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第2章 グランタリア大陸東部編
50.グラントル宰相からの交渉!
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段々と日が暮れて閉店の時間となり、アグウェル、リムル、サイゾウの三人は、手分けして店を仕舞う準備にとりかかる。
その間に僕はオルデンを起しに彼の部屋へと向かった。
「起きてるかい」
「……さっきはすまない。もう大丈夫だ」
「今日はオルデンのために料理を作ってみたんだ。皆と一緒に食べよう」
「……それは楽しみだな」
まだ、落ち込んでるようだね……
僕とオルデンは階段を下りてリビングでみんなと合流した。
それからしばらくして、レミリアがカレーを運んできてくる。
すると部屋全体にカレーのスパイシーな香りが漂い始めた。
その香りに刺激され、サイゾウの口からよだれが垂れる。
「初めて嗅ぐ香りでござる。めちゃくちゃお腹が空いてきたでござる」
「私も我慢できなーい」
「これはなんとも食欲をそそる香りですな」
リムルとアグウェルも空腹に耐えられないようだ。
皆を見回し、僕は号令をかける。
「さあ、この料理はカレーライスっていうんだ。存分に召し上がれ」
それぞれの目の前にカレーライスが置かれると、リムルは好奇心に目を輝かせて、パクリとカレーライスを口に入れる。
「なにこれ! めちゃくちゃ美味しい!」
「辛さの中に甘さが! 濃厚なのにサッパリとした! なんと複雑な味なのですか! とても言葉では表現を尽くせません! とにかくとても美味しいの一言です!」
アグウェルがこんなに興奮している姿を初めて見たよ。
皆、それぞれに「美味い、美味い」と言いながら、一心不乱にカレーライスを食べていく。
オルデンの方へ視線を向ければ、彼も皿を手で持って、ガツガツとカレーライスを食べていた。
「美味い! カレーライスって言うのか、この料理、最高だよ!」
……カレーライスのおかげで、ミムルのことはすっかり忘れたようだね……
王都ダルトンで『ロンメル商会』の商品を売り出して三か月が経った。
姿見の転移ゲートを使って、王都ダルトンの店舗まで商品の荷運びをするので、在庫が無くなるという心配もなくなった。
店に並べた『ボーン食器』、香水、石鹸は順調に売り上げを伸ばしている。
そして、特に『ブラーフ』と『パンピ』はの噂は王都ダルトンだけでなく、ダルシアン王国内へと広まっていた。
そんなある日、鎧を着た一人の男性が店の中へと歩いてくる。
「私は王宮近衛騎士隊の隊長、クルゼフだ。王宮より呼び出しである。商会の会長及び、この店の店主は準備を整え次第、同行するように」
その言葉に僕とオルデンは顔を見合わせた。
急いで出かける用意をした僕、レミリア、アグウェル、オルデンの四人は、店をサイゾウとリムルに任せて、馬車に乗り込む。
そして馬に乗って先導するクルゼフさんと一緒に、王都ダルトンの王城へと向かった。
王都ダルトンの王宮は街の中心より少し北の位置にあり、星形の外壁に守られた、丸い屋根を持つ尖塔が六つもあり、白くて美しい城だった。
城の厩舎に馬車を留め、クルゼフさんに案内してもらって、クルクルと螺旋階段を上り、赤い絨毯の廊下を歩いていくと、その先に重厚な扉があった。
コンコンとノックしてクルゼフさんが扉を開けてくれる。
「入れ」
部屋の中にはいると、机に向かって堂々とした壮年の男の人が座っていた。
「私がお前達を呼んだグラントルだ。この王国の宰相を務めている。お前達が例の『ブラーフ』と『パンピ』を売っている商会か」
「はい。僕が商品を卸している『ロンメル商会』のシオンです」
「俺が王都ダルトンの店舗の管理をしているオルデンだ」
「お前達の商業ギルドでのランクは? そのランクを証明する証を見せてみよ」
挨拶をする僕達二人を見て、グラントル宰相は目を細める。
僕とオルデンは懐からシルバーのメダルを取り出して、グラントル宰相に向けてかかげた。
「ふむ、シルバーランクか。一応は信用のおける商会の会長と店主らしいな」
「それで、どのようなご用件でしょうか?」
「『ブラーフ』と『パンピ』の噂が、王宮に務める貴族達の間でも話題になっておってな。その噂がダルベルク国王陛下の耳に入ってしまったのだ。そこで国王が『ブラーフ』と『パンピ』を王国の特産品にしたいと仰せでな。この二つの商品の製造方法を王都の職人達に教えよと言われているのだ」
……教えよと言われても、《創造魔法陣》で描いた魔法陣は、このエクストリア世界では使われていない言語、ひらがな、カタカナ、英語で構成されているから、魔法士や魔導士であっても解読できないんだよね。
「申し訳ありませんが、『ブラーフ』と『パンピ』については特殊な魔法陣を使っているので、情報を開示したとしても、扱える者はいません。それに情報を開示するつもりもありません」
「王陛下からの直々の命であるぞ」
「僕は元々はブリタニス王国の商会の商人です。ダルシアン王国で商売ができなければ、別の国で商売をすればいいですし、ブリタニス王国に戻るのも可能です。ですからダルシアン王国に固執する必要はありません」
「待て待て、そう早まるな。この国から去ってもらっては困る。ダルベルク国王へは私から話しておこう。これからもしっかりと商売をしてダルシアン王国の経済を盛り上げてくれ」
話し合いが終わり、僕とオルデンが深々と礼をしてグラントル宰相の執務室から出ると、部屋の様子を聞いていたようで、クルゼフさんが険しい表情で僕達を見ていた。
……商会を守るためとはいえ、一国の宰相に歯向かったのは、ちょっとやり過ぎたかもしれないな……
その間に僕はオルデンを起しに彼の部屋へと向かった。
「起きてるかい」
「……さっきはすまない。もう大丈夫だ」
「今日はオルデンのために料理を作ってみたんだ。皆と一緒に食べよう」
「……それは楽しみだな」
まだ、落ち込んでるようだね……
僕とオルデンは階段を下りてリビングでみんなと合流した。
それからしばらくして、レミリアがカレーを運んできてくる。
すると部屋全体にカレーのスパイシーな香りが漂い始めた。
その香りに刺激され、サイゾウの口からよだれが垂れる。
「初めて嗅ぐ香りでござる。めちゃくちゃお腹が空いてきたでござる」
「私も我慢できなーい」
「これはなんとも食欲をそそる香りですな」
リムルとアグウェルも空腹に耐えられないようだ。
皆を見回し、僕は号令をかける。
「さあ、この料理はカレーライスっていうんだ。存分に召し上がれ」
それぞれの目の前にカレーライスが置かれると、リムルは好奇心に目を輝かせて、パクリとカレーライスを口に入れる。
「なにこれ! めちゃくちゃ美味しい!」
「辛さの中に甘さが! 濃厚なのにサッパリとした! なんと複雑な味なのですか! とても言葉では表現を尽くせません! とにかくとても美味しいの一言です!」
アグウェルがこんなに興奮している姿を初めて見たよ。
皆、それぞれに「美味い、美味い」と言いながら、一心不乱にカレーライスを食べていく。
オルデンの方へ視線を向ければ、彼も皿を手で持って、ガツガツとカレーライスを食べていた。
「美味い! カレーライスって言うのか、この料理、最高だよ!」
……カレーライスのおかげで、ミムルのことはすっかり忘れたようだね……
王都ダルトンで『ロンメル商会』の商品を売り出して三か月が経った。
姿見の転移ゲートを使って、王都ダルトンの店舗まで商品の荷運びをするので、在庫が無くなるという心配もなくなった。
店に並べた『ボーン食器』、香水、石鹸は順調に売り上げを伸ばしている。
そして、特に『ブラーフ』と『パンピ』はの噂は王都ダルトンだけでなく、ダルシアン王国内へと広まっていた。
そんなある日、鎧を着た一人の男性が店の中へと歩いてくる。
「私は王宮近衛騎士隊の隊長、クルゼフだ。王宮より呼び出しである。商会の会長及び、この店の店主は準備を整え次第、同行するように」
その言葉に僕とオルデンは顔を見合わせた。
急いで出かける用意をした僕、レミリア、アグウェル、オルデンの四人は、店をサイゾウとリムルに任せて、馬車に乗り込む。
そして馬に乗って先導するクルゼフさんと一緒に、王都ダルトンの王城へと向かった。
王都ダルトンの王宮は街の中心より少し北の位置にあり、星形の外壁に守られた、丸い屋根を持つ尖塔が六つもあり、白くて美しい城だった。
城の厩舎に馬車を留め、クルゼフさんに案内してもらって、クルクルと螺旋階段を上り、赤い絨毯の廊下を歩いていくと、その先に重厚な扉があった。
コンコンとノックしてクルゼフさんが扉を開けてくれる。
「入れ」
部屋の中にはいると、机に向かって堂々とした壮年の男の人が座っていた。
「私がお前達を呼んだグラントルだ。この王国の宰相を務めている。お前達が例の『ブラーフ』と『パンピ』を売っている商会か」
「はい。僕が商品を卸している『ロンメル商会』のシオンです」
「俺が王都ダルトンの店舗の管理をしているオルデンだ」
「お前達の商業ギルドでのランクは? そのランクを証明する証を見せてみよ」
挨拶をする僕達二人を見て、グラントル宰相は目を細める。
僕とオルデンは懐からシルバーのメダルを取り出して、グラントル宰相に向けてかかげた。
「ふむ、シルバーランクか。一応は信用のおける商会の会長と店主らしいな」
「それで、どのようなご用件でしょうか?」
「『ブラーフ』と『パンピ』の噂が、王宮に務める貴族達の間でも話題になっておってな。その噂がダルベルク国王陛下の耳に入ってしまったのだ。そこで国王が『ブラーフ』と『パンピ』を王国の特産品にしたいと仰せでな。この二つの商品の製造方法を王都の職人達に教えよと言われているのだ」
……教えよと言われても、《創造魔法陣》で描いた魔法陣は、このエクストリア世界では使われていない言語、ひらがな、カタカナ、英語で構成されているから、魔法士や魔導士であっても解読できないんだよね。
「申し訳ありませんが、『ブラーフ』と『パンピ』については特殊な魔法陣を使っているので、情報を開示したとしても、扱える者はいません。それに情報を開示するつもりもありません」
「王陛下からの直々の命であるぞ」
「僕は元々はブリタニス王国の商会の商人です。ダルシアン王国で商売ができなければ、別の国で商売をすればいいですし、ブリタニス王国に戻るのも可能です。ですからダルシアン王国に固執する必要はありません」
「待て待て、そう早まるな。この国から去ってもらっては困る。ダルベルク国王へは私から話しておこう。これからもしっかりと商売をしてダルシアン王国の経済を盛り上げてくれ」
話し合いが終わり、僕とオルデンが深々と礼をしてグラントル宰相の執務室から出ると、部屋の様子を聞いていたようで、クルゼフさんが険しい表情で僕達を見ていた。
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