大丈夫、です……それよりも会場に行かないと。悪い予感がするんです……っ。ノーム殿下が、危ないかも……っ、うっ」
まだ腕から血を流れているというのに無理をして歩き出すエレナにサラマンダーは舌打ちをする。そして強引にエレナを横抱きすると、パーティ会場へ走り出した。エレナはサラマンダーの突然の変化と、己の身体が軽々と抱かれたことにキョトンとする。彼はエレナの顔を敢えて見ようとしない。
「……非常に不本意だが、お前には借りが出来た」
その一言だけを呟く彼にエレナは目を見開いた。エレナが彼の今までのノームへの言動を肯定することはこの先一生ない。しかし、エレナの中の彼自身への印象がこの時大きく変わったのも事実である。それに気になったのは先程の彼の言葉。
(さっき、彼は自分の事を『俺なんか』って言っていた。今までの言動に負い目を感じていたような節も見られる。私は今まで彼を傲慢な性格だと思っていたけれど、もしかしたら本質はその真逆なのかも……)
エレナはサラマンダーの横顔を眺めながら、そんな事を思った。
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