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第7話 ファーストキス

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 放課後に熟睡していると俺の手を優しく握る者がいる。俺の手のひらを広げたり、指の1本1本を確かめるように掴んだり、手の甲をさすってくる。


 そして、俺の頬を触って、引っ張って遊んでいる。美優だ。俺も最近は美優に起こされるのが慣れてきたもので、これくらいでは起きてやらない。


 美優がシャツを触る音がする。そして俺の顔の上に大きくたわわに実った胸を乗せて、俺を窒息死させようとする。その重さと柔らかさと温かさがたまらなく気持ちいい。息がしにくいので目を覚ますと目の前に黒のレースのブラジャーが現れる。


 色白の美優の肌に黒のブラジャーが艶やかに見える。とても妖艶で、色っぽい。美優は俺が目が覚めたのを確かめたように、顔の上から胸をのけて、シャツのボタンを1つ止めて、2つだけボタンを外している。


「もう、最近のナルは胸でないと起きてくれないなんて、ズルいよ。私だって恥ずかしいんだからね」
 

 恥ずかしい。そうと聞いてもしてほしいものは、してほしい。俺は何?という顔でとぼけた顔をして起きる。


 俺が起きるとやはり教室には俺と美優しかいない。仁、最近、親友度が落ちているような気がするぞ。それとも仁は美優とひかりが苦手なのか?


 俺と同じ童貞同盟だからな。からかわれるのが嫌で避けているんだろう。相手は童貞をからかうことを生きがいにしているビッチだ。逃げたくなる気分もわかる。


 それでも美優の胸の魅力のほうが上だと感じるのは俺だけだろうか。からわかれてもいいじゃないか。その時に至高の一時あれば。俺は今を生きる。


 で、今日は何の用事なんでしょうか、お嬢様。放課後に居残って、頼みごとをされた時の、この前のトラウマは未だに脳裡から取れていないんですけど。今回はお手柔らかなソフトからお願いしたい。


「今日、一緒に夕飯を食べよう。ナル、夕飯、私と一緒でも大丈夫だよね」


 もろちん、俺は独り暮らしだから、帰っても誰も用意してくれていないし、何の夕飯の用意もしていない。美優が夕飯に付き合ってといえば、喜んで付き合うよ。美優ほどの美少女と夕飯が食べられると聞いて、断る男子はそういないと思うぞ。


 美優はあまり自分のことを評価していないみたいだけど。


 美優と2人で腕を絡めて寄り添って廊下を歩く。そして学校を出て、大通りに出てから、美優がタクシーに乗る。俺も続けて一緒に乗る。今回はどこへ行くんだ?


 タクシーは繁華街を通り抜けて高級ホテルが立ち並ぶ場所で停車する。俺こんな高級なホテルに泊まるような金は持ってきてないぞ。美優はこういう高級ホテルが好みなのか。貯金をおろせばなんとかなる。童貞卒業も楽じゃないぜ。


 俺は美優の腕を取ってウキウキしながら入って行く。高校生2人でお泊りなんてできるのかな。こういうホテルだと保護者名を書かないといけなかったりするのかな?美優の好みだったら仕方がない。俺も覚悟を決めよう。


 美優は慣れた手つきでエレベーターのボタンを押して、最上階へ。え、スイートルーム。それもVIP。美優ほどの美少女となると、それに相応しいと思うけど、俺達、制服姿で、夕暮れ時から堂々と利用していいのか?


 最上階へ着くと、四方がガラス張りの展望台のようなレストランに到着した。え、レストラン。俺と美優との思い出のスィートルームはどこへ行った?


 俺は肩を落としてシュンとなる。美優はそれを見てクスクスと笑うと、俺の耳元でささやく


「今度、お金を貯めたら、私を連れてきてね。いっぱいサービスしてあげるから」


 おお、いっぱいのサービス。やはり高級ホテルは女性を刺激するものなのか。


 美優は俺に腕を絡めて、寄り添って窓際の席へ向かう。すると窓際の席にショートヘアパーマ のツーブロックカット。爽やかな笑みが似合っていて、全体的に優しい雰囲気が漂っている。気品と爽やかさが溢れているイケメンが座っていた。美優のことを確かめると席を立って、美優の席を動かして座りやすくする気配り。歳からすると大学生後半のようだけど、誰なんだ?


「僕は某有名私立大学の3年生で名前を御剣尊《ミツルギタケル》という。美優についてきた君は誰なんだい?」


 爽やかな笑顔。きらりと光る眩しい瞳。チョーイケメン。茶系のスーツが似合っている。


「俺は蒼井奈留といいます。美優からは何も話を聞いていません。今日は一緒に夕飯を食べようって、ここに連れてこられました」

「そうだったのかい。美優の友達ということだね。遠慮なく座ってくれたまえ。1人奢るも2人奢るも大した料金じゃないし、全然かまわないよ」


 ここの夕食。代金、滅茶苦茶高そうなんですけど、それをいとも簡単に奢るということは良家の坊ちゃんか。平民の辛さを知れ。俺なんて、200円より上のものを買う時は真剣に考えるぞ。たとえカップラーメンでも。


 本当の社会のカーストトップと社会のカースト底辺の出会いとなったようだ。完全に外見も中身も敗北感いっぱいだ。


 俺は美優の隣の席に座る。イケメン男性は美優の対面に座る。


「ごめんね。たっちゃん。急に友達を連れてきて。こっちの男子は同級生のナル。最近とてもお友達になったの。たっちゃん、少しは気になる?」

「僕がなぜ高校生を気にしないといけないんだ? 僕は大学生で、これでも学内ではイケメンで有名なんだよ。それに両親は最良企業の上司。将来も有望だ。美優は振り向いてくれないけど、僕は毎日のように女子から告白をされるほどなんだ。君の友達とは雲泥の差だと思うんだが」


 この野郎。言いたいこと言いやがって、確かに俺はクラスの中でもカースト底辺の自覚はある。社会でもカーストの底辺かもしれないが、お前に馬鹿にされると虫生に腹が立つ。なぜだろう。普段は温厚な俺なのに、このイケメンに対しては本能的に受け付けない。


 俺が不機嫌そうな表情を出してしまったのがいけなかったのか、美優が俺の右手を両手でそっと握ってくる。別に美優に対して機嫌を損ねてるわけじゃないよ。このイケメンが妙にイヤなだけだ。


「君がそういう顔をする気持ちはよくわかる。きっとこんな場所で夕食を食べるのも初めてだから、緊張しているんだろう。大丈夫。誰にでも初めてということはある。失敗しても笑わないから、僕もそれぐらいは弁えている紳士さ」


 わかった。なぜここまで俺がこいつのことをイラつくのか。こいつ人の話を全く聞いてねーし、聞こうともしねータイプだ。完全に自己完結してやがる。意思の疎通なんて無理だ。だからイラつくんだ。俺は原因がわかって少し落ち着きを取り戻した。


 どうせどんな話題をしてもかみ合わないんだから、かみ合わないとわかってしまえば気が楽だ。俺も奴に合せないで会話していても、会話が妙に成り立ったように見えるだろう。


「今日はたっちゃんにお別れを言いに来たの。となりのナルね。私の新しい彼氏なの。だから、たっちゃんには私の事を諦めてもらいたいの。わかってくれる?」


 また彼氏役ですか。また変な奴の相手をしろっていうことね。大体、パターンがわかってきた。それにしても美優って変な男性ばかりに好かれているような気がするのは、俺だけだろうか?


「ああ、美優、僕の愛しい美優。またそうやって僕の心を試すのかい。本当に恋をよく知っている女の子だ。嫉妬は最高の調味料だからね。でも残念。今日、持ってきた調味料では僕が嫉妬することなどあり得ない」


 なんですとー! 一応、俺も男なんだぞ。高校2年生で、今まで彼女歴なし。モテ期なし。女子と話したのも美優が初めてくらいだけど、こんな俺だって、こんな俺だって・・・・・・クソっ自慢するところがねー!


「たっちゃんは凄いよ。いっぱい何でも持ってるもの。だからモテて当然だと思う。だから私ことは諦めて、早く他の女性を探してほしいの。私の好みは何にも持ってないけど、素直で笑顔が素敵な男子だから。わかってくれたかな? 理解してくれたかな?」


 美優、言うなら自信を持って言ってくれ。聞いてる俺の心にナイフがグサグサ刺さってるんですけど、本人の前で何も持ってないけどって・・・・・・涙が・・・・・・


「そこまで言うなら、彼を彼氏だというなら証拠を見せてもらおうか?」


 美優はコクリと頷くと、俺のほうを向いて、上目遣いで目をうるうると潤ませて、顔を近づけてくる。そして、もう少しで唇が重なるというところで、美優は目をつむって俺を待っている。


 おお、いきなりのファーストキス卒業のチャンス。奴も証拠を出せと言っている。美優もその気だ。俺がやらないでどうする。ビビる俺、唇を重ねればいいだけだ。


 俺は目をつむって軽く美優の唇と重ねた。


「のんのんのん、それぐらいなら誰でも演技はできるさ。ただ唇を重ねただけだからね。君達2人からは愛が感じられない。僕は愛を沢山知っている。愛の狩人さ。僕の目は誤魔化せないよ」


 すると美優は俺の首に手を回して、俺の口の中へ舌を入れて本気のディープキスをする。あまりの激しさに、俺の頭はパニックになる。なんて甘美なんだろう。初めてのキスがディープキスになるなんて、それも人前で美優からの本気の熱いキス。俺もだんだんと激しくなって美優を抱きしめて、俺も美優の口の中へ舌を絡ませる。


 どれほどの時間、2人でディープキスを続けていたんだろう。時間にして数分と思うけど、初めての俺にとっては数時間とも思える時間が経っていく。


「ああ、愛しい美優が、他の男子とこんなに熱いキスを交わすなんて。本当にそんな男が良かったんだね。それだと初めから僕に勝ち目などないじゃないか。なんでも持っている素晴らしい僕。何もない男子になどなれるはずもない。僕は初めからフラれていたんだね。やっと気が付いたよ。最後に美優に言っておこう。男性の趣味、少し悪いと思うから、少し自分を大切にしたほうがいい」


 はあ?俺だって未来に何かできるかもしれないじゃないか。今は可能性もないけどさ。


「君、ナル君といったね。初めて僕を負かした男として、君のことを覚えておこう。今日は2人のお祝いの日にしてくれたまえ。敗者は去るのみ。美優、困ったことがあったら僕を頼ってきてくれ。ナル君、美優を泣かす前に僕に相談するんだよ。では僕は行かせてもらう」


 俺と美優はまだディープキスを続けている。止まらない。止めたくない。もう理性が吹っ飛んで、何が何なのかわからない。


 御剣尊は俺達を置いて、レストランから去っていった。それでも俺達のディープキスは止まらない。


 するとウエイターがやってきた。


「お忙しい所、恐れ入ります。今日の支払いは御剣様が全て清算されて帰られましたので、ごゆっくりしてください」


 その言葉を聞いて、美優は我に返って、唇を放すと顔を真っ赤にして俯いて『ナルのファストキスいただきました。後、ナルのディープキスいただきました。ごちそうさま』と呟いた。


 美味しくいただいてくれてありがとうございます。


 2人共、夜景を見つめて、落ち着きを取り戻していく。そして落ち着いたところで、見つめあいながら、ゆっくりと夕食を取る。レストラン内は街の夜景の明かりが入ってきて、幻想的な雰囲気になっている。間接照明の配置も抜群だ。こんなムードのあるところで食事をとるのは初めてだ。


 美優とまたお金を貯めて来ようと約束して、言葉少なく、2人で微笑んで夕食を楽しんだ。
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