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第2章 グランタリア大陸東部編

64.クラウス、母上に説得される!

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国境から馬車で二日、僕達はファラレスト皇国の皇都ファランへと到着した。

僕、リムル、エレミア、カイロスの四人は街の高級宿に泊まり、クラウスとグレースへ明日王城へ向かうと約束をし、クラウスは王城へ、グレースは家族の邸へと帰っていった。

高級宿は大浴場が設置されていて、ひさびさにゆっくりとお風呂に入ることができた。


……普通の宿屋のお風呂って、底が浅いから肩までゆっくりとお湯に浸かれないんだよね。


そして次の日、僕達四人は馬車に乗って城へと赴く。

城の門でクラウスからもらった手紙を見せると、一人の兵が城内を案内してくれた。

来賓室で待っていると、豪華な衣装を着たクラウスとドレス姿のグレースが扉を開けて入ってくる。

その後ろに落ち着いた青い長い髪の女性が姿を現した。


「紹介しよう。僕の母上――アミーレ王妃だ」

「クラウスがいつもお世話になっています」

「僕達こそ、お世話になっています」


僕、リムル、エレミア、カイロスの四人はソファから立ち上がり頭をペコリと下げる。

するとクラウスが僕に向けて手をかかげる。


「このシオンが会長を務める『ロンメル商会』は、女性に優しい商品を次々と作りだしているんだ。母上もご存じのダイエット薬も、シオンが開発したものなのだ」

「まあ、クラウスが自分以外の者を褒めるなんて珍しいわね。そう、シオン君がダイエット薬を作ったのね。私も毎日のように飲んでいるの。あの薬を飲むと肌の艶も良くなるし、体も軽くなるのよ。あのような薬を作ってくれて、本当にありがとうね」


そう言ってアミーレ王妃はおっとりと微笑む。


……なんだかすごく穏やかで優しそうな王妃様だね……


セレーネ王妃とは違った感じだけど、なぜか落ち着くな。


「それで母上にお願いがあるんだ。『ロンメル商会』の商品を、私の手で王都ファランに広めようと思うんだ」

「どういうことかしら?」

「シオンのように私自身が商会の主となって、『ロンメル商会』に商品を卸してもらい、それを王都ファラン中に売っていこうと思ってるんだ」


……そんな話は一つも聞いてないからね……まあ、クラウスが自分で商会をするのは僕に話さなくていいけどさ……


「あなたに商会の会長なんてできるかしら?」

「シオンにできるんだから、私にだってできるはずだ」

「少し聞きたいのだけれど、きちんとシオン君に話は伝えてあるの?」

「だから今、伝えたんだ」


クラウスの言葉を聞いて、アミーレ王妃は「ハァー」と深いため息をつく。

そして僕のほうへ顔を向けて深々と頭を下げた。


「シオン君の商会の商品を卸すことを、勝手に決めている息子のことを許してください。昔から自己中心的な考えをする子なの」

「なぜ母上がシオンに謝る必要があるんだ? 僕が商会を作って、皇都ファランに商品を広めようというのに」

「それはシオン君が頼んだのかしら? シオン君はあのダイエット薬の開発者なのよ。クラウスを頼らなくても、『ロンメル商会』の商品を卸したいという商会は数多くあるはずよ。あなたが商会をしたいなら、シオン君の商会の商品を使わずに、商会を経営してみなさいね」


アミーレ王妃は柔らかい表情とは裏腹に、ピシャリとクラウスへ言い切った。

するとクラウスは両手を広げて訴える。


「そんなの無理に決まってるじゃないか。私は商会について素人なんだ。売れる商品でなければ商会を維持するのは難しい」

「そうですね。ということは、シオン君の開発した商品に頼って、クラウスは商売をしようとしてるのよ。それなのになぜ、シオン君に相談もせず、まるで自分が商品を広めてやるといった姿勢でいるのかな。あなたがシオン君に頼む立場だというのがわからないかしら。そんなことだと商売人なんてクラウスには無理ね」


アミーレ王妃はクラウスにもわかるように言葉を選んで、諭すように語りかける。

その言葉を聞いたクラウスは悔しそうな表情を浮かべ、両拳を握りしめた。


「しかし、私はこの皇国の第二王子だ。簡単に頭を下げるわけには……」

「それだから、クラウスは小さい頃から人望がないのです。お願いする時はお願いする。謝罪する時は素直に謝罪する。それを心からできる人にならないと、人の器というのは大きくならないわ。自分が皇族だからと言って、上から人を見下していれば、誰もその人も元に集まらない。私はクラウスにもっと大きな人になってもらいたいの」

「わかりました母上。シオンに相談しなかったのは私の落ち度です。商人としてはシオンが先輩ということを素直に認める。シオン、どうか私に『ロンメル商会』商品を卸してほしい。そして私に商会のイロハを教えてくれ」


クラウスは僕を見て、深々と頭を下げた。


……あのプライドが高くて、常に人を見下すクラウスを説得するなんて、やっぱりアミーレ王妃はクラウスのお母さんなんだね……僕には母上がいないから、ちょっと羨ましいかも……


僕の方へ顔を向いて、アミーレ王妃が優しく微笑む。


「こんな息子だけど、よろしくお願いしますね。何かあったら私に報告してください。ゆっくりと説得いたしますから」


……セレーネ王妃とタイプは違うけど、アミーレ王妃も手強そうだね……二人には逆らわないようにしよう……
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