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1.アデル兄上の暴走
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廊下をドタバタと走ってくる音が聞こえ、部屋の扉を開けてローランド兄上が姿を現した。
そして猛ダッシュで歩いてきて、ベッドの上に頭を伏せる。
「またシルベルク宰相が俺のことをネチネチとイジメてくるんだ……」
「兄上は何も悪くないです。兄上が問題を起こしたわけじゃないし、問題ごとっていつの間にか湧いてるものだからね」
「ありがとう、イアンだけが私の癒しだよ」
兄上は僕をギュッと抱きしめた後、身振り手振りでシルベルク宰相とのやり取りを説明する。
十歳の僕に国政のことを話されても、どうしようもできないんだけどね。
ベッドの上に座って、ローランド兄上の弱音を聞いている、僕の名はイアン・クリトニア。
クリトニア王国の第三王子だ。
そしてさっきから僕へ泣き言を言ってるのは、クリトニア王国の王太子のローランド兄上。
僕達の父上であるライナス国王は一年前から原因不明の病を患ってしまい、それからローランド兄上が国王代理を担ってるんだけど、慣れない政務で色々とシルベルク宰相から詰められて、弱音を言いたくなると僕の部屋へ来るんだ。
十歳の僕にできることといえば、話しを聞いてあげるぐらいしかできない。
しばらくすると、心の内の全てを吐き出したローランド兄上は、スクッと立ち上がった。
「イアンに弱音を聞いてもらったら、心がスッキリしたよ。政務から逃げていてはダメだな。シルベルク宰相と話し合ってくる」
「ローランド兄上、頑張ってね」
ローランド兄上は僕の体をギュッと抱きしめ、政務に戻るため部屋を去っていった。
その後ろ姿を見送って、僕はベッドから起き上がって考える。
ローランド兄上の話しでは、王国の内外で問題が山積になっているみたいなんだよね。
僕達の住むクリトニア王国は、東にバルドハイン帝国、西にエルファスト魔法王国という二大強国に挟まれた小国だ。
それ故に外交にも神経を使うことが多いらしい。
王国内をみれば、肥沃な土地のおかげで農作物は豊富に採れるけど、その他の分野で色々な技術力が不足していて、これから発展させていく必要があるようなんだ。
それなのに隙を見せれば地方貴族達が税をあげて庶民を苦しめるので、家臣である貴族達にも目を光らせないといけないらしい。
問題はそれだけではないんだよね。
ライナス国王には僕とローランド王太子を含め四人の子供達がいる。
一番上の長男がローランド王太子。十七歳。
次がエミリア第一王女。十六歳。
その下に、アデル第二王子、十五歳。
そして十歳で第三王子の僕だ。
ローランド兄上は僕の前では気弱な面も見せるけど、本来は頭の回転も早いし思慮深く、頼れる兄上だ。
エミリア姉上は察しがよく勝気で気立のよいお姉ちゃんだ。
いつも僕のことを気にかけてくれて、面倒をみてくれる。
でも、ちょっとしつこくてウザいけどね。
アデル兄上は剣技に秀でていて、いつも王宮騎士団の兵士達と訓練しているほどの脳筋で、少し単細胞なところもあるけど、僕に剣技の指導もしてくれる、いつも明るい兄上だ。
僕達四人はそれなりに仲良く王宮で暮らしていたんだけど、父上が病に倒れたことで、法衣貴族や地方貴族の間で跡目争いが勃発してるんだよね。
王宮内で働く法衣貴族は王太子であるローランド兄上を推し、地方貴族は武術に秀でているアデル兄上を推しているというわけ。
エミリア姉上を推す者は表立ってはいないけど、庶民の間では人気が高い。
僕は年齢が低いということで論外のようだけど。
単細胞のアデル兄上は地方貴族達の神輿に担がれ、ヤル気になってきているみたい。
あの脳筋の兄上のことだから、有り得る話だよね。
侍女に手伝ってもらい、衣服を着替て昼食を取っていると、エミリア姉上が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「イアン、ローランド兄上から話しは聞いてる?」
「何の話し?」
ローランド兄上からは色々な弱音を聞いているけど、どの話しのことかわからない。
いつも上の空で話しを聞いてるから、ハッキリと内容を覚えてないけど……
エミリア姉上はスタスタと歩いてきて、椅子に座って大きくため息をつく。
「バルドハイン帝国軍がいつものように国境付近に現れたらしいの。それでローランド兄上とシルベルク宰相が対応を協議している間に、アデルが王宮騎士団を連れて出発しちゃったのよ」
バルドハイン帝国軍は強国であることを誇示するように、頻繁に国境沿いに軍を展開させて小競り合いを起こしてくる。
いつもなら国境を預かる地方貴族が対処するんだけど、功を焦ったアデル兄上が王宮騎士団を動かしたらしい。
地方貴族が国境を守るために派兵しても問題は小さくて済む。
だけど王国の中枢である王宮騎士団が向かったとなれば話は別だ。
このままだとバルドハイン帝国と全面戦争になりかねない。
そうなればクリトニア王国は滅ぼされ、僕の平穏な生活が詰む。
「それって大変なことになるよ! 早くアデル兄上を止めないと!」
「ローランド兄上が伝令を送ってるけど、あの頑固者のアデルが王宮からの制止で止まると思う?」
エミリア姉上の言葉を聞いて、僕は額から冷や汗を流す。
アデル兄上は武人を気取っているだけあって頑固だ。
単細胞なだけあって、止められると余計に突き通そうとするかもしれない。
愕然としている僕へ、エミリア姉上はジッと視線を向ける。
「アデルが話しを聞くのは、末っ子のあなただけよ。私も一緒に行くから説得を手伝って」
「はい。早く準備を整えて、アデル兄上を追いかけよう」
そして猛ダッシュで歩いてきて、ベッドの上に頭を伏せる。
「またシルベルク宰相が俺のことをネチネチとイジメてくるんだ……」
「兄上は何も悪くないです。兄上が問題を起こしたわけじゃないし、問題ごとっていつの間にか湧いてるものだからね」
「ありがとう、イアンだけが私の癒しだよ」
兄上は僕をギュッと抱きしめた後、身振り手振りでシルベルク宰相とのやり取りを説明する。
十歳の僕に国政のことを話されても、どうしようもできないんだけどね。
ベッドの上に座って、ローランド兄上の弱音を聞いている、僕の名はイアン・クリトニア。
クリトニア王国の第三王子だ。
そしてさっきから僕へ泣き言を言ってるのは、クリトニア王国の王太子のローランド兄上。
僕達の父上であるライナス国王は一年前から原因不明の病を患ってしまい、それからローランド兄上が国王代理を担ってるんだけど、慣れない政務で色々とシルベルク宰相から詰められて、弱音を言いたくなると僕の部屋へ来るんだ。
十歳の僕にできることといえば、話しを聞いてあげるぐらいしかできない。
しばらくすると、心の内の全てを吐き出したローランド兄上は、スクッと立ち上がった。
「イアンに弱音を聞いてもらったら、心がスッキリしたよ。政務から逃げていてはダメだな。シルベルク宰相と話し合ってくる」
「ローランド兄上、頑張ってね」
ローランド兄上は僕の体をギュッと抱きしめ、政務に戻るため部屋を去っていった。
その後ろ姿を見送って、僕はベッドから起き上がって考える。
ローランド兄上の話しでは、王国の内外で問題が山積になっているみたいなんだよね。
僕達の住むクリトニア王国は、東にバルドハイン帝国、西にエルファスト魔法王国という二大強国に挟まれた小国だ。
それ故に外交にも神経を使うことが多いらしい。
王国内をみれば、肥沃な土地のおかげで農作物は豊富に採れるけど、その他の分野で色々な技術力が不足していて、これから発展させていく必要があるようなんだ。
それなのに隙を見せれば地方貴族達が税をあげて庶民を苦しめるので、家臣である貴族達にも目を光らせないといけないらしい。
問題はそれだけではないんだよね。
ライナス国王には僕とローランド王太子を含め四人の子供達がいる。
一番上の長男がローランド王太子。十七歳。
次がエミリア第一王女。十六歳。
その下に、アデル第二王子、十五歳。
そして十歳で第三王子の僕だ。
ローランド兄上は僕の前では気弱な面も見せるけど、本来は頭の回転も早いし思慮深く、頼れる兄上だ。
エミリア姉上は察しがよく勝気で気立のよいお姉ちゃんだ。
いつも僕のことを気にかけてくれて、面倒をみてくれる。
でも、ちょっとしつこくてウザいけどね。
アデル兄上は剣技に秀でていて、いつも王宮騎士団の兵士達と訓練しているほどの脳筋で、少し単細胞なところもあるけど、僕に剣技の指導もしてくれる、いつも明るい兄上だ。
僕達四人はそれなりに仲良く王宮で暮らしていたんだけど、父上が病に倒れたことで、法衣貴族や地方貴族の間で跡目争いが勃発してるんだよね。
王宮内で働く法衣貴族は王太子であるローランド兄上を推し、地方貴族は武術に秀でているアデル兄上を推しているというわけ。
エミリア姉上を推す者は表立ってはいないけど、庶民の間では人気が高い。
僕は年齢が低いということで論外のようだけど。
単細胞のアデル兄上は地方貴族達の神輿に担がれ、ヤル気になってきているみたい。
あの脳筋の兄上のことだから、有り得る話だよね。
侍女に手伝ってもらい、衣服を着替て昼食を取っていると、エミリア姉上が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「イアン、ローランド兄上から話しは聞いてる?」
「何の話し?」
ローランド兄上からは色々な弱音を聞いているけど、どの話しのことかわからない。
いつも上の空で話しを聞いてるから、ハッキリと内容を覚えてないけど……
エミリア姉上はスタスタと歩いてきて、椅子に座って大きくため息をつく。
「バルドハイン帝国軍がいつものように国境付近に現れたらしいの。それでローランド兄上とシルベルク宰相が対応を協議している間に、アデルが王宮騎士団を連れて出発しちゃったのよ」
バルドハイン帝国軍は強国であることを誇示するように、頻繁に国境沿いに軍を展開させて小競り合いを起こしてくる。
いつもなら国境を預かる地方貴族が対処するんだけど、功を焦ったアデル兄上が王宮騎士団を動かしたらしい。
地方貴族が国境を守るために派兵しても問題は小さくて済む。
だけど王国の中枢である王宮騎士団が向かったとなれば話は別だ。
このままだとバルドハイン帝国と全面戦争になりかねない。
そうなればクリトニア王国は滅ぼされ、僕の平穏な生活が詰む。
「それって大変なことになるよ! 早くアデル兄上を止めないと!」
「ローランド兄上が伝令を送ってるけど、あの頑固者のアデルが王宮からの制止で止まると思う?」
エミリア姉上の言葉を聞いて、僕は額から冷や汗を流す。
アデル兄上は武人を気取っているだけあって頑固だ。
単細胞なだけあって、止められると余計に突き通そうとするかもしれない。
愕然としている僕へ、エミリア姉上はジッと視線を向ける。
「アデルが話しを聞くのは、末っ子のあなただけよ。私も一緒に行くから説得を手伝って」
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