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第一章 ラバネス半島編
2.父上、ロンメル砦へ出発!
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エクストリアの世界へ転生してから九年が過ぎた。
「ここに居られたんですか。ダイナス様がお呼びです」
父上の蔵書部屋で本を漁っていた僕を、メイドのレミリアが慌てて探しにきた。
ダイナス様とは僕の父上のことで、ブリタニス王国のディルメス侯爵家の当主なのだ。
そして僕はシオン・ディルメス、九歳、侯爵家の次男というわけだ。
エクストリア世界にはグランタリアという大陸があり、その南東部にラバネス半島がある。
その半島の先端部分にブリタニス王国がある。
ブリタニス王国の北側には、トランスベル王国とナブラスト王国という二つの国があり、僕の転生したディルメス侯爵家は、そのナブラスト王国と国境を接している地域を領地として統括しているんだ。
レミリアと一緒に執務室へ行くと、豪華な大きいデスクに座って父上が難しい表情をしていた。
「シオンはどこにいた?」
「はい、いつものようにダイナス様の蔵書部屋におられました」
「シオンよ、どうして外にでて剣の訓練をしないのだ。兄のアレンは三歳の頃から、木剣の玩具を持って騎士の真似事をして外で遊んでいたぞ」
「父上、僕の体を見てください。木剣を振り回せるように見えますか?」
僕は胸を張って、片手で自分の細い腕と脚を指差す。
確かにエクストリアの世界は剣と魔法の世界であり、森に入れば魔獣が徘徊している世界である。
男子としては、このファンタジーな世界で勇者みたいに活躍したいという夢も、五歳の頃まではありました。
しかし、いざ木剣を持って訓練をしてみると、運動神経は人並み程度……あの女神様は、まったく身体能力を向上させてくれなかったらしい。
そんなこんなで、元々、前世でも運動が苦手だったこともあり、僕が読書に逃げ込んだのは仕方ないことだと思う。
そんな僕の様子を見て、父上は片手で額を抑える。
「そのようにひ弱な手足をしているから、少しは運動してはどうかと言ってるのだがな」
「失礼ながら発言をお許しください。どうやらレオン様は知性のほうが先に成長しているのではないかと。今ではダイナス様の蔵書を理解されているようですので」
「それは本当か……子供が読めるような簡単な本は置いていなかったはずだが……」
生まれた時から成人並の意識はあったから、赤ちゃんの頃は何もできなくて焦ったよ。
毎日、泣いて笑って乳母の母乳を飲んで、眠るばかりの生活に飽き飽きしていたし……だから僕は幼少の頃から父上の蔵書を読みまくって文字を必死に覚えたんだ。
ゼロ歳から本をねだる赤ちゃんを気味悪がって、離乳食に変わった時期に、乳母を担当していたメイドが邸を去っていった時は、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになったけどね。
でも、早くエクストリア世界、グランタリア大陸の知識を知りたかったし、文字の読み書きができなければ、それらを知ることもできなかったからね。
今では父上の蔵書を読んで理解するのは造作もないのだ。
「それで何が面白かった?」
「地理の蔵書ですね。グランタリア大陸の国々のことがよく書かれていましたから」
「あの本は九歳の子供が読む本ではないぞ。やはりアレンとは違うのだな。子供の得意分野を伸ばすのも親の務めかもしれんな」
そう言いながら、父上は満足そうに笑む。
僕には三歳はなれたアレン兄上がいる。
頭もよくて武術にも秀でていて、僕の自慢の兄上だ。
そのアレン兄上は十二歳になったので、今は王都にある別邸から貴族学院に通っていた。
月に一回、近況を封書で報告してくるのを僕も父上も楽しみにしていたりする。
どうやら機嫌が直ったらしい父上へ、僕はそっと片手をあげた。
「お仕事中に僕を呼ばれるなんて、どうしたんですか?」
「そうであったな。ナブラスト王国軍がまた国境地域を荒らしているらしいのだ。私はこれからディルメス侯爵軍を率いて、国境地帯のロンメル砦へ向かう。いつもの国境での小競り合いだろうから、そう長くはかからないはずだ。留守の間おとなしくしているのだぞ」
父上の蔵書で調べたのだけど、女神様が言われていたように、今のグランタリア大陸は小さい国々は乱立していて、群雄割拠の状態にあるらしい。
そのためトランスベル王国とナブラスト王国の二国は、何かとブリタニス王国へちょっかいをかけてくるのだ。
武勇に秀でた父上が国境でのいざこざで命の危険に晒されるとは思えないけど、やはり少し心配だな。
今回、国境付近に集まっているナブラスト王国軍の兵数はおよそ千人ほど。
以前までの小競り合いでは、兵数は五百人ほどだったから、敵軍の数が倍になっている。
この規模だと戦いが長引くかもしれないな。
それから三日後、父上はディルメス侯爵軍八百人を率いてロンメル砦へ向かうため、領都ディルスを出発していった。
ロンメル砦には二百人の兵が常駐していて、その者達と合流してナブラスト王国軍を迎撃する予定らしい。
父上が不在となった邸で、僕はそっと扉を開けて、文官が仕事をしている事務室を覗いてみる。
すると木製のデスクの上に突っ伏して、ジョルズがブツブツと弱音を吐いていた。
「ああ、ダイナス様が出陣されてしまうなんて、これから私が領都の管理をするのかと思うと胃が痛い。私に執務長なんて役職は向いてないんですよ」
ディルメス侯爵領には主要な街が六つあり、その街ごとに父上の臣下である下級貴族が街を管理しているんだけど、領地全体の管理と領都ディルスの運営とは名目上、父上が行っている。
しかし、父上は外出することも多いので、その間は執務長のジョルズが受け持つことになっているのだ。
ジョルズは有能な文官ではあるけど、気が弱いところがあるんだよね。
父上が留守の間、ジョルズを手伝って、僕も何か役に立たつことをしてみようかな。
「ここに居られたんですか。ダイナス様がお呼びです」
父上の蔵書部屋で本を漁っていた僕を、メイドのレミリアが慌てて探しにきた。
ダイナス様とは僕の父上のことで、ブリタニス王国のディルメス侯爵家の当主なのだ。
そして僕はシオン・ディルメス、九歳、侯爵家の次男というわけだ。
エクストリア世界にはグランタリアという大陸があり、その南東部にラバネス半島がある。
その半島の先端部分にブリタニス王国がある。
ブリタニス王国の北側には、トランスベル王国とナブラスト王国という二つの国があり、僕の転生したディルメス侯爵家は、そのナブラスト王国と国境を接している地域を領地として統括しているんだ。
レミリアと一緒に執務室へ行くと、豪華な大きいデスクに座って父上が難しい表情をしていた。
「シオンはどこにいた?」
「はい、いつものようにダイナス様の蔵書部屋におられました」
「シオンよ、どうして外にでて剣の訓練をしないのだ。兄のアレンは三歳の頃から、木剣の玩具を持って騎士の真似事をして外で遊んでいたぞ」
「父上、僕の体を見てください。木剣を振り回せるように見えますか?」
僕は胸を張って、片手で自分の細い腕と脚を指差す。
確かにエクストリアの世界は剣と魔法の世界であり、森に入れば魔獣が徘徊している世界である。
男子としては、このファンタジーな世界で勇者みたいに活躍したいという夢も、五歳の頃まではありました。
しかし、いざ木剣を持って訓練をしてみると、運動神経は人並み程度……あの女神様は、まったく身体能力を向上させてくれなかったらしい。
そんなこんなで、元々、前世でも運動が苦手だったこともあり、僕が読書に逃げ込んだのは仕方ないことだと思う。
そんな僕の様子を見て、父上は片手で額を抑える。
「そのようにひ弱な手足をしているから、少しは運動してはどうかと言ってるのだがな」
「失礼ながら発言をお許しください。どうやらレオン様は知性のほうが先に成長しているのではないかと。今ではダイナス様の蔵書を理解されているようですので」
「それは本当か……子供が読めるような簡単な本は置いていなかったはずだが……」
生まれた時から成人並の意識はあったから、赤ちゃんの頃は何もできなくて焦ったよ。
毎日、泣いて笑って乳母の母乳を飲んで、眠るばかりの生活に飽き飽きしていたし……だから僕は幼少の頃から父上の蔵書を読みまくって文字を必死に覚えたんだ。
ゼロ歳から本をねだる赤ちゃんを気味悪がって、離乳食に変わった時期に、乳母を担当していたメイドが邸を去っていった時は、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになったけどね。
でも、早くエクストリア世界、グランタリア大陸の知識を知りたかったし、文字の読み書きができなければ、それらを知ることもできなかったからね。
今では父上の蔵書を読んで理解するのは造作もないのだ。
「それで何が面白かった?」
「地理の蔵書ですね。グランタリア大陸の国々のことがよく書かれていましたから」
「あの本は九歳の子供が読む本ではないぞ。やはりアレンとは違うのだな。子供の得意分野を伸ばすのも親の務めかもしれんな」
そう言いながら、父上は満足そうに笑む。
僕には三歳はなれたアレン兄上がいる。
頭もよくて武術にも秀でていて、僕の自慢の兄上だ。
そのアレン兄上は十二歳になったので、今は王都にある別邸から貴族学院に通っていた。
月に一回、近況を封書で報告してくるのを僕も父上も楽しみにしていたりする。
どうやら機嫌が直ったらしい父上へ、僕はそっと片手をあげた。
「お仕事中に僕を呼ばれるなんて、どうしたんですか?」
「そうであったな。ナブラスト王国軍がまた国境地域を荒らしているらしいのだ。私はこれからディルメス侯爵軍を率いて、国境地帯のロンメル砦へ向かう。いつもの国境での小競り合いだろうから、そう長くはかからないはずだ。留守の間おとなしくしているのだぞ」
父上の蔵書で調べたのだけど、女神様が言われていたように、今のグランタリア大陸は小さい国々は乱立していて、群雄割拠の状態にあるらしい。
そのためトランスベル王国とナブラスト王国の二国は、何かとブリタニス王国へちょっかいをかけてくるのだ。
武勇に秀でた父上が国境でのいざこざで命の危険に晒されるとは思えないけど、やはり少し心配だな。
今回、国境付近に集まっているナブラスト王国軍の兵数はおよそ千人ほど。
以前までの小競り合いでは、兵数は五百人ほどだったから、敵軍の数が倍になっている。
この規模だと戦いが長引くかもしれないな。
それから三日後、父上はディルメス侯爵軍八百人を率いてロンメル砦へ向かうため、領都ディルスを出発していった。
ロンメル砦には二百人の兵が常駐していて、その者達と合流してナブラスト王国軍を迎撃する予定らしい。
父上が不在となった邸で、僕はそっと扉を開けて、文官が仕事をしている事務室を覗いてみる。
すると木製のデスクの上に突っ伏して、ジョルズがブツブツと弱音を吐いていた。
「ああ、ダイナス様が出陣されてしまうなんて、これから私が領都の管理をするのかと思うと胃が痛い。私に執務長なんて役職は向いてないんですよ」
ディルメス侯爵領には主要な街が六つあり、その街ごとに父上の臣下である下級貴族が街を管理しているんだけど、領地全体の管理と領都ディルスの運営とは名目上、父上が行っている。
しかし、父上は外出することも多いので、その間は執務長のジョルズが受け持つことになっているのだ。
ジョルズは有能な文官ではあるけど、気が弱いところがあるんだよね。
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