上 下
48 / 93
第2章 グランタリア大陸東部編

47.二人の密談

しおりを挟む
クレイムさんは次の日も次の日も、『オルデン商会』の店舗にやってきた。

僕に『ロンメル商会』の商品を独占的に『クライム商会』に卸すように毎日迫ってくる。

しかし、リムルによって、いつも途中で撃退されて帰っていった。

リムルの話では、人を魅了するほどチャームは発動はしていないけど、人を惑わす程度には、チャームを発動しているという。

本来は、無闇にチャームの能力を使うのは禁止だけど、今回ばかりはリムルの魅了の能力に助けてもらっているので、強く注意することもできない。

そんなある日の夜、オルデンが僕達が泊まっている宿に押しかけてきた。


「気づかない振りをしておこうと思ったけど、やっぱり気になる。クライムさんを追い返してるのって、やっぱり何かの術だよな。あれだけしつこく迫ってきてるのに、簡単に追い返せるなんておかしいじゃないか」


……そうですよね……あれだけ毎日のようにクレイムさんを追い返せば、いい加減に気づくよね……


アグウェル、リムル、サイゾウの三人を近くへ呼び寄せた僕は、大きく息を吐いて、オルデンを真っ直ぐに見る。


「驚かずに聞いてほしい……アグウェル、リムル、サイゾウは実は魔族なんだ。三人ともホントの姿になってみて」


僕の呼びかけに応じて、アグウェルは背中からコウモリのような翼をだし、リムルは服を脱ぎ捨てて妖艶なサキュバスの姿に、サイゾウは犬顔へと変化した。

それを見て驚いたオルデンは思わずソファから転げ落ちる。


「わかった。わかったから元の姿に戻ってくれ」


その言葉を聞いて、三人は人族の姿に戻る。


「もう少し、ビックリすると思ってたのに」

「薄々は何か隠しているとは思っていたからな。それにしても魔族とはね」

「オルデンは魔族のこと恐くないの?」

「そりゃ恐いに決まってる。でもシオンの仲間を恐がる必要はないだろ」


そう言ってオルデンはニッコリと微笑んだ。

やっぱりオルデンって人が良いよね。

オルデンが落ち着いたようなので、僕はサイゾウの方へ問いかける。


「それで、クレイムさんの動きはどう?」

「はい。どうしても交渉が上手くいかないことに苛立っているでござる」

「わかった。引き続き、クレイムの動向を探ってきてくれ」

「御意」


サイゾウは頭を下げると一瞬で姿を消す。

たぶんクレイムさんの後を追って、クレイムさんの邸へ潜り込みにいったのだろう。

クレイムさんが商品を『クレイム商会』に卸せと言った日から、実はサイゾウに頼んでクライムさんの様子を監視してもらっているのだ。


「私達はそろそろ王都ブリタスへ行って、商品を取って参ります」


軽く会釈して、アグウェルとリムルはソファから立ち上がると、黒霧になって姿を消した。

オルデンは口を開けたまま呆然とその様子を見ている。


「やっぱ魔族ってスゲーんだな」

「仲間だとすごく心強いよ」


僕はニコリと微笑む。

その次の日の夜、僕、アグウェル、サイゾウの三人はクライムさんの邸へと忍び込んだ。

屋根裏の板を外して下の部屋を覗くと、クレイムさんがアゴヒゲを生やした中年の男と話している。


「まだ『ロンメル商会』の商品を卸すことはできんのか。あの商品が手に入れば、街中で商品を売りまくって莫大な利益を得ることができるのだぞ」

「わかっております。『ロンメル商会』の会長はまだガキです。いったん繋がりを持って仲間に引き込めば、こちらのいうことを何でも聞く傀儡にすることができるでしょう。あのガキの身なりを見るに、貴族の子息かもしれません。あわよくばガキの両親である貴族からも、金を巻き上げることができます」

「うむ、その時はわかっておろうな」

「はい。『ロンメル商会』の商品を卸すことができれば、売り上げの一割をいつものように献上いたします。『ロンメル商会』を抱き込み『クレイム商会』に吸収することができれば、それ以上のことを……楽しみに待っていてください」

「クレイム、お前も悪党よな」


クレイムとアゴヒゲの男はニヤリと笑い合い、ワインを一気に飲む。


……僕だけがターゲットになって被害に遭うならまだ我慢もできる……でも父上やアレン兄上を巻き込むことになったら、それこそ許せない……


表情を険しくして下の部屋を覗いていると、アグウェルが耳元で囁く。


「一気に始末してしまいましょうか」

「まだ待って。対処するのはクライムさんと話している男のことを知ってからだよ。サイゾウは男を尾行して素性を探って」

「御意」


サイゾウは引き続き邸に残り、僕とアグウェルは空を飛翔して宿へと戻った。

そして翌日の朝、宿にサイゾウが戻ってきた。


「あの男の素性がわかったでござる。あの男はこの国の財務大臣でござるよ。名はモルキスというでござる」


昨日、男が着ていた豪華な衣服を見て、貴族だとは思っていたけど、予想していた以上の大物だ。

そんな大物に睨まれたら、この王都ダルトンでは商売をするのが難しくなるぞ……どうにか対処をこうじないと……

僕が頭を悩ましていると、アグウェルがニヤリと微笑む。


「私にお任せください」


……なんだかアグウェルが悪い顔になってるんだけど……ホントに任せて大丈夫なのかな……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

現代知識チートからの王国再建~転生第三王子は王国を発展させたい!~二大強国に挟まれた弱小王国の巻き返し!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
東にバルドハイン帝国、西にエルファスト魔法王国という二大強国に挟まれたクリトニア王国は、両国の緩衝役を担っている中立国家である。   農作業が盛んで穀物類が豊富だけど、経済を発展させるだけの技術力を持たないクリトニア王国は常に両大国から嫌がらせを受けても耐え忍ぶしかなかった。   一年前に父である国王陛下が原因不明の病に倒れ、王太子であるローランド兄上が国王代理として国政を担うことになった。   経験が浅く、慣れない政務に疲れたローランド兄上は、いつものように僕― イアン・クリトニアの部屋へやってきて弱音を漏らす。   第三王子イアンの上にはローランド王太子の他に、エミリア第一王女、アデル第二王子がいる。   そして現在、王国内では、法衣貴族と地方貴族がローランド王子派、アデル王子派と分かれて、王位継承争いが勃発していた。   そこへ間が悪いことにバルドハイン帝国軍が王国との国境線に軍を派兵してきた。   国境での小競り合いはいつものことなので、地方貴族に任せておけばいいのに、功を焦ったアデル兄上が王宮騎士団と共に国境へ向かったという。   このままでは帝国と王国との全面戦争にもなりかねないと心配したイアンとエミリア姉上は、アデル兄上を説得するため、王宮騎士団を追いかけて王都を出発した。   《この物語は、二強国に挟まれた弱小国を、第三王子のイアンが前世の日本の知識を駆使し、兄姉達と協力して周囲の人達を巻き込んで、大国へと成り上がっていく物語である》

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生したら守護者?になり称号に『お詫び』があるのだが

紗砂
ファンタジー
ある日、トラックに轢かれ死んだ都木涼。 そんな都木の目の前に現れたのは転生神だと名乗る不審者。 転生神)『誰が不審者じゃ!      わしは、列記とした神で…』 そんな不審……痛い奴……転生神のミスにより記憶があるまま転生してしまった。 転生神)『す、スルーしたじゃと!?      しかもミスしたなどと…』 しかもその世界は、なんと剣と魔法の世界だった。 ステータスの職業欄は何故か2つあるし?つきだし……。 ?って何だよ?って!! 転生神)『わし知らんもん。      わしはミスしとらんし』 そんな転生神によって転生させられた冒険者?のお話。 転生神)『ほれ、さっさと読ん……』 コメディー&バトルファンタジー(のつもり)スタートです! 転生神)『何故無視するんじゃぁぁ!』 転生神)『今の題は仮じゃからな!      題名募集中じゃ!』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

処理中です...