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第2章 グランタリア大陸東部編
48.オルデンの決意
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アグウェルに任せてから三日が経った。
その間、クレイムさんは毎日、僕に交渉を持ちかけてきたけど、その度にリムルのチャームによって追い返してもらった。
そして四日目の昼、『オルデン商会』の店舗の前で、僕、オルデン、クレイムさんの三人が話しているとアグウェルが姿を現した。
そして、その後ろから商業ギルド東支部のリンメイさんが歩いてくる。
「シオン君、元気にしてたかしら? アグウェルさんから事情を聞いて、馬車で飛んできたのよ」
「なぜ、商業ギルド東支部の支部長がここに?」
「決まってるじゃない。クレイム、あなたに通達するためよ。商業ギルドはあなたの商会の登録を抹消します。当然だけど、商業ギルドのランクも剥奪するわ」
「どうしてだ。私は何もしていないぞ。『ロンメル商会』と正当な取引をしていただけだ」
「あなたが今まで色々な商会と不正な取引をしてたことは、アグウェルさんが商業ギルド東支部に持ち込んだ、あなたの裏帳簿で全て明らかよ」
そう言って、リンメイさんは手に持っていた書類を地面にばら撒いた。
その落ちている書類をかき集めて、クレイムさんは地面にうずくまる。
商業ギルドの登録を剥奪しても商売はできるけど……しかし登録を抹消されたとあっては。商人として信用は地に堕ちて、もう大きな商売はもうできないだろうな……
その姿を見て、アグウェルはニヤリと微笑んだ。
……サイゾウに邸の監視をさせていたのは、裏帳簿を入手するためだったのか……
オルデンが焦った様子で、リンメイさんに問いかける。
「じゃあ、『クレイム商会』から卸していたスパイスや穀物類はどうなるんですか?」
「スパイスや穀物類を卸していた仲買商会とは話をつけておいたわ。引き続き『オルデン商会』に商品を卸してくれるそうよ」
その答えを聞いて、オルデンはホッと安堵の表情を見せる。
地面で跪いているクレイムさんをサイゾウが立ち上がらせて、引きずるようにして歩き去った。
僕は走ってアグウェルに近づき、耳元で囁く。
「モルキス財務大臣はどうなったの?」
「ちょっと精神を狂わせ、計算ができないようにしておきました。これでもう大好きなお金の計算はできませんね」
アグウェルの言葉に、僕を思わず笑ってしまった。
任せてと言われた時には、殺してしまうかもと、ちょっと心配していたけど……計算だけできないようにするなんて……それなら貴族として生きていくには支障ないよね……
「リンメイさん、わざわざ王都ダルトンまで来ていただきありがとうございます」
「いいのよ。ちょっと仕事し過ぎていたから、ちょっとこの街で一休みしていくわ。それよりも、これを渡しておくわね。アグウェルさんから聞いたけど、もう失くさないでね」
メイリンさんは懐からシルバーのメダルを取り出して、僕の手の平の上に置いた。
「そのメダルは身分証明書でもあるからね。国から国へ移動する時に警備兵に見せれば、検閲も簡単に通れるから賄賂も要求されないわ」
……へえ、そんな便利なメダルだったのか……
リンメイさんは王都ダルトンの観光をしてから帝都イシュタルへ帰る予定だと僕に告げて、店の前から去っていった。
僕は手をパンパンと叩いて、皆を見回す。
「問題も解決したし、さあ、商品を売りまくろう」
それから僕達は頑張って、閉店間際まで商品を売り続けた。
すっかり太陽が沈み、店仕舞いして宿へ帰ろうとすると、オルデンが黙ったまま一緒に宿までついてくる。
思いつめた表情で、何かを考えているようだ。
部屋に入ると、いきなりオルデンが床に正座する。
「聞いてくれ。俺、商会をやめようと思うんだ」
「え? どうして? 今日、問題が解決したばかりじゃないか」
「違う、言い方を間違えた。店も続けていくし、商人は続けていくけど、『オルデン商会』はやめるってことだ」
「言ってる意味がわからないよ」
するとオルデンは少し間を開けて、真剣な表情で僕の前に両手をつく。
「『ロンメル商会』の一員になりたいんだ。俺は今まで穀物やスパイスを、仲買の商人に頼んで卸してもらっていた。だけどシオンは違う。自分達で商品を開発して、自分達で販路を確保して、自分達で店で商品も売っている。そんなシオン達を見ていて、これこそが商人なんだと思ったのさ。だからシオンの仲間になって、一から商売を勉強しなおしたいんだ」
「オルデンだったら大歓迎だけど……」
「それじゃあ、決まりだな」
オルデンはまるで肩の荷が下りたように、晴れやかに微笑んだ。
それから僕とオルデンは話し合って、『オルデン商会』の店舗を、『ロンメル商会』のグランタリア大陸の拠点にすることにした。
その翌日、僕とオルデンは、アグウェルとサイゾウにお願いして、メイリンさんの居場所を探してもららい、彼女と再会した。
『オルデン商会』を改め『ロンメル商会・王都ダルトン支部』にするとメイリンさんに伝えると、帝都イシュタルへ戻り次第、手続きをしてくれると言ってくれた。
……これでオルデンが仲間になったけど、今まで秘密にしていた、あれこれを打ち明けないといけないんだよね……サイゾウがミムルだと教えるのは、ちょっと可哀そうな気もするな……
その間、クレイムさんは毎日、僕に交渉を持ちかけてきたけど、その度にリムルのチャームによって追い返してもらった。
そして四日目の昼、『オルデン商会』の店舗の前で、僕、オルデン、クレイムさんの三人が話しているとアグウェルが姿を現した。
そして、その後ろから商業ギルド東支部のリンメイさんが歩いてくる。
「シオン君、元気にしてたかしら? アグウェルさんから事情を聞いて、馬車で飛んできたのよ」
「なぜ、商業ギルド東支部の支部長がここに?」
「決まってるじゃない。クレイム、あなたに通達するためよ。商業ギルドはあなたの商会の登録を抹消します。当然だけど、商業ギルドのランクも剥奪するわ」
「どうしてだ。私は何もしていないぞ。『ロンメル商会』と正当な取引をしていただけだ」
「あなたが今まで色々な商会と不正な取引をしてたことは、アグウェルさんが商業ギルド東支部に持ち込んだ、あなたの裏帳簿で全て明らかよ」
そう言って、リンメイさんは手に持っていた書類を地面にばら撒いた。
その落ちている書類をかき集めて、クレイムさんは地面にうずくまる。
商業ギルドの登録を剥奪しても商売はできるけど……しかし登録を抹消されたとあっては。商人として信用は地に堕ちて、もう大きな商売はもうできないだろうな……
その姿を見て、アグウェルはニヤリと微笑んだ。
……サイゾウに邸の監視をさせていたのは、裏帳簿を入手するためだったのか……
オルデンが焦った様子で、リンメイさんに問いかける。
「じゃあ、『クレイム商会』から卸していたスパイスや穀物類はどうなるんですか?」
「スパイスや穀物類を卸していた仲買商会とは話をつけておいたわ。引き続き『オルデン商会』に商品を卸してくれるそうよ」
その答えを聞いて、オルデンはホッと安堵の表情を見せる。
地面で跪いているクレイムさんをサイゾウが立ち上がらせて、引きずるようにして歩き去った。
僕は走ってアグウェルに近づき、耳元で囁く。
「モルキス財務大臣はどうなったの?」
「ちょっと精神を狂わせ、計算ができないようにしておきました。これでもう大好きなお金の計算はできませんね」
アグウェルの言葉に、僕を思わず笑ってしまった。
任せてと言われた時には、殺してしまうかもと、ちょっと心配していたけど……計算だけできないようにするなんて……それなら貴族として生きていくには支障ないよね……
「リンメイさん、わざわざ王都ダルトンまで来ていただきありがとうございます」
「いいのよ。ちょっと仕事し過ぎていたから、ちょっとこの街で一休みしていくわ。それよりも、これを渡しておくわね。アグウェルさんから聞いたけど、もう失くさないでね」
メイリンさんは懐からシルバーのメダルを取り出して、僕の手の平の上に置いた。
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リンメイさんは王都ダルトンの観光をしてから帝都イシュタルへ帰る予定だと僕に告げて、店の前から去っていった。
僕は手をパンパンと叩いて、皆を見回す。
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それから僕達は頑張って、閉店間際まで商品を売り続けた。
すっかり太陽が沈み、店仕舞いして宿へ帰ろうとすると、オルデンが黙ったまま一緒に宿までついてくる。
思いつめた表情で、何かを考えているようだ。
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「聞いてくれ。俺、商会をやめようと思うんだ」
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「言ってる意味がわからないよ」
するとオルデンは少し間を開けて、真剣な表情で僕の前に両手をつく。
「『ロンメル商会』の一員になりたいんだ。俺は今まで穀物やスパイスを、仲買の商人に頼んで卸してもらっていた。だけどシオンは違う。自分達で商品を開発して、自分達で販路を確保して、自分達で店で商品も売っている。そんなシオン達を見ていて、これこそが商人なんだと思ったのさ。だからシオンの仲間になって、一から商売を勉強しなおしたいんだ」
「オルデンだったら大歓迎だけど……」
「それじゃあ、決まりだな」
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……これでオルデンが仲間になったけど、今まで秘密にしていた、あれこれを打ち明けないといけないんだよね……サイゾウがミムルだと教えるのは、ちょっと可哀そうな気もするな……
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