自重知らずの転生貴族は、現代知識チートでどんどん商品を開発していきます!

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!

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1巻

1-2

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 それからレミリア、ジョルドと話し合い、僕の考案した骨を使った陶器は、『ボーン食器』と命名された。
 そしてジョルドの提案で、邸の隣に簡易的な工場が建てられることになった。
 器の種類も、底の深さを変えた皿を数種類、それとマグカップ、紅茶カップなどのコップ類や、フォーク、スプーンなども量産することにした。
 これも【マグカップ】と同様に、【大皿】、【小皿】【紅茶カップ】……など、幾つかの魔法陣を数枚ずつ描いておく。
 ジョルドはすぐに大工職人を手配してくれて、二週間後には工場が完成した。
 こちらの準備は整ったので、後は人員だ。
 魔法陣に骨をせて魔力を通せばボーン食器になることを考えれば、すごく簡単な仕事だから、工員を集めるのも大変ではないと思ってたんだけど……
 それでも一つ一つ商品を作る度に、魔法陣へ魔力を流す必要がある。
 毎日作業を続けていれば、魔力が枯渇こかつして倒れる者が出てくるかもしれない。
 そこで工場にある魔法陣は、魔石から魔力を抽出して魔法が発動するようにした。
 これなら、小さな魔石を載せるだけで魔法陣が発動できるからね。
 大量に魔石が必要だけど、小さな魔石はかなり価値が低いので、それほどコストは高くない。
 あとは骨や魔石を魔法陣に載せて、魔力を流す人員が必要なんだけど……ジョルドとレミリアと相談して、奴隷を雇うことになった。
 この世界は、前世の日本のように治安がいいわけでなない。
 信用できる者でなければ、魔法陣や商品を盗まれる可能性がある。
 奴隷は奴隷紋という魔法契約による紋が体に刻まれている。
 そして主人の命に背くと、全身に激痛が走る仕組みになっているのだ。
 それによって主人に反抗することはできないし、嘘や隠し事もできないから防犯対策としては申し分ないんだよね。
 前世の記憶を持つ僕としては、奴隷を使うのはちょっと躊躇ちゅうちょしてしまうのだけど、この工場ならば無理な働き方をさせることはないだろうと何とか自分を納得させた。


 奴隷も集まり、ボーン食器の量産が始まったところで、僕は売り先について考えないといけないことに気づいた。
 でもそこは、ジョルドが既に動いてくれていた。
 彼はサンプルとなる商品を持って、商業ギルドと交渉しに行ってくれていたのだ。
 結果として、我が家から商業ギルドに商品を納入し、ギルド経由で幾つかの商会に卸してもらい、試しに販売されることになった。
 お試し販売ということで、店頭価格はこちらで決められるそうで、どれもおおよそ銀貨一枚――日本円にして千円ぐらいの値付けにしてある。
 ボーン食器の材料は、元々捨てられていた部位なので、原価はタダ同然。
 なのでかなり安く売ることも考えていたんだけど、白磁器に近い高品質のものを安価で市場に流せば混乱を起こすことになってしまう。
 なので、それを避けるための値付けとなった。
 ちなみに、各手数料を抜いて、僕達の手元に戻ってくるのは、三割程度だ。
 さて、どれくらい売れるかな。


 そんなこんなで、ボーン食器の販売を開始してから一ヵ月ほど。
 ボーン食器は売れに売れ、まだ発売されてから間もないのに、既に領都全体に広がる勢いになっていた。
 気をよくしたジョルドがボーン食器の店舗まで作ろうと言い出したくらいだ。
 さすがにそれは難しいんじゃないか、なんて話をしているうちに、父上が領都ディルスに帰還してきた。
 国境に現れたナブラスト王国軍を退け、ロンメル砦に兵を二百人残してきたという。
 応接室に僕とジョルドを呼び出した父上は、大きなソファにゆったりと座って息を吐く。

「やはりナブラスト王国軍は本気で侵略してくるつもりはなかったようだ。国境での小競り合いで済んでよかった……さて、シオン、ジョルドよ。私が留守の間は何もなかったか?」
「聞いてください。シオン様が発明したボーン食器が領都ディルスで大好評となっています。この分ですと出兵にかかる費用を上回る利益が得られそうです」

 俺が口を開く前に、ジョルドがニコニコと微笑みながら、手に持っていたボーン食器を父上に手渡した。
 食器を手に取り、ジーッと見つめ、指でコツコツと叩いて硬さを確かめ、父上は難しい表情を浮かべる。

「木よりも硬いが、金属ではなさそうだな。この食器は何でできている?」
「骨です。廃材になっていた魔獣、動物、魚などの骨を粉末にして、魔法陣を用いて器に加工したものです」

 僕はすぐにそう答える。

「これがゴミになる骨から加工した器だと……シオン、どこからそのようなアイデアを思いついたのだ?」
「僕のスキルのことはご存知ですよね。廃棄される予定のものを使えば、元手はタダ同然に、様々なものを作れるんじゃないかと思いまして。それで稼いで、父上の力になれればと考えたんです」

 父上に見据えられた僕は、指をモジモジさせながら答える。
 その様子を見た父上は、ハァーと大きく息をついた。

「どうやらシオンは商才がありそうだな……では、商業ギルドでシオンの商会を作ろう。この商品の利益は全て、シオンの商会のものとする。侯爵である私が息子にもうけさせてもらうなど、沽券こけんに関わるからな」
「でも……父上のためにボーン食器を作ったので……」

 そう、僕がこうして商品を売ろうと思ったのは、少しでも沢山儲けて、父上の力になりたかったからだ。
 しかし父上は首を横に振る。

「いずれ侯爵家はアレンが継ぐことになる。成人すればシオンは家を出て独立せねばならん。その時に少しでも資金があった方が将来の役に立つ。よって商品の利益はシオンのものだ」

 父上はブリタニス王国の侯爵で大貴族だ。
 九歳の息子が商品を開発したからといって、その利益を父上が受け取れば、他の貴族から要らぬことを言われ、あらぬうわさを立てられことにもなりかねない。
 もし王国中にそんな噂が広まったら、父上は国中の笑い者になる。
 そこまで思考を働かせなかったのは僕のミスだな。
 また何かの機会があったら、父上に協力しよう。


 父上と話し合ってから三日後、僕の代理としてジョルドとレミリアが商業ギルドへ赴き、『ロンメル商会』を設立した。
 この商会の名前は、レミリアが決めたんだよね。
 ロンメル砦を守りに行く父上を僕が助けようとしたことから、この名前を考えついたそうだ。
 父上の命を受け、ジョルドは領都ディルスに三つのロンメル商会の店舗を用意した。
 そして一ヵ月後には、ディルメス侯爵領の主要な六つの町にもロンメル商会の店舗を用意し……ついにボーン食器は販売されることになった。
 既に領都の庶民の間でボーン食器は流行となっていたこともあり、他の町でも飛ぶように売れ、あっという間にディルメス侯爵領内に浸透していった。
 ロンメル商会は僕個人が所有する商会で、レミリアが副会長として、僕の代わりに業務を行ってくれることになった。
 僕はあくまでもまだ九歳の貴族家次男。実務なんてできるわけがない。
 ホントはジョルドに副会長になってほしかったんだけど、彼は父上の片腕なのでそこまでの協力を得ることはできなかった。


 領内でボーン食器を売り始めて三ヵ月後、ディルメス侯爵家の邸に、周辺の諸侯達が頻繁ひんぱんに訪問してくるようになった。
 その目的はどれも、ボーン食器を安く卸してほしいというものだった。
 諸侯の相手をしなければいけない父上は、段々と疲労の色を濃くしていく。
 そんなある日、僕とレミリアは、父上の執務室へ呼び出された。
 部屋に入ると、豪華なデスクに座る父上が、真剣な表情で真っ白なマグカップを持っていた。

「ただ白いだけの食器と思っていたが、こんなにも流行はやるとはな。これは私の予想を上回る大変な事態になるかもしれん」
「どういうことでしょうか?」

 父上の言葉の意図がわからず、僕は首をかしげる。
 するとエミリアがニッコリと笑って、推測を披露してくれた。

「ボーン食器の販路については全て記憶していますので、私から説明を……この勢いですと、ボーン食器の売れ行きは、ブリタニス王国南部の全てに広がるでしょう。ダイナス様はそのことについてご懸念けねんがあるのかと」
「レミリアの予想通りだ。事はそれだけではないぞ。もしかすると、王城から呼び出しがあるかもしれん。もしもの時はシオンも王城に同行することになるから、そのつもりで心の準備をしておくように」

 父上にそう告げられた僕とレミリアは、二人で自室へと戻った。
 ちょっとディルメス侯爵領の資金繰りを改善しようとしただけなのに、どうしてこんな大事おおごとになるんだよ……
 確かに領内で流行っているとは思っていたけど、まさか王城まで話が行くほどなんて考えてもみなかったな。
 しかし、父上が王都へ行くとなると、多くの兵士を率いて登城しなくちゃならない。
 そうなればまた遠征の出費がかさむ。
 それでなくても、ナブラスト王国との国境での戦いで、出費が膨らんでいるのだ。
 僕が引き起こした騒動で、父上に迷惑をかけるのは申し訳ない。
 そこまで考え、僕はあることを思いついた。
《万能陣》で、試してみたいことがあったのだ。
 急いで机の上に置いてあったインクとペンを手に取り、大きな姿見の前に立ち、鏡に向かって一心不乱に《万能陣》で魔法陣を描いていく。
 僕の隣で様子を見ていたレミリアが首を傾げる。

「それは何の魔法陣なのですか?」
「ふふふ……【転移ゲート】の魔法陣だよ。この鏡を使えば王都にある別邸へ転移できないかと思って」


「転移……の魔法ですか? 勇者サトウがご健在の頃、勇者の仲間であった賢者タナカが用いたと言われている魔法ではありませんか。もうシオン様が何をされても私は驚きませんけど……」

 何か悩ましそうにレミリアは大きく息をついた。
 女神の言っていた通り、五百年ほど前に勇者とその仲間達が、魔王を討伐してエクストリア世界を救ったとされている。
 その偉業を、この世界の人々は、遠い昔の神話として語り継いでいるのだ。
 その勇者の名前がサトウ、仲間の賢者がタナカだから、女神が言っていた日本からの転移者が魔王を倒したというのは嘘ではないのだろう。
 そんなことを考えながらしばらく鏡に魔法陣を描き続け、やっと【転移ゲート】の魔法陣が完成した。
 それに魔力を流してみると――姿見の内側がゆがんだゲートみたいになった。
 これで王都にあるディルメス家の別邸につながっているはずだ。
 王都の別邸には、昔行ったことがある。
 そこにあった大きな姿見を思い出して、この姿見とそれが繋がるように空間を繋げる、というイメージをしてみたのだ。
 実は昔、《万能陣》の使い方を色々試していた時に、空間と空間を繋げる魔法陣を描いたことがある。
 魔法陣が触れている空間を歪ませて、別の場所にワープできないか……というもので、ちょっとした小物なら通れる程度の転移ゲートを作ることに成功した。ちなみに、虫を使って生物も通り抜けられるかの実験もしていて、成功している。
 当時はスキルの理解度が低く、僕のイメージもあまり固まっていなかったので、ここまでのサイズを描くことはできなかったんだ。
 だけど今なら、きっと人が通れるサイズの魔法陣を描けるはず。
 そう思って描いてみたんだけど……当時と同じ見た目だし、きっと成功しているだろう。
 ちなみに、入口となる魔法陣を描けば、出口は思い描いた場所にできあがるという便利な仕組みである一方、一方通行なのがネックだった。
 そこの仕様はおそらく同じだろうから、無事に向こうに着けたら、あっちの姿見にも魔法陣を描かないとね。
 ともかく、行ってみないことにはどうなるかわからない。

「ちょっと実験してみよう。鏡の向こう側へ行ってくるよ」

 僕はそう言ったんだけど、すかさずレミリアが止めてくる。

「シオン様自身が実験されるなんて、それはダメです。私が確認して参ります」
「それじゃあ、二人で一緒に行ってみようか」

 僕がそう言うと、レミリアはまた止めようと口を開いて……すぐにあきらめた表情になった。
 僕がこういう時、言い出したら聞かないことを彼女は知っているからね。
 というわけで、僕とレミリアは互いの手を握り、ゲートの内側へと入っていく。
 すると一瞬、上下左右がわからなくなり――次の瞬間には見知った部屋に立っていた。
 ゆっくりと視線を動かすと、今まさに服を着ようとしている裸のアレン兄上と目が合う。

「ギャー! シオンとレミリアの幽霊が出たー!」
「ワァー! アレン兄上の幽霊が出たー!」
「二人とも冷静になってください」

 ギャギャーと悲鳴をあげる僕とアレン兄上の頭を、スッパパンとレミリアが張り倒す。
 レミリアは長く仕えてくれているから、これくらいのツッコミは日常茶飯事にちじょうさはんじで僕も兄上も気にしない。
 その衝撃で正気を取り戻したアレン兄上が表情を歪める。

「どうしてシオンがこの邸にいるんだ? 詳しく話を聞かせてくれないかな?」
「……転移魔法陣の実験をしていて、ディルメス侯爵領の本邸から転移ゲートに飛び込んだんだけど……ここは王都の別邸だから、実験に成功したってことでいいのかな?」

 兄上もいるし、やっぱり見覚えのある別邸の部屋だ。
 すると、兄上は目を丸くした。

「それは転移魔法を使ったということか! こんな重大なこと、見過ごせないぞ、父上には報告したのか?」
「え? まだですが……」

 というか、人間の転移を試したのはこれが初めてだし、本当は報告に行くのも気が重かった。
 父上が楽に移動できればと思いついて試してみたわけだけど、まさかあっさり成功するとは思っていなかった。
 それに冷静になれば、転移なんてとんでもないことを実現させてしまったとなると、また父上が王都に報告をしないといけない事項が増えて、仕事を増やしそうな気がする。
 そうなると、父上に叱られかねない。

「それじゃあ急いで報告しに行こう!」
「え、でもこちらからはまた魔法陣を描かないと」
「それじゃあ急いで描いてくれ! 僕も準備するから!」

 そう兄上に急かされて、僕は自分達が出てきた姿見に【転移ゲート】の魔法陣を描いていく。
 そして魔法陣が完成し、魔力を流すや否や、兄上が僕の腕をつかんでゲートに突っ込んでいった。
 ……兄上、転移は初めてだよね? 未知の空間に飛び込むの、怖くないのかな?


 無事に本邸の部屋に戻ってきた僕は、兄上に腕を引かれるがまま、父上の執務室へ向かった。
 扉をノックしてアレン兄上が部屋の中に入ると、その姿を見て驚いた父上が椅子から立ち上がる。

「王都にいるはずのアレンがなぜここにいる?」
「それは、シオンがスキルで転移の魔法陣を完成させたらしく……」
「転移だと? シオン! どういうことか詳しく経緯を話しなさい!」

 父上の迫力に圧されたアレン兄上が小声で答えると、父上はデスクを手のひらで叩く。
 それから長時間、説教されることになったのは言うまでもない。


 その後、やはり僕はめちゃくちゃ怒られた。
 といっても、そんな危ない実験をして失敗していたらどうするつもりなのか、というものだったけどね。
 それから、父上はしばらく悩んで、王城には転移ゲートのことは報告しないと決めた。
 転移魔法は神話の魔法。本来であれば王城に連絡する必要がある。
 しかし王城に知らせると騒ぎが大きくなりすぎるという理由と、実用段階に至るまで、色々と実験が必要になって大変という理由から秘密にしたみたいだ。
 その日以降、幾つかの実験をして、転移ゲートについてわかったことは二つ。
 一つは、ゲートは本来一方通行であって、僕が魔法陣を描く時にイメージした場所にしか繋がらないということ。
 もう一つは、魔法陣――というか姿見よりも大きなものは転移できないということだった。
 とはいえ、他の僕の魔法陣と同様、魔力を流すのは僕でなくても、効果は起動する。
 そのため、兄上は頻繁に姿見の転移ゲートを利用することになった。
 転移ゲートを作って一番喜んでいるのは兄上のような気がするな……僕も兄上と気軽に会えるからうれしいけどね。



 第3話 宰相と面会!


 転移ゲートの実験に成功してから二週間後、邸に王城からの早馬がやってきた。
 父上の予想通り、ボーン食器の件で、ロンムレス宰相からの呼び出しがあったらしい。
 王都とディルスの距離は、馬車で三日程度。
 しかしその移動にもお金がかかるので、今回は転移ゲートで移動することにしていた。
 そんなわけで伝令を受けてから二週間後の、指定された日。
 姿見の転移ゲートをくぐって、僕と父上は王都の別邸へと移動する。

「ではシオン、王城へ赴くぞ。王城に着いた後は、誰と出会うかわからん。くれぐれも粗相そそうのないようにな」
「わかりました」
「なに、ロンムレス宰相は旧知の間柄で親しくしている。そう緊張するな」

 この二週間、父上から王城へ向かうことになると言われていたけど、いざ王城の人に会うのかと思うと緊張する。
 そして僕達は二人で別邸から馬車に乗り込み、王城へと赴いた。
 城に到着した父上は、僕を後ろに従えて、宰相の執務室を訪れる。
 部屋の中にいたロンムレス宰相は、父上と同年代くらいだろうか、鼻の下にヒゲを生やした壮年の男性だった。

「よく来たな、ディルメスきょう……息子を連れてくるとはめずらしいな。まずは座ってくれ」
「宰相閣下に呼び出されては来ぬわけにはいかんだろう。今回は次男を連れてきた。よろしく頼む」

 宰相に勧められ、長いソファに父上と二人で座る。
 対面のソファに座った宰相が使用人に声をかけ、何かを運ばせてきた。
 宰相が使用人から渡されたのはマグカップ――ボーン食器だ。
 宰相は手に取ってチラッと父上の表情をうかがう。

「これはある貴族からライオネル国王陛下に献上された、ボーン食器と呼ばれる器でな。どうやらディルメス卿の領都で購入した特産品らしいのだが、卿からは報告がない。なぜこのような良質な品を、卿は隠していたのだ?」
「別に隠していたつもりはない。最近、国境にナブラスト王国軍が現れてな。私は敵軍を迎撃するために砦に遠征していたのだ。その間に息子がボーン食器を考案し、家臣が領都ディルスで売り出したのだが……ここまでの騒ぎになるとは考えてもいなかったのだ」
「では、この食器は貴殿の子息が作られたと?」
「そうだ。いい機会だと思い、その息子も同行させた。これが我が家の次男、シオンだ」
「シオンです。よろしくお願いいたします」

 父上に紹介された僕はソファから立ち上がり、ペコリと頭を下げる。
 僕を見て大きく頷いた宰相は、父上に視線を移して目を細めた。

「考案者が貴殿の子息であることは理解した。これは要望なのだが、ボーン食器を王城に卸してくれないか。他国から来た外交官へ、我が王国の特産品として自慢したいと、ライオネル国王陛下がおおせなのだ」
「こんな何の絵柄もない、ただ白いだけの食器を我が王国の特産品にするなど……ライオネル国王陛下も冗談が過ぎる」
「いやいや陛下は本気のようなのだ。このような質の高い食器を、我が王国の庶民までもが使っているのだと自慢したいらしい。元々、高品質の工芸品を使っている王城としては、頭の痛い話だがな」

 宰相の話によると、王城で使用されている白磁の食器は重くて割れやすいので、ボーン食器と取り替えたいそうだ。
 その後父上と宰相の話し合いで、王城で使用するのであれば、無地のままでは味気ないので、ボーン食器に金メッキなどで装飾を施すことになった。
 そして僕が代表を務めるロンメル商会は、王室御用達という肩書きをいただけるという。
 王室御用達の商会ともなると、商業ギルドにも影響を与えるほどの効力があるらしい。
 ロンムレス宰相が僕を見て満足したように微笑む。

「シオンよ。これからもブリタニス王国のために新しい商品の開発に尽力するように」
「はい、わかりました」

 僕がそう返事をすると、父上が困ったように息をつく。

「あまり息子をきつけないでくれ。最近は色々とやらかすので困っているのだ」
「頼もしい限りではないか。男子はそのぐらいでないとな……そういえば、王都に卿の馬車が入ったという報告がなかったのだが、どうやってここまで来たのだ?」

 そんな宰相の何気ない言葉に、僕と父上は顔を見合わせる。
 別邸から王城に来れば問題ないと思っていたが、王都なのだから当然貴族の出入りを管理しているよね。すっかり忘れていたよ。
 父上は、ここで誤魔化しても仕方ないと思ったのか、宰相に転移ゲートのことについて説明した。
 一応、僕の固有スキルであることは伝えつつ、偶然成功して領都の本邸と王都の別邸を繋げただけで、人一人通るのが精いっぱい。しかもその後、別の転移ゲートを作る実験は全て失敗していて再現できていない、と父上は苦しそうに説明していたけど。
 その内容を聞いて宰相は信じられない様子だったが、父上がそういう冗談を言うタイプではないので、どうにか納得してくれた。
 まぁ、僕のスキルってのは信じてないみたいだけどね。

「このことが真実ならば陛下に報告しなければならんが……信じてもらえるだろうか……いや、ここは混乱を増やすだけなので詳細は伏せておいた方が……」

 なんだか宰相の余計な心配事を増やしてしまったみたいだ。

「とにかく、この件は私の胸に秘めておこう。陛下への報告も、機を見て私からしておく」

 そう言って溜息をつく宰相に見送られ、僕と父上は王城を後にして、別邸へ戻るのだった。


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