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第一章 ラバネス半島編
26.マロンちゃんからの悩み事!
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僕、アグウェル、リムルの三人がトランベル王国の王都トラントから戻ってきて二週間が過ぎた。
王宮に呼び出された父上は、ロンムレス宰相からトランベル王国が『ボーン食器』の製造法の開示を取り下げてきたと報告を受けた。
アグウェルは王都トラントに店舗を構える準備で忙しくしている。
それからしばらくの間、静かな日々が訪れ、僕とレミリアは執務室で紅茶を楽しんでいた。
するとドタバタと足音が聞こえてきて、部屋にアロムが飛び込んでくる。
「小さな女の子がシオン様に会いたいって言ってるんだよ。何の用事か聞いても全く話してくれなくて」
「女の子? 街の知り合いに小さな女の子なんていないけど?」
「いいから早く来て。シオン様が来てくれないと泣きそうだよ」
アロムに腕を捕まれ、レミリアと一緒に一階へ向かうと、彼がいうように犬耳の女の子が立っていた。
女の子の前にしゃがんで、レミリアが彼女の髪を撫でる。
「どうしたのです? この店に何かご用ですか?」
「うん……ここの商会さんは女性のための商品を作ってるって、ママから聞いたの。だから商品を作ってほしくって」
「そう……お母さんはこの店のお客様なんですね」
そう言って女の子を椅子に座らせて、レミリアが優しく笑いかける。
女の子の名前はマロンちゃん、六歳。
犬耳族の獣人だ。
彼女の母親は、この店で石鹸を買ってくれている常連さんで、よく母親と一緒にマロンちゃんもこの店に来ていたらしい。
「それで僕に何を作ってほしいの?」
「男の子にデブって言われたの……だから細くなりたいの……」
泣きそうな表情をして、マロンちゃんは小さく呟く。
その言葉を聞いて、マロンちゃんの姿を観察するけど、決してそれほど太っていない。
どちらかというと健康的で、ちょっと頬がぽっちゃりしているという感じだ。
たぶん男の子がからかって言ったのだろうけど、六歳とはいえ女の子だから、デブという言葉は心に突き刺さるよね。
マロンちゃんの訴えを聞いて、レミリアは困った表情を僕に向ける。
「何とかならないでしょうか?」
「やせ薬となると、薬師の領分だから、僕の専門外なんだけど……」
このエクストリア世界には薬師や錬金術師といった職業がある。
薬師や錬金術師は『調合』のスキルを持っていて、病気の薬や怪我の薬を作ってくれるのだ。
今まで薬を作ったこともないしどうしようかな……
マロンちゃんの頼みを断るのは簡単だけど、それだと後味が悪いよね。
なんとか彼女の力になってあげたい。
僕はフーっと大きく息を吐き、マロンちゃんに話かけた。
「僕は薬の専門家じゃないけど、それでもよければ作ってみるよ。失敗するかもしれないけど、それでもいい?」
「うん、ありがとう」
笑みを零すマロンちゃんをレミリアに頼んで、彼女の家まで送ってもらった。
やっぱり小さな女の子の頼み事は断れないよね。
マロンちゃんが店から去った後、僕はアグウェル、リムルを呼び寄せ、レイミアと四人で話し合うことになった。
「そのマロンという女子は、それほど太っているのですか?」
「いいえ、見た感じでは、やや頬がポッチャリしていますが、体はそれほど感じられません」
「お父様、女の子に向かって太ってるって言ったらダメなの。太ってなくても女子って体型が気になるんだから」
「うむ、気をつけることにする」
リムルの圧にアグウェルもタジタジだ。
そう……女性に年齢、体重、体型の話はタブーなのだよ。
僕には前世の日本の記憶があるから、その辺りの女子の反応は痛いほどよくわかる。
僕はパンと手を叩いて皆を見回した。
「マロンちゃんの要望を叶えてあげたいけど、僕は錬金術師でもなければ薬師でもないから、薬について詳しくなくて、アグウェルとリムルなら何か知ってるかと思ってね」
「そうですね……太っているということは体が重いということでしょう。では体を軽くすれば体型も細くなるのは道理ですね。体が重いのは体の中に過剰な栄養分が入っていると考えられますので、その栄養分を削除すればいいのです。ですから強力な下剤がよろしいかと」
「お父様、女の子に毎日下痢をさせるつもりなの。そんなの恥ずかしくって私なら家にいられなーい」
アグウェルの提案をリムルは鋭い一言で却下する。
でも前世の日本の記憶では、毎日のように腸内の不要なモノを排出して、痩せていくというダイエット法が流行っていたような……
でもアグウェルの案は悪くないように思う。
僕の《創造魔法陣》のスキルがあれば、通常の下剤をダイエット薬に変えられるかもしれない。
ちょっと実験してみようかな?
僕は少し考えた後、アグウェルとリムルに頼んで、アロエとひまわりの種を調達してもらった。
そして《創造魔法陣》のスキルを開放して、『乾燥』、『粉砕』、『調合』、『過剰栄養分カット』、四つの魔法陣を羊皮紙へ一つ一つ描いていった。
まず『乾燥』の魔法陣でアロエとひまわりの種の中にある実を乾燥させる。
次に『粉砕』の魔法陣でアロエとひまわりの実を粉々にし、『調合』の魔法陣でその二つを合成して錠剤にする。
最後に『過剰栄養分カット』の魔法陣で、その錠剤の効果に条件を付けて完成だ。
できあがった錠剤を持ってレミリアとリムルを見ると、彼女達は笑顔を引きつらせている。
効果のわからないダイエット薬……特に下剤関係の試薬を試してもらうのは、女の人にはちょっと可哀そうかも……
僕はニッコリと微笑んでアグウェルを見る。
するとアグウェルは意を決した表情で表情を歪めた。
「僕も飲むからアグウェルも頑張って」
「どこまでもお供いたします」
……こういう時はやっぱり男同士だよね……
王宮に呼び出された父上は、ロンムレス宰相からトランベル王国が『ボーン食器』の製造法の開示を取り下げてきたと報告を受けた。
アグウェルは王都トラントに店舗を構える準備で忙しくしている。
それからしばらくの間、静かな日々が訪れ、僕とレミリアは執務室で紅茶を楽しんでいた。
するとドタバタと足音が聞こえてきて、部屋にアロムが飛び込んでくる。
「小さな女の子がシオン様に会いたいって言ってるんだよ。何の用事か聞いても全く話してくれなくて」
「女の子? 街の知り合いに小さな女の子なんていないけど?」
「いいから早く来て。シオン様が来てくれないと泣きそうだよ」
アロムに腕を捕まれ、レミリアと一緒に一階へ向かうと、彼がいうように犬耳の女の子が立っていた。
女の子の前にしゃがんで、レミリアが彼女の髪を撫でる。
「どうしたのです? この店に何かご用ですか?」
「うん……ここの商会さんは女性のための商品を作ってるって、ママから聞いたの。だから商品を作ってほしくって」
「そう……お母さんはこの店のお客様なんですね」
そう言って女の子を椅子に座らせて、レミリアが優しく笑いかける。
女の子の名前はマロンちゃん、六歳。
犬耳族の獣人だ。
彼女の母親は、この店で石鹸を買ってくれている常連さんで、よく母親と一緒にマロンちゃんもこの店に来ていたらしい。
「それで僕に何を作ってほしいの?」
「男の子にデブって言われたの……だから細くなりたいの……」
泣きそうな表情をして、マロンちゃんは小さく呟く。
その言葉を聞いて、マロンちゃんの姿を観察するけど、決してそれほど太っていない。
どちらかというと健康的で、ちょっと頬がぽっちゃりしているという感じだ。
たぶん男の子がからかって言ったのだろうけど、六歳とはいえ女の子だから、デブという言葉は心に突き刺さるよね。
マロンちゃんの訴えを聞いて、レミリアは困った表情を僕に向ける。
「何とかならないでしょうか?」
「やせ薬となると、薬師の領分だから、僕の専門外なんだけど……」
このエクストリア世界には薬師や錬金術師といった職業がある。
薬師や錬金術師は『調合』のスキルを持っていて、病気の薬や怪我の薬を作ってくれるのだ。
今まで薬を作ったこともないしどうしようかな……
マロンちゃんの頼みを断るのは簡単だけど、それだと後味が悪いよね。
なんとか彼女の力になってあげたい。
僕はフーっと大きく息を吐き、マロンちゃんに話かけた。
「僕は薬の専門家じゃないけど、それでもよければ作ってみるよ。失敗するかもしれないけど、それでもいい?」
「うん、ありがとう」
笑みを零すマロンちゃんをレミリアに頼んで、彼女の家まで送ってもらった。
やっぱり小さな女の子の頼み事は断れないよね。
マロンちゃんが店から去った後、僕はアグウェル、リムルを呼び寄せ、レイミアと四人で話し合うことになった。
「そのマロンという女子は、それほど太っているのですか?」
「いいえ、見た感じでは、やや頬がポッチャリしていますが、体はそれほど感じられません」
「お父様、女の子に向かって太ってるって言ったらダメなの。太ってなくても女子って体型が気になるんだから」
「うむ、気をつけることにする」
リムルの圧にアグウェルもタジタジだ。
そう……女性に年齢、体重、体型の話はタブーなのだよ。
僕には前世の日本の記憶があるから、その辺りの女子の反応は痛いほどよくわかる。
僕はパンと手を叩いて皆を見回した。
「マロンちゃんの要望を叶えてあげたいけど、僕は錬金術師でもなければ薬師でもないから、薬について詳しくなくて、アグウェルとリムルなら何か知ってるかと思ってね」
「そうですね……太っているということは体が重いということでしょう。では体を軽くすれば体型も細くなるのは道理ですね。体が重いのは体の中に過剰な栄養分が入っていると考えられますので、その栄養分を削除すればいいのです。ですから強力な下剤がよろしいかと」
「お父様、女の子に毎日下痢をさせるつもりなの。そんなの恥ずかしくって私なら家にいられなーい」
アグウェルの提案をリムルは鋭い一言で却下する。
でも前世の日本の記憶では、毎日のように腸内の不要なモノを排出して、痩せていくというダイエット法が流行っていたような……
でもアグウェルの案は悪くないように思う。
僕の《創造魔法陣》のスキルがあれば、通常の下剤をダイエット薬に変えられるかもしれない。
ちょっと実験してみようかな?
僕は少し考えた後、アグウェルとリムルに頼んで、アロエとひまわりの種を調達してもらった。
そして《創造魔法陣》のスキルを開放して、『乾燥』、『粉砕』、『調合』、『過剰栄養分カット』、四つの魔法陣を羊皮紙へ一つ一つ描いていった。
まず『乾燥』の魔法陣でアロエとひまわりの種の中にある実を乾燥させる。
次に『粉砕』の魔法陣でアロエとひまわりの実を粉々にし、『調合』の魔法陣でその二つを合成して錠剤にする。
最後に『過剰栄養分カット』の魔法陣で、その錠剤の効果に条件を付けて完成だ。
できあがった錠剤を持ってレミリアとリムルを見ると、彼女達は笑顔を引きつらせている。
効果のわからないダイエット薬……特に下剤関係の試薬を試してもらうのは、女の人にはちょっと可哀そうかも……
僕はニッコリと微笑んでアグウェルを見る。
するとアグウェルは意を決した表情で表情を歪めた。
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