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92.ウルリッヒ王太子とロードリック第二殿下

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俺はハゲンドルグ王国の王城の応接室でクレメンス宰相と対面していた。

クレメンス宰相はジッと心を心を覗くように俺を見る。

「三国同盟の件ですね」

「ハゲンドルグ王国が三国同盟に加入し意図を知りたくて、温厚なヘンゼルト国王陛下であれば、三国同盟には参加されないと感じたモノですから。クレメンス宰相の意向ですか?」

俺の質問にクレメンス宰相は黙り込む。

俺は気にせず言葉を続けた。

「ダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国の両国に挟まれ、リンバインズ王国との関係が悪化すれば詰むのはハゲンドルグ王国でしょう。そのような愚作を、国政を預かっているクレメンス宰相が行うはずがない」

「ウルリッヒ王太子がお決めになられたのだ……ロードリック第二殿下であれば、このような愚行は避けられたものを……」

苦々しい表情でクレメンス宰相は呟く。

俺は前屈みになり、両手を広げる。

「一度、ウルリッヒ王太子、ロードリック第二殿下と会わせていただけませんか? リンバインズ王国の王宮としては同盟参加を決めかねているんですよ。だから私がハゲンドルグ王国へ遣わされたんです」

「わかりました。国賓として ウルリッヒ王太子に会っていただきましょう。しばらくお待ちを」

クレメンス宰相はソファから立ち上がると応接室から退室した。

しばらくすると、クレメンス宰相は逞しい体格の青年と一緒に戻ってきた。

その青年は笑顔でズカズカと歩いてきて、ドカっとソファに座る。

「俺は王太子のウルリッヒだ。リンバインズ王国のフレンハイム伯爵だな。リンバインズ王国は同盟に加入して、プラ製造方法を教えるつもりになったか?」

「私はリンバインズ王国のアクス・フレンハイムです。やはり王太子の狙いはプラ製造方法ですか?」

俺の問いに ウルリッヒ王太子は大きく頷く。

「プラ商品は宝を産む卵だからな。どの国も喉から手が出るほど欲しいだろう」

「リンバインズ王国が同盟参加を拒否するとは思われないんですか?」

「三国から迫られているのだぞ。断れば三国と戦になる。どう算段しても同盟を受けるしかない。もし断れば、リンバインズ王国を三国で潰すだけだ」

ウルリッヒ王太子はニヤニヤと余裕の笑みを浮かべる。

あー、話し合ってもダメなタイプかも。

駆け引きするのも面倒になってきたぞ。

俺はソファから立ち上がり、冷ややかな目でウルリッヒ王太子を見る。

「ではリンバインズ王国は同盟参加を拒否しましょう。リンバインズ王国を潰せるモノなら、潰してみせろ」

「フレンハイム伯爵、お待ちを。ウルリッヒ王太子も他国の諸侯に対して言い過ぎです」

クレメンス宰相は慌てて俺を止め、ウルリッヒ王太子を睨む。

三人で揉めていると、応接室の扉が開き、一人の青年が入ってきた。

「兄上、リンバインズ王国へ無礼を働くのは看過できません。リンバインズ王国が本気になれば、ハゲンドルグ王国が滅ぼされますよ」

「そんな戯言を誰が信じるか。ロードリックは大人しく黙っていろ」

「兄上はリンバインズ王国とダメンハイン共和国が先日戦った、リンバインズ王国北西部の戦いをご存じないのですか。リンバインズ王国の新兵器で、ダメンハイン共和国の軍は壊滅したのですよ。その新兵器は矢も剣も効かないと聞きます。そのような新兵器でハゲンドルグ王国へ攻め込まれたら、この国は滅びます。もっと物事を深く考えてください」

ロードリック第二殿下は両手を広げて、ウルリッヒ王太子に向けて熱弁する。

それにしても北西部の戦いについての情報がやけに詳しいな。

ただ噂を聞いただけとは思えない。

ロードリック第二殿下は、優秀な諜報員を他国へ放っているんだろうな。

ロードリック第二殿下は俺の方へ体を向け、姿勢正しく礼をする。

「私はロードリック・ハゲンドルグ。この国の第二王子です。王太子が無礼な発言をしたことお詫びいたします。ハゲンドルグ王国はリンバインズ王国と鉾を交えるつもりはありません。三国が同盟したのも、王太子がダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国の甘い言葉に乗せられただけですから」

「ロードリック、他国の諸侯へ、そこまで内情を言わなくてもいいだろう」

「兄上は、フレンハイム伯爵を侮り過ぎなんですよ。ダメンハイン共和国を先の戦で大敗させたのも、プラの製造方法を発見したのも、全てフレンハイム伯爵なんですよ。これくらいの情報は既にフレンハイム伯爵はお知りですよ。半蔵、出てきなさい」

ロードリック第二殿下は空中を見回しながら、名前を呼ぶ。

すると壁が布のようにペラリと剥がれ、黒装束の男性が現れた。

半蔵……まさか!

その男を見て、ウルリッヒ王太子は渋い表情をする。

「お前がお抱えにしている忍が優秀なことは知っている。俺が相談もせずに浅慮で同盟を組んだのは悪かったと思っているが、ダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国に迫られたのだから仕方ないだろう」

「兄上が行動派なことはわかっています。だからクレメンス宰相と私が支えているのでしょう。今回のような先走りは、今後は控えてください」

拗ねた表情をしているウルリッヒ王太子を放置し、ロードリック第二殿下は俺のほうへ顔を向ける。

「それでは仕切り直して、話し合いをしましょうか」

ロードリック第二殿下が手の内を明かしたなら、こちらも応えないとな。

俺は大きく頷き、天井に声をかける。

「スイ、例のモノを持ってきてくれ」

天井の板を外して、スイが棒を持って姿を現した。

スイから棒を受け取り、俺は三人へ見せる。

「これは『ヌリコーロ』というリンバインズ王国でも、まだ売っていない新商品だ。手土産にどうぞ」

「やはり情報通りの方のようですね。どうぞソファに座ってください。フレンハイム伯爵を国賓として迎えます」

こうして俺とハゲンドルグ王国側との話し合いが始まった。
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