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第一章 ラバネス半島編

36.船の旅で!

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商業ギルドのギルドマスターとしてエルフィンさんが赴任してきた。

彼いわく『ロンメル商会』の商品開発の功績を称えて、商会のランクをシルバーに高格するという。

そしてシルバーランクの授与式が、商業ギルド東支部で行われているので、イシュガルド帝国の帝都イシュガルまで来ないかと招待を受けた。

少し考えさせて欲しいと言って、その件については保留にして、僕、アグウェル、レミリアの三人は商業ギルドの建物を出た。


「授与式の件、どうなされるおつもりですか?」

「僕としては知らない土地へと行ってみたい。でも、商会の昇格だから皆と相談したいと思ったんだ」

「私はシオン様が行かれるなら、どこへでもお供いたします」

「 アグウェルはどう思う? 僕には商業ギルド東支部の情報も、イシュガルド帝国の情報も知らないから、何か知っていることがあれば、それも含めて教えてほしいんだけど」


僕が視線を向けると、アグウェルはニコリと微笑む。


「国など帝国も王国もさして変わりはありません。私もリムルも必ずシオン様をお守りいたします。安心して、シオン様はご自身の行きたい場所へ赴いてください」

「そうです。私も常に離れず、どこでも一緒に行きます」

「二人共ありがとう。それじゃあ店に帰ったら、父上とアレン兄上に伝えてみるよ」


王都の店舗へ戻った僕達三人は、執務室に設置してある姿見の転移ゲートからディルメス侯爵家の邸へど転移した。

リビングへ行くと父上とアレン兄上がソファに座っていた。

僕は二人にエルフィンさんと会ったことを報告し、商会のレベルが昇格となり、イシュガルド帝国の商業ギルド東支部の授与式に出席することを説明した。


「イシュガルド帝国ってラバネス半島へ攻め入ろうとしてる大国じゃないか。そんな場所へ行って大丈夫なのか?」

「イシュガルド帝国は領土が広い為、帝都に入る時は簡単な検閲だけで済みます。それに私もレミリア殿も共に参りますので、ご心配には及びません」


イシュガルド帝国の情報を知っているアグウェルが丁寧に説明してくれた。

それを聞いたアレン兄上は目を輝かせる。


「じゃあ、私も一緒に行こうかな?」

「イシュガルド帝国の帝都イシュタルの近くまでは船で行きますので、アレン様には少し大変な思いをしてもらうことになりますが」

「うーそれだったら、私は無理だ」


以前、アレン兄上は船に乗って酷い船酔いにあったことがあるんだよね。

それ以来、兄上は二度と船に乗りたくないらしい。


エルフィンさんから聞いた話では一ヵ月に一回の割合で冒険者ギルド東支部で授与式があるという。


旅の準備を整えた僕、レミリア、アグウェル、リムルの四人は王都ブリタスの港から二本マストの帆船に乗ってグランタリア大陸の東へ出発した。


出航した日の夜、嵐に遭遇し、空からは大粒の雨が降り注ぐ。

そして海は荒れに荒れ、僕達は船室に閉じこもっていた。


「この揺れはいつまで続くのかな?」

「今は上空を巨大な天龍族の雷龍が暴れておりますので、それが通り過ぎれば晴天になるかと思いますが」


アグウェルの言葉に僕は目を見開いて驚く。


天龍族……雷龍……前世の日本の記憶がある僕にはなんて素敵なワードなんだろう……ぜひ雷龍を見てみたい……


目をキラキラとさせてアグウェルを見ると、彼は黙って左右に首を振った。


「あのクラスの龍は天災と同じです。もし機嫌を損ねれば、天は裂け、海が割れる事態となります。我等、魔族であってもひとたまりもありませんが、それでも会いに行かれますか?」

「それは恐いから止めておくね」

「賢明なご判断です」


でも、遠くからでも一目見てみたい。

僕は船室の扉を開けて、大雨が降り注ぐ甲板へと出て行った。

振り返ると、レミリアとアグウェルが慌てて僕の後を追ってくる。


大雨で自由に動けなくて不貞腐れているリムルは、船室のベッドでふて寝したままかな……

船の取っ手を掴んで大雨の中をゆっくりと歩く。

でも強い雨と風、それに甲板は濡れてツルツルと滑るから、なかなか前に進めない。


「ここは子供の遊び場じゃないぞ! 早く船室へ戻れ!」


甲板にいた船員が大声で僕に注意を呼びかけてくる。

そちらへ顔を向けた瞬間、僕が滑って転びそうになると、アグウェルとレミリアが急いで僕を支えてくれた。

しかし、その瞬間に船が大きく揺れて、大波が甲板を襲う。

僕達三人は、波にさらわれないように、必死に取っ手にしがみつくけど、取っ手を持つ手が滑って僕は空中へと放り出されてしまった。


荒れ狂う嵐の海の中へ落ちる瞬間、船の上でレイミアが何かを叫んでいるのが一瞬だけ見える。

しかし、瞬く間に波が左右上下から僕に襲いかかり、一瞬の内に僕は海の奥へと引きずられるように沈んでいく。

口や鼻の中に海水が入ってきて、思わず口を開けると、肺の中の空気が抜けていき、一気に苦しくなる。

手足をばたつかせてもがく力が無くなりかけた時、誰かがしっかりと僕の腕を掴み、体を抱きしめられる。

その体の柔らかさにハッと目を開けると、目の前に優しく微笑んでいるレミリアの顔があった。

彼女は僕を抱いたまま急激に海中を上昇し、一気に波の上に二人で顔を出す。

すると雨が降りしきる空中から腕が伸び、僕とレミリアを捕まえてくれた。


「シオン様、すこしヤンチャが過ぎますよ。少し肝が冷えました。さあ、船まで帰りましょう」


僕とレミリアはアグウェルに抱え上げられ、空中を飛翔する。


……レミリア、アグウェル、心配させてごめんなさい。もう船の上では危険なことはしません……
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