黄金の魔族姫

風和ふわ

文字の大きさ
上 下
35 / 145
第二章 エレナと落ちこぼれ王子

35:誰よりも幸せになってほしい人

しおりを挟む

「──とても、安心しました」

 その場にいる皆が、ノームに注目した。ノームはただただ穏やかな笑みを浮かべ、その青色の瞳にペルセネを映している。一歩一歩、愛しい母へ歩み寄った。
 
「本当は、ほんの少しだけ気付いていたんです。母上がハーデス様を愛していることを」
「っ! え……どういうこと?」
「お気づきでなかったかもしれませんが……母上は毎晩眠りながらハーデス様の名前を呼んでいたのですよ。周りの従者達は冥界の主の悪夢を見て魘されているのだと言っていましたが、余にはとてもそうは見えなかった。なぜなら彼の名前を呼ぶ母上の寝顔が、あまりにも幸せそうだったからです」
「!!」

 ペルセネの頬に涙が伝った。ポタリ、と雫が直線を描いて地面に滴り落ちていく。言葉を吐き出そうにも嗚咽が出てきて叶わない。ペルセネはそんな様子だった。
 ……そんな彼女と、シュトラールの私室で独り泣く生前の彼女自身をノームは重ねた。ペルセネがノームの父──ヘリオスを愛していないのはノームでも分かっていたことだ。せっかくハーデスによって生き延びたというのに、その時間をヘリオスにペルセネは奪われてしまった。ただの庶民だったペルセネが正妃になるのは当然様々な者達から反感を買う。故に彼女は城に閉じ込められたにも関わらず、その城に馴染めない。孤独だった。ノームが産まれてからはノームの前で泣かなかった彼女だが、陰でこっそりと嘆いているのもノームは知っていたのだ。

「──母上。今まで辛かったでしょう。苦しかったでしょう。寂しかったでしょう。それなのに貴女は、身体の限界まで生き続けてくれた。余を産んで、余を愛してくれた。余は、もう十分貴女の愛を受けてきました」
「……っ、違う、私は、最低な母親よ! だって、今、貴方の心をズタズタに傷つけているのだもの! 貴方という存在を捨てて、今は自分の幸せを掴もうとしているの!! 自分勝手な母親なのよ! だから──」
「傷つけている? それはどうしてですか。むしろ余は嬉しい。死後の世界で、母上が幸せであり続けているという事実はこれからの余の心の支えになるのですから」

(──半分本当で、半分嘘だ)

 エレナはノームの言葉を聞きながら、そう思った。でも何も言わない。ただただ彼を見守るだけ。
 ペルセネが堪らずノームを抱きしめる。ノームはそんな彼女の背中に腕を回した。

「母上、どうか愛する人と幸せに。……ハーデス様、母上をよろしくお願いします」
「っ、! あ、あぁ! 必ずだ! 必ず、僕がペルセネをこの世界の誰よりも幸せにする! ──冥界の主の名にかけて!」

 ハーデスは声が裏返りながらも、ノームの手を強く握って真っ直ぐにそう誓った。その言葉は絶対に嘘ではない。彼の必死さからそれが十分伝わる。ノームはそんなハーデスに嬉しそうに笑った。

 ──と、その時だ。

 ミカエルがズンズンとノームの方へ急接近し、その両肩を掴んだ。彼はそれはそれはにっこり微笑して──





 ──と言った。
 当の本人であるノームはポカンとする。

「合格? 何がでしょうか」
「大天使が合格と言ったらしかないだろう。今まで意地悪してしまって悪かったねノーム。実は君を試していたんだ。ちなみにエレナの体力を吸い取っていたのも僕だよ」

 どうしてそんなことを。ノームのその質問にミカエルは「だから、君を試したんだって」とウインクをした。

「──勇気とは、“恐怖に立ち向かう強さ”」
「!」
「愛とは、“他人を大切に想う心”。希望とは、“未来に望みをかけ、前に進む志”である。この三つが勇者に必要な要素らしい。ノーム、君はこのネクロポリスに勇敢にも足を踏み入れ、重荷になっていたエレナを見捨てることなく、己の限界まで諦めずに走り続けてみせた。オマケに己の幸せより自分の母の幸せを心の底から願っていたね。……本当はただの好奇心で見守っていたんだけど、僕もこれで他の大天使に急かされることがなくなって大いに結構!」
「?? あの、ミカエル様?」

 ミカエルはコホンを喉を整えると、ノームの瞳を真っ直ぐ見つめる。そして──

「この大天使ミカエルが認めよう。ノーム・ブルー・バレンティア! 君が、君こそが、最後の──未だ空席であった僕の寵愛を受ける者──土の勇者に相応しいと!」
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

温泉聖女はスローライフを目指したい

皿うどん
恋愛
アラサーの咲希は、仕事帰りに酔っ払いに背中を押されて死にかけたことをきっかけに異世界へ召喚された。 一緒に召喚された三人は癒やしなど貴重なスキルを授かったが、咲希のスキルは「温泉」で、湯に浸かる習慣がないこの国では理解されなかった。 「温泉って最高のスキルじゃない!?」とうきうきだった咲希だが、「ハズレ聖女」「ハズレスキル」と陰口をたたかれて冷遇され、城を出ることを決意する。 王に見張りとして付けられたイケメンと共に、城を出ることを許された咲希。 咲希のスキルがちょっぴりチートなことは誰も知らないまま、聖女への道を駆け上がる咲希は銭湯を経営して温泉に浸かり放題のスローライフを目指すのだった。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...