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46.自動判押し機
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イヤそうな表情を浮かべて猫背になっていたけど、アデル兄上はスライムを捕獲するため王都へと向かっていった。
王都の地下には昔々に作られた下水道があり、街から流れた汚水は地下の下水道に集まられ、そこでスライム達によって浄化されて川へと流されてるんだ。
特段にスライムを溜めるような池はなく、下水道の端には柵が張られていて、スライムは下水道の中を自由に行動して、汚水を分解して浄化してくれている。
どうしてアデル兄上にスライムの捕獲を頼んだのか、それはエルファスト魔法王国が魔法陣の研究のために魔蟲を養殖していると聞いたからだ。
アーリアの話しによれば、魔蟲というのは虫型の小型の魔獣のことを差すようだけど、僕は魔蟲を見たこともないし、魔蟲について詳しくもない。
だから、魔蟲の体液の代わりにスライムの体液を使おうと考えたんだ。
アデル兄上が部屋を出た後、アーリアは机で次々と羊皮紙に魔法陣を描いて、それをエミーに手渡した。
エミーは「判子を作る」と言って、ニコニコと笑いながら工房へと戻っていった。
その後にアーリアと二人でソファに座って談笑していると、後ろから白くて細い手が伸びて、何かにギュッと抱きしめられた。
「イアン、遊んで」
そういえばオーランがベッドで寝ていたことを忘れていたよ。
僕達の邪魔をしないように気遣ってくれていたのかな?
それから一週間が経ち、アデル兄上は下水道に潜って、檻一杯のスライムを捕獲してくれた。
今は、近衛兵達がその檻を監視し、城の使用人達がゴミを与えて、スライムの飼育を行っている。
スライムの飼育については、近衛兵団長のリシリアから小言を言われたけど、根が優しい彼女は眉をひそめながらも協力してくれた。
兵にお願いして、小さな樽にスライムを入れ、その中でスライムの核を壊してもらう。
そして、スライムの体液の入った小樽をアーリアの部屋まで運んでもらった。
スライムの体液に染料を混ぜて、インクとしてアーリアに使ってもらう。
描かれた魔法陣へ、アーリアが起動の詠唱を紡ぐと、魔法陣の上に小さな炎が灯った。
「実験は成功ですね」
「うん。これで第一段階はクリアーだね」
僕とアーリアはハイタッチをして喜び合う。
もしかするとダメかもと思っていたけど、これで魔蟲の体液の代用品として、スライムの体液を使うことができそうだ。
そして三日後、エミーが魔法陣の判を作って城を訪れた。
僕、アデル兄上、アーリア、エミーの四人は早速、魔法陣の判子を試してみることにした。
オーランは僕達の邪魔にならないように、ベッドの上でお菓子を食べている。
エミーが持ってきた判子は四つ。
それぞれの判にスライムの体液を塗り、羊皮紙の上に紋様が重なるようにして判を押していく。
完成した魔法陣へ、アーリアが起動の詠唱を紡ぐけど、魔法は発動しなかった。
どうして失敗したのか皆で調べたところ、判を押した時にインクが滲んだことが原因だった。
エミーは失敗した魔法陣を見て、眉間にシワを寄せる。
「どうしても判を押すと、インクが少し滲んでしまうわね」
「一回に使用するインクの分量が多すぎなのかも。それに、インクの染料とスライムの体液の比率を変えてみるのもいいかもしれない」
何度か思考錯誤しながら実験を繰り返した後、判子を重ねて描いた魔法陣は、小さな炎を灯すことに成功した。
その結果を皆で手を叩き合って喜んだ後、「もっと改良して機械にしてくる」と言って、エミーはスライムの体液の入った小樽を抱えて、部屋を飛び出していった。
それから一週間が経ち、エミーが魔法陣を描く、自動判押し機を完成させた。
エミーに呼び出されてアデル兄上と一緒に工房へ行くと、中央の車輪に四つのハンマー型の判が取り付けられている機械が設置されていた。
羊皮紙を機械にセットすると、一つ目の判が下がってきて、羊皮紙に判を押す。
そして印字が終わると、車輪が付いている柱が高く持ち上がり、車輪がクルっと回って、次の判子がセットされ、柱が下がってきて判を押す。
機械が動く様子を見て、僕は首を傾げる。
「あれ? スライムの体液のインクを塗る工程が見当たらないんだけど」
「ハンマー型の判子の中が空洞になっていて、そこにインクを入れてるのよ。機械が作動すると、判子の中の気圧が変化して、一定量のインクが判子の表面に滲み出る仕組みなの」
それって、前世の日本の印刷機で応用されていた技術じゃないか。
その仕組みをエミーが一人で考えたとすれば、すごい才能だよ。
前々から多彩なアイデアの持ち主だとは思っていたけど、いつもエミーには驚かされる。
僕、アデル兄上、エミーの三人は、機械によって描かれた魔法陣の羊皮紙を持って、城のアーリアの元へと向かった。
部屋に入ってきた僕達の姿を見ると、オーランはノロノロとベッドまで歩いていき、ゴロンと寝転がった。
話の邪魔にならないように、オーランらしい気遣いだよね。
エミーは機械で描いた魔法陣の羊皮紙をアーリアに手渡し、彼女に魔法陣を起動してもらう。
すると机の上に置かれた魔法陣の上に、小さな炎がボッと現れた。
その炎を見た、アデル兄上は床にドカッと胡坐をかいて、太い腕で自分の顔を隠した。
よく見ると、グスグスと泣いているようだ。
「どうしたの? お腹でも痛くなった?」
「違う……こんなに苦労して、皆で色々と考えて機械まで作って……モノ作りって凄いんだなと思ったら、なんだか感動が込み上げてきて……涙が止まらねーんだ」
僕達王家は、欲しいモノは、城にいる者達に指示を出せばいいからね。
アデル兄上は武術を極めるために努力はしているけど、モノ作りは初めてだ。
それに皆で智恵を出し合って一つのモノを完成させるなんて、アデル兄上にはしたことがなかったから、すごく嬉しいんだろうな。
モノ作りって、失敗も多いし、苦労も多いけど、でも完成させた時、大きな感動があるよね。
エミーとアーリアの顔を見ると、二人とも瞳をウルウルと潤ませている。
あ……皆を見ていたら、なんだか僕まで嬉しくて涙が出てきたよ。
王都の地下には昔々に作られた下水道があり、街から流れた汚水は地下の下水道に集まられ、そこでスライム達によって浄化されて川へと流されてるんだ。
特段にスライムを溜めるような池はなく、下水道の端には柵が張られていて、スライムは下水道の中を自由に行動して、汚水を分解して浄化してくれている。
どうしてアデル兄上にスライムの捕獲を頼んだのか、それはエルファスト魔法王国が魔法陣の研究のために魔蟲を養殖していると聞いたからだ。
アーリアの話しによれば、魔蟲というのは虫型の小型の魔獣のことを差すようだけど、僕は魔蟲を見たこともないし、魔蟲について詳しくもない。
だから、魔蟲の体液の代わりにスライムの体液を使おうと考えたんだ。
アデル兄上が部屋を出た後、アーリアは机で次々と羊皮紙に魔法陣を描いて、それをエミーに手渡した。
エミーは「判子を作る」と言って、ニコニコと笑いながら工房へと戻っていった。
その後にアーリアと二人でソファに座って談笑していると、後ろから白くて細い手が伸びて、何かにギュッと抱きしめられた。
「イアン、遊んで」
そういえばオーランがベッドで寝ていたことを忘れていたよ。
僕達の邪魔をしないように気遣ってくれていたのかな?
それから一週間が経ち、アデル兄上は下水道に潜って、檻一杯のスライムを捕獲してくれた。
今は、近衛兵達がその檻を監視し、城の使用人達がゴミを与えて、スライムの飼育を行っている。
スライムの飼育については、近衛兵団長のリシリアから小言を言われたけど、根が優しい彼女は眉をひそめながらも協力してくれた。
兵にお願いして、小さな樽にスライムを入れ、その中でスライムの核を壊してもらう。
そして、スライムの体液の入った小樽をアーリアの部屋まで運んでもらった。
スライムの体液に染料を混ぜて、インクとしてアーリアに使ってもらう。
描かれた魔法陣へ、アーリアが起動の詠唱を紡ぐと、魔法陣の上に小さな炎が灯った。
「実験は成功ですね」
「うん。これで第一段階はクリアーだね」
僕とアーリアはハイタッチをして喜び合う。
もしかするとダメかもと思っていたけど、これで魔蟲の体液の代用品として、スライムの体液を使うことができそうだ。
そして三日後、エミーが魔法陣の判を作って城を訪れた。
僕、アデル兄上、アーリア、エミーの四人は早速、魔法陣の判子を試してみることにした。
オーランは僕達の邪魔にならないように、ベッドの上でお菓子を食べている。
エミーが持ってきた判子は四つ。
それぞれの判にスライムの体液を塗り、羊皮紙の上に紋様が重なるようにして判を押していく。
完成した魔法陣へ、アーリアが起動の詠唱を紡ぐけど、魔法は発動しなかった。
どうして失敗したのか皆で調べたところ、判を押した時にインクが滲んだことが原因だった。
エミーは失敗した魔法陣を見て、眉間にシワを寄せる。
「どうしても判を押すと、インクが少し滲んでしまうわね」
「一回に使用するインクの分量が多すぎなのかも。それに、インクの染料とスライムの体液の比率を変えてみるのもいいかもしれない」
何度か思考錯誤しながら実験を繰り返した後、判子を重ねて描いた魔法陣は、小さな炎を灯すことに成功した。
その結果を皆で手を叩き合って喜んだ後、「もっと改良して機械にしてくる」と言って、エミーはスライムの体液の入った小樽を抱えて、部屋を飛び出していった。
それから一週間が経ち、エミーが魔法陣を描く、自動判押し機を完成させた。
エミーに呼び出されてアデル兄上と一緒に工房へ行くと、中央の車輪に四つのハンマー型の判が取り付けられている機械が設置されていた。
羊皮紙を機械にセットすると、一つ目の判が下がってきて、羊皮紙に判を押す。
そして印字が終わると、車輪が付いている柱が高く持ち上がり、車輪がクルっと回って、次の判子がセットされ、柱が下がってきて判を押す。
機械が動く様子を見て、僕は首を傾げる。
「あれ? スライムの体液のインクを塗る工程が見当たらないんだけど」
「ハンマー型の判子の中が空洞になっていて、そこにインクを入れてるのよ。機械が作動すると、判子の中の気圧が変化して、一定量のインクが判子の表面に滲み出る仕組みなの」
それって、前世の日本の印刷機で応用されていた技術じゃないか。
その仕組みをエミーが一人で考えたとすれば、すごい才能だよ。
前々から多彩なアイデアの持ち主だとは思っていたけど、いつもエミーには驚かされる。
僕、アデル兄上、エミーの三人は、機械によって描かれた魔法陣の羊皮紙を持って、城のアーリアの元へと向かった。
部屋に入ってきた僕達の姿を見ると、オーランはノロノロとベッドまで歩いていき、ゴロンと寝転がった。
話の邪魔にならないように、オーランらしい気遣いだよね。
エミーは機械で描いた魔法陣の羊皮紙をアーリアに手渡し、彼女に魔法陣を起動してもらう。
すると机の上に置かれた魔法陣の上に、小さな炎がボッと現れた。
その炎を見た、アデル兄上は床にドカッと胡坐をかいて、太い腕で自分の顔を隠した。
よく見ると、グスグスと泣いているようだ。
「どうしたの? お腹でも痛くなった?」
「違う……こんなに苦労して、皆で色々と考えて機械まで作って……モノ作りって凄いんだなと思ったら、なんだか感動が込み上げてきて……涙が止まらねーんだ」
僕達王家は、欲しいモノは、城にいる者達に指示を出せばいいからね。
アデル兄上は武術を極めるために努力はしているけど、モノ作りは初めてだ。
それに皆で智恵を出し合って一つのモノを完成させるなんて、アデル兄上にはしたことがなかったから、すごく嬉しいんだろうな。
モノ作りって、失敗も多いし、苦労も多いけど、でも完成させた時、大きな感動があるよね。
エミーとアーリアの顔を見ると、二人とも瞳をウルウルと潤ませている。
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