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96.戦略
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会議が終わった俺は、ベヒトハイム宰相の執務室へ歩いていく。
部屋に入り、会議の内容を説明すると、ベヒトハイム宰相はフォルステル王陛下へ報告が必要という。
王城の最上階にある王家が住まう階まで階段をのぼり、王家専用の応接室へ向かう。
応接室でしばらく待っていると、豪華なガウンを着たフォルステル王陛下が現れた。
互いにソファに座ると、ベヒトハイム宰相は先ほど俺が説明した内容をフォルステル王陛下へ伝える。
話を聞き終わったフォルステル王陛下は深く頷いて、俺へ視線を向ける。
「やはり交渉は決裂してきたか」
「話し合いになりませんよ。ダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国の両国は、はじめからプラ製造方法を手に入れたくて仕方ないんですから」
「その両国を今までの外交官はなだめていたのだぞ。その心労がわかるか」
「はい。そこまでの配慮が至らなかったこと反省しております」
俺は深々と頭を下げる。
ベヒトハイム宰相は腕に手をやり、フーっと息を吐く。
「交渉が決裂したとあれば、三国はすぐにでも戦の準備を始めるでしょう。こちらも、それなりの手を打ちませんと、北部の領土を失うことになるでしょう」
「うむ、アクスは何か考えはあるか?」
「はい。ダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国の両国は勢いよく攻めてくるでしょうが、ハゲンドルグ王国は元々、三国同盟に消極的。よってハゲンドルグ王国は他の二国よりも遅れて参戦してくると思います」
俺は二人に向けて両手を広げる。
「ダメンハイン共和国は、先の北西部の戦いで敗戦していますから、それ以上の軍勢を整えてくるでしょう。エルスハイマ聖教国は農民兵を使役して、決死隊を編成して必死に突っ込んでくると考えられます。ですから北東部を守るシュノール辺境伯、北西部を守るドレムラート侯爵に戦力を集めたほうがいいでしょう」
「それだけでは勝てぬぞ。いかようにするつもりだ?」
「我がフレンハイム伯爵領の『タンク一号』を二十台づつ、北東部と北西部に配置し、北部に十台を配置しようと思います。これで北部の領土を確実に守ります。後は私が指揮を取り、ダメンハイン共和国の首都とエルスハイマ聖教国の聖都に攻撃を仕掛けます。主要都市が攻められれば、戦どころではないでしょう」
俺の話を聞いてベヒトハイム宰相は大きく頷く。
「外交官達が母国へ到着するのが一ヵ月後、それから戦準備を整えるのに一ヵ月、そして国境まで行軍するのに約一ヵ月はかかるだろう。三か月以内に『タンク一号』を北部へ派遣して防備を固め、秘策の用意をすすめることは可能か?」
「三か月あれば大丈夫です。宰相閣下には北東部のシュノール辺境伯、北西部のドレムラート侯爵への連絡、お二方には領地の防備を固めていただくようお願いします」
「我の近衛騎士団も派兵しよう」
「万全は尽くしますが、万一があります。近衛騎士団は王都の守備に徹していただきたく思います」
フォルステル王陛下の申し出を、俺はやんわりと制した。
どんな策にも、考えもつかない落とし穴がある。
近衛騎士団は最後の切り札として温存しておきたい。
フォルステル王陛下は、俺の瞳をジッと直視する。
「アクス・フレンハイムよ。そちにリンバインズ王国の命運を託す。しかと務めよ」
「仰せのままに」
俺は片膝をついて、頭を垂れる。
フォルステル王陛下との談義を終えた俺は、スイと一緒にフレンハイム伯爵領の邸へと転移した。
翌日、俺はリーファに指示し、皆へ緊急招集をかける。
俺の呼びかけにより、オルバート、ボルド、ジェシカ、ハミルトン、リリー、フランソワ、カーマイン、ドルーキン、オーラル、リーファ、ジーク、スイの十二名が執務室に集まった。
先日の外交会議で、ダメンハイン共和国、エルスハイマ聖教国、ハゲンドルグ王国の外務官と交渉が決裂したことを皆に伝えた。
そしてフォルステル王陛下が戦も辞さない覚悟であることを説明する。
それを聞いたジークはニヤリを笑った。
「王陛下もやるじゃねーか。国なんてのは面子を失ったら終わりだからな。三国同盟か何かは知らねーけどよ、そんな脅迫に屈するわけにいかねーよな」
「それで、これからアクスはどうするんだ?」
「『タンク一号』をもっと量産してほしい。それを北西部へ二十台、北部十台、北東部へ二十台、配置する。北西部はジェシカ、北部はハミルトン、北東部はフランソワが指揮を取ってくれ」
カーマインの言葉に俺は即答する。そして話しを続けた。
「オルバートは領主代理、ボルドは領地の警備の強化に務めてくれ。リリーは各庁との連携を頼む。
カーマイン、ドルーキン、オーラル、ジーク、リーファ、スイの六人は俺と一緒に別動隊だ」
「面白くなってきやがったぜ」
「これは遊びじゃないんだ。もっと気を引き締めな」
喜ぶジークをジェシカがたしなめる。
こんな話を聞いても、誰も緊張しないとはな。
俺は頼もしい仲間に恵まれたようだ。
それから二カ月、俺達は三国同盟との戦争を想定した訓練を毎日おこなった。
そして『タンク一号』も量産が完成し、ジェシカ、ハミルトン、フランソワの部隊は北部地方へと散っていった。
三国を監視しているジークの情報では、ダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国は戦争に向けて準備を整え、リンバインズ王国北部との国境へ向けて行軍を始めたという。
それから二週間後、別動部隊の俺達は気球に手投げ弾を詰め込み、いつでも空へ飛べるように準備を進めた。
カーマイン、ドルーキン、オーラル、ジーク、リーファ、スイの六人は二つの気球に分かれて乗り込んでいく。
「そろそろ俺達も戦に出かけるか!」
「「「「「「おう!」」」」」」
部屋に入り、会議の内容を説明すると、ベヒトハイム宰相はフォルステル王陛下へ報告が必要という。
王城の最上階にある王家が住まう階まで階段をのぼり、王家専用の応接室へ向かう。
応接室でしばらく待っていると、豪華なガウンを着たフォルステル王陛下が現れた。
互いにソファに座ると、ベヒトハイム宰相は先ほど俺が説明した内容をフォルステル王陛下へ伝える。
話を聞き終わったフォルステル王陛下は深く頷いて、俺へ視線を向ける。
「やはり交渉は決裂してきたか」
「話し合いになりませんよ。ダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国の両国は、はじめからプラ製造方法を手に入れたくて仕方ないんですから」
「その両国を今までの外交官はなだめていたのだぞ。その心労がわかるか」
「はい。そこまでの配慮が至らなかったこと反省しております」
俺は深々と頭を下げる。
ベヒトハイム宰相は腕に手をやり、フーっと息を吐く。
「交渉が決裂したとあれば、三国はすぐにでも戦の準備を始めるでしょう。こちらも、それなりの手を打ちませんと、北部の領土を失うことになるでしょう」
「うむ、アクスは何か考えはあるか?」
「はい。ダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国の両国は勢いよく攻めてくるでしょうが、ハゲンドルグ王国は元々、三国同盟に消極的。よってハゲンドルグ王国は他の二国よりも遅れて参戦してくると思います」
俺は二人に向けて両手を広げる。
「ダメンハイン共和国は、先の北西部の戦いで敗戦していますから、それ以上の軍勢を整えてくるでしょう。エルスハイマ聖教国は農民兵を使役して、決死隊を編成して必死に突っ込んでくると考えられます。ですから北東部を守るシュノール辺境伯、北西部を守るドレムラート侯爵に戦力を集めたほうがいいでしょう」
「それだけでは勝てぬぞ。いかようにするつもりだ?」
「我がフレンハイム伯爵領の『タンク一号』を二十台づつ、北東部と北西部に配置し、北部に十台を配置しようと思います。これで北部の領土を確実に守ります。後は私が指揮を取り、ダメンハイン共和国の首都とエルスハイマ聖教国の聖都に攻撃を仕掛けます。主要都市が攻められれば、戦どころではないでしょう」
俺の話を聞いてベヒトハイム宰相は大きく頷く。
「外交官達が母国へ到着するのが一ヵ月後、それから戦準備を整えるのに一ヵ月、そして国境まで行軍するのに約一ヵ月はかかるだろう。三か月以内に『タンク一号』を北部へ派遣して防備を固め、秘策の用意をすすめることは可能か?」
「三か月あれば大丈夫です。宰相閣下には北東部のシュノール辺境伯、北西部のドレムラート侯爵への連絡、お二方には領地の防備を固めていただくようお願いします」
「我の近衛騎士団も派兵しよう」
「万全は尽くしますが、万一があります。近衛騎士団は王都の守備に徹していただきたく思います」
フォルステル王陛下の申し出を、俺はやんわりと制した。
どんな策にも、考えもつかない落とし穴がある。
近衛騎士団は最後の切り札として温存しておきたい。
フォルステル王陛下は、俺の瞳をジッと直視する。
「アクス・フレンハイムよ。そちにリンバインズ王国の命運を託す。しかと務めよ」
「仰せのままに」
俺は片膝をついて、頭を垂れる。
フォルステル王陛下との談義を終えた俺は、スイと一緒にフレンハイム伯爵領の邸へと転移した。
翌日、俺はリーファに指示し、皆へ緊急招集をかける。
俺の呼びかけにより、オルバート、ボルド、ジェシカ、ハミルトン、リリー、フランソワ、カーマイン、ドルーキン、オーラル、リーファ、ジーク、スイの十二名が執務室に集まった。
先日の外交会議で、ダメンハイン共和国、エルスハイマ聖教国、ハゲンドルグ王国の外務官と交渉が決裂したことを皆に伝えた。
そしてフォルステル王陛下が戦も辞さない覚悟であることを説明する。
それを聞いたジークはニヤリを笑った。
「王陛下もやるじゃねーか。国なんてのは面子を失ったら終わりだからな。三国同盟か何かは知らねーけどよ、そんな脅迫に屈するわけにいかねーよな」
「それで、これからアクスはどうするんだ?」
「『タンク一号』をもっと量産してほしい。それを北西部へ二十台、北部十台、北東部へ二十台、配置する。北西部はジェシカ、北部はハミルトン、北東部はフランソワが指揮を取ってくれ」
カーマインの言葉に俺は即答する。そして話しを続けた。
「オルバートは領主代理、ボルドは領地の警備の強化に務めてくれ。リリーは各庁との連携を頼む。
カーマイン、ドルーキン、オーラル、ジーク、リーファ、スイの六人は俺と一緒に別動隊だ」
「面白くなってきやがったぜ」
「これは遊びじゃないんだ。もっと気を引き締めな」
喜ぶジークをジェシカがたしなめる。
こんな話を聞いても、誰も緊張しないとはな。
俺は頼もしい仲間に恵まれたようだ。
それから二カ月、俺達は三国同盟との戦争を想定した訓練を毎日おこなった。
そして『タンク一号』も量産が完成し、ジェシカ、ハミルトン、フランソワの部隊は北部地方へと散っていった。
三国を監視しているジークの情報では、ダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国は戦争に向けて準備を整え、リンバインズ王国北部との国境へ向けて行軍を始めたという。
それから二週間後、別動部隊の俺達は気球に手投げ弾を詰め込み、いつでも空へ飛べるように準備を進めた。
カーマイン、ドルーキン、オーラル、ジーク、リーファ、スイの六人は二つの気球に分かれて乗り込んでいく。
「そろそろ俺達も戦に出かけるか!」
「「「「「「おう!」」」」」」
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