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91.ハゲンドルグ王国へ

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ハゲンドルグ王国の調査を、ジークとスイに命じてから一週間が過ぎた。

ジークの報告ではハゲンドルグ王国のヘンゼルト国王陛下は病床に着いており、ウルリッヒ王太子が国王代理と称して国政を動かしているという。

だが、まだ次期国王は選定されておらず、貴族達は王太子と第二殿下とどちらが国王になるのかで、王宮内は二分しているらしい。

ウルリッヒ王太子は武に誇りを持つ、脳筋な性格で、金と利権と女が大好きという。

第二殿下のロードリックは幼少の頃、病弱だった影響で、武術よりも書籍に興味を持ち、部屋の中から出ることも少なく、内向的な性格としかわかっていない。

今回の三国同盟についてはダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国がウルリッヒ王太子に働きかけて実現したらしい。

ジークはソファに腕をかけ、ニヤリを笑う。

「多額の賄賂がウルリッヒ王太子の懐に入ったんだろうよ」

「ウルリッヒ王太子ならプラの製造法に飛びつくでしょうね」

リーファは眉間に皺を寄せて呟く。

ジークは両手を広げて笑う。

「金、女、利権の欲しい貴族達は、ウルリッヒ王太子を次期国王にと推してるらしいぜ。きちんと政権を運営したいクレメンス宰相は、第二殿下を推しているんだってよ。だから王太子と宰相は仲が悪いらしいぜ。今までは穏健なヘンゼルト国王陛下が健全だったから平和だったが、ウルリッヒ王太子が国王になったらイケイケの国政路線を取るかもしれねーな」

「第二殿下の性格や趣向がわからないから、どちらが国政にとって良いか判断はつかないが、」

俺が悩んでいると、今まで黙っていたスイが手をあげる。

「第二殿下のロードリック様のことを調べてきたでござる。外出しないのも、武術の訓練を人前でしないのも、ウルリッヒ王太子から禁止されているからでござる。国王になるのは自分であり、弟は目立たず控えろというのがウルリッヒ王太子の方針のようでござる」

スイは言葉を一旦切り、大きく息を吐く。

「ロードリック様は兄である王太子を刺激したくないと、幼少の頃から王太子に従ってきたでござるよ。しかし父のヘンゼルト国王陛下が床に伏してから、ロードリック様も心境の変化があったご様子。今はクレメンス宰相から国政について指導を受けているでござる」

二人から報告を受けた俺は、スイと一緒に王宮のベヒトハイム宰相の執務室へ転移した。

そしてハゲンドルグ王国の情報をベヒトハイム宰相に伝えた。

ベヒトハイム宰相は難しい表情をして胸の前で両腕を組む。

「ハゲンドルグ王国をこちら側につける為には、外務官と話しをしていても埒が明かない。ダメンハイン共和国とエルスハイマ聖教国に知られないように、ハゲンドルグ王国の王宮と接触し、ウルリッヒ王太子を接触するのが最良だが……どうやってハゲンドルグ王国の王都まで行くかだな」

「それでしたら、俺がスイと一緒に転移して、ハゲンドルグ王国の王宮へ赴き、ウルリッヒ王太子の人柄とロードリック第二殿下と会ってきましょう」

俺は気軽を装って、ベヒトハイム宰相に提案する。

ベヒトハイム宰相は俺の顔を見て不安そうに呟く。

「その手があったか……しかし、これはリンバインズ王国の未来をも左右する外交だ。自分で三国同盟を何とかしようとするな。いいか、ウルリッヒ王太子とロードリック第二殿下の真意を確かめるだけに留めよ」

「仰せのままに」

俺は深々と礼をする。

そしてスイと手を繋ぎ、ハゲンドルグ王国の王都へと転移した。

ハゲンドルグ王国の王都の路地裏に転移した俺とスイは王城へ向かう。

スイは不思議そうに首を傾げる。

「主は、どのように王城へ忍び込むつもりでござる。私が主をオンブしてもよいでござる」

「オンブは勘弁だな。王城へは正面から乗り込むつもりだ。別にハゲンドルグ王国と戦争しているわけじゃない。取って喰われることもないだろ」

「では私は隠れておりますので、何かありましたらお呼びください」

スイはそう言うと壁へと同化して姿を消した。

街から王城までブラブラと歩いていき、城門の兵士へ声をかける。

「俺はリンバインズ王国のフレンハイム伯爵だ。ウルリッヒ王太子に会いたい」

「なぜ、リンバインズ王国の伯爵が、王都にいるんだ? 嘘なら許さんぞ」

俺の言葉を聞いて、兵士達は俺を取り囲んで槍を突き付ける。

俺は懐から家紋が刻まれている短刀を取り出し、鞘ごと兵士へと投げる。

「俺が伯爵の証だ。それを持ってクレメンス宰相の所にでも持っていけ」

短刀を受け取った兵士は足早に城内へと走っていった。

しばらく兵士達に囲まれて待っていると、厳めしい表情をした壮年の男性が兵士と共に現れた。

「短刀を見てまさかと思い来てみたが、本当にリンバインズ王国のフレンハイム伯爵ですか?」

「はい。お初にお目にかかります。私はアクス・フレンハイムと申します」

「私はコンラート・クレメンス、この王国の宰相を務めています。このような所で立ち話も失礼に当たる。場所を移しましょう」

クレメンス宰相は笑顔で城門のほうへ手をかざす。

二人で城内を歩き、応接室へ向かう。

応接室のソファに座ったクレメンス宰相は、笑顔を消し目を細める。

「外務官が三国同盟の件でリンバインズ王国へ行ったばかり。突然のフレンハイム伯爵の来訪。無関係ではないでしょう。どのようなご用件で来られたのですか?」

身構えるクレメンス宰相へ俺はニッコリと微笑む。

「用件の内容を決めようと思って来たんですよ」

「は?」

俺の言葉を聞いて、クレメンス宰相は口を開けたまま絶句した。
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