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1巻

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 プロローグ



 廊下ろうかからドタバタと騒々そうぞうしい足音が聞こえてくる。

「何の騒ぎだ!?」

 俺、アクス・フレンハイムがベッドから起き上がった時、バタンと扉が開いて執事しつじのセバスが飛び込んできた。

「大変でございます。ルッセンとりでが隣国の兵によって陥落かんらくいたしました。バルトハイド様は兵達と共に戦死されたとのことです」
「何! 父上が!」

 俺は驚きのあまり顔を青ざめさせる。
 俺の生家であるこのフレンハイム子爵ししゃく家は、リンバインズ王国南部、トルーデント帝国との国境沿いの一帯を領地として持つ。
 リンバインズ王国は中央部、北部、南部、東部、西部の五つのエリアに分けられている。
 その南部の中でもさらに辺境、トルーデント帝国との国境沿いの一帯を領地として持つのが、フレンハイム子爵領だ。
 ルッセン砦とは、その中でも帝国との国境に面している、いわば最前線だ。
 子爵だった父――バルトハイドは砦を守る任で、砦に出兵しているタイミングだった。
 なぜならば、帝国が国境近くまでやってきているという情報が入っていたから。
 それくらいの小競こぜり合いはよくあることなので、父上も念のために出兵していたのだが……
 その砦が落とされ、父が殺されたということは、この領地も危険だということだ。
 当然、敵はこの領都フレンスを目指すだろうからな。
 あー頭がクラクラしてきた。
 思考が追い付かずに固まっていた俺は、とりあえず落ち着こうとお茶を口に含む。
 しかし焦った様子のセバスが俺に詰め寄り、肩に両手を置いてガクガクと揺すってきた。

「もうすぐ敵兵が来ます。どうなさるんですか! どうなさるんですか! アクス様! バルトハイド様が亡くなられた今、当主はアクス様ですぞ! しっかりしてくだされ!」

 思わず俺は、口に含んでいたお茶をき出してしまった。

「な……何をなさるのですか……」

 体を激しく揺すられたら、そりゃそうなるだろ。
 セバスは俺の肩から手を離して、後ろへよろめきながら、必死に体をいている。
 ようやく気持ちが切り替わった俺は、少し思考が落ち着いてきた。
 父上は死んでしまったのか。領民からも慕われていたのに……
 しかし、今は悲しんでいる暇はない。
 砦からこのフレンスまでは、そう遠くはないのだ。
 俺は胡坐あぐらをかいて両腕を胸元で組む。
 俺にお茶を噴きかけられてようやく落ち着いたのだろう、セバスが真剣な表情で目を細める。

「報告によれば、砦から向かってくる敵兵の数は約千余りでございます」
「砦に兵力を集中させていたからな。こちらの兵士は百人にも満たないぞ」

 俺は頭をガシガシとく。
 領地のほとんどの兵士は砦の防衛に出陣していた。
 よって、この街を守っている兵士達の数は極端に少なく、百人程度だ。
 敵の兵力は約十倍。
 これはどうにも勝てそうにないな。
 敵は我がフレンハイム子爵家の領地と隣接しているトルーデント帝国。
 ウラレント侯爵こうしゃくという人物が、我が領と隣接するエリアを統治していて、定期的に国境近くで小さな小競り合いが起きている。
 今回もいつものやつだと思っていたが……どうやら帝国は、本気で侵略を始めたようだ。
 俺は手をポンとたたく。

「これはあれだね。うん……降参だ。降参しよう」
「それでも武人としてほまれ高きフレンハイム家のご当主ですか。亡きバルトハイド様が聞いたら嘆かれますぞ」
「父上が殺されたから急に当主になっただけじゃないか。それに俺が戦いを苦手なことはセバスも知ってるだろ。十倍の兵に勝てるわけない」

 我がフレンハイム子爵家は代々武芸で鳴らした家系である。
 しかし、家族の誰もが武芸に優れているわけではない。
 俺は幼少の頃から運動が苦手で、いつも父上との武術の特訓を避けて生きてきた。
 いきなり一騎当千の猛者もさになれるはずがない。
 自暴自棄になる俺を見て、セバスは姿勢を正して片膝かたひざをつく。

「せめてフレンハイム家の名に恥じぬよう、貴族らしく毅然きぜんとした行動をしてください。家臣としてお願いいたします」

 セバスは俺が生まれる前から父上に使えていた執事である。
 父上は常に忙しく、さらに母上は早くに病で亡くなっているため、俺を育ててくれたのはほとんどセバスだった。
 使用人の中では、いつも一番にフレンハイム家のことを考えてくれている。
 ここはセバスのために、少しでも策を考えてみるか。
 俺は少しの間、目をつむって考える。
 色々な考えが頭の中を駆け巡り――そして覚悟を決めて両膝に手を置いた。

「セバス、出るぞ。装備を整えてくれ。ああ、でもフルプレートはやめてくれ。どうせ重くて動けない。旅に出かけるような軽装備でいい」
「フルプレートではない? では、出陣されるわけではないと?」
「ちょっと敵の動きを探りに行くだけだ」

 俺の言葉を聞いて、セバスは顔を引きつらせる。

「まさか住民達を置いて逃げるつもりでは?」
「そこまで卑怯ひきょうじゃねーよ。少しは俺を信じろ」

 武術を嫌っていた俺は、よくうそをついて訓練から逃げていた。
 おかげで言い訳だけは上手く、そのことを知っているからこそセバスは疑ったのだろう。
 セバスは俺を大事に思ってくれてはいるのだが、俺に対する信頼はうすいのだ。まぁ、俺の自業自得だけど。
 まだ疑いの目を向けてくるセバスが準備してくれた装備を受け取る。
 そして準備を整えて、剣とさやを腰につける。

「お供に兵士はいらない。下手に兵士を連れて敵陣の近くまで行けば、戦いを仕掛けに来たと殺されるかもしれないからな」
「……本気なのですね。まさか、敵将の前まで行かれるおつもりで?」
「そうだよ。何とか街を守る手立てが必要だからね。馬車を用意してくれ」

 表情を引き締めたセバスは、頭を下げて静かに部屋を出ていった。
 それを見送った俺は、大きなタンスを開いて出かける準備を整える。
 そしてやしきの玄関へ行くと、セバスは使用人達を集めて立っていた。

「私は最後まで邸を守る所存です。アクス様も精一杯のことをしてください」
「おいおい、まだ最後の挨拶あいさつはいいから。おーいクレト、一緒に来てくれ」

 俺は集団の端に静かに立っていた、馬番のクレトに声をかける。
 すると彼は驚いた表情で自分を指差す。

「俺も行くの? まだ兵になる訓練も受けてないんだけど?」
「だからいいんだ。誰もクレトを見て兵士とは思わないだろ」
「ご当主であるアクス様のご指示ぞ。黙って従えばよろしい」

 ためらっているクレトへ向けて、セバスが言い放つ。
 執事として家のことを取り仕切るセバスは、使用人達には厳しいのだ。
 ガクリと項垂うなだれたまま、クレトは馬車の中へ乗り込む。
 その背中を押して、俺も馬車に乗って御者へ指示を出した。

「とりあえず、国境へ向けて走ってくれ。敵がこちらに向かっているなら、途中でかち合うはずだ」

 御者がむちを振るい、馬車は子爵家の邸から出発した。
 領都を出て、街道を走り出す。
 馬車の長椅子ながいすに座ったまま外を眺めていると、ずっと黙ったままのクレトがジーッと俺を見つめていたのに気が付いた。
 クレトは重苦しく口を開く。

「今度は何を企んでいるんだよ? 悪巧わるだくみを考えている時は、いつも俺を指名するんだから」

 両親も我が邸の使用人だったクレトは、俺と同い年ということもあって、幼少の頃からよく一緒に遊んだ。
 そのため、普通ならあり得ないことだが、俺と二人だけの時には、タメ口で話すことも許している。
 イタズラや悪巧みがバレて、父上からしかられる時も一緒だった。
 だからクレトは、セバスよりも俺のことをよく知っていると言えるだろう。
 彼の前で隠し事をしても仕方ないので、俺は正直に話すことにした。

「ちょっとね。もちろん、クレトにも手伝ってもらうから連れてきたんだ……残念ながら拒否権はない」

 するとクレトは頭を両手で抱えて左右に振る。

「どうして俺ばっかり巻き込まれるんだ」
「はは、可哀想だけど付き合ってもらうよ」
「イヤだーーー!」

 絶叫するクレトと俺を乗せて、馬車は国境へ向けて走り続けた。




 第1章 偵察ていさつと作戦



 さて、状況を整理しよう。
 我が領地と隣接しているトルーデント帝国の兵士達が、国境のルッセン砦を陥落させて領都フレンスへ向けて進軍してきている。
 その兵数は千人ほど。
 対するこちら側の兵士の数は百人程度。街の警備隊をかき集めれば、もう少し増えるとは思うが、それでも多くはない。
 領主である俺は、現在、馬番のクレトを連れて、敵軍の様子を見に行くために馬車を走らせている。
 領都を出て、途中の街で馬を替えつつ進み、一晩明かして再出発し、今は昼前くらい。かなり飛ばしているため、通常馬車で移動するよりもかなり距離を稼げている。
 そろそろ、敵軍が見えてくる頃合いだけど。
 俺は運動が苦手だし、別に敵軍に突っ込んで敵将を倒そうと考えているわけではない。
 実は俺には、一つ得意……というか、他の人間が持っていない強みがある。
 それは、俺が現代日本から異世界へ生まれ変わった転生者ということだ。
 俺は八年前、七歳の時に、流行り病で死のふちをさまよった。
 その時に、前世の日本での記憶が一気によみがえったんだ。
 記憶の中の自分は曖昧あいまいで、個人的な情報は思い出せないが、一般的な知識や、経験してきたことはハッキリと思い出した。
 はじめは病による妄想かと思ったけど、その知識はあまりにもハッキリしていて、どうしても否定することができなかった。
 このことを伝えたのは、亡き父上とセバスとクレトだけだ。
 ……誰も本気で信じてくれなかったけどね。
 実は、その記憶を思い出した時に、とある魔法も手に入れたんだけど……これまた使うのが難しくて、全然使いこなせておらず、宝の持ち腐れになっている。
 この世界には、魔法という不思議な力がある。自身の魔力を使うことで任意の現象を起こせる、便利なものだ。
 ただ、俺の手に入れた魔法はとてもめずらしいもので、使い方を指南してくれる人がいなかった。
 一応父上には報告してあったけど、色々と試した結果、実用的ではないことが分かっただけだった。
 今回の戦でも使えなさそうだしな。
 ともかく、前世の知識がある俺ならば、この世界の人々が思いつかないアイデアで、この難局を乗り切れる……かもしれない。
 そんなことを考えていた俺は、クレトの声でハッとする。

「俺にこんな服を着せて何をするんだ? きちんと計画してるんだろうね?」

 目の前で着替え終わったクレトがジト目で俺をにらむ。
 クレトが着ている服は、俺が自室のタンスから持ってきたものだ。
 その姿を見て、俺は満足して微笑ほほえむ。

「いいじゃないか。どこから見てもバカそうな嫡子ちゃくしにしか見えない。計画の通りだ」

 そう、その計画とは、クレトを俺の替え玉にするというものだ。
 クレトは俺と同い年の十五歳。
 背丈も体格もほぼ同じだ。
 クレトのほうが貧相な容貌ようぼうをしているけど、敵軍は俺の姿を知っているはずがない。クレトが子爵家の嫡男だと言われても、敵軍にバレることはないだろう。
 クレトは俺を怪しむように視線を送ってくる。

「本当にこんなので上手くいくの?」
「それは分からない。やらないよりマシ程度になるように頑張るさ」

 俺の答えを聞いて、クレトはゲッソリした表情でうつむく。
 夕方になる前に、御者から遠くに敵軍らしき姿が見えたと報告があった。
 俺は馬車から上半身を出して、用意してきた棒に白い布を付けて振る。
 生前の父上から簡単に戦について教わったのだが、この世界でも白旗という概念がいねんはあるようだった。

「おーい、一時休戦だ! 話をしたいからおそわないでくれー!」

 俺はそう叫びながら、敵軍を観察する。
 ざっと見た感じ、敵兵の数は報告の通りのおおよそ千。
 その中に、軍とは武装の違う、おそらく傭兵ようへいらしき姿もチラホラと見える。
 行軍する中央のあたりには、指揮官らしき一団がいて、その中に一際大きな白馬に乗った金髪の少女騎士がいた。
 そういえば父上から聞いたことがある。
 我がフレンハイム家の領地と隣接している、トルーデント帝国の辺境を守るウラレント侯爵家。かの侯爵には、お転婆姫てんばひめがいるという。
 姫の名はエルナだったような……
 そのエルナが、今回は総大将となって攻め込んできたってわけか。
 俺は御者へ指示を出して、敵軍の前に馬車を止めさせる。
 すると姫も片手を大きく上げて、軍の行進を止めた。
 俺とクレトは馬車からゆっくりと降りる。
 馬車の隣にクレトを立たせ、俺は一人で少女騎士の前まで歩いていった。
 近くまで行くと、彼女は無言で抜剣して切っ先を俺に向けてくる。

「お前は何者だ? 後ろの者は誰だ?」
「私はこの地を守るフレンハイム子爵の護衛兵です。伝令として遣わされました。後ろの馬車におられるのは、フレンハイム子爵家の嫡子であるアクス様です」
「ほう。私はこの軍を任されているエルナ・ウラレントだ。しかしフレンハイムの嫡子は、父親を殺されたというのに白旗をかかげるとは、どういう了見か? 男なら最後の一兵になるまで戦う意気込みはないのか?」

 やっぱり彼女がエルナか。しかし言うことがなかなか過激だな。

「そのような気概きがいはアクス様にはありません。こうした交渉の場まで、私に任せるくらいですから」

 俺の話を聞いて、エルナは金髪を片手でかきあげてフンと鼻を鳴らす。
 男勝おとこまさりとうわさされていたが、仕草までそうだな。
 俺は弱腰を装い、懇願こんがんするように姫を見上げた。

「アクス様は平和を望まれる優しいお方です。領内のあちこちで戦いが起こり、街の人々が命を落とすような事態は避けたいと申しておりました。ですが一方で、戦わずに逃げるだけという生き恥はさらせません。残された兵で、決戦を行いたいのです。当然、負ければ領地を明け渡すとおおせでした。そしてもう一つ、お願いがございます。進路にある街の住人が逃げるため、少々時間をいただきたいのです」
「住人の避難のために日数をくれということか。だがその必要はない。全ての住人達が帝国の臣民になるのだからな。それに、その住民を兵に仕立てるつもりだろう?」

 エルナはバカにしたような表情で目を細める。
 まあそうだよな。人は資産だ。土地や街を手に入れるだけでは意味がない。
 しかし俺は一拍いっぱくを置いて大きく息を吐き、ポツリポツリと言葉を発する。

「実は、誠に言いにくいのですが……フレンハイム家の領地には亜人や獣人が多く暮らしています。それも帝国の臣民にされるのでしょうか?」

 俺の言葉を聞いてエルナは大きく目を見開く。
 亜人や獣人というのは、エルフやドワーフなどの人に近いが変わった特徴を持つ者や、獣の特徴を持つ者のことだ。

「なぜ亜人や獣人が人族の街にいるのだ? けがらわしい」
「我が領内と帝国の間の一部国境線には、『瘴気しょうきの森』がありますでしょう」
「うむ。亜人や獣人が住むと言われている森だな。広大な土地に魔力がまっているためか、んでいる魔獣に強力な個体が多い。そのせいで、なかなか開拓できないでいるが……」

 この世界には、魔獣と呼ばれる生き物がいて、人々の暮らしをおびやかす存在として恐れられている。

「ええ。その森に住んでいる亜人や獣人は、人族以外の人種を認めないトルーデント帝国側ではなく、こちら側へと出てきます。そして交易をするうちに、街に住みついた者達も多いのです」

 俺の言葉を聞いて、姫は苦々しい表情を浮かべる。
 我が国は亜人や獣人への偏見はそこまでないのだが、一方で、トルーデント帝国は人族至上主義で、亜人や獣人を徹底的に排除しようとする国家だ。
 そのため、街に亜人や獣人が暮らしていることを良しとしない。
 そして侯爵家の令嬢であるエルナもやはり、亜人や獣人のことを忌避しているようだ。
 エルナは剣を握る手に力を込め、奥歯をみしめる。
 そして鋭い視線を俺へ向けた。

「亜人や獣人など、人族ではないと私は教わってきた。皆殺しにしても一向に構わん」
「フレンハイム領の街々の全てに亜人や獣人は暮らしています。大量殺戮さつりくになりますよ。帝国は彼らを人族ではないと言いますが、我々や多くの国々としては、人族となんら変わりないと思っています。しかもそれを殺すとなれば、非戦闘員の民間人を虐殺したと、国際社会で問題になるのでは?」

 そう言われるとさすがに気が引けたのか、エルナはたじろいだ。

「ならばどうすると?」
「彼らに街を捨て、森へ戻るか、他の領に移るように命じましょう。そうすれば、帝国軍が手を汚す必要はなくなるでしょう。フレンハイム家の皆様は、領内の亜人や獣人に慕われています。きっと街にいる者達も、アクス様の言葉に従うはず。その自信がなければ、このように敵軍の前に臆病者のアクス様は来られません」

 俺の話を聞いて、エルナは馬車の隣に立っているクレトを見る。
 そして少しの間黙っていたが、剣を鞘へと戻した。

「分かった。私もむやみやたらに血を流すことを望んでいるわけではない。亜人や獣人といえど、大量殺戮は夢見が悪い……二週間だけやる。その間に、街中にいる亜人や獣人を避難させるのだ。もし我々が通った時に奴らがいれば、全員を処分する」

 ほっ、とりあえずこれで、時間はできたな。
 当然、他の領民を逃がすことはできなかったが、一度無茶なお願いをしておくことで、亜人と獣人を逃がすという無理を通すことはできた。
 まぁ、エルナの大量殺戮を避けたいって言葉も本心なんだろうけど。

「街々を支配下に置いたあと、我々は領都を攻めよう。ああ、その間に兵を集めようが無駄だぞ。我ら帝国軍が屈強であることは、砦を落とされたお前達が一番分かっているだろう」
「存じ上げております。ですが、みすみすと敗れるわけにはまいりません」
「貴族としては当然の心得だな。本来であれば、ここでお前を殺し、その後であの馬車を襲うのが簡単なのだが……当然、その備えもあるだろうしな。兵を伏せているのであろう?」

 やべ、そこまで考えてなかったよ。
 内心冷や汗を流す俺に気付かず、エルナは言葉を続ける。

「まあ、そんなことをすれば亜人どもを処分しなければならなくなるし、我が配下からの信も揺らぐ。ここは敵地まで乗り込んできたフレンハイムの嫡子に免じて、受け入れてやろう」
「寛大なお心に感謝いたします。ではアクス様へ報告して参ります」

 俺がそう言って頭を下げると、エルナは目を細める。

「一応、名を聞いておこう。お前の名は?」
「クレトと申します。それでは失礼いたします」

 俺はうやうやしく頭を下げ、身をひるがえして馬車へと早足で戻った。
 クレトに近づくと、彼は冷や汗でグッショリれた顔を俺に向ける。

「話し合いはどうなったんだ?」
「おおむね上手くいった。さて、早くフレンスへ戻ろう」

 俺は小声で答え、扉を開けて強引にクレトを馬車の中へと押し込む。
 そして改めてエルナに向けて深々と礼をした。
 この二週間の猶予期間は無駄にできない。
 忙しくなってきたぞ。


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