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42.魔法陣について①
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ベッドで静かに横になっている父上へ、ローランド兄上が玉座の間で話していた内容を語る。
それを黙って聞いていた父上は、両腕を支えに上半身を起こしてきた。
「お父様! 動いてはお体に触ります!」
「よい。このような話を体を横にしては聞けぬ」
そのことに驚いたエミリア姉上が手を差し伸べて父上を抱き起す。
ベッドに座った父上はゆっくりと僕達一人一人の顔を確かめるように見つめた。
「話はわかった。クリトニア王国を発展させ、エルファスト魔法王国とバルドハイン帝国と対等な立場で、両国と和平を保っていきたい。三人の意見はそれでよいか?」
「そうです」
「そうであれば、クリトニア王国を強国にするしか他に方法はない。両国と張りあえるほどの軍事力、技術力、経済力、両国と駆け引きできる外交力、そのどれが欠けても、両国と対等にはなれぬぞ」
「このまま両国の言われるがままに甘んじていれば、この先、百年、二百年の後には、クリトニア王国は滅びていることでしょう」
「うむ、私も若い頃はよく考えたものだ。何時の頃からか現状に安住するようになってしまったがな」
「先ほどもお話しした通り、今、クリトニア王国は発展の兆しにあります。ですので、その軌道に乗って王国の舵をきりたいのです」
ローランド兄上は胸を張って堂々を応えた。
その言葉を聞いた父上は深く頷く。
「であればローランドよ。お前に国王代理を任せたのは余だ。余の代わりに王国の未来を導くがよい。エミリア、イアン、二人もローランドを助けて励むように」
それからしばらく父上と僕達三人は近況を話し合い、父上の部屋を後にした。
ローランド兄上はアーリアの護衛について、バンベルク騎士団長とリシリア近衛兵団長と協議をしてくると言って一人で去っていった。
エミリア姉上も私室へと向かい、僕は一人でオーランとアーリアが待つ自室へと戻った。
部屋に入ると、二人は長椅子に座って、肩を寄せ合って居眠りをしていた。
僕も疲れたし、この隙に少し眠ろうかな。
ベッドに横になると、すぐに睡魔によって夢の中へと誘われた。
夕方頃に目覚めると部屋にはアーリアだけで、オーランの姿はなかった。
「あれ? オーランは?」
「街へ行くと言って、さっき窓から飛び降りていきましたよ」
アーリアの護衛を頼んでいたのに、今は僕と一緒にいるからいいけどね。
気分を切り替えた僕は、向かいのソファに座ってアーリアに問う。
「質問なんだけど、どうして魔導士でないと魔法の分析や開発ができないの?」
「そうですね……魔法の詠唱句で例えると、大規模な魔法を使用する時、詠唱する句も長くなって複雑になりますよね。それと同じで、幾つもの魔法陣が必要になって、それを重ねて描かないといけないんですよ。魔法陣ってパッと見た目には一つの紋様に見えますけど、実は多重構造になってるんです」
一つの魔法陣が、詠唱の句の一つということかな。
魔法の規模が大きくなると、それだけ句の数も多くなる。
その幾つもの句を一つに重ね合わせて発音するような感じかも。
それなら分析が難しいのもわかるな。
僕は姿勢を正して、真っ直ぐにアーリアを見る。
「アーリア、君については王家が責任を持って保護する。いつまでもクリトニア王国に居てもらって構わない。危険のある間は城から出るのは禁止だけど、危険がなくなれば王都へ行くことも許可される。その代わりにちょっとお願いがあるんだ」
「ということは、魔法陣の分析と開発ですね。私のような魔導士を匿う理由はそれしかないですからね。危険がなくなれば街に出ていいなら、お引き受けしていいですよ」
もっとゴネられると思ったけど、案外と簡単に引き受けてもらえてよかったよ。
「もう一つ質問なんだけど、魔法陣をどのように描いて、魔道具は動くようになってるの?」
「まずは金属の板に魔法陣を描いて、その魔法陣から魔法を放出する仕組みが一般的です。場合によっては金属の板を縦にしたり、斜めにしたり。金属の板や魔法陣の大きさも、魔道具によって違いますけど」
「魔法陣を描くには特殊な塗料が必要なの?」
「はい。エルファスト魔法王国の研究所では、養殖した魔蟲の体液を使っていました。なければ魔獣の血でも代用できますけど、新鮮でないと魔法陣が発動しない場合があります」
いちいち魔法陣を描く度に、魔獣を討伐していれば時間がかかるよね。
魔蟲の養殖なんて考えてもみなかった。
さすがはエルファスト魔法王国だね。
『プリミチブの樹海』に行けば多くの魔獣が生息してるけど、樹海から王都まではい週間ほどかかる。
魔法陣を描くのに新鮮な血が必要なら、樹海から運ぶには無理があるね。
クリトニア王国内には『プリミチブの樹海』の他にも魔獣の森が点在している。
アデル兄上が城へ戻ってきていたら、相談してみようかな。
それを黙って聞いていた父上は、両腕を支えに上半身を起こしてきた。
「お父様! 動いてはお体に触ります!」
「よい。このような話を体を横にしては聞けぬ」
そのことに驚いたエミリア姉上が手を差し伸べて父上を抱き起す。
ベッドに座った父上はゆっくりと僕達一人一人の顔を確かめるように見つめた。
「話はわかった。クリトニア王国を発展させ、エルファスト魔法王国とバルドハイン帝国と対等な立場で、両国と和平を保っていきたい。三人の意見はそれでよいか?」
「そうです」
「そうであれば、クリトニア王国を強国にするしか他に方法はない。両国と張りあえるほどの軍事力、技術力、経済力、両国と駆け引きできる外交力、そのどれが欠けても、両国と対等にはなれぬぞ」
「このまま両国の言われるがままに甘んじていれば、この先、百年、二百年の後には、クリトニア王国は滅びていることでしょう」
「うむ、私も若い頃はよく考えたものだ。何時の頃からか現状に安住するようになってしまったがな」
「先ほどもお話しした通り、今、クリトニア王国は発展の兆しにあります。ですので、その軌道に乗って王国の舵をきりたいのです」
ローランド兄上は胸を張って堂々を応えた。
その言葉を聞いた父上は深く頷く。
「であればローランドよ。お前に国王代理を任せたのは余だ。余の代わりに王国の未来を導くがよい。エミリア、イアン、二人もローランドを助けて励むように」
それからしばらく父上と僕達三人は近況を話し合い、父上の部屋を後にした。
ローランド兄上はアーリアの護衛について、バンベルク騎士団長とリシリア近衛兵団長と協議をしてくると言って一人で去っていった。
エミリア姉上も私室へと向かい、僕は一人でオーランとアーリアが待つ自室へと戻った。
部屋に入ると、二人は長椅子に座って、肩を寄せ合って居眠りをしていた。
僕も疲れたし、この隙に少し眠ろうかな。
ベッドに横になると、すぐに睡魔によって夢の中へと誘われた。
夕方頃に目覚めると部屋にはアーリアだけで、オーランの姿はなかった。
「あれ? オーランは?」
「街へ行くと言って、さっき窓から飛び降りていきましたよ」
アーリアの護衛を頼んでいたのに、今は僕と一緒にいるからいいけどね。
気分を切り替えた僕は、向かいのソファに座ってアーリアに問う。
「質問なんだけど、どうして魔導士でないと魔法の分析や開発ができないの?」
「そうですね……魔法の詠唱句で例えると、大規模な魔法を使用する時、詠唱する句も長くなって複雑になりますよね。それと同じで、幾つもの魔法陣が必要になって、それを重ねて描かないといけないんですよ。魔法陣ってパッと見た目には一つの紋様に見えますけど、実は多重構造になってるんです」
一つの魔法陣が、詠唱の句の一つということかな。
魔法の規模が大きくなると、それだけ句の数も多くなる。
その幾つもの句を一つに重ね合わせて発音するような感じかも。
それなら分析が難しいのもわかるな。
僕は姿勢を正して、真っ直ぐにアーリアを見る。
「アーリア、君については王家が責任を持って保護する。いつまでもクリトニア王国に居てもらって構わない。危険のある間は城から出るのは禁止だけど、危険がなくなれば王都へ行くことも許可される。その代わりにちょっとお願いがあるんだ」
「ということは、魔法陣の分析と開発ですね。私のような魔導士を匿う理由はそれしかないですからね。危険がなくなれば街に出ていいなら、お引き受けしていいですよ」
もっとゴネられると思ったけど、案外と簡単に引き受けてもらえてよかったよ。
「もう一つ質問なんだけど、魔法陣をどのように描いて、魔道具は動くようになってるの?」
「まずは金属の板に魔法陣を描いて、その魔法陣から魔法を放出する仕組みが一般的です。場合によっては金属の板を縦にしたり、斜めにしたり。金属の板や魔法陣の大きさも、魔道具によって違いますけど」
「魔法陣を描くには特殊な塗料が必要なの?」
「はい。エルファスト魔法王国の研究所では、養殖した魔蟲の体液を使っていました。なければ魔獣の血でも代用できますけど、新鮮でないと魔法陣が発動しない場合があります」
いちいち魔法陣を描く度に、魔獣を討伐していれば時間がかかるよね。
魔蟲の養殖なんて考えてもみなかった。
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魔法陣を描くのに新鮮な血が必要なら、樹海から運ぶには無理があるね。
クリトニア王国内には『プリミチブの樹海』の他にも魔獣の森が点在している。
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