40 / 93
第一章 ラバネス半島編
40.授与式!
しおりを挟む
商業ギルドの建物の中にある宿のリビングで休憩していると、褐色の肌を持つ青年―オルデンから声をかけられた。
彼はイシュガルド帝国の南にあるダルシアン王国の商人だという。
人好きのする笑顔を絶やさないオルデンは、会話も上手く僕達はすぐに仲よくなった。
「へえー白磁の陶器に代わる『ボーン食器』か。陶器よりも軽くて割れにくくて、それに光沢があって肌触りもいい食器か。それは興味があるな」
「僕もオルデンの扱ってる商品に興味があるよ」
「僕の仕入れている商品は食品関係、特にスパイス類かな。スパイスは大陸の長旅でも腐ることがないからね。後は塩だったり小麦だったり、トウモロコシだったり、米だったりを取引しているよ」
僕はオルデンの『米』という言葉に思わず取り乱す。
「米があるの?」
「米やトウモロコシなんて鳥や豚の肥料じゃないか。イシュガルド帝国の周辺の国々なら幾らでもあるよ」
……スパイス……米……カレーが食べられるじゃないか!
僕が転生してから十年……前世の日本の記憶はあるけど、料理の味についておぼろげになっているモノもある。
でもカレー味だけは強烈に覚えている。
「今、スパイスと米ってありますか?」
「ああ、帝都イシュタルまで荷を運んできたばかりだからね」
「ぜひ、米とスパイスを買わせてください」
「条件があるよ。シオンの所で開発した香水と石鹸を今度、取引させてくれないか? 香水の瓶は小さいし、石鹸は割れないから、荷運びに便利だからね」
「わかりました。授与式が終わったら、本格的な交渉しましょう」
オルデンと握手を交わして僕はリビングを後にした。
翌日、僕、レミリア、アグウェル、リムル、サイゾウの五人は帝都イシュタルに詳しいと言うオルデンの案内で帝都観光に出かけた。
街の料理屋に入って、帝都名物だという「ハンバーグ」を食べることになった。
「ここの料理は上手いだろう。勇者タケルが伝えたという「ハンバーグ」は絶品だからな」
「衣がカラッとしていて美味しいです」
「これ幾つでも食べられるわ」
レイミアもリムルも美味しそうに「ハンバーグ」を頬張っているけど、僕はちょっと納得できない。
「このフライの衣のない「ハンバーグ」ってないかな?」
「勇者様が伝えた「ハンバーグ」は衣のつけたモノだからな。衣のない「ハンバーグ」なんて伝わってないぞ」
僕の問いに、オルデンは首を傾げる。
このフライの衣がついた「ハンバーグ」って、メンチカツのことじゃないか……勇者タケルが伝えた「ハンバーグ」が間違った形で伝承されたのかな?
僕は料理ができないから、ディルメス侯爵家の邸へ戻ったら、レミリアにレシピを教えて、本当のハンバーグを作ってもらおう……
帝都観光を終えた僕達は宿へと戻り、その夜はちょっとした宴会となった。
授与式の当日、僕達五人とオルデンは、商業ギルドの建物の中にある大広間に来ている。
ランクが昇格してメダルの授与を待つ、商会の人々がたくさん集まってきていた。
僕達五人とオルデンは目立たないように広間の後ろの椅子にすわる。
「それではこれより、商会のランクの昇格とメダルの授与を始めます」
壇上ではギルド支部長のリンメイさんが、次々と商会の名前と代表者の名前と呼んでいく。
呼び出された代表者は、壇上に上ってリンメイさんから功績を発表され、メダルを受け取っていった。
「次、ダルシアン王国、オルデン商会、代表者オルデン君、壇上へ」
受賞者は次々とメダルをもらっていき、オルデンもシルバーのメダルをもらって嬉しそうにメダルを撫でている。
そして一番最後に僕の名前が呼ばれた。
「ブリタニス王国、『ロンメル商会』、代表者シオン・ディルメス、壇上へ」
「はい」
席から立ち上がり壇上へ向かう。
僕が目の前に立つとリンメイさんがニッコリと微笑んで、大きな声を張り上げる。
「『ロンメル商会』は次々と新商品を開発し、その商品も品質に優れ大ヒットとなり、ブリタニス王国内へ広がっていきました。『ぼーん食器』は人々の食卓を華やかにし、石鹸は人々を清潔にし、香水は人々に良い香りを届けました」
言葉を切って大広間に集まる人々が、静かに自分に注目が集まるのを待ってから、リンメイさんは大きく頷き、また話を再開した。
「そして『ロンメル商会』の開発したダイエット薬は、女性を美しく変身させ、世の中の女性に希望を与えました。私もダイエット薬は友人から取り寄せています。まさに画期的な商品です。みなさんの商会でも、ぜひ『ロンメル商会』の商品を扱ってください。では、その偉大な栄誉を称え、シルバーのメダルを授与いたします。シオン君、おめでとう」
「ありがとうございます」
リンメイさんから首にシルバーのメダルをかけてもらい、僕は大広間にいる皆に向けて大きく手を振る。
すると椅子に座っていた商会の代表者達が次々と立ち上げり、大きな拍手を送ってくれた。
皆が待っている席へ戻るとレイミアとリムルが僕に抱き着いてくる。
「シオン様、おめでとうございます」
「シオン様、かっこよかったよー」
ちょっと恥ずかしかったけど、商会のランクもシルバーになったし、メダルも貰えて最高の一日だよね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これにて第一章 ラバネス半島編《完結》となります。
第二章 グランタリア大陸編へと続きます。
読者の皆様、この作品を読んでいただきありがとうございます。
感想などがあれば、コメントいただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
作者 潮ノ海月
彼はイシュガルド帝国の南にあるダルシアン王国の商人だという。
人好きのする笑顔を絶やさないオルデンは、会話も上手く僕達はすぐに仲よくなった。
「へえー白磁の陶器に代わる『ボーン食器』か。陶器よりも軽くて割れにくくて、それに光沢があって肌触りもいい食器か。それは興味があるな」
「僕もオルデンの扱ってる商品に興味があるよ」
「僕の仕入れている商品は食品関係、特にスパイス類かな。スパイスは大陸の長旅でも腐ることがないからね。後は塩だったり小麦だったり、トウモロコシだったり、米だったりを取引しているよ」
僕はオルデンの『米』という言葉に思わず取り乱す。
「米があるの?」
「米やトウモロコシなんて鳥や豚の肥料じゃないか。イシュガルド帝国の周辺の国々なら幾らでもあるよ」
……スパイス……米……カレーが食べられるじゃないか!
僕が転生してから十年……前世の日本の記憶はあるけど、料理の味についておぼろげになっているモノもある。
でもカレー味だけは強烈に覚えている。
「今、スパイスと米ってありますか?」
「ああ、帝都イシュタルまで荷を運んできたばかりだからね」
「ぜひ、米とスパイスを買わせてください」
「条件があるよ。シオンの所で開発した香水と石鹸を今度、取引させてくれないか? 香水の瓶は小さいし、石鹸は割れないから、荷運びに便利だからね」
「わかりました。授与式が終わったら、本格的な交渉しましょう」
オルデンと握手を交わして僕はリビングを後にした。
翌日、僕、レミリア、アグウェル、リムル、サイゾウの五人は帝都イシュタルに詳しいと言うオルデンの案内で帝都観光に出かけた。
街の料理屋に入って、帝都名物だという「ハンバーグ」を食べることになった。
「ここの料理は上手いだろう。勇者タケルが伝えたという「ハンバーグ」は絶品だからな」
「衣がカラッとしていて美味しいです」
「これ幾つでも食べられるわ」
レイミアもリムルも美味しそうに「ハンバーグ」を頬張っているけど、僕はちょっと納得できない。
「このフライの衣のない「ハンバーグ」ってないかな?」
「勇者様が伝えた「ハンバーグ」は衣のつけたモノだからな。衣のない「ハンバーグ」なんて伝わってないぞ」
僕の問いに、オルデンは首を傾げる。
このフライの衣がついた「ハンバーグ」って、メンチカツのことじゃないか……勇者タケルが伝えた「ハンバーグ」が間違った形で伝承されたのかな?
僕は料理ができないから、ディルメス侯爵家の邸へ戻ったら、レミリアにレシピを教えて、本当のハンバーグを作ってもらおう……
帝都観光を終えた僕達は宿へと戻り、その夜はちょっとした宴会となった。
授与式の当日、僕達五人とオルデンは、商業ギルドの建物の中にある大広間に来ている。
ランクが昇格してメダルの授与を待つ、商会の人々がたくさん集まってきていた。
僕達五人とオルデンは目立たないように広間の後ろの椅子にすわる。
「それではこれより、商会のランクの昇格とメダルの授与を始めます」
壇上ではギルド支部長のリンメイさんが、次々と商会の名前と代表者の名前と呼んでいく。
呼び出された代表者は、壇上に上ってリンメイさんから功績を発表され、メダルを受け取っていった。
「次、ダルシアン王国、オルデン商会、代表者オルデン君、壇上へ」
受賞者は次々とメダルをもらっていき、オルデンもシルバーのメダルをもらって嬉しそうにメダルを撫でている。
そして一番最後に僕の名前が呼ばれた。
「ブリタニス王国、『ロンメル商会』、代表者シオン・ディルメス、壇上へ」
「はい」
席から立ち上がり壇上へ向かう。
僕が目の前に立つとリンメイさんがニッコリと微笑んで、大きな声を張り上げる。
「『ロンメル商会』は次々と新商品を開発し、その商品も品質に優れ大ヒットとなり、ブリタニス王国内へ広がっていきました。『ぼーん食器』は人々の食卓を華やかにし、石鹸は人々を清潔にし、香水は人々に良い香りを届けました」
言葉を切って大広間に集まる人々が、静かに自分に注目が集まるのを待ってから、リンメイさんは大きく頷き、また話を再開した。
「そして『ロンメル商会』の開発したダイエット薬は、女性を美しく変身させ、世の中の女性に希望を与えました。私もダイエット薬は友人から取り寄せています。まさに画期的な商品です。みなさんの商会でも、ぜひ『ロンメル商会』の商品を扱ってください。では、その偉大な栄誉を称え、シルバーのメダルを授与いたします。シオン君、おめでとう」
「ありがとうございます」
リンメイさんから首にシルバーのメダルをかけてもらい、僕は大広間にいる皆に向けて大きく手を振る。
すると椅子に座っていた商会の代表者達が次々と立ち上げり、大きな拍手を送ってくれた。
皆が待っている席へ戻るとレイミアとリムルが僕に抱き着いてくる。
「シオン様、おめでとうございます」
「シオン様、かっこよかったよー」
ちょっと恥ずかしかったけど、商会のランクもシルバーになったし、メダルも貰えて最高の一日だよね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これにて第一章 ラバネス半島編《完結》となります。
第二章 グランタリア大陸編へと続きます。
読者の皆様、この作品を読んでいただきありがとうございます。
感想などがあれば、コメントいただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
作者 潮ノ海月
1,766
お気に入りに追加
4,149
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる