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50.戦略会議②
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僕達は王城の会議室で、エルファスト魔法王国との初戦について策を練っていた。
バンベルク王宮騎士団長がジロリと僕を睨む。
「魔導戦車とはどのような兵器かお話しいただけますか? もし王宮騎士団の行動を妨げるような兵器であれば、その兵器の使用を却下せざる得ませんからな」
「魔導戦車とは、金属で作った魔導車のことで、どんな悪路でも走れるように足回りに特殊な改良をほどこしてあるんだ。魔導戦車の前方、横、頭上には、風魔法の魔法陣が付与されていて、常に風の障壁を作って、矢や魔法の攻撃を防ぐ仕様になっている。魔導車の武器は、前面に取り付けられた風魔法の魔法陣で、ボタンを押せば、二十メートル先の岩でも吹き飛ばす威力がある」
魔導戦車に取り付けられた風の障壁の仕組みはエミーが考えたものだ。
魔導戦車は四方に窓があり、ガラスの代わりになる素材がなかったので、そのまま穴になっている。
そこを弓兵や魔法士に狙われれば、魔導車の中にいる者達が危険だ。
そのことを考慮して、悩んだ末に風の障壁を思いついたという。
バンベルク王宮騎士団長の眉がピクリと上がる。
「その魔導戦車に取り付けてある風の障壁は、集団戦となれば味方兵の動きを阻害するかもしれませんな。魔導戦車はどのように参戦するおつもりか?」
「魔導戦車は乱戦での運用を想定していません。まずは戦が起こった際、魔導戦車四十台をもって先鋒とし、魔法王国の先鋒を攪乱または壊滅させ、そのまま敵の中央を突破、そして敵の本陣を強襲します」
「待たれよ。魔導戦車の特攻にて、初戦を終わらせるおつもりか。どれほど魔導戦車が強力な兵器であろうと、それはあまりにも無謀な策ですぞ。それであれば戦場に何のために王宮騎士団がいると心得る」
眉間に青筋を立てて、バンベルク王宮騎士団長は片手を握りしめて机をバンと叩く。
もしかすると、王宮騎士団が愚弄されたと思ったのかもしれないな。
バンベルク王宮騎士団長がすぐカッとなるのは、いつものことだけどね。
僕は気にすることなく話を続ける。
「戦とは敵兵を殺した数を競うものではないと思う。特に魔法王国との初戦では、乱戦による泥沼の戦いは避けたいんだよね。そうなれば双方に死傷者が多数出るし、そうなると魔法王国にも遺恨が残る。そうなれば戦火は徐々に広がって、全面戦争になりかねない。僕はそうしたくないんだ」
「イアン殿下の言われている懸念はわかりますけど、戦とはそんなに簡単に勝敗のつくものではありません。魔導戦車のみで本陣を狙うとのいうのは、あまりに無謀ではありませんか?」
リシリアが心配そうに僕を見る。
僕の大きく頷き、両手を広げた。
「それほど無謀な作戦ではないんだよね。だって魔導戦車は金属でできてるから兵士が剣や槍で襲撃してきても、ちょっとやそっとでは金属の装甲を破ることはできないし、矢や魔法の攻撃も風魔法の障壁で守られているから通らない。魔導戦車の車輪の部分はキャタピラという特殊な車輪に改造しているから、悪路であってもひっくり返る心配もない。それに馬車の五倍ほどの速さで戦場を走っているから、誰にも止められる恐れもない。簡単に言えば、動き回っている魔導戦車を誰も止められないってこと」
前世の日本の記憶でも、陸戦の覇者は戦車だったからね。
なかなか、頭の中のイメージを皆に伝えるのは難しいけど。
僕がニコニコと説明していると、バンベルク王宮騎士団長は表情を歪めて、フンと鼻息を吐く。
「イアン殿下はよほど魔導戦車に自信を持っておられるらしい。そこまで言われるのでしたら、王宮騎士団は、魔導戦車が荒した戦場を前進いたしましょう。それで、その無謀な策を実行する将は誰が担うのですかな?」
「それは僕だよ。だって僕が提案したことだからね」
「ちょっと待て! その将は俺がやる! 俺にやらせろ!」
「イアンはダメよ! 十歳の子供に戦場は早すぎるわ!」
「イアン、そんな話は私は聞いていないぞ!」
僕の言葉に、アデル兄上、エミリア姉上、ローランド兄上のは席から立ち上がり大声で叫ぶ。
僕が魔導戦車を率いるとなったら、絶対に三人から止められると思っていた。
でも、この案は魔導戦車を作ろうとエミーに相談した時から考えていたことなんだ。
深呼吸を三回して、自分の気持ちを落ち着かせて、僕は話をきりだす。
「今回のエルファスト魔法王国との戦には、クリトニア王国の威信がかかっている。そうなると、総大将は王家の者が務めるのが相応だよね。ローランド兄上は国王代理だから王城を離れることができない。とすれば必然的にアデル兄上が総大将になる。エミリア姉上は「聖女」の加護で負傷兵の治療で忙しい。そうなると王家で僕だけが残ることになる。そして僕は魔導戦車の考案者だから、僕以上に魔導戦車の仕組みを知っている者はいない。だから僕が魔導車を率いることにしたんだよ」
「理屈はいいから、つべこべ言わずに、俺と総大将を代われ!」
「それはできないよ。だって王位継承権の順番で言えば、アデル兄上はローランド兄上の次なんだから。僕が魔導戦車を率いるほうが妥当なんだって」
怒鳴るアデル兄上に僕も言い返す。
だってアデル兄上やエミリア姉上だけ戦場に行くって、ちょっとズルい。
戦場は殺し合いの場所だから怖いけど、それ以上に魔導戦車の性能をこの目で確かめたいよね。
皆に何と言われようと、僕は絶対に戦場に行くからね。
バンベルク王宮騎士団長がジロリと僕を睨む。
「魔導戦車とはどのような兵器かお話しいただけますか? もし王宮騎士団の行動を妨げるような兵器であれば、その兵器の使用を却下せざる得ませんからな」
「魔導戦車とは、金属で作った魔導車のことで、どんな悪路でも走れるように足回りに特殊な改良をほどこしてあるんだ。魔導戦車の前方、横、頭上には、風魔法の魔法陣が付与されていて、常に風の障壁を作って、矢や魔法の攻撃を防ぐ仕様になっている。魔導車の武器は、前面に取り付けられた風魔法の魔法陣で、ボタンを押せば、二十メートル先の岩でも吹き飛ばす威力がある」
魔導戦車に取り付けられた風の障壁の仕組みはエミーが考えたものだ。
魔導戦車は四方に窓があり、ガラスの代わりになる素材がなかったので、そのまま穴になっている。
そこを弓兵や魔法士に狙われれば、魔導車の中にいる者達が危険だ。
そのことを考慮して、悩んだ末に風の障壁を思いついたという。
バンベルク王宮騎士団長の眉がピクリと上がる。
「その魔導戦車に取り付けてある風の障壁は、集団戦となれば味方兵の動きを阻害するかもしれませんな。魔導戦車はどのように参戦するおつもりか?」
「魔導戦車は乱戦での運用を想定していません。まずは戦が起こった際、魔導戦車四十台をもって先鋒とし、魔法王国の先鋒を攪乱または壊滅させ、そのまま敵の中央を突破、そして敵の本陣を強襲します」
「待たれよ。魔導戦車の特攻にて、初戦を終わらせるおつもりか。どれほど魔導戦車が強力な兵器であろうと、それはあまりにも無謀な策ですぞ。それであれば戦場に何のために王宮騎士団がいると心得る」
眉間に青筋を立てて、バンベルク王宮騎士団長は片手を握りしめて机をバンと叩く。
もしかすると、王宮騎士団が愚弄されたと思ったのかもしれないな。
バンベルク王宮騎士団長がすぐカッとなるのは、いつものことだけどね。
僕は気にすることなく話を続ける。
「戦とは敵兵を殺した数を競うものではないと思う。特に魔法王国との初戦では、乱戦による泥沼の戦いは避けたいんだよね。そうなれば双方に死傷者が多数出るし、そうなると魔法王国にも遺恨が残る。そうなれば戦火は徐々に広がって、全面戦争になりかねない。僕はそうしたくないんだ」
「イアン殿下の言われている懸念はわかりますけど、戦とはそんなに簡単に勝敗のつくものではありません。魔導戦車のみで本陣を狙うとのいうのは、あまりに無謀ではありませんか?」
リシリアが心配そうに僕を見る。
僕の大きく頷き、両手を広げた。
「それほど無謀な作戦ではないんだよね。だって魔導戦車は金属でできてるから兵士が剣や槍で襲撃してきても、ちょっとやそっとでは金属の装甲を破ることはできないし、矢や魔法の攻撃も風魔法の障壁で守られているから通らない。魔導戦車の車輪の部分はキャタピラという特殊な車輪に改造しているから、悪路であってもひっくり返る心配もない。それに馬車の五倍ほどの速さで戦場を走っているから、誰にも止められる恐れもない。簡単に言えば、動き回っている魔導戦車を誰も止められないってこと」
前世の日本の記憶でも、陸戦の覇者は戦車だったからね。
なかなか、頭の中のイメージを皆に伝えるのは難しいけど。
僕がニコニコと説明していると、バンベルク王宮騎士団長は表情を歪めて、フンと鼻息を吐く。
「イアン殿下はよほど魔導戦車に自信を持っておられるらしい。そこまで言われるのでしたら、王宮騎士団は、魔導戦車が荒した戦場を前進いたしましょう。それで、その無謀な策を実行する将は誰が担うのですかな?」
「それは僕だよ。だって僕が提案したことだからね」
「ちょっと待て! その将は俺がやる! 俺にやらせろ!」
「イアンはダメよ! 十歳の子供に戦場は早すぎるわ!」
「イアン、そんな話は私は聞いていないぞ!」
僕の言葉に、アデル兄上、エミリア姉上、ローランド兄上のは席から立ち上がり大声で叫ぶ。
僕が魔導戦車を率いるとなったら、絶対に三人から止められると思っていた。
でも、この案は魔導戦車を作ろうとエミーに相談した時から考えていたことなんだ。
深呼吸を三回して、自分の気持ちを落ち着かせて、僕は話をきりだす。
「今回のエルファスト魔法王国との戦には、クリトニア王国の威信がかかっている。そうなると、総大将は王家の者が務めるのが相応だよね。ローランド兄上は国王代理だから王城を離れることができない。とすれば必然的にアデル兄上が総大将になる。エミリア姉上は「聖女」の加護で負傷兵の治療で忙しい。そうなると王家で僕だけが残ることになる。そして僕は魔導戦車の考案者だから、僕以上に魔導戦車の仕組みを知っている者はいない。だから僕が魔導車を率いることにしたんだよ」
「理屈はいいから、つべこべ言わずに、俺と総大将を代われ!」
「それはできないよ。だって王位継承権の順番で言えば、アデル兄上はローランド兄上の次なんだから。僕が魔導戦車を率いるほうが妥当なんだって」
怒鳴るアデル兄上に僕も言い返す。
だってアデル兄上やエミリア姉上だけ戦場に行くって、ちょっとズルい。
戦場は殺し合いの場所だから怖いけど、それ以上に魔導戦車の性能をこの目で確かめたいよね。
皆に何と言われようと、僕は絶対に戦場に行くからね。
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