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第三章 魔族姫と白髪の聖女編
42:嫌な再会
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曲の終わりと共に、エレナは我に返った。腰に回されていたノームの手が離れていき、それが名残惜しいと思ってしまう。周りから拍手が送られてくる中、全力で楽しみすぎたせいか身体がとても熱かった。
「ヘレン、疲れたか?」
「……うん。実はちょっと」
「ふふ。あんなにはしゃいでしまってはそうだろうな」
「えっ!? そ、そんなに? へ、変だったかな」
「いや。……お前らしくてとても魅力的だったよ。ずっとこのまま踊り続けていたいと思うくらいには」
その言葉にエレナはさらに熱が宿る。そしてそのままノームと腕を組んで会場の中央から去った。イゾウから渡されたドリンクを飲んで、ようやく一息つく。
「お疲れ様です。お二人のダンスは一際輝いておられましたよ。あんなに楽しげに踊るペアは見たことがないとあの枢機卿も絶賛しておりました」
「そ、そんな。フォローしてくれたノームで、殿下のおかげです。ありがとね……じゃなかった、ありがとうございます、ノーム殿下」
「随分と面白い口調だなヘレン?」
「も、もう、からかわないでくださ──」
「あのっ、」
声を掛けられて振り向けば、十数人の貴族の娘達が頬をピンク色に赤らめてノームを見上げているではないか。彼女達からノームへの明らかな好意にエレナは硬直した。
「ノーム殿下。よろしければ次は私と踊っていただけませんか?」
「あ、抜け駆けはずるいですわよ! ノーム殿下、ぜひ私と、」
「いいえ、私とっ!!」
ノームはたちまちきゃあきゃあ騒ぐ乙女達に取り囲まれる。イゾウが慌ててそれを止めようとするが、興奮する彼女達はヒートアップするばかりだ。蚊帳の外にされたエレナはそんなノームを見つめることしかできなかった。心を落ち着ける為にドリンクをおかわりする。
(まぁ、ノームの素顔を見たらどんな女の人でもああなっちゃうよね……)
(でもどうしてだろう。なんで私はこんなに胸が落ち着かないんだろう。これじゃ、まるで──)
「失礼ですが──」
「っ!」
聞き慣れた声にエレナはハッとした。顔を上げれば案の定、今一番顔を合わせたくない人物が目の前にいる。ウィン・ディーネ・アレクサンダー。エレナの元婚約者だ。エレナは思わず後ずさった。ウィンは知的な眼鏡をくいっと押し上げてエレナの瞳を真っ直ぐ見つめている。エレナの心臓がドクンドクンと暴れていた。
「貴女のお名前を教えていただけますかレディ」
「へっ!? あ、あぁ……その、ヘレンと申します」
「……そうですか。それで、平民の貴女がどのような経緯でノーム殿下とお会いしたのでしょうか」
「────、」
(もしかして、私がエレナだってバレてる……?)
エレナは落ち着かない胸を抑える。ノームとイゾウを一瞥すれば、先程よりも多くの女性に囲まれていた。彼らのフォローは望めないだろう。唇が震える。脳裏では断頭台で彼に髪を切られそうになった記憶が過って、今すぐにここから走り去りたくなった。その時──
「あぁ~いっけないんだ。ウィン様がヘレンを怖がらせてる~」
場に合わない陽気な声と共にエレナは後ろから誰かに覆われる。その瞬間、ウィンの眉間にきつい皺が寄った。エレナが首だけ後方に向ければシルフの顔が目の前にある。
「し、シルフさん!?」
「シルフでいいよ。ボクもヘレンって呼ぶことにしたから。それにしてもさっきのダンス、凄く素敵だった。ボク、ダンスなんて大嫌いだけど君となら踊ってみたいな」
「あ、ちょ……か、顔が近いですから!」
エレナは慌ててシルフから離れようとするが、意外にも彼の方はエレナを離そうとはしなかった。後ろから握られた手に眉を顰める。せっかくノームの温もりが残っているというのにそれを上書きされるような感覚が嫌だった。するとウィンがそんなシルフを睨みつけ、
「シルフ、彼女から離れろ。どう見ても僕よりお前の方が彼女の害になっているだろう」
──と、一言。エレナがそんなウィンにポカンとしていると、シルフからの拘束も消えた。拗ねたように唇を尖らせるシルフ。ウィンは彼がエレナから離れたことを確認すると、エレナにお辞儀をした。
「申し訳ありません。同じ勇者として貴女に謝罪を」
「え、あ、いいえ。と、とんでもないです! ありがとうございます!」
「ちぇっ。ウィン様もどうせヘレン目当てなんでしょ? 澄ました顔しちゃってさ」
「──まぁな」
「!?」
肯定ともとれるウィンの言葉にエレナは目を丸くする。ウィンの意図がどうも読めない。彼は基本的に他人に興味を持たない性格であると認識しているので、今のやり取りは不自然であるように感じたのだ。
(──っていうか肝心のレイナはどこにいるの? ウィン様の傍にはいないようだけど……)
もしかして、とノームの方を見ればその疑問は一発で解決した。レイナはノームを巡っての“女の戦い”の中心にて、他の乙女達を押しのけてノームに猫なで声で甘えている。先程まではノームの事をあんなに馬鹿にしていたというのに、彼の素顔を見ればこの切り替わり様だ。エレナはそんな彼女にあんぐりと口を開けて呆れ果てるしかない。
……しかしレイナの居所が分かった所で目の前の問題が解決するわけではなかった。ウィンがそっとエレナに手を差し伸べる。
「よろしければヘレン、僕と一曲踊ってはいただけませんか?」
「えっ……!!?」
声が裏返りそうになる。ウィンはそんなエレナににっこり微笑んだ。しかしその手をエレナが取るはずもない。俯いて、ウィンの脇を通り過ぎる。
「す、すみません、気分が悪いので失礼します!!」
ウィンが何かを言っていたが、エレナはそちらに気を留める余裕もなかった。もうこの際だとノームの相棒であるレガンがいる裏庭まで逃げることにしたのだ。グリフォンでもなんでもいいから、とりあえず誰かに傍に居てほしい気分だった……。
「ヘレン、疲れたか?」
「……うん。実はちょっと」
「ふふ。あんなにはしゃいでしまってはそうだろうな」
「えっ!? そ、そんなに? へ、変だったかな」
「いや。……お前らしくてとても魅力的だったよ。ずっとこのまま踊り続けていたいと思うくらいには」
その言葉にエレナはさらに熱が宿る。そしてそのままノームと腕を組んで会場の中央から去った。イゾウから渡されたドリンクを飲んで、ようやく一息つく。
「お疲れ様です。お二人のダンスは一際輝いておられましたよ。あんなに楽しげに踊るペアは見たことがないとあの枢機卿も絶賛しておりました」
「そ、そんな。フォローしてくれたノームで、殿下のおかげです。ありがとね……じゃなかった、ありがとうございます、ノーム殿下」
「随分と面白い口調だなヘレン?」
「も、もう、からかわないでくださ──」
「あのっ、」
声を掛けられて振り向けば、十数人の貴族の娘達が頬をピンク色に赤らめてノームを見上げているではないか。彼女達からノームへの明らかな好意にエレナは硬直した。
「ノーム殿下。よろしければ次は私と踊っていただけませんか?」
「あ、抜け駆けはずるいですわよ! ノーム殿下、ぜひ私と、」
「いいえ、私とっ!!」
ノームはたちまちきゃあきゃあ騒ぐ乙女達に取り囲まれる。イゾウが慌ててそれを止めようとするが、興奮する彼女達はヒートアップするばかりだ。蚊帳の外にされたエレナはそんなノームを見つめることしかできなかった。心を落ち着ける為にドリンクをおかわりする。
(まぁ、ノームの素顔を見たらどんな女の人でもああなっちゃうよね……)
(でもどうしてだろう。なんで私はこんなに胸が落ち着かないんだろう。これじゃ、まるで──)
「失礼ですが──」
「っ!」
聞き慣れた声にエレナはハッとした。顔を上げれば案の定、今一番顔を合わせたくない人物が目の前にいる。ウィン・ディーネ・アレクサンダー。エレナの元婚約者だ。エレナは思わず後ずさった。ウィンは知的な眼鏡をくいっと押し上げてエレナの瞳を真っ直ぐ見つめている。エレナの心臓がドクンドクンと暴れていた。
「貴女のお名前を教えていただけますかレディ」
「へっ!? あ、あぁ……その、ヘレンと申します」
「……そうですか。それで、平民の貴女がどのような経緯でノーム殿下とお会いしたのでしょうか」
「────、」
(もしかして、私がエレナだってバレてる……?)
エレナは落ち着かない胸を抑える。ノームとイゾウを一瞥すれば、先程よりも多くの女性に囲まれていた。彼らのフォローは望めないだろう。唇が震える。脳裏では断頭台で彼に髪を切られそうになった記憶が過って、今すぐにここから走り去りたくなった。その時──
「あぁ~いっけないんだ。ウィン様がヘレンを怖がらせてる~」
場に合わない陽気な声と共にエレナは後ろから誰かに覆われる。その瞬間、ウィンの眉間にきつい皺が寄った。エレナが首だけ後方に向ければシルフの顔が目の前にある。
「し、シルフさん!?」
「シルフでいいよ。ボクもヘレンって呼ぶことにしたから。それにしてもさっきのダンス、凄く素敵だった。ボク、ダンスなんて大嫌いだけど君となら踊ってみたいな」
「あ、ちょ……か、顔が近いですから!」
エレナは慌ててシルフから離れようとするが、意外にも彼の方はエレナを離そうとはしなかった。後ろから握られた手に眉を顰める。せっかくノームの温もりが残っているというのにそれを上書きされるような感覚が嫌だった。するとウィンがそんなシルフを睨みつけ、
「シルフ、彼女から離れろ。どう見ても僕よりお前の方が彼女の害になっているだろう」
──と、一言。エレナがそんなウィンにポカンとしていると、シルフからの拘束も消えた。拗ねたように唇を尖らせるシルフ。ウィンは彼がエレナから離れたことを確認すると、エレナにお辞儀をした。
「申し訳ありません。同じ勇者として貴女に謝罪を」
「え、あ、いいえ。と、とんでもないです! ありがとうございます!」
「ちぇっ。ウィン様もどうせヘレン目当てなんでしょ? 澄ました顔しちゃってさ」
「──まぁな」
「!?」
肯定ともとれるウィンの言葉にエレナは目を丸くする。ウィンの意図がどうも読めない。彼は基本的に他人に興味を持たない性格であると認識しているので、今のやり取りは不自然であるように感じたのだ。
(──っていうか肝心のレイナはどこにいるの? ウィン様の傍にはいないようだけど……)
もしかして、とノームの方を見ればその疑問は一発で解決した。レイナはノームを巡っての“女の戦い”の中心にて、他の乙女達を押しのけてノームに猫なで声で甘えている。先程まではノームの事をあんなに馬鹿にしていたというのに、彼の素顔を見ればこの切り替わり様だ。エレナはそんな彼女にあんぐりと口を開けて呆れ果てるしかない。
……しかしレイナの居所が分かった所で目の前の問題が解決するわけではなかった。ウィンがそっとエレナに手を差し伸べる。
「よろしければヘレン、僕と一曲踊ってはいただけませんか?」
「えっ……!!?」
声が裏返りそうになる。ウィンはそんなエレナににっこり微笑んだ。しかしその手をエレナが取るはずもない。俯いて、ウィンの脇を通り過ぎる。
「す、すみません、気分が悪いので失礼します!!」
ウィンが何かを言っていたが、エレナはそちらに気を留める余裕もなかった。もうこの際だとノームの相棒であるレガンがいる裏庭まで逃げることにしたのだ。グリフォンでもなんでもいいから、とりあえず誰かに傍に居てほしい気分だった……。
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