【完結】『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!

文字の大きさ
11 / 55

第11話 細い路地

しおりを挟む
鈴の音は路地の右手から聞こえ、段々と音が近づいているように感じた。

その音を聞いているうちに、先ほどまでパニックになっていた心が次第に落ち着いていくのがわかる。

まるで、深い闇の中にひと筋の光が差し込むように、鈴の音が心を鎮めてくれる。

そして目の前の漆黒の中にいた不気味な何かの動きがピタリと止まった。

何が起こっているのかわからず、体を硬直させたまま座っていると、鈴の音と共に、樹々の騒めき、微かな風の音が耳に聞こえてきた。

ハッと我に返り、左右を見回すと、朽ちかけた街灯のうす暗い明かりが地面を照らしている。
そして視線を目の前に路に戻すと、遠くに街灯の明かりが見え、漆黒の闇は跡形もなく消え去っていた。

その状況の変化についていけず、俺は思わず言葉を漏らす。

「……どうなってんだよ……」

しばらく、土塀にもたれて座っていると、「リーン、リーン、リーン」と鈴音が間近に聞こえ、右の路地の方へ服向くと、街灯の下に俺と同じ制服のブレザーを着た、見知った男子が立っていた。

どうして渉がここに?
本当に渉なのか?

俺はヨロヨロと立ち上げり、ジッと渉の姿を見据える。

すると渉が鈴を片手に持ち、穏やかな笑みを浮かべ、俺の前まで歩いてきた。

「どうやら何かあったようだな。気になって来てみて良かった」

「いったいどういうことなんだよ!」

俺が片腕を振って大声を出すと、渉は涼しい表情で肩を竦めた。

「僕はただ路地を歩いてきただけさ。だから和也の巻き込まれた状況を知らない。まずは何があったか教えてくれないか」

「……そうだな」

先ほどの暗闇と漆黒の影のことはハッキリと覚えている。

莉子の家を出て葵を彼女の家まで送っていき、その帰り道、背筋が凍るような異様な出来事に遭遇したことを、俺は震える声で渉に説明した。 

すると渉は大きく頷くと、無表情のまま静かな声で俺に告げる。

「どうやら和也は怪異と出遭ったようだな」

「それって心霊現象のことか?」

「そうだ……古くからある集落の地区に入ると聞いていたから、すこし気になっていたんだ」

「自分だけで納得するな。俺にもわかるように説明してくれ」

「説明は後だ。振興地までの路は僕が覚えている。早くこの地区から抜けたほうがいい」

「わかった」

こんな場所に留まって、あんな恐怖の異質空間に巻き込まれるのはゴメンだ。

俺と渉は互いに頷いて、その場を離れた。

先頭を行く渉は、正確に角を曲がって、歩調を変えることなく進んでいく。

その後ろ姿を見て、ふと疑問が頭を過った。

「どうやって俺を見つけたんだ? 渉は葵の家を知っていたのか?」

「いや、知らない。ここで説明するのはマズイから、その話も後だ。」

二人で闇に包まれた路地を歩いていると、路の脇に間隔を開けて、幾つお地蔵様が立っている。

葵と通った行き道の時は、全く気づかなかった。

お地蔵様といえば、賽の河原で子供が石を積んでいる時に現れ、霊界に連れていってくれる仏様だよな。

そのお地蔵様が、色々な場所に立っていることに、どんな意味があるんだろう?

俺はお地蔵様を見る度に、妙な不安に駆られ、首を傾げながら通り過ぎていく。

何度目かの角を曲がり、暗い路地を進んでいくと、二車線の道路が姿を現した。

やっと元霧原村の地区を抜けることができる。

歩道に立って、俺は両膝を手で押え、地面を向いて、何度も深呼吸をしていると、頭上から渉の声が聞こえてきた。

「ここから駅方面は振興地だから、たぶん、もう安心していい」

「適当な言い方だな」

「適当に言ったからな」

そう言って渉は薄く笑う。

二人で他愛もないやり取りをしている間に、俺は徐々に普段の調子が戻ってきた。

すると渉が街の中心を親指で指し、歩き出す。

俺もそれに続き、二人並んで、歩道をゆっくりと歩いた。

振興地の区画は、真っ直ぐに伸びる広い道路が続いており、等間隔で設置された街灯が道を明るく照らしている。 

なので細い路地のような閉塞感はなく、どこか開放的な雰囲気が漂っていた。 

「ふー、振興地に入っただけで、こんなに雰囲気が変わるんだな」

「それはそうさ。新しい街並みは、一度建物が壊されて再開発されているだろ。だから今まで街に密集していた様々な念が分散されるのさ。しかし、古くから続く集落では、昔からの念が集まっているからな」

「俺にもわかるように言ってくれ」

「古い日本家屋にはそれなりに念が籠っているし、昔ながらの路地が入り組んで迷路のようになっている場所なら、広い通り道がないから、尚更に念が留まってしまう。要するに古い街並みは、怪異が起きてもおかしくないってことさ」

渉の言いたいことは何となく理解できる。
古いモノには念が籠るって言われるからな。

すると渉が立ち止まって、曲がり角から横道を指で差す。

「昔は、交差点や曲がり角を『辻』と呼んでいたんだ。辻はこの世と異界、霊界との境界とされていて、人々は『辻』を恐れたんだ。迷路のような辻を曲がっていくうちに人が行方不明になったという心霊現象も多くあるんだ」

「それが俺の体験したことだっていうのか」

「そうとも言えるし、そうでないかもしれない」

俺が不貞腐れた表情をすると、渉は肩を竦める。
それからしばらく歩いていくと、俺の家の近くにある十字路に到着した。

「俺の家があるのはこっちだから、また明日な」

「わかった。学校で会おう」

渉の声に片手を上げ、彼に背を向けたまま、俺は人影のない横道を歩き始めた。

ついつい、いつもの癖で無意識にブレザーのポケットからスマホを取り出して、画面を指でタップする。
すると画面が明るくなり、スマホが起動した。

元霧原村の地区ではスマホは壊れたみたいに全く動かなかったのに変だな。

違和感を感じながら時刻を確認すると、二十時三十二分だった。

ブラック企業の社畜をしている父親は、今日も帰りは終電間際か、または帰れずに泊まりだろう。

大学二年生の楓姉は、家にいる時は、いつも妙に絡んでくるから、うっとうしい時がたまにある。

その口うるさい姉の顔を思い出し、俺は心が温かくなるのを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

処理中です...