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2巻
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しおりを挟む第1話 スタンピードの褒賞
俺の名前はエクト・グレンリード。
ファルスフォード王国の最南端から西部にかけての辺境を領土とする、グレンリード辺境伯家の三男として生まれたのだが……領都グレンデで十五歳を迎え、自身固有のスキルを与えられる『託宣の儀』を受けたところ、外れ属性とされる『土魔法』を得てしまった。
グレンリード辺境伯家は代々、炎・水・風の三属性のいずれかを使える魔法士、通称三属性魔法士を輩出してきた名家だ。
ハズレ属性を手にした俺は憤慨した父によって、この辺境領の中でも最果てにあるボーダ村の領主として封じられてしまった。
しかし俺は持ち前の転生者としての知識をいかし、女性だらけの冒険者パーティ『進撃の翼』の面々や、道中助けた商人のアルベドに譲ってもらった奴隷メイドのリンネと共に、未開発の森林に囲まれたボーダの村を発展させていく。
村の拡張、インフラ設備、防壁の強化と、村の運営は大忙しだった。
未開発の森林を探索しては多くの魔獣と交戦し、森林を超えた先のアブルケル連峰では、ハイドワーフ族と出会い、ミスリルの取引交渉に成功した。
ミスリルの発見とファイアードラゴン討伐の功績で男爵となり、グランヴィル宰相の孫娘であるリリアーヌを仲間に迎えた俺は、ボーダ村を拡張していき、城塞都市と呼ばれるまで発展させた。
オルトビーンという宮廷魔術師が仲間になったり、周囲の村を併合したりと順調だった俺の領地経営。
そんな中、近隣にあったダンジョンから魔獣が溢れ出すスタンピードが発生したが……冒険者達やボーダの皆、そしてハイドワーフ達の助けもあって、無事に魔獣の群れを撃退したのだった。
そして今は、スタンピードの撃退で手にしたドラゴン種の素材を百台の荷馬車に山積みにして、王都ファルスへやってきていた。
ボーダに所属する狩人部隊百人を警護につけ、俺とリンネ、リリアーヌ、『進撃の翼』のメンバーであるアマンダ、オラム、ノーラ、セファー、ドリーンも一緒だ。
百台もの荷馬車はかなり目立ち、この王都に到着するまでに何回も野盗に襲撃されることとなったが……狩人部隊の警護のおかげで、無事に到着した。
ただ王都ファルスの中に入っても、荷馬車百台は相変わらず目立っていた。そのまま王城の中へ進むまで、注目を集めっぱなしだ。
王城の中に入ると、馬車の停車場でオルトビーンとグランヴィル宰相が待っていた。
馬車から降りた俺達を、というかリリアーヌを見て、グランヴィル宰相は顔を綻ばせる。そして彼女の体を包み込むように抱きしめた。
「リリアーヌ、よくぞ無事に戻ってきた。スタンピードの報告書を読んだ時には、驚きで心臓が止まるかと思ったぞ」
「おじい様、そんなに強く抱かれると痛いですわ。ご心配していただきありがとうございます。リリアーヌはこの通り元気ですわ」
グランヴィル宰相はリリアーヌの言葉でようやく離れると、荷馬車百台を眺める。
「ドラゴン種の素材は王家が買い取るから持ってくるようにと言ったが、これは数が多すぎる。王陛下も目を回されるだろうな」
ボーダの地下に作った保管庫にはまだまだ素材が残っているんだけど、言わないほうがいいだろうな。
そのことを知っているオルトビーンは、何も言わずニヤニヤした笑顔で俺を見て、深く頷いている。
「ともあれ、よくぞスタンピードを生き抜いた。自分達の領地だけでなく、この国そのものを守ってくれたに等しいぞ」
宰相の言葉に、俺は頷く。
「城塞都市ボーダに住んでいる住民全員の勝利と言っていいと思います。俺達だけではスタンピードで壊滅していました」
「ああ、その通りだ……さて、陛下が謁見の間でお待ちだ。陛下も、エクトから直接聞きたいとおっしゃっている。さっそく向かおう」
宰相の合図で、近衛兵二人に先導されて城の中に進む。
グランヴィル宰相とオルトビーン、俺、リリアーヌ、リンネ、『進撃の翼』の五人の順だ。
ちなみに馬車の御者と狩人部隊百人は、別の場所で待機だ。
謁見の間の大扉の前に着いた俺達は、近衛兵に武具を預け、中に入っていく。
既に国王――エルランド陛下は玉座に座り、俺達を待っていた。
俺達は玉座の手前二十メートルほどで、片膝をついて頭を下げ、礼の姿勢をとった。
「全員、面をあげよ!」
言われるがままに顔を上げれば、エルランド陛下は満面の笑みだった。
「エクト男爵よ。よくぞスタンピードの中を生き残った。そしてよくぞ自分の領地を守り抜いた。このような話は王国内でも聞いたことがないぞ。褒めてつかわす」
「ありがとうございます」
「さて、ドラゴンの素材は王家が買い取る慣習となっているが、さすがに荷馬車百台もの素材を持ちこんだ者は過去にいない。あれら全て王家で買い取るとなると王家の財政が傾く。よって光金貨百枚の証文で良いか?」
滅多に使われるものではないが、光金貨一枚で、前世の価値だと約一億円くらいだったか。ということは、俺が王家に百億円分を貸し付けるということか。
王家に貸しを作るのもいいが、金以外のところで許可が欲しいものがあるんだよね。
「陛下。光金貨五十枚で結構です。その代わりと言ってはなんですが、実は今も私の領土には、王城に持ってこられないほどのドラゴンの素材がありまして、それの利用を許可していただけないでしょうか?」
そう、ドラゴンの素材は全て王家が買い取るというルールがあるため、王家以外がドラゴンの素材を利用することはできない。であればと、この交渉内容を思いついたのだ。
俺の言葉に、陛下は目を丸くしている。
「荷馬車百台にドラゴンの素材を運んできたと聞いていたが、領内には、まだそれ以外にもドラゴンの素材があるのだな。それはエクト男爵が自由に使ってよい……ただし、素材そのものを他領と売買することは禁止だ」
「ありがとうございます」
まぁ、直接素材を売って儲けたいわけではないから問題ないな。
「それでは……今回のスタンピードを撃退した功績、及びドラゴンの素材を王国にもたらした功績により、アブルケル連峰を領土として与えよう。そして爵位だが、本来であれば爵位を一つ上げて子爵とするところだが、その功績により、伯爵に陞爵する」
「ありがたき幸せ」
アブルケル連峰が領土として手に入ったことは嬉しい。
これまでは名目上はグレンリード辺境伯領だったからな……父上はまったく着手するつもりもなかったようだけど。
そんなことを考えていると、陛下はリンネと『進撃の翼』の五人に顔を向けた。
「リンネ、アマンダ、ノーラ、オラム、セファー、ドリーンの六名には、子爵の爵位を与える。これからもエクトを支えよ」
リンネ達は深々と平伏する。
続いて陛下は、リリアーヌを見て、何か考え込んでいる様子だった。
「リリアーヌ・グランヴィル、そなたにも褒賞を与えたいのだが、爵位で良いか?」
その言葉に、リリアーヌは花が咲いたようにパッと笑みを浮かべる。
「陛下、爵位は要りませんわ。その代わり、貸し一つとしても宜しいでしょうか。私には願いがございまして、それを陛下に叶えていただきたいのです。内容については、その時がきたら申し上げます」
「ははは、国王である私から貸し一つか。面白い。褒賞は貸し一つとしよう」
国王に対して不敬じゃないか? と一瞬焦ったが、陛下は面白くて堪らなかったのだろう、腹を抱えて笑っていた。
宰相の孫娘だし、家族ぐるみで昔から仲が良かったから許されている……みたいな感じかな?
とにかく、これで陛下との謁見も無事に終わったな。
謁見の間を出た俺達はまず、狩人部隊と荷馬車百台に、先にボーダまで戻るように伝えた。
大した用ではないが、俺達は王都でやることがあるからな。
というわけでその日の夜、俺達はグランヴィル宰相と食事をすることになった。
リリアーヌがいるおかげで上機嫌な宰相が尋ねてくる。
「さて、私に頼みたいことがあるとリリアーヌから聞いたのだが、いったい何だね? できるだけの協力はしよう」
「はい、実はボーダは日々発展しているのですが、文官が足りないのです。有能な者を採用したいと思ってはいるのですが人脈がなく、グランヴィル宰相以外に頼る方を知らないものですから、お願いできないですか?」
「なるほど、確かに優秀な文官となると、捜すのは難しかろう。わかった。ボーダへ移ってくれる文官がいないか、他の貴族に声をかけてみよう」
本当は、情報漏洩を防ぐためにも、他の貴族のところから文官を引き抜くのは避けたいのだが、一般庶民の中から有能なものを探し当てるのは至難の業だからな。
「もし他の貴族達からいい返事がなかったら、王城にいる者に声をかけよう」
「そんなことしていいんですか? 陛下から怒られませんか?」
「なに、可愛い孫娘が世話になっているんだ。それぐらいはかまわん」
宰相はリリアーヌが絡むと少し人格が変わるな。リリアーヌに嫌われないように気をつけよう。宰相が怖いから。
食事が終わった俺達は、宰相に自分の邸に泊まるように勧められたが、それは全員、頑なに断らせてもらった。
グランヴィル宰相邸なんて豪華に決まってるし、ゆっくり休めるわけがないからな。
街の宿に泊まった俺とリンネ、リリアーヌ、アマンダ達『進撃の翼』の面々は翌日、王都ファルスを歩いていた。
リリアーヌが甘味処に行きたいと言い出し、俺も冒険者ギルドに用事があったからだ。
宿を出て歩いていると、リリアーヌが尋ねてくる。
「エクトは甘味処に行きませんの? 今日行くつもりの甘味処は、美味しすぎて頬が落ちるほどですのよ。一緒に行くべきですわ」
「甘味処には興味があるけど、冒険者ギルドにも行かないといけないしね。そうだ、できることなら料理人にボーダに来てもらえるように勧誘してきてよ。そうすればいつでも食べられるからね。いい案だとは思わないかい?」
「そうですわ、その手がありました! ……忙しくなってきましたわ。リンネ、私と一緒に甘味処へ行きましょう。料理人ゲットですわ!」
リリアーヌはハッとした表情になると、リンネを連れて甘味処ツアーに行ってしまった。
それを見送ったアマンダが、俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
「良かったのか? 私達は甘味処には興味なかったが」
「ああ、冒険者ギルドに依頼したいことがあったんだよ。リリアーヌも久しぶりに王都を楽しみたいと思っているだろうし、リンネも女の子だ。二人で遊んでくるのもいいだろう」
俺の言葉に、オラムが頬を膨らませていた。
「僕も甘味処に行きたかったよー。甘いスイーツを食べたいよー!」
「リリアーヌが料理人を勧誘してくるはずだから、ボーダに甘味処ができたら、皆で行こうな。その時は腹いっぱい食べていいよ、オラム」
「エクト! 約束だよ! 約束! わーい!」
機嫌が直って、大通りでピョンピョンと跳ねまわるオラムを落ち着かせてから、俺達は冒険者ギルドへ向かった。
扉を開けると、カウンターに美しい受付嬢が立っていた。
俺はまっすぐにそこへ向かって話しかける。
「依頼を出したいんだけど、この窓口でいいかな?」
「はい、どのような依頼でしょう?」
「俺は辺境に領土を持つエクト・グレンリード伯爵という者なんだが……うちの領地で学校の先生になってくれる人を募集したいんだ。ギルドの調べで身許がきっちりしている者をお願いしたい」
ギルドが身許を保証するなら、変な人物は来ないだろう。
「学校の先生ですか。受付可能ですので、依頼票を作成いたします。他にはございませんか?」
「そうだな、回復魔法士を多く募集したいな。領地が未開発の森林の近くにあるせいで、怪我人が絶えなくてね。だから治療所を作りたいんだ」
「治療所で勤める回復魔法士ですね。依頼書を作成いたします」
今回のスタンピードでは怪我人が多く、ポーションでの治療が追いついていない部分がある。
そのため、回復魔法を使えたり、ポーションを作れたりする回復魔法士を募集するというわけだ。まぁ、回復魔法士は引く手あまたの存在なので、どれだけ集まるかわからないけど。
そうだ、他にもあったか。
「後、鉱員を募集したい。三食と宿舎つき、特別報酬もアリだ」
「わかりました。鉱員でございますね。その条件なら人も集まるでしょう」
せっかくアブルケル連峰が正式に領地になったからな。ハイドワーフの皆とミスリルの件を教えるかはわからないが、鉱員がいればさらに開発できるだろう。
「そうだ、大事なことを伝えてなかった。面接会場は俺の領地、ボーダだ。少し遠いけど、そこまで来てくれるくらい真剣な人を募集したいんだよ」
俺の言葉で、受付嬢は納得したように頷いた。
「わかりました。募集項目に書き加えておきます」
受付嬢に依頼料を支払った俺達は、冒険者ギルドを出る。
そして事前に決めていた待ち合わせ場所でリンネとリリアーヌと合流すると、馬車に乗ってボーダへ向かって出発した。
ちなみに……料理人の勧誘は上手くいったようで、リリアーヌもリンネもテンションが高かった。しかもいかに素晴らしい料理人だったか、スイーツの美味しさを交えながら話すものだから、スネるオラムを宥めるのが地味に大変だった。
そんなのんびりした雰囲気で旅は続き、城塞都市ボーダへは、何事もなく一ヵ月ほどで到着した。
ボーダは内側から第一、第二、第三の外壁に囲われていて、重厚な守りを誇る。この防壁のおかげで、スタンピードを乗り切ったのだ。
しかしこうやって改めて外から見てみると、かなり大きい都市になったよな。
街の広さや豪華さは全然勝てないけど、城壁の立派さなら王都にも負けてないと思う。
住民達の歓迎を受けながら街の中心地に進んだ俺達は、次の日からボーダの発展に力を尽くすため、その日は休むことにしたのだった。
第2話 舞踏会
ドラゴンの素材を運び終えて、王都から戻ってきて数週間が経った。
宰相に頼んでいた文官も到着し、学校の先生や回復魔法士、鉱員もやってきて、街はますます発展してきている。
まず学校については、内政長官であるイマールとリンネに手伝ってもらって大まかな仕組みを決めた。
字の読み書きを教える教室、算術を教える教室、農業を教える教室、狩りを教える教室、剣術を教える教室の、五つに分かれている。
ボーダの住人はそもそも、小さな辺境の村から集まった者達で、字を読み書きできる者が少ない。算術ができる者はもっと希少だ。
住人の教育水準を上げるためには、字の読み書きは基礎中の基礎だ。将来的には、文官になってもらえるかもしれない。
ちなみに学校に通う生徒は、子供から大人まで幅広く募集している。学びたい者は誰でも授業を受けられるようにした。
教員もそれぞれの担当に相応しい者を採用し、副担当や補助員も採用した。そして彼らをまとめる立場として、学校長や副学校長になる者も採用している。
第一外壁の内側、つまりボーダの中心部にあった空地に俺の土魔法で校舎を建築し、準備も完了したところで生徒を募集したのだが……子供から大人まで、多くの応募があった。
特に字の読み書きのクラスと算術のクラスが人気だったので、クラスの数を増やしたほうがいいかもしれないな。
学校が開かれるのはもう少し先だが、今から楽しみだ。
それから、あまり集まらないんじゃないかと危惧していた回復魔法士だが、なんと二十名も集まった。
ボーダがスタンピードを撃退したという評判を聞いてやってきた元冒険者も、何人かいた。
こちらも第一外壁の内側に治療所を建てて、代表者として所長を任命し、運営を任せている。
しかし、一気に色々な建物を建てたせいで、第一外壁の内側が手狭になってきた。
というわけで、元々第一外壁の内側にあった農耕地を、第二外壁と第三外壁の間の更地に移動することにした。
もちろん、街の中心部から外周部に農地を移動させられる住民から反対意見はあったが、新しい広い農地を与えることで納得してくれたようで、今では楽しそうに働いている。
それから鉱員達には、アブルケル連峰の麓で働いてもらっている。
俺が《地質調査》という、魔力が浸透する範囲でどんな成分の何があるかわかるという土魔法で確認したところ、鉄鉱石の鉱脈があったのだ。
ボーダではミスリルが手に入りやすいこともあって、鉄の人気は高くないのだが、ファルスフォード王国内では鉄の需要は高い。
鉄鉱石の鉱脈を発見したことはオルトビーンに王都へ転移して伝えてもらい、グランヴィル宰相から陛下に報告されている。近々、鉱脈の件で、また王都へ呼び出されることになるだろう……実は、ミスリルとアダマンタイトを含んだ鉱脈も発見していたが、そのことはまだ二人だけの秘密だ。
そんな重要な鉄鉱石を掘ってくれている鉱員達は、俺とオルトビーンが土魔法で作った、魔獣達に襲われないように高い外壁で四方を囲んだ村に住んでいる。
ボーダから直結の地下道もあるので、いざという時はボーダに戻ってくることもできるし、何かあればハイドワーフ族を頼るように、鉱員長のヘイゲルに説明してある。
ちなみに、労働条件についてはかなりホワイトにして、日が暮れる前には作業を終えて休んでいいと伝えたところ、驚きの声が上がっていた。
「こんなに休んでいいんですかい?」
「これでいいんだよ! 無理はしないでくれ!」
夜に鉱山の中を掘るのは危険だし、体力を使う仕事である。頑強な体が資本なのだから、休める時に十分な休息を取ってもらうことを条件にしている。
それから、清潔を保つのと疲れをしっかりとってもらうために公衆浴場を作ったところ、瞬く間に人気となっていた。
そんなわけでボーダの人口も増えたので、イマールが人頭税を取ることを主張していたが……領地運営の資金には余裕がある。それに住人たちはスタンピードから立ち直ったばかりだし、まだ少し早いだろう。
そうそう、気がつけば、俺がボーダ村の領主になってから一年以上が過ぎていたっけ。
ここまで発展させるのは大変だったけど、まだまだ伸びしろはあると思っている。
俺はボーダの第三外壁の上に立って、隣にいるオルトビーンに話しかける。
「オルトビーン、色々と助けてくれてありがとう。ここまでボーダが大きくなったのはお前のおかげだよ」
これは心からの言葉だ。
オルトビーンがボーダに来て以来、俺一人ではどうにもならないことも、オルトビーンが助けてくれた。
オルトビーンは、アブルケル連峰を見ながら呟く。
「いや、エクトの実力さ。それに、未開発の森林もアブルケル連峰も、まだままだ宝の山が眠っている。これからますますボーダは発展するだろう……そうなれば、嫌でもエクトは目立つことになる。余計な争いに巻き込まれるかもしれない」
確かにオルトビーンの言う通りだ。もちろん、争いに巻き込まれたいわけでもない。
しかし城塞都市ボーダの開拓を止めるつもりはない。
辺境でも、これだけ住みやすい都市ができるんだということを証明したいのだ。
「エクト、これからが大変だよ。気軽に何でも相談してくれよ。特に中央の貴族達のことなんて詳しくないだろう?」
「ああ、オルトビーンを頼らせてもらうよ」
もうすぐアブルケル連峰に夕陽が沈む。大きな夕陽が俺とオルトビーンを赤く照らしていた。
オルトビーンと決意を新たにした翌日。
リリアーヌとリビングで紅茶を楽しんでいると、朝から王城へ向かっていたオルトビーンが戻ってきた。
「エクト、陛下とグランヴィル宰相がお呼びだよ。今から王城へ行こう」
オルトビーンは転移の魔法陣を使えるため、こうやって定期的に王城へ行って、宰相と連絡を取ってくれているのだ。
「え! そんなに急に? いったいどうしたんだ?」
「詳しい話は王城に着いてから」
驚いている俺を見て、オルトビーンがニッコリと笑う。絶対にオルトビーンは呼び出された理由内容を知っているはずだよな。
そんな中、リリアーヌが紅茶をテーブルの上に置いて、俺をじっと見上げてきた。
「私もおじい様にお会いしたいですし、同行させていただきますわ」
その言葉に、オルトビーンがリリアーヌを見る。
「リリアーヌが同行してもいいと思うよ。そのほうが宰相の機嫌もいいし」
そうして今回、王城へ向かうのは、俺、オルトビーン、リリアーヌの三人になった。
オルトビーンは庭に出て大きな魔法陣を描くと、俺とリリアーヌにその中央に立つように促す。オルトビーンの詠唱と共に、魔法陣が輝き始めた。
あまりの眩しさに目をつむる。次に目を開けると、王城の庭に立っていた。
「それじゃあ、まずはグランヴィル宰相の執務室へ行こうか」
オルトビーンが先頭に立って、王城の廊下を歩く。近衛兵達はオルトビーンを見ると姿勢を正して敬礼していた。さすがは宮廷魔術師だな。
執務室の前に着き、リリアーヌがノックをすると、中から「入ってよし」という声が聞こえた。
リリアーヌを先頭にして俺達が入室すると、グランヴィル宰相は椅子から立ち上がって、リリアーヌを抱きしめた。
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