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6.魔道具の高騰
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僕達がベルムント辺境伯の邸に滞在してから一週間後、バルドハイン帝国からの使者が邸を訪れた。
辺境伯領に近いバルドハイン帝国の諸侯が、ベレンドルフ伯爵の代わりに戦後の交渉のテーブルにつくこととなった。
アドルフ第七皇子が捕まっていることもあり、交渉はスムーズに行われ、捕虜の兵士の身代金、戦についての損害賠償については、全面的に辺境伯のベルムント思惑通りに話が進んだ。
交渉が終了し、アドルフ第七皇子とベレンドルフ伯爵は開放されることになった。
二人が領都から護送されるのを見届けた後、僕、アデル兄上、エミリア姉上の三人は、王都へ向けて出発した。
対面の椅子に座っていたアデル兄上が僕とエミリア姉上に向けて頭を下げる。
「エミリア姉上、イアン、悪かったな。アドルフ第七皇子に会って反省した。もし戦に負けていたら、俺がアドルフ第七皇子の立場になって、王宮に迷惑をかけていた」
「わかってくれたならいいわ」
「今回のことでわかった。今の俺には王位に就けるほどの技量はない。これからはローランド兄上を支えていこうと思う」
アドルフ第七皇子の姿が、アデル兄上には自分と重なって映ったんだろうな。
偶然とはいえ、これでアデル兄上の王位への熱が冷めてよかった。
ベルムント辺境伯領を出発してから一週間後、僕達は王都へと到着した。
そしてアデル兄上はローランド兄上、宰相と話し合って、兄上達二人は和解した。
しかし、国境での戦いにおいてアデル兄上が活躍したことが、王城内に噂として広がり、未だにアデル兄上を王位に就けようとする一派が盛り上がることになった。
それをアデル兄上が一蹴して、勢いづく貴族達を黙らせたけど、まだ諦めきれていいないらしい。
王城に戻ってきて一週間、自室でノンビリと本を読んでいると、扉を開いてローランド兄上が飛び込んできた。
「今度はいったいどうしたの?」
「最近、エルファスト魔法王国から入ってくる魔道具の値段が上がって、それに乗じた大商会が在庫を貯めこんで、売り渋りを行ってるらしいんだ。このままでは王国内の魔道具が品薄になり、庶民が困窮することになる」
僕の膝の上に突っ伏して泣き言をいうローランド兄上の髪をそっと撫でた。
エルファスト魔法王国はその名の通り、魔法と魔道具についての先進国である。
クリトニア王国はエルファスト魔法王国に対抗するだけの魔法技術を持っていない。
よって魔法王国から流れてくる様々な魔道具に頼っている。
王都で利用されている街灯の魔導ランプ、冒険者や商人達の必須アイテムであるマジックバックなど、魔法王国からの魔道具は多岐にわたる。
その魔道具の数量が少なくなれば、安価での流通が難しくなり、庶民は困ることになる。
だから言って、王宮から大商会へ通達しても、素直に従うとは思えないよね。
三十分ほど弱音を言っていたローランド兄上は、気持ちが落ち着いてきたのか、冷静な顔つきに戻った。
「イアン、ありがとう。いつもいつも弱音を聞いてくれて」
「それはいいんだけど、何か方策はあるの?」
「たぶん今回の魔道具の値段の上昇は、さしあたっては大商会を説得するしか方向はないな。日が経てば魔道具の値段も上がり止まりになるだろうし、今までのエルファスト魔法王国のやり口を考えると、いつまでも高値が続くとは思えない」
クリトニア王国はバルドハイン帝国とエルファスト魔法王国という強国に挟まれているせいで、両国からたびたび嫌がらせを受ける。
穀物類を豊富に算出するクリトニア王国は、両国からすれば欲しい領土ではあるが、互いに衝突することを避けているため、クリトニア王国へ本格的に侵攻してくることはないのだ。
しかし、強国であることを誇示するように、色々と仕掛けてくるんだよね。
それもこれも、クリトニア王国が両国よりも弱小国と思われていることが原因なんだけど。
そこまで考えて、僕は大きく息を吐いて、ローランド兄上を見つめる。
「いつまでも他国から流れてくる魔道具に頼っていてはダメかもしれないね」
「かといって、魔法技術についてはエルファスト魔法王国に敵わない。複雑な魔法陣を解析するには、それなりに専門の魔法士が必要になる。我が王国の魔法士に、それほどの技術を持った者はいないぞ」
魔道具は魔石のエネルギーを原料に魔法陣で動いている。
高度で複雑な魔法陣を組めば、それだけ魔法具の機能もあがる。
複雑な魔法陣を解析して作れるように魔法士を育成にするには何年もかかるだろう。
今から魔法士を育てていたのでは遅い。
であれば、違う方法……日本のような機械を作ってみてはどうだろうか?
そうすれば、エルファスト魔法王国に対抗する手段になるかもしれないよね。
辺境伯領に近いバルドハイン帝国の諸侯が、ベレンドルフ伯爵の代わりに戦後の交渉のテーブルにつくこととなった。
アドルフ第七皇子が捕まっていることもあり、交渉はスムーズに行われ、捕虜の兵士の身代金、戦についての損害賠償については、全面的に辺境伯のベルムント思惑通りに話が進んだ。
交渉が終了し、アドルフ第七皇子とベレンドルフ伯爵は開放されることになった。
二人が領都から護送されるのを見届けた後、僕、アデル兄上、エミリア姉上の三人は、王都へ向けて出発した。
対面の椅子に座っていたアデル兄上が僕とエミリア姉上に向けて頭を下げる。
「エミリア姉上、イアン、悪かったな。アドルフ第七皇子に会って反省した。もし戦に負けていたら、俺がアドルフ第七皇子の立場になって、王宮に迷惑をかけていた」
「わかってくれたならいいわ」
「今回のことでわかった。今の俺には王位に就けるほどの技量はない。これからはローランド兄上を支えていこうと思う」
アドルフ第七皇子の姿が、アデル兄上には自分と重なって映ったんだろうな。
偶然とはいえ、これでアデル兄上の王位への熱が冷めてよかった。
ベルムント辺境伯領を出発してから一週間後、僕達は王都へと到着した。
そしてアデル兄上はローランド兄上、宰相と話し合って、兄上達二人は和解した。
しかし、国境での戦いにおいてアデル兄上が活躍したことが、王城内に噂として広がり、未だにアデル兄上を王位に就けようとする一派が盛り上がることになった。
それをアデル兄上が一蹴して、勢いづく貴族達を黙らせたけど、まだ諦めきれていいないらしい。
王城に戻ってきて一週間、自室でノンビリと本を読んでいると、扉を開いてローランド兄上が飛び込んできた。
「今度はいったいどうしたの?」
「最近、エルファスト魔法王国から入ってくる魔道具の値段が上がって、それに乗じた大商会が在庫を貯めこんで、売り渋りを行ってるらしいんだ。このままでは王国内の魔道具が品薄になり、庶民が困窮することになる」
僕の膝の上に突っ伏して泣き言をいうローランド兄上の髪をそっと撫でた。
エルファスト魔法王国はその名の通り、魔法と魔道具についての先進国である。
クリトニア王国はエルファスト魔法王国に対抗するだけの魔法技術を持っていない。
よって魔法王国から流れてくる様々な魔道具に頼っている。
王都で利用されている街灯の魔導ランプ、冒険者や商人達の必須アイテムであるマジックバックなど、魔法王国からの魔道具は多岐にわたる。
その魔道具の数量が少なくなれば、安価での流通が難しくなり、庶民は困ることになる。
だから言って、王宮から大商会へ通達しても、素直に従うとは思えないよね。
三十分ほど弱音を言っていたローランド兄上は、気持ちが落ち着いてきたのか、冷静な顔つきに戻った。
「イアン、ありがとう。いつもいつも弱音を聞いてくれて」
「それはいいんだけど、何か方策はあるの?」
「たぶん今回の魔道具の値段の上昇は、さしあたっては大商会を説得するしか方向はないな。日が経てば魔道具の値段も上がり止まりになるだろうし、今までのエルファスト魔法王国のやり口を考えると、いつまでも高値が続くとは思えない」
クリトニア王国はバルドハイン帝国とエルファスト魔法王国という強国に挟まれているせいで、両国からたびたび嫌がらせを受ける。
穀物類を豊富に算出するクリトニア王国は、両国からすれば欲しい領土ではあるが、互いに衝突することを避けているため、クリトニア王国へ本格的に侵攻してくることはないのだ。
しかし、強国であることを誇示するように、色々と仕掛けてくるんだよね。
それもこれも、クリトニア王国が両国よりも弱小国と思われていることが原因なんだけど。
そこまで考えて、僕は大きく息を吐いて、ローランド兄上を見つめる。
「いつまでも他国から流れてくる魔道具に頼っていてはダメかもしれないね」
「かといって、魔法技術についてはエルファスト魔法王国に敵わない。複雑な魔法陣を解析するには、それなりに専門の魔法士が必要になる。我が王国の魔法士に、それほどの技術を持った者はいないぞ」
魔道具は魔石のエネルギーを原料に魔法陣で動いている。
高度で複雑な魔法陣を組めば、それだけ魔法具の機能もあがる。
複雑な魔法陣を解析して作れるように魔法士を育成にするには何年もかかるだろう。
今から魔法士を育てていたのでは遅い。
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