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第一章 ラバネス半島編
3.食器をつくろう!
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父上が国境へ向かってから十日の過ぎた。
伝令の兵士の報告によると、ロンメル砦に入ったディルメス侯爵軍とナブラスト王国軍はまだ睨み合いの状態が続いていて、まだ本格的な戦にはなっていないという。
砦を攻撃するには三倍の兵力が必要というから、ナブラスト王国軍も容易に動けないのかもしれないな。
レミリアと一緒に事務室へ赴くと、机に上に積まれた書類を整理しているジョルズの姿があった。
「平時でも忙しいのに、ナブラスト王国軍も迷惑な連中ですよ。戦となれば兵糧の確保、運搬、兵への備品の配給、報奨金、その他諸々の経費が……考えるだけでも頭が痛くなるー」
「父上の領地って、そんなにお金に困ってるの?」
僕の声に気づいたジョルズは、書類から顔を上げて、驚いた表情で目を見開く。
「いえいえ、それほど困窮はしていませんが、戦争というのはとかく負担が大きいのです。まだまだ資金不足ではありませんが、領地をもっと発展させるためには、ゆとりは欲しいところですね」
「それじゃあ、資金を稼ぐために何か作ってみようかな?」
「何か良い案があるのですか?」
「シオン様に不可能はありません」
なぜレミリアが自慢気な表情で胸をプルンと張る。
そう……僕には女神様からもらった恩恵――その名も『創造魔法陣』のスキルがあるのだ。
簡単に言えば、独自の魔法陣でどんな魔法でも創造できるスキルってこと。
しかし、女神様が何の代償もなく、こんなチートなスキルをくれたわけではない。
だから肉体は平均並みだし、魔力量も人並み、それに魔法陣を使わないと、魔法が使えないのだ。
スキルを発見した時父上に相談したのだけど、生身で魔法が使えないと報告したら、すごく残念そうな顔をされたのを覚えている。
父上からするとハズレスキルに思えたんだろうな。
それ以降、特訓をして剣術を覚えろと父上がうるさくなったのは、僕のことを考えてなので仕方ないよね。
僕は以前から温めていた案をレミリアとジョルジュに向けて発表する。
「領都では色々な食材を扱ってるでしょ。その骨を使って陶器のような食器を作ろうと思うんだ」
「骨? 魔獣の骨や動物の骨、魚の骨などですか? それなら街では沢山、ゴミとして排出されていますけど? その骨で陶器のような食器を作るなどできるんですか?」
「うん。たぶん僕のスキルなら作れるはずだよ。一度、試したいから骨を集めて邸に運んできてほしいんだ」
「それなら私が街へ行ってきます」
レミリアはニコリを微笑むと、ダッシュで邸を飛び出していく。
さすがは元冒険者なだけあって、行動力が半端ない。
それから約一時間ほどで、レミリアは背嚢を担いで邸へ帰ってきた。
その中を見ると、何の骨かわからないけど、沢山の骨が入っている。
「ただいま戻りました。冒険者ギルドで解体した骨を頂戴してきたのですが」
「うん、それでいいよ。ありがとう」
冒険者ギルドなら魔獣の解体をするから、骨が大量にゴミとして排出される。
さすがレミリア、良いところに目をつけたね。
床に広げた羊皮紙に、僕はペンで丁寧に魔法陣を描いていく。
まずは骨を粉々にする『粉砕』の魔法陣を描く。
僕のスキルである『創造魔法陣』は三重構造になっていて、一つはひらがな、もう一つはカタカナ、さらにもう一つは英語、その三つの文字を使って一つの魔法陣を描くのだ。
転生者の僕だから作成できるんだけど、エクストリア世界の人々はエクストリア語を共通語としているから、ひらがな、カタカナ、英語はわからない。
だから僕の描く魔法陣の内容を解析することも、複製することもできないんだ。
まずは、ひらがなで魔法陣を描き、その上からカタカナで魔法陣を描き、またその上から英語の魔法陣を描いていく。
そして固形が粉々に砕けた絵を中央の円の中に描いて、これで『粉砕』の魔法陣の完成だ。
羊皮紙の魔法陣の上に骨を置いて、魔法陣の端に両手を添えて魔力を流す。
すると魔法陣が光りだし、骨が空中へと浮かびあがった。
そしてクルクルと回転して粉々の粉末へと変化する。
それを見て、ジョルドは喜びの声をあげる。
「なんという画期的な魔法陣なんでしょう。これなら薬剤やスパイスを石臼で粉末にする手間が省けます」
「まだ骨を粉々にしただけだから、これから食器にするから静かにしててね」
そういえばエクストリア世界の文化は、地球でいうところの産業革命前の中世の頃ぐらいしか、発展していないんだった。
それにしても錬金術師や魔法士など、魔法陣に長けた者達であれば、モノを粉末にするぐらは簡単にできそうだけど……あまり邸から出たことがないから、よくわからないや。
僕は気を取り直して、まっさらな羊皮紙を床に広げて、次は『食器加工』の魔法陣を描いていく。
どんな器にするかの詳細については、魔法陣の円の中に描く絵で決まったりする。
魔法陣を描き上げた僕は、その上に骨の粉末を乗せて、魔力を流す。
すると粉末が浮かび上がり、クルクルと回り出して、白のマグカップへと変化していった。
そのマグカップを手に取り、コツコツと拳で叩いてみる。
その真っ白なマグカップはピカピカと光沢があり、表面もツルツルで、強度も申し分ない。
これなら床に落したとしても割れないだろう。
実験としては大成功でいいよね。
そのデキに満足した僕は、ジョルドにマグカップを手渡す。
それを手の平で叩いたり、色々な角度から吟味したジョルドは、嬉々とした表情で満足気に頷いた。
「この骨の食器なら、ディルメス侯爵領の特産物として十分に売りだせます。これは画期的な商品になりますよ」
「それはもうシオン様が考案された商品ですから。当たり前のことです」
だから、どうしてレミリアが自慢気なの?
伝令の兵士の報告によると、ロンメル砦に入ったディルメス侯爵軍とナブラスト王国軍はまだ睨み合いの状態が続いていて、まだ本格的な戦にはなっていないという。
砦を攻撃するには三倍の兵力が必要というから、ナブラスト王国軍も容易に動けないのかもしれないな。
レミリアと一緒に事務室へ赴くと、机に上に積まれた書類を整理しているジョルズの姿があった。
「平時でも忙しいのに、ナブラスト王国軍も迷惑な連中ですよ。戦となれば兵糧の確保、運搬、兵への備品の配給、報奨金、その他諸々の経費が……考えるだけでも頭が痛くなるー」
「父上の領地って、そんなにお金に困ってるの?」
僕の声に気づいたジョルズは、書類から顔を上げて、驚いた表情で目を見開く。
「いえいえ、それほど困窮はしていませんが、戦争というのはとかく負担が大きいのです。まだまだ資金不足ではありませんが、領地をもっと発展させるためには、ゆとりは欲しいところですね」
「それじゃあ、資金を稼ぐために何か作ってみようかな?」
「何か良い案があるのですか?」
「シオン様に不可能はありません」
なぜレミリアが自慢気な表情で胸をプルンと張る。
そう……僕には女神様からもらった恩恵――その名も『創造魔法陣』のスキルがあるのだ。
簡単に言えば、独自の魔法陣でどんな魔法でも創造できるスキルってこと。
しかし、女神様が何の代償もなく、こんなチートなスキルをくれたわけではない。
だから肉体は平均並みだし、魔力量も人並み、それに魔法陣を使わないと、魔法が使えないのだ。
スキルを発見した時父上に相談したのだけど、生身で魔法が使えないと報告したら、すごく残念そうな顔をされたのを覚えている。
父上からするとハズレスキルに思えたんだろうな。
それ以降、特訓をして剣術を覚えろと父上がうるさくなったのは、僕のことを考えてなので仕方ないよね。
僕は以前から温めていた案をレミリアとジョルジュに向けて発表する。
「領都では色々な食材を扱ってるでしょ。その骨を使って陶器のような食器を作ろうと思うんだ」
「骨? 魔獣の骨や動物の骨、魚の骨などですか? それなら街では沢山、ゴミとして排出されていますけど? その骨で陶器のような食器を作るなどできるんですか?」
「うん。たぶん僕のスキルなら作れるはずだよ。一度、試したいから骨を集めて邸に運んできてほしいんだ」
「それなら私が街へ行ってきます」
レミリアはニコリを微笑むと、ダッシュで邸を飛び出していく。
さすがは元冒険者なだけあって、行動力が半端ない。
それから約一時間ほどで、レミリアは背嚢を担いで邸へ帰ってきた。
その中を見ると、何の骨かわからないけど、沢山の骨が入っている。
「ただいま戻りました。冒険者ギルドで解体した骨を頂戴してきたのですが」
「うん、それでいいよ。ありがとう」
冒険者ギルドなら魔獣の解体をするから、骨が大量にゴミとして排出される。
さすがレミリア、良いところに目をつけたね。
床に広げた羊皮紙に、僕はペンで丁寧に魔法陣を描いていく。
まずは骨を粉々にする『粉砕』の魔法陣を描く。
僕のスキルである『創造魔法陣』は三重構造になっていて、一つはひらがな、もう一つはカタカナ、さらにもう一つは英語、その三つの文字を使って一つの魔法陣を描くのだ。
転生者の僕だから作成できるんだけど、エクストリア世界の人々はエクストリア語を共通語としているから、ひらがな、カタカナ、英語はわからない。
だから僕の描く魔法陣の内容を解析することも、複製することもできないんだ。
まずは、ひらがなで魔法陣を描き、その上からカタカナで魔法陣を描き、またその上から英語の魔法陣を描いていく。
そして固形が粉々に砕けた絵を中央の円の中に描いて、これで『粉砕』の魔法陣の完成だ。
羊皮紙の魔法陣の上に骨を置いて、魔法陣の端に両手を添えて魔力を流す。
すると魔法陣が光りだし、骨が空中へと浮かびあがった。
そしてクルクルと回転して粉々の粉末へと変化する。
それを見て、ジョルドは喜びの声をあげる。
「なんという画期的な魔法陣なんでしょう。これなら薬剤やスパイスを石臼で粉末にする手間が省けます」
「まだ骨を粉々にしただけだから、これから食器にするから静かにしててね」
そういえばエクストリア世界の文化は、地球でいうところの産業革命前の中世の頃ぐらいしか、発展していないんだった。
それにしても錬金術師や魔法士など、魔法陣に長けた者達であれば、モノを粉末にするぐらは簡単にできそうだけど……あまり邸から出たことがないから、よくわからないや。
僕は気を取り直して、まっさらな羊皮紙を床に広げて、次は『食器加工』の魔法陣を描いていく。
どんな器にするかの詳細については、魔法陣の円の中に描く絵で決まったりする。
魔法陣を描き上げた僕は、その上に骨の粉末を乗せて、魔力を流す。
すると粉末が浮かび上がり、クルクルと回り出して、白のマグカップへと変化していった。
そのマグカップを手に取り、コツコツと拳で叩いてみる。
その真っ白なマグカップはピカピカと光沢があり、表面もツルツルで、強度も申し分ない。
これなら床に落したとしても割れないだろう。
実験としては大成功でいいよね。
そのデキに満足した僕は、ジョルドにマグカップを手渡す。
それを手の平で叩いたり、色々な角度から吟味したジョルドは、嬉々とした表情で満足気に頷いた。
「この骨の食器なら、ディルメス侯爵領の特産物として十分に売りだせます。これは画期的な商品になりますよ」
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