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3.いざ国境へ
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王都を出発してから三日目の昼過ぎに、王宮騎士団に追いついた。
アデル兄上の隣にいたバンベルク騎士団長が鼻息を荒くする。
「我が王宮騎士団が本気を出せば、国境に出張っているバルドハイン帝国軍など一蹴してみせる。あまり見くびらないでいただきたい」
「国境は制することはできるだろうね。でも、そのことでバルドハイン帝国が本気になって大軍で攻めてきたら、どうやって王国を守るつもりなの? 王宮騎士団長なら完璧に勝てる算段があるんだよね?」
「それは……軍備を増強すれば……」
バンベルク騎士団長は苦々しい表情をして言葉を濁す。
それと入れ替わるように、ドルムント辺境伯が口を開いた。
「では国境に展開しているバルドハイン帝国軍をどうするのだ? また我が兵士だけで対応しろというのか? 王宮は我が領地に応援を出さないおつもりか?」
ドルムント辺境伯の領地はバルドハイン帝国軍が現れた国境を含む地域だ。
領地を侵攻されようとしている当事者として、言い分があることは理解できる。
しかし、このまま王宮騎士団を国境へ向かわせるのは危険だ。
僕と同じことを考えていたようで、エミリア姉上はゆっくりと首を左右に振る。
「それでも王宮騎士団を派兵することはできないわ」
「それならどうすればいいんだよ! ここまで来て引き返せるわけないだろ!」
僕達二人に止められて、アデル兄上は顏を紅潮させて怒鳴り声をあげた。
意気揚々と王宮騎士団を従えてここまで来たのだから、このまま引き返したくないのだろうな。
エミリア姉上の気持ちもわかるし、アデル兄上の気持ちもわかる。
僕は二人へ視線を送り、手をパンパンと叩いた。
「それならアデル兄上は王宮の代表として、ドルムント辺境伯と一緒に国境に行くのはどうかな? アデル兄上だけで不満なら、エミリア姉上と僕も一緒に行くよ。まさか王家が三人も参戦するのに不服はないよね」
「それは心強いことですな」
ドルムント辺境伯は奥歯を噛んで悔しい表情をする。
その隣でバンベルク騎士団長が僕を睨んでいた。
王家の三人が参戦するなら、それは王宮の代表ということになる。
これなら王宮が援軍を出さないとはならない。
僕はスタスタとアデル兄上の前まで歩き、ニッコリと笑う。
「これでアデル兄上は戦に出られるよ。初陣だから怪我しないように頑張ってね」
「おう、必ず勝利を掴み取るぜ!」
やっぱりアデル兄上は戦に出たかっただけで、深くは考えてはいないようだね。
根が単純で大雑把だから助かったよ。
エミリア姉上はニコリと微笑み、騎士団長に向けて手をかざした。
「王宮騎士団は王都へ戻るように。私達はドルムント辺境伯と共に国境へ向かいます」
「少しお待ちを。殿下達だけで戦線に向かわせるわけにはいかん。王宮騎士団の中から数名の騎士を共に付けよう」
「では、私達を護衛してきたクライス達に共に来てもらいましょう」
「お心のままに」
バンベルク騎士団長は渋い表情で頷いて、後ろへと下がる。
そして王宮騎士団の全兵士に向けて王都へ帰還する指示をだした。
王宮騎士団が王都へ向かう姿を見届け、僕とエミリア姉上は馬車に乗り込み、アデル兄上とベルムンド辺境伯は馬に乗って、国境に向けて出発した。
僕の対面に座っているエミリア姉上が大きく息を吐く。
「私達は国境に向かってよかったのかしら?」
「いつもの小競り合いであれば、バルドハイン帝国もクリトニア王国に本気で戦を仕掛けてきてないと思うよ。それならアデル兄上もヤル気になってるし、好きにさせてあげればいいかなって」
「それならアデル一人で行かせれば良かったじゃない。どうして私達も一緒に行くの?」
「アデル兄上だけ戦地へ行かせれば、その功は兄上を擁立するアデル派の功績になっちゃうでしょ。でも僕とエミリア姉上が一緒に向かえば、その功は王宮ということになるよね」
「イアン、頭いい! そこまで考えていなかったわ!」
興奮したエミリア姉上が両手を広げ、僕の体をギュッと抱きしめる。
アデル兄上と合流して五日後、僕達の一行はベルムント辺境伯の領都に到着し、辺境伯の邸で一泊した後に国境へと出発した。
領都から国境までは馬車で二日ほどの距離だった。
国境の草原では、バルドハイン帝国軍、ベルムント辺境伯軍が互い陣を張り、睨み合う硬直状態になっていた。
バルドハイン帝国軍の兵数は約三百。
辺境伯軍の兵数は約二百五十。
敵軍の兵の数から、バルドハイン帝国が本気でクリトニア王国へ侵攻するつもりがないことがわかる。
ベルムント辺境伯、アデル兄上、僕、エミリア姉上の四人は、自陣の天幕の中へと入り、辺境伯とアデル兄上が軍議を始め、僕とエミリア姉は二人を見守ることにした。
「ここは横陣で一気に敵軍に攻め入るのがいいだろう」
「そうですな。兵の数もほぼ互角。アデル殿下の采配であれば、兵士達も奮い立つこと間違いなし。必ずや我らが勝利するでしょう」
どうやらアデル兄上も辺境伯も力技のごり押しで戦を進めるつもりのようだ。
兵数が互角であれば、勝つも負けるも運次第。
勢いだけで戦をするのは危ないかもしれないな。
アデル兄上の隣にいたバンベルク騎士団長が鼻息を荒くする。
「我が王宮騎士団が本気を出せば、国境に出張っているバルドハイン帝国軍など一蹴してみせる。あまり見くびらないでいただきたい」
「国境は制することはできるだろうね。でも、そのことでバルドハイン帝国が本気になって大軍で攻めてきたら、どうやって王国を守るつもりなの? 王宮騎士団長なら完璧に勝てる算段があるんだよね?」
「それは……軍備を増強すれば……」
バンベルク騎士団長は苦々しい表情をして言葉を濁す。
それと入れ替わるように、ドルムント辺境伯が口を開いた。
「では国境に展開しているバルドハイン帝国軍をどうするのだ? また我が兵士だけで対応しろというのか? 王宮は我が領地に応援を出さないおつもりか?」
ドルムント辺境伯の領地はバルドハイン帝国軍が現れた国境を含む地域だ。
領地を侵攻されようとしている当事者として、言い分があることは理解できる。
しかし、このまま王宮騎士団を国境へ向かわせるのは危険だ。
僕と同じことを考えていたようで、エミリア姉上はゆっくりと首を左右に振る。
「それでも王宮騎士団を派兵することはできないわ」
「それならどうすればいいんだよ! ここまで来て引き返せるわけないだろ!」
僕達二人に止められて、アデル兄上は顏を紅潮させて怒鳴り声をあげた。
意気揚々と王宮騎士団を従えてここまで来たのだから、このまま引き返したくないのだろうな。
エミリア姉上の気持ちもわかるし、アデル兄上の気持ちもわかる。
僕は二人へ視線を送り、手をパンパンと叩いた。
「それならアデル兄上は王宮の代表として、ドルムント辺境伯と一緒に国境に行くのはどうかな? アデル兄上だけで不満なら、エミリア姉上と僕も一緒に行くよ。まさか王家が三人も参戦するのに不服はないよね」
「それは心強いことですな」
ドルムント辺境伯は奥歯を噛んで悔しい表情をする。
その隣でバンベルク騎士団長が僕を睨んでいた。
王家の三人が参戦するなら、それは王宮の代表ということになる。
これなら王宮が援軍を出さないとはならない。
僕はスタスタとアデル兄上の前まで歩き、ニッコリと笑う。
「これでアデル兄上は戦に出られるよ。初陣だから怪我しないように頑張ってね」
「おう、必ず勝利を掴み取るぜ!」
やっぱりアデル兄上は戦に出たかっただけで、深くは考えてはいないようだね。
根が単純で大雑把だから助かったよ。
エミリア姉上はニコリと微笑み、騎士団長に向けて手をかざした。
「王宮騎士団は王都へ戻るように。私達はドルムント辺境伯と共に国境へ向かいます」
「少しお待ちを。殿下達だけで戦線に向かわせるわけにはいかん。王宮騎士団の中から数名の騎士を共に付けよう」
「では、私達を護衛してきたクライス達に共に来てもらいましょう」
「お心のままに」
バンベルク騎士団長は渋い表情で頷いて、後ろへと下がる。
そして王宮騎士団の全兵士に向けて王都へ帰還する指示をだした。
王宮騎士団が王都へ向かう姿を見届け、僕とエミリア姉上は馬車に乗り込み、アデル兄上とベルムンド辺境伯は馬に乗って、国境に向けて出発した。
僕の対面に座っているエミリア姉上が大きく息を吐く。
「私達は国境に向かってよかったのかしら?」
「いつもの小競り合いであれば、バルドハイン帝国もクリトニア王国に本気で戦を仕掛けてきてないと思うよ。それならアデル兄上もヤル気になってるし、好きにさせてあげればいいかなって」
「それならアデル一人で行かせれば良かったじゃない。どうして私達も一緒に行くの?」
「アデル兄上だけ戦地へ行かせれば、その功は兄上を擁立するアデル派の功績になっちゃうでしょ。でも僕とエミリア姉上が一緒に向かえば、その功は王宮ということになるよね」
「イアン、頭いい! そこまで考えていなかったわ!」
興奮したエミリア姉上が両手を広げ、僕の体をギュッと抱きしめる。
アデル兄上と合流して五日後、僕達の一行はベルムント辺境伯の領都に到着し、辺境伯の邸で一泊した後に国境へと出発した。
領都から国境までは馬車で二日ほどの距離だった。
国境の草原では、バルドハイン帝国軍、ベルムント辺境伯軍が互い陣を張り、睨み合う硬直状態になっていた。
バルドハイン帝国軍の兵数は約三百。
辺境伯軍の兵数は約二百五十。
敵軍の兵の数から、バルドハイン帝国が本気でクリトニア王国へ侵攻するつもりがないことがわかる。
ベルムント辺境伯、アデル兄上、僕、エミリア姉上の四人は、自陣の天幕の中へと入り、辺境伯とアデル兄上が軍議を始め、僕とエミリア姉は二人を見守ることにした。
「ここは横陣で一気に敵軍に攻め入るのがいいだろう」
「そうですな。兵の数もほぼ互角。アデル殿下の采配であれば、兵士達も奮い立つこと間違いなし。必ずや我らが勝利するでしょう」
どうやらアデル兄上も辺境伯も力技のごり押しで戦を進めるつもりのようだ。
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