2 / 93
第一章 ラバネス半島編
2.父上、ロンメル砦へ出発!
しおりを挟む
エクストリアの世界へ転生してから九年が過ぎた。
「ここに居られたんですか。ダイナス様がお呼びです」
父上の蔵書部屋で本を漁っていた僕を、メイドのレミリアが慌てて探しにきた。
ダイナス様とは僕の父上のことで、ブリタニス王国のディルメス侯爵家の当主なのだ。
そして僕はシオン・ディルメス、九歳、侯爵家の次男というわけだ。
エクストリア世界にはグランタリアという大陸があり、その南東部にラバネス半島がある。
その半島の先端部分にブリタニス王国がある。
ブリタニス王国の北側には、トランスベル王国とナブラスト王国という二つの国があり、僕の転生したディルメス侯爵家は、そのナブラスト王国と国境を接している地域を領地として統括しているんだ。
レミリアと一緒に執務室へ行くと、豪華な大きいデスクに座って父上が難しい表情をしていた。
「シオンはどこにいた?」
「はい、いつものようにダイナス様の蔵書部屋におられました」
「シオンよ、どうして外にでて剣の訓練をしないのだ。兄のアレンは三歳の頃から、木剣の玩具を持って騎士の真似事をして外で遊んでいたぞ」
「父上、僕の体を見てください。木剣を振り回せるように見えますか?」
僕は胸を張って、片手で自分の細い腕と脚を指差す。
確かにエクストリアの世界は剣と魔法の世界であり、森に入れば魔獣が徘徊している世界である。
男子としては、このファンタジーな世界で勇者みたいに活躍したいという夢も、五歳の頃まではありました。
しかし、いざ木剣を持って訓練をしてみると、運動神経は人並み程度……あの女神様は、まったく身体能力を向上させてくれなかったらしい。
そんなこんなで、元々、前世でも運動が苦手だったこともあり、僕が読書に逃げ込んだのは仕方ないことだと思う。
そんな僕の様子を見て、父上は片手で額を抑える。
「そのようにひ弱な手足をしているから、少しは運動してはどうかと言ってるのだがな」
「失礼ながら発言をお許しください。どうやらレオン様は知性のほうが先に成長しているのではないかと。今ではダイナス様の蔵書を理解されているようですので」
「それは本当か……子供が読めるような簡単な本は置いていなかったはずだが……」
生まれた時から成人並の意識はあったから、赤ちゃんの頃は何もできなくて焦ったよ。
毎日、泣いて笑って乳母の母乳を飲んで、眠るばかりの生活に飽き飽きしていたし……だから僕は幼少の頃から父上の蔵書を読みまくって文字を必死に覚えたんだ。
ゼロ歳から本をねだる赤ちゃんを気味悪がって、離乳食に変わった時期に、乳母を担当していたメイドが邸を去っていった時は、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになったけどね。
でも、早くエクストリア世界、グランタリア大陸の知識を知りたかったし、文字の読み書きができなければ、それらを知ることもできなかったからね。
今では父上の蔵書を読んで理解するのは造作もないのだ。
「それで何が面白かった?」
「地理の蔵書ですね。グランタリア大陸の国々のことがよく書かれていましたから」
「あの本は九歳の子供が読む本ではないぞ。やはりアレンとは違うのだな。子供の得意分野を伸ばすのも親の務めかもしれんな」
そう言いながら、父上は満足そうに笑む。
僕には三歳はなれたアレン兄上がいる。
頭もよくて武術にも秀でていて、僕の自慢の兄上だ。
そのアレン兄上は十二歳になったので、今は王都にある別邸から貴族学院に通っていた。
月に一回、近況を封書で報告してくるのを僕も父上も楽しみにしていたりする。
どうやら機嫌が直ったらしい父上へ、僕はそっと片手をあげた。
「お仕事中に僕を呼ばれるなんて、どうしたんですか?」
「そうであったな。ナブラスト王国軍がまた国境地域を荒らしているらしいのだ。私はこれからディルメス侯爵軍を率いて、国境地帯のロンメル砦へ向かう。いつもの国境での小競り合いだろうから、そう長くはかからないはずだ。留守の間おとなしくしているのだぞ」
父上の蔵書で調べたのだけど、女神様が言われていたように、今のグランタリア大陸は小さい国々は乱立していて、群雄割拠の状態にあるらしい。
そのためトランスベル王国とナブラスト王国の二国は、何かとブリタニス王国へちょっかいをかけてくるのだ。
武勇に秀でた父上が国境でのいざこざで命の危険に晒されるとは思えないけど、やはり少し心配だな。
今回、国境付近に集まっているナブラスト王国軍の兵数はおよそ千人ほど。
以前までの小競り合いでは、兵数は五百人ほどだったから、敵軍の数が倍になっている。
この規模だと戦いが長引くかもしれないな。
それから三日後、父上はディルメス侯爵軍八百人を率いてロンメル砦へ向かうため、領都ディルスを出発していった。
ロンメル砦には二百人の兵が常駐していて、その者達と合流してナブラスト王国軍を迎撃する予定らしい。
父上が不在となった邸で、僕はそっと扉を開けて、文官が仕事をしている事務室を覗いてみる。
すると木製のデスクの上に突っ伏して、ジョルズがブツブツと弱音を吐いていた。
「ああ、ダイナス様が出陣されてしまうなんて、これから私が領都の管理をするのかと思うと胃が痛い。私に執務長なんて役職は向いてないんですよ」
ディルメス侯爵領には主要な街が六つあり、その街ごとに父上の臣下である下級貴族が街を管理しているんだけど、領地全体の管理と領都ディルスの運営とは名目上、父上が行っている。
しかし、父上は外出することも多いので、その間は執務長のジョルズが受け持つことになっているのだ。
ジョルズは有能な文官ではあるけど、気が弱いところがあるんだよね。
父上が留守の間、ジョルズを手伝って、僕も何か役に立たつことをしてみようかな。
「ここに居られたんですか。ダイナス様がお呼びです」
父上の蔵書部屋で本を漁っていた僕を、メイドのレミリアが慌てて探しにきた。
ダイナス様とは僕の父上のことで、ブリタニス王国のディルメス侯爵家の当主なのだ。
そして僕はシオン・ディルメス、九歳、侯爵家の次男というわけだ。
エクストリア世界にはグランタリアという大陸があり、その南東部にラバネス半島がある。
その半島の先端部分にブリタニス王国がある。
ブリタニス王国の北側には、トランスベル王国とナブラスト王国という二つの国があり、僕の転生したディルメス侯爵家は、そのナブラスト王国と国境を接している地域を領地として統括しているんだ。
レミリアと一緒に執務室へ行くと、豪華な大きいデスクに座って父上が難しい表情をしていた。
「シオンはどこにいた?」
「はい、いつものようにダイナス様の蔵書部屋におられました」
「シオンよ、どうして外にでて剣の訓練をしないのだ。兄のアレンは三歳の頃から、木剣の玩具を持って騎士の真似事をして外で遊んでいたぞ」
「父上、僕の体を見てください。木剣を振り回せるように見えますか?」
僕は胸を張って、片手で自分の細い腕と脚を指差す。
確かにエクストリアの世界は剣と魔法の世界であり、森に入れば魔獣が徘徊している世界である。
男子としては、このファンタジーな世界で勇者みたいに活躍したいという夢も、五歳の頃まではありました。
しかし、いざ木剣を持って訓練をしてみると、運動神経は人並み程度……あの女神様は、まったく身体能力を向上させてくれなかったらしい。
そんなこんなで、元々、前世でも運動が苦手だったこともあり、僕が読書に逃げ込んだのは仕方ないことだと思う。
そんな僕の様子を見て、父上は片手で額を抑える。
「そのようにひ弱な手足をしているから、少しは運動してはどうかと言ってるのだがな」
「失礼ながら発言をお許しください。どうやらレオン様は知性のほうが先に成長しているのではないかと。今ではダイナス様の蔵書を理解されているようですので」
「それは本当か……子供が読めるような簡単な本は置いていなかったはずだが……」
生まれた時から成人並の意識はあったから、赤ちゃんの頃は何もできなくて焦ったよ。
毎日、泣いて笑って乳母の母乳を飲んで、眠るばかりの生活に飽き飽きしていたし……だから僕は幼少の頃から父上の蔵書を読みまくって文字を必死に覚えたんだ。
ゼロ歳から本をねだる赤ちゃんを気味悪がって、離乳食に変わった時期に、乳母を担当していたメイドが邸を去っていった時は、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになったけどね。
でも、早くエクストリア世界、グランタリア大陸の知識を知りたかったし、文字の読み書きができなければ、それらを知ることもできなかったからね。
今では父上の蔵書を読んで理解するのは造作もないのだ。
「それで何が面白かった?」
「地理の蔵書ですね。グランタリア大陸の国々のことがよく書かれていましたから」
「あの本は九歳の子供が読む本ではないぞ。やはりアレンとは違うのだな。子供の得意分野を伸ばすのも親の務めかもしれんな」
そう言いながら、父上は満足そうに笑む。
僕には三歳はなれたアレン兄上がいる。
頭もよくて武術にも秀でていて、僕の自慢の兄上だ。
そのアレン兄上は十二歳になったので、今は王都にある別邸から貴族学院に通っていた。
月に一回、近況を封書で報告してくるのを僕も父上も楽しみにしていたりする。
どうやら機嫌が直ったらしい父上へ、僕はそっと片手をあげた。
「お仕事中に僕を呼ばれるなんて、どうしたんですか?」
「そうであったな。ナブラスト王国軍がまた国境地域を荒らしているらしいのだ。私はこれからディルメス侯爵軍を率いて、国境地帯のロンメル砦へ向かう。いつもの国境での小競り合いだろうから、そう長くはかからないはずだ。留守の間おとなしくしているのだぞ」
父上の蔵書で調べたのだけど、女神様が言われていたように、今のグランタリア大陸は小さい国々は乱立していて、群雄割拠の状態にあるらしい。
そのためトランスベル王国とナブラスト王国の二国は、何かとブリタニス王国へちょっかいをかけてくるのだ。
武勇に秀でた父上が国境でのいざこざで命の危険に晒されるとは思えないけど、やはり少し心配だな。
今回、国境付近に集まっているナブラスト王国軍の兵数はおよそ千人ほど。
以前までの小競り合いでは、兵数は五百人ほどだったから、敵軍の数が倍になっている。
この規模だと戦いが長引くかもしれないな。
それから三日後、父上はディルメス侯爵軍八百人を率いてロンメル砦へ向かうため、領都ディルスを出発していった。
ロンメル砦には二百人の兵が常駐していて、その者達と合流してナブラスト王国軍を迎撃する予定らしい。
父上が不在となった邸で、僕はそっと扉を開けて、文官が仕事をしている事務室を覗いてみる。
すると木製のデスクの上に突っ伏して、ジョルズがブツブツと弱音を吐いていた。
「ああ、ダイナス様が出陣されてしまうなんて、これから私が領都の管理をするのかと思うと胃が痛い。私に執務長なんて役職は向いてないんですよ」
ディルメス侯爵領には主要な街が六つあり、その街ごとに父上の臣下である下級貴族が街を管理しているんだけど、領地全体の管理と領都ディルスの運営とは名目上、父上が行っている。
しかし、父上は外出することも多いので、その間は執務長のジョルズが受け持つことになっているのだ。
ジョルズは有能な文官ではあるけど、気が弱いところがあるんだよね。
父上が留守の間、ジョルズを手伝って、僕も何か役に立たつことをしてみようかな。
2,540
お気に入りに追加
4,174
あなたにおすすめの小説
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
異世界に行ったら才能に満ち溢れていました
みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。
異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....
クモ使いだとバカにしているようだけど、俺はクモを使わなくても強いよ?【連載版】
大野半兵衛
ファンタジー
HOTランキング10入り!(2/10 16:45時点)
やったね! (∩´∀`)∩
公爵家の四男に生まれたスピナーは天才肌の奇人変人、何よりも天邪鬼である。
そんなスピナーは【クモ使い】という加護を授けられた。誰もがマイナー加護だと言う中、スピナーは歓喜した。
マイナー加護を得たスピナーへの風当たりは良くないが、スピナーはすぐに【クモ使い】の加護を使いこなした。
ミネルバと名づけられたただのクモは、すくすくと成長して最強種のドラゴンを屠るくらい強くなった。
スピナーと第四王女との婚約話が持ち上がると、簡単には断れないと父の公爵は言う。
何度も婚約話の破談の危機があるのだが、それはスピナーの望むところだった。むしろ破談させたい。
そんなスピナーと第四王女の婚約の行方は、どうなるのだろうか。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる