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3巻
3-1
しおりを挟む第1話 交渉のテーブル
俺の名前はエクト・ヘルストレーム。
地球で生きていた頃の記憶と共に、ファルスフォード王国の最南端から西部にかけての辺境を領土とする、グレンリード辺境伯家の三男として生まれたのだが……領都グレンデで十五歳を迎え、自身固有のスキルを与えられる『託宣の儀』を受けたところ、外れ属性とされる『土魔法』を得てしまった。
グレンリード辺境伯家は代々、炎・水・風の三属性のいずれかを使える魔法士、通称三属性魔法士を輩出してきた名家だ。
ハズレ属性を手にした俺は憤慨した父によって、この辺境領の中でも最果てにあるボーダ村の領主として封じられてしまった。
しかし俺は持ち前の転生者としての知識をいかし、女性だらけの冒険者パーティ『進撃の翼』の面々や、道中助けた商人のアルベドに譲ってもらった奴隷メイドのリンネ、宰相の孫娘リリアーヌ、宮廷魔術師のオルトビーンといった仲間と共に、ボーダの村を発展させていく。
やがてボーダは強固な城塞都市となったのだが、王都の貴族の策略で、俺が治めていたボーダはグレンリード辺境伯家に没収されてしまった。
しかしそこで、残されたアブルケル連峰の領地に城塞都市アブルを作り上げた俺は、珍しい鉱石を発見した功績なども認められ、ヘルストレームの家名と辺境伯の地位を手に入れ、やがて侯爵にまで位を上げる。
さらに、隣国のミルデンブルク帝国との戦争で勝利した俺は、イオラ平原を手に入れ、そこにも城塞都市、イオラを作り上げた。
ミルデンブルク帝国はイオラ平原を取り戻すべく、再び戦争を仕掛けてきたが、俺は城塞都市とイオラ平原の先住民である魔族の協力もあって、これを撃退。
再び帝国と交渉を行うため、俺は仲間達と共に帝都に向かって出発したのだった。
俺達がミルデンブルク帝国の帝都に着いたのは、城塞都市イオラを出発してから十七日目のことだった。
一緒についてきていたリリアーヌは、交渉には参加せずに帝都観光をするため、メイドのリンネ、そして護衛として『進撃の翼』の五人――アマンダ、オラム、ノーラ、セファー、ドリーンがついて、皆で観光することにしたようだ。
一方で、俺は参謀であるオルトビーン、ファルスフォード王国宰相であるグランヴィルとともに、帝城へと向かった。
帝城の中に入った俺達は馬車から降りて、近衛兵に案内され、来賓室で待つことに。
今回のイオラ平原の攻防戦ではミルデンブルク帝国は甚大な被害が出ているはず。どこまでこちらの意見を受け入れるだろうか。
全てはグランヴィル宰相とオルトビーンの手腕にかかっている。
そんなことを考えながら待っていると近衛兵が来て、会議室へ案内された。
会議室に入ると、ミルデンブルク帝国側の三名が座っていた。
そのうち、中央に座っている痩身の男性が立ち上がる。
彼は……前回俺とオルトビーンが皇帝に会いに来た時に、近くにいた男だな。
「私はミルデンブルク帝国で宰相をしているアダモフ・トシュテン。今回の交渉でミルデンブルク帝国の代表を務めさせていただく」
するとグランヴィル宰相が前に出る。
「私はファルスフォード王国で宰相を務めるヘルマン・グランヴィル。ファルスフォード王国の代表者だ。よろしくお願いする」
トシュテン宰相とグランヴィル宰相は固く握手をする。互いに視線を合わせて、まるで火花を散らしているようだ。
俺達は席についたが、会議室の中に、静かながら剣呑とした緊張感が流れ出す。
ただ、トシュテン宰相とグランヴィル宰相は互いに鋭い視線を向けるだけで、いっこうに口を開こうとしない。
まるで先に口を開いたほうが負けと言わんばかりに、周囲に緊張感だけが漂う。
息を呑んでいると、グランヴィル宰相が先に動いた。
「なぜイオラ平原の我が王国領土に軍を向けたのか説明いただきたい」
トシュテン宰相は大きく頷いて、冷静な様子で口を開いた。
「あのイオラ平原のファルスフォード王国領は、アブルケル連峰の攻防戦での賠償として、そちらに奪われた土地でしょう」
頷くグランヴィル宰相を見つめたまま、トシュテン宰相は話を続けた。
「つまり、我が帝国領土内にファルスフォード王国の飛び地がある状態なわけですが、我らとしては邪魔でしかない。なので、取られた領土を取り戻そうとしたまでですよ。ですから先の攻防戦後の交渉の時に、停戦協定にはサインしていません」
なんとも呆れた言い分だが、グランヴィル宰相はその返答は想定内だったらしく、深く頷いて、腕をテーブルの上に置いて両手を組む。
「奪われた土地とは少々感情的な言葉ですな。アブルケル連峰の攻防戦の戦勝国として、正式に我が国の領土になった土地です。言いがかりもいいところですな」
しかしトシュテン宰相は両腕を広げて両手をテーブルに置く。
「アブルケル連峰の攻防戦の結果、イオラ平原はファルスフォード王国のものとなった。そのことは理解している」
なんだ? 認めるのか?
そう不思議に思っていると、トシュテン宰相は言葉を続けた。
「しかし我が帝国の中にあるファルスフォード王国の飛び地であることも事実。我が帝国はファルスフォード王国の飛び地支配を認めたわけではない。それにそもそも、停戦合意はしていないから、兵を向けたことを非難されるいわれはないな」
そんなトシュテン宰相の言葉に、グランヴィル宰相は深く息を吸い込み、そしてゆっくりと息を吐き出す。まるで自分を落ち着かせているように見えた。
「確かに停戦合意をしていないですな。それではトシュテン宰相は、帝国と我が王国はまだ戦争状態を維持したままであったと言いたい訳ですな」
「そういうことです。我が帝国とファルスフォード王国は未だに戦争状態であると明言しておきましょう」
「それでは先のアブルケル連峰の攻防戦が終わった後の両国間の交渉は何だったのでしょうかね。あれが全て白紙となるように聞こえますが」
「あの交渉はファルスフォード王国が戦勝国を名乗り、賠償を求めてきたが故に、我が帝国が一旦はそちらの言い分を呑んだだけです」
なるほど、あれはあくまでも、アブルケル連峰の攻防戦についての交渉を終わらせただけというつもりなのだろう。
そんなことを言い出せば何でもありじゃないか。
俺が内心憤っていると、グランヴィル宰相は穏やかに表情を緩めて、首を左右に振る。
「ミルデンブルク帝国側の言い分は理解しました。それでは、我らは戦争状態にあると、そういうことで話を進めましょう」
グランヴィル宰相は先ほどまでとは一転、トシュテン宰相に鋭い視線を向け、両手を組んだ。
「それで、イオラ平原の攻防戦が終わった訳ですが……そちらとしては、相当手痛い目に遭ったはず。それでもまだ我が王国と戦争を続けますか?」
トシュテン宰相は深くため息をつき、首を横に振る。
「今回のイオラ平原の攻防戦では、ファルスフォード王国の激しい抵抗に遭い、我が帝国は二度目の敗戦となりました。これ以上のファルスフォード王国との戦いは、我が帝国に不利益しかもたらさないと判断しています」
トシュテン宰相は淡々と言い終わると、一度大きく息を吐いた。
「よって、我が帝国はファルスフォード王国と停戦する用意があります」
おいおい、何でそっちが上からなんだ?
俺と同じことを思ったのか、グランヴィル宰相も目を見開いた。
「そちらから我が王国に二度も戦争を仕掛けておきながら、しかもそちらが負けたにもかかわらず、何の賠償もなく停戦協議だけを進める準備があるとは……少し勝手が過ぎるのではないですかな」
「我が帝国はファルスフォード王国と戦って二度敗戦した。その事実の前には何の言い訳もできませんね。ファルスフォード王国側が賠償と勝利国としての権利を主張されることは理解しています。ただ、何でも主張したからといって通るとは限らないのですよ」
グランヴィル宰相がオルトビーンを見ると、オルトビーンはゆったりと頷いた。
「そちらがそう仰りたいのはわかります。なにせ、今回のイオラ平原の攻防戦では帝国側の被害は甚大だったはず……ですから王国としても無茶な要求はしないですよ。我が王国が求めるモノは三つ」
オルトビーンはゆっくりと指を一本立てた。
「一つ目は、イオラ平原と隣接している魔の森を我が王国領土として貰い受けたい。これには理由があるんですよ。魔の森には魔族という種族が住んでいますが、彼らは我が王国の民になりたいと言っています……私の持っている情報では、帝国は魔の森を持て余しているはず。その森を我らに渡すことは、たいした痛手ではないはずです」
魔の森というのは、イオラから五十キロメートルほど離れた場所にある森だ。
魔力濃度が高く、魔族と呼ばれる種族が暮らしている。俺は個人的に彼らと仲良くなり、先日の戦では加勢してもらったほどだ。
トシュテン宰相は両腕を胸の前に組んで考えている。
そんな彼に追い打ちをかけるように、オルトビーンは話を続けた。
「そうそう、魔族は屈強な種族であり、魔法に非常に長けています。もし魔の森が我が国に譲渡されなかった時には、帝国は魔族から激しい抵抗を受けるかもしれませんね。あなた方の力で魔族を沈静化させることができますか?」
少々脅しっぽくなってしまったが、魔族がミルデンブルク帝国に従うことがないのは事実だからな。
オルトビーンはチラリと俺を見た後に視線を戻した。
「我々は魔族と友好関係にあるんですよ。我々に魔族を託したほうが、帝国にとって都合が良いと思いますけど」
オルトビーンはニッコリと微笑む。
トシュテン宰相は苦汁を飲まされたように、表情を歪める。
「……ファルスフォード王国の主張は理解しました。確かに魔の森は我が帝国にとっては厄介な土地でしかありませんでしたし、魔族と争うことになるのは避けたい。ファルスフォード王国の主張を呑みましょう」
やった! これで魔の森が正式な領土として手に入る!
魔族とは、イオラ平原での戦いに協力してもらう際に、魔の森を俺の領土にしてくると約束してきたからな。それを果たすことができる!
オルトビーンはニッコリ笑って、指をもう一本立てる。
「それでは二つ目。今回、我が王国はファイアードラゴンの協力を得て勝利した訳ですが、彼らには報酬を渡す必要がありましてね。そこで、無類の酒好きである彼らに渡すための酒を提供していただきたい」
すると、トシュテン宰相が慌てて声をあげた。
「そ、それは王国側の事情ではないですか。我が帝国が被る問題ではありませんよ」
オルトビーンは穏やかな表情を崩さず、クスリと微笑む。
「それではファイアードラゴンに、帝国側がそう言ったと報告しておきますね。彼らが怒って帝都を火の海に変えたとしても、我が王国の責任ではないですよ。それでいいですね?」
トシュテン宰相の顔がどんどんと引きつって青ざめていく。
「ファイアードラゴンの来襲は困る。わかりました。酒については我が帝国が提供しましょう。ですから、彼らはファルスフォード王国で管理してください」
これでファイアードラゴンに渡す酒のことで悩まなくて済む。助かった。どうやって酒を調達しようか悩んでいたんだ。
オルトビーンはまた指を一本立て、立っている指が三本になる。
「三つ目は、我が王国をこれからは弱小国として扱わないこと。帝国の心変わりでまた戦争を仕掛けられてはたまりませんからね。停戦協議もいいですが、それより一歩踏み込んでみませんか?」
「それはどういう意味でしょうか?」
「我が王国と帝国が対等に同盟を結ぶというのはどうでしょう?」
「停戦協議だけで十分だと判断していますが、なぜ同盟を結ぶ必要があるのですか?」
トシュテン宰相が渋い表情になるが、オルトビーンは気にせずに話を続けた。
「まず、この提案は、あくまでもそちらのためのものだと思っていただきたいんですけどね。帝国は今、我が王国に敗戦し、多くの兵士達と攻城兵器、ワイバーンに竜騎士部隊などを失っていますよね」
オルトビーンの言う通り、今回のミルデンブルク帝国軍の被害は甚大だ。
オルトビーンはトシュテン宰相を静かに見つめ、口を開く。
「帝国は弱小国を軍事力で制圧して大きくなってきた国。ということは、そちらに併合された地域の者達は、帝国の軍事力が弱まれば再び国を興そうと、いつでも狙っているはず……今はその絶好の機会と考えているかもしれませんね。我々と同盟を組めば、その対処をお手伝いしましょう、という提案なんですがいかがですか?」
トシュテン宰相は腕を組んで、長い間考え込んでいる。
そして重々しく口を開いた。
「我が帝国の内情に関与しても、そちらに利益はないでしょう。むしろ帝国内で反乱が起こった方が喜ばしいのでは?」
「いえいえ。同盟を組むということは、国交を開けるということでもあります。今のままではイオラ平原の領土は孤立したままですが、国交が開けば、近隣の帝国の都市との交流も増え、より発展させられる。帝国側にも悪い話ではないと思いますよ」
オルトビーンが説明すると、トシュテン宰相は難しい顔をして、何度も頷いていた。
「……わかりました。同盟については陛下の意向を聞く必要があります。しかし帝国にとって悪い提案ではない、むしろ良い提案のように感じました。私からも陛下を説得いたしましょう」
それを聞き、グランヴィル宰相は静かに笑みを湛えた。
「それはありがたい。我が王国からの要求は以上ですな。停戦協議はもちろん、同盟関係も含めて議論を重ねてまいりましょう」
トシュテン宰相も安堵したのか、微笑みが戻ってくる。
「わかりました。これで交渉成立と判断いたします。我が帝国は大きすぎる故に、内にも外にも敵が多い。陛下のご判断次第とはなるが、ファルスフォード王国が同盟を組んでくださるなら心強い」
「我が王国も帝国のような軍事強国と同盟を組めるなら心強く感じますな。これから交渉を続けて書面にしていきましょう」
トシュテン宰相とグランヴィル宰相は椅子から立ち上がり、笑顔でしっかりと握手を交わしたのだった。
今回の戦で活躍したのは俺だったが、こういう時はグランヴィル宰相とオルトビーンは本当に頼りになる。俺ももっと勉強しないとな。
閑話 グレンリード家の暴走
王城から伝令の使者が、ここ、城塞都市ボーダに到着した。
俺、ベルドの目の前で、父上であるランド・グレンリード辺境伯が、使者から渡された封筒を開ける。
そして中の書類を読むと、肩を震わせて、顔を真っ赤にした。
「エクトが侯爵になってミルデンブルク帝国内の領土を得ただと! そんなことは許せん! いつの間にか我よりも爵位が上になっているではないか! 帝国からの攻撃も撃退したらしいが……だからといって我より上にいるなどありえん!」
俺の末弟――エクトが何をしたとしても、もう俺は驚かない。エクトはいつも想像の斜め上をいくからな。
父上は悔しさで地団太を踏んでいた。
「許せん! 許せん! 許せん!」
すると、同席していた弟のアハトも父上と同じように地団太を踏む。
「あのレンガ野郎! どこまでも癇に障る! 許さん、許さんぞ!」
二人は悔しがるが、エクトは新たな都市を作ったり、帝国との戦争に勝ったりと結果を出しているのだ。
確かに俺も悔しいが、エクトが評価されるのは当然のことだとも思える。
しかしアハトも父上も怒りが収まらないようで、顔を真っ赤にしていた。
アハトが胸をドンドンと両手で叩きながら吠える。
「父上! 我々も、エクトをあっと驚かせるような功績をあげることはできないのですか? 俺は悔しくてたまらない! 胸が張り裂けそうだ!」
「アハトよ、我も同じ気持ちだ。どうにかして功績をあげないと、陛下からエクトよりも下に見られてしまう。それだけは耐えられんぞ!」
父上とアハトは同時に両腕を胸の前で組んで考えこんでいる。
そしてアハトがニヤリと笑った。
「エクトが隣国と戦って功績を得たならば、それと同じことをすればいいのですよ! 父上、そうではありませんか!」
「さすがはアハトよ。よくぞ、そこに気付いた! だが、我が領土の西側はエクトの領地で、帝国と我々は接しておらん」
父上は一瞬、悔し気な表情を浮かべるが、すぐにニヤリとする。
「しかし我がグレンリード領の南は、リンドベリ王国と接しておる。かの国とは停戦中ではあるが、国交は断絶したままだ! やつらと戦って領地を奪い取ればいいのだ!」
「さすが父上!」
アハトと父上は気分が盛り上がったのか、上機嫌で笑っている。
ただ、父上もわかっているようだが、隣国リンドベリ王国とは停戦条約が結ばれている。
そんな隣国に勝手に戦いを挑めば、陛下から怒られるのは父上だ。
私はなんとか父上の考えを変えようと試みる。
「父上、リンドベリ王国と戦うと言っても、何の理由もなく攻め込むわけにもいきません。何もしないのが得策だと思われます」
「何を言っているベルド! グレンリード家は武門の家柄、戦で手柄を勝ち取って辺境伯にまでなったのだ! お前はその跡継ぎだぞ! しっかりと前を向け!」
しっかりと前を向いているから、父上を止めているんじゃないですか!
しかし父上の暴走は止まらない。
「これより我は領都グレンデに戻り、リンドベリ王国との国境に配置した警備隊を増強しよう。密偵も放ち、リンドベリ王国の動向を探らせることにしようぞ!」
アハトは父上の前で片膝をついて、礼の姿勢を取る。
「父上、私も領都グレンデに連れていってください。私も戦にて功績をあげてみせましょう!」
「よくぞ言った、アハトよ! それでこそグレンリード家の男だ! 我についてまいれ!」
「兄上と一緒に辺境の地で領主をしているのも飽きていたところ。やっと父上のお役に立てます」
アハトは喜色満面になり、父上もアハトを優しい眼差しで見ている。
この二人、似すぎてないか。
「うむ、それではベルドは引き続き城塞都市ボーダの領主を務めよ。辺境の西を守るのも大事な役目だからな」
私は城塞都市ボーダに残っていいんだな。これ以上、父上とアハトのことで胃を痛くする必要はない。
父上の暴走は、グレンデに残っている重臣の誰かがさすがに止めるだろう。
「父上の仰せのままに」
「ベルドは我の跡を継げば辺境伯になる。よって領地経営を学べ。そしてその手腕でエクトを越えるのだ! 城塞都市ボーダを拡張しろ!」
また無茶なことを言う。ボーダを大きくしたくても、そもそも住民がいない。
父上はアハトを立たせて、アハトの肩に手を乗せる。
「次男であるお前は功績をあげねば爵位を貰うこともできん。このままでは不憫過ぎる。よって我が力を貸そう」
「父上、ありがたき幸せ! 一生、父上を尊敬してまいります!」
「うむ、一生ついてまいれ! 我の生き様を見よ!」
どこまでも楽しそうな父上とアハトは、私兵三千人を連れて領都グレンデに戻る準備を始めた。
こう言っては何だが、これで城塞都市ボーダの経営も楽になる。父上とアハトの暴走に気を遣わなくて済むようになったからな。
俺は辺境の僻地、城塞都市ボーダでのんびりと領主として領地経営をしていこう。
エクトにはエクトの道があり、俺には俺の道がある。
俺はエクトが土魔法を授かって以降、馬鹿にしてきたが、今ではそこまで憎く思えない。
城塞都市ボーダの領主になってから変わったのかもしれないな。
そうして父上とアハトが領都グレンデに帰還する日が訪れた。
父上とアハトは騎馬の上に跨り、私兵三千人の先頭に立つ。
そして父上は、俺に向かって眩しいほどの笑顔を向けた。
「ベルドよ! 隣国リンドベリ王国と開戦した時には、お前も領都グレンデに呼び戻す! しっかりと功績をあげる準備をしているのだぞ」
まだ、そんな夢物語を言っているのか。どうか夢物語であってくれ。
「それではベルド、さらばだ! 元気で領地経営に励め!」
父上はそう言い残して、アハトを連れて領都グレンデに帰還していった。
第2話 イオラに人を集めよう
あれから俺、エクトも参加した帝国との交渉は続き、無事に書面もまとまった。同盟については、帝国貴族内での相談が必要とのことなので正式決定はまだ少し先になるが、まずは国交を持つことは同意してもらっている。
というわけで、帝都を観光していたリリアーヌ達と合流した俺は、すぐにイオラへ戻ることにした。
なにせ、イオラ平原は未だに帝国兵や魔獣の死体が転がっていて、その処理をしないといけない。
今回纏まった交渉に基づいて内政の調整もしないといけないし、やることは沢山あるのだ。俺は別に観光しなくていいしな。
というわけで、バイコーンの馬車を飛ばして俺達は帝都を出る。
道中、魔の森に立ち寄って魔族の皆――フェベやカティに、魔の森が正式に俺の領土になることを伝えると大喜びで、宴を催してくれた。
想定外の宴で日程は延びたが、俺達は無事にイオラへと帰り着いたのだった。
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