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第一章 ラバネス半島編

17.商会の人員面接①

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僕、レミリア、アレン兄上、マリナ女王陛下、フィーネの五人は『ロンメル商会』の面接の宣伝をするため、王都にある冒険者ギルドを訪れた。

受付カウンターへ向かっている途中で、冒険者の一人が マリナ女王陛下にちょっかいをかけて、床に叩きつけられた。

マリナ女王陛下がいうには、彼女は勇者流合気道五段の腕前があるらしい。

床に倒れている冒険者から視線を外し、マリナ女王陛下は悠々と受付カウンタへ歩いていく。

カウンターに座っているお姉さんの頬が引きつってるんですけど……」


「ようこそいらっしゃいました。今回はどのようなご用件で」

「うむ。ギルドマスターを呼ぶのじゃ」

「うわー、大事にしないで。僕が話をするからね。今日は依頼を頼みにきました。『ロンメル商会』の人員募集です。文字の読み書き、四則演算のできる方を募集したいんです」


マリナ女王陛下の口を押え、僕が代わりに説明する。

すると受付のお姉さんはホッとした表情になり、話しを聞いてくれた。


「でも、ここは冒険者ギルドですよ。剣術や魔法に長けた者ならいますけど、事務のできる人は少ないように思うんですけど」

「それでもいいです。他のギルドにも声をかけるので。掲示板に依頼を張ってもらうだけでいいです」

「それなら承りました。掲示板への張り出しは金貨一枚です。後は依頼完了時の報酬をお決めください」


掲示板への張り出しに金貨一枚(日本円で約一万円)とは少し高いような気がするけど、もしかするとイタズラ防止の意味合いがあるのかもしれないな。

依頼完了の報酬は金貨三枚でいいだろう……あまり大金を提示すると、お金目当てで嘘をつく人が現れるかもしれないし……


受付のお姉さんに渡された羊皮紙にスラスラと依頼内容を書いて、金貨四枚を手渡す。

これで冒険者ギルドへの依頼は終わりだ。

用事が済んだので、僕達は冒険者ギルドを後にして、同じく大通りにある商業ギルドへと向かった。

商業ギルドでも同じように掲示板に張り出してもらい金貨を預ける。

そして外へ出ると、フィーネが不満そうに頬を膨らませる。


「ギルドってもっと面白い所だと思ったのに、つまんない」

「そうじゃのう。わらわも飽きてきたわ」

「では私が各ギルドを回ってきましょう。シオン様はアレン様と一緒に、マリナ女王陛下とフィーネ王女殿下を別邸までお連れください」


マリナ女王陛下とフィーネを気遣ってレミリアが提案する。

さすがはレミリア、いつも僕達を助けてくれる。

お言葉に甘えて僕達四人は、レミリアと分かれて別邸に戻ることにした。

別邸の部屋へ入ると、なぜかグスタフさんとエドワードさんがソファに座って待っていた。


「二人共、どうしてここにいるの? 別邸の場所って教えてなかったですよね?」

「次の公務があるので、マリナ女王陛下の私室まで呼びに行ったところ、姿が見えなかったので、もしやと思い、ここで待たせていただいていた」

「私も同じくです。フィーネ様が勉強の途中でいなくなったので、ここまで探しにきたんですよ。やっぱりシオン君と遊んでいたんですね」


どうやら二人の苦労人は、それぞれに主人を迎えにきたらしい。

まだ遊びたいと、帰るのを嫌がるマリナ女王陛下とフィーネ連れて、グスタフさんとエドワードさんはそれぞれに転移ゲートを潜って帰っていった。

これでワガママ娘二人からやっと開放されると、僕とアレン兄上はソファにグッタリを座り込む。

それから一週間が経ち、ジョルドが会場の準備を進めてくれたおかげで、無事に面接日を迎えることができた。

審査席には僕、レミリア、ジョルドの三人が座る。

アレン兄上は貴族学院の授業があるから、今日は参加できない。

僕達三人は事前に用意した『鑑定帽』を被り、応募者を次々を審査していった。

しかし応募者のほとんどは、読み書きはできるけど計算ができない者達ばかりで、なかなか適正のある人は現れたなかった。


「次の方どうぞ」


ジョルドが呼ぶと、扉が開いて獣人族の少女が現れた。

少女の名前はシャム、白猫族の出身で、冒険者ギルドの張り紙を見て応募してきたらしい。

獣人族にしては珍しく、読み書き、四則演算ができ、今までは冒険者をしていたという。

『鑑定帽』に魔力を流して鑑定してみると、スキルに身体強化、獣人化が確認できた。

獣人化ということは、モフモフになれるということか……モフモフも誘惑には勝てないよね。

会計もできて、用心棒にもなって、その上モフモフ、これは雇うしかないでしょう。


「採用です」


僕の一言にレミリアがジトリと目を細めるけど、そんなのはスルー。


「ありがとうございます」


シャムが静かに部屋を退室した後、ジョルドが「次の人」と声をかけると、痩身の黒髪イケメンが姿を現した。


「私の名はアグウェル。旅の商人をしておりました。よろしくお願いいたします。」


『鑑定帽』でアグウェルを確認してみると、種族は魔族で、階級はアークデーモンと頭の中に浮かんでくる。

アグウェルの素性を知って、僕は表情を青ざめた。

旅の商人なんて真赤な嘘だよね。


これって魔族なんじゃ……魔王が勇者タケルに滅ぼされ、魔族はグランタリア大陸姿を消したと父上の蔵書では書かれていたのに……どうして応募者の中に魔族がいるの?
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