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第二章 エレナと落ちこぼれ王子
23:謎のグリフォン
しおりを挟む禁断の森には、不自然な星形の原っぱがある。エレナが「星の原っぱ」と見た目通りに呼ぶそれはレイが着地しやすいように、またエレナ達が遊びやすいようにドリアードが作った場所である。今では丸太の椅子やテーブルも置かれていて、皆の集合場所であり遊び場だ。地上からはその原っぱが星形であるのは認識できないが、上空からなら一目瞭然。半年前に傷を癒してあげた子ドラゴン──レイの背中からエレナはその原っぱを覗いた。
「あ、もう皆来てるや! レイ、早く降りて!」
「ぎゃあ!」
そのままレイがその原っぱへ着陸する。エレナは彼の背中から飛び下りると、大好きな友人達に手を振った。
「皆! お待たせ!」
「あ、遅いぞエレナ! ルー! 俺達もうオーガごっこしてたんだぞ!」
「ごめんオリアス。アムの授業がやけに長引いてさ」
「きゅう!」
するとあっという間にエレナの周りを三人の子供達が囲む。一人はアムドゥキアスやアスモデウスと同じ竜人族の少年、オリアス。一人は吸血鬼族の少年、シトリ。一人はラミア族の少女、アイム。……そう、この三人は以前エレナによってスペランサ王国の魔の手を逃れた子供達である。エレナと彼らはこの半年の間に再会を無事果たし、今ではこの禁断の森で一緒に遊ぶ仲になっていた。
「今日は何して遊ぶんだ!? ケサランパサラン探しか!? レッドキャップ狩りも楽しそうだよな!」
「エレナ……血、飲んでいい?」
「エレナエレナ、私今日ね、鱗に色を塗ってみたの! どう!? ちょっとカラフルにしたんだ!」
「こら、其方達。そんなに同時に喋ったらエレナが返事を出来ないぞ」
丸太の椅子に座ってのんびりとお茶をしているドリアードがエレナの到着で興奮する子供達を軽く宥める。流石のエレナも三人の元気っぷりに一苦労だ。エレナのじゃじゃ馬娘化が進んだのはこの三人の影響も含まれているだろう。
「オリアス、レッドキャップ狩りは危ないから駄目。一応レッドキャップは肉食なんだから。シトリも、私の血を飲んだらダメって何回も言ってるでしょ。そこらへんにいるジャッカロープの血にしなさい。アイムの鱗は凄く綺麗だね。いつもより大人びて見えるよ!」
今まで一人っ子だったエレナはオリアス達三人を本当の弟や妹のように想っていた。彼らもエレナを実の姉のように慕っている。この四人の関係こそが今のエレナとテネブリスを繋いだ架け橋だと思うとどこか感慨深い。
(そうだ。魔族と人間はちゃんと話し合えばこうやって手を取り合って笑いあうことが出来る)
(憎しみあったりいがみ合ったりするよりは絶対にそっちがいいし、テネブリスの人達が傷つく姿なんて見たくない)
(……私とこの三人みたいに、人間と魔族を繋ぐ“きっかけ”があればいいのだけれど……)
──と、その時。
エレナの視界に一瞬だけ影が差した。頭上を見れば上半身は鷲、下半身は獅子の姿を持つグリフォンという幻獣が凄い速さで空を駆けているではないか。子供達が初めて見る幻獣に大はしゃぎする中、エレナはすぐにドリアードを見た。
「ドリアードさん、今のって……!」
「グリフォンの背中に男が一人。一瞬だったので曖昧だが、ヤツは“殺意”を持っていた」
「っ! レイ、あのグリフォンを追って! ルーは宝石の中に! ドリアードさんは子供達をお願い!」
「あ、おいエレナ! 何も考えずに飛び出すものじゃない!」
ドリアードの忠告は当然エレナには届かない。既にレイの背中に飛び乗ったエレナは地面から離れている。そうしてそのまま謎のグリフォンの後を追ったのだった……。
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