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83.漆黒の六芒星
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本屋『こもれび』のメイド達が撒いたビラの件で、ゲスリング司教が邸に乗り込んできた。
ゲスリング司教は暗い笑みを浮かべて、俺に迫る。
「リンバインズ王国とエルスハイマ聖教国の外交問題に発展しますぞ。一介の領主風情が国を相手に何もできますまい。伯爵は大人しく我等に従って協力すればよい。我等の傀儡になれば、エルスハイマ聖教国で褒章と役職がいただけるでしょう。黙って言いなりになりなさい」
「断る! このフレンハイム伯爵領は人族、亜人、獣人が平等に、自由に暮らせる領地だ! 我が領地、領都フレイムの自由は俺が守る! イーリア教団の好きにはさせない!」
「フレンハイム伯爵は我等の力を侮っておられるようだ。後で泣き言は聞きませんぞ」
そう言って、ゲスリング司教は執務室から出て行こうとする。その後ろ姿に俺は声をかける。
「ゲスリング司教、少し待って。今、いいものを見せるから」
俺はそう言って、部屋の端を見る。
すると今まで隠ぺいの魔法で隠れていたオーラルが姿を現した。
そして杖を天井に向けてかかげる。
「投影」
オーラルが詠唱した瞬間、大空に執務室の映像が映し出され、俺とゲスリング司教のやり取りが鮮明に流れていく。
「街の人達はどんな風に反応するだろうね。フレンハイム伯爵を脅迫するイーリア教の司祭様、面白いことになりそうだね」
オーラルの言葉に慌てて、窓から外を見た ゲスリング司教は憤怒の表情をして、オーラルへ飛びかかる。
しかしオーラルは瞬間移動して、そのまま姿を消した。
ゲスリング司教は口から泡を吹きながら、俺を見据える。
「いますぐ止めさせろ。お前は本気で私を敵に回したのだぞ。わかっているのか」
「わかってやってるに決まってるだろ。この街から出ていけ」
俺の言葉に、ゲスリング司教は殺気のこもる目をして執務室から出ていった。
大空の映像は、オーラルの手によって昼過ぎまで何度も繰り返し流された。
これは賢者であるオーラルだけが使える念写記録という魔法だ。
それを投影魔法で大空に映し出しているのである。
陽が傾く頃、俺、オーラル、リーファ、ジーク、スイの五人は執務室に集まっていた。
スイの報告では、あの映像の影響で領都の人々は、道に立っているイーリア教の信徒の声に一切耳を傾けなくなったという。
ジークの報告では、ゲスリング司教の誘いをはねのけた俺の評価はうなぎ上りだそうだ。
逆にゲスリング司教の評価は下がり続けているという。
スイとジークの報告を聞いたオーラルはニヤニヤと微笑む。
「アクスのおかげで、楽しませてもらったよ。しかし、こんなことをして大丈夫なのか?」
「別に俺はエルスハイマ聖教国に喧嘩を売ったわけではないし、イーリア教団のことも批判していない。俺は俺の主張を言っただけだ。だから問題ないだろう」
俺は肩を竦めて手をヒラヒラとさせる。
映像が流れてから二週間後、ゲスリング司教はフレンハイム伯爵領から忽然と姿を消した。
街の様子を見ようとコハルと一緒に邸を出る。
大通りを歩く人の数も多く、人族も亜人族も獣人族も仲違いすることなく歩いている。
そんな人々を見て安堵していると、コハルが警戒の雄叫びをあげる。
周囲を見回すが、人込みには何の異変もない。
戸惑っていると、一瞬の間にスイが現れ、短刀で何かを薙ぎ払う。
「毒の吹き矢でござる。主よ。暗殺者が近くに潜んでいるでござる」
スイは身を屈め、短刀を構えて周囲を警戒する。
コハルとスイのおかげで助かった。
俺一人で歩いていれば命はなかったな。
しばらくするとコハルは警戒を解いて、俺の足に体をこすり付ける。
スイも短刀を懐に締まって、大きく息を吐いている。
俺は邸へ戻り、ジーク、リーファ、オーラルの三人に、街中で暗殺者に襲撃されたことを伝えた。
リーファは小さな唇に指を当てる。
「アクスって、けっこう恨まれたりしてると思うのよ。羊皮紙の生産業者、陶器の生産者とか」
……紙を作ったり、プラ商品を作ったりしているからな……そう言われると否定できない……
「今回は違うだろう。最近、特にアクスが恨まれたのはゲスリング司教とイーリア教団の信徒達だ。あの映像の一件以来、領都の教会に来る人々の数は減ってるっていうからね」
「ここで推理していても仕方ないぜ。俺が裏を洗ってやるよ。アスクは俺を守る盾だからな。殺られると困るからな」
オーラルの言葉にジークはへらへらと笑う。
いつから俺はジークの盾になったんだ?
それから五日後、執務室へジークがやってきた。
ジークはソファにドカッと座ると、険しい顔を俺に向ける。
「領都に徘徊している連中は『漆黒の六芒星』っていう裏の組織だ。『漆黒の六芒星』はリンバインズ王国で暗躍する組織では大手でな。盗み、誘拐、暗殺、何でも請け負う厄介な連中だ。『漆黒の六芒星』ボスは謎が多くて、まったく情報が掴めねえんだ」
「さすがはジーク殿、もうわかったでござるか。追加の情報でござる。イーリア教団は『漆黒の六芒星』を雇って、邪魔者を暗殺しているでござる。王都へ戻ったゲスリング司教が主の暗殺を依頼したでござるよ」
天井の板を外して顔をだしたスイが、ジークの話しに付け加える。
ジークは楽しそうにニヤニヤと笑む。
「アスク様のことは俺とスイが守ってやるよ。二十四時間中、鳥がこの邸を警戒している。不審人物が邸に近寄れば、そいつらは鳥の餌になるだけさ」
ジークの肩の上でフクロウが翼を大きく広げた。
裏の組織に狙われるとは、厄介なことになったな。
ゲスリング司教は暗い笑みを浮かべて、俺に迫る。
「リンバインズ王国とエルスハイマ聖教国の外交問題に発展しますぞ。一介の領主風情が国を相手に何もできますまい。伯爵は大人しく我等に従って協力すればよい。我等の傀儡になれば、エルスハイマ聖教国で褒章と役職がいただけるでしょう。黙って言いなりになりなさい」
「断る! このフレンハイム伯爵領は人族、亜人、獣人が平等に、自由に暮らせる領地だ! 我が領地、領都フレイムの自由は俺が守る! イーリア教団の好きにはさせない!」
「フレンハイム伯爵は我等の力を侮っておられるようだ。後で泣き言は聞きませんぞ」
そう言って、ゲスリング司教は執務室から出て行こうとする。その後ろ姿に俺は声をかける。
「ゲスリング司教、少し待って。今、いいものを見せるから」
俺はそう言って、部屋の端を見る。
すると今まで隠ぺいの魔法で隠れていたオーラルが姿を現した。
そして杖を天井に向けてかかげる。
「投影」
オーラルが詠唱した瞬間、大空に執務室の映像が映し出され、俺とゲスリング司教のやり取りが鮮明に流れていく。
「街の人達はどんな風に反応するだろうね。フレンハイム伯爵を脅迫するイーリア教の司祭様、面白いことになりそうだね」
オーラルの言葉に慌てて、窓から外を見た ゲスリング司教は憤怒の表情をして、オーラルへ飛びかかる。
しかしオーラルは瞬間移動して、そのまま姿を消した。
ゲスリング司教は口から泡を吹きながら、俺を見据える。
「いますぐ止めさせろ。お前は本気で私を敵に回したのだぞ。わかっているのか」
「わかってやってるに決まってるだろ。この街から出ていけ」
俺の言葉に、ゲスリング司教は殺気のこもる目をして執務室から出ていった。
大空の映像は、オーラルの手によって昼過ぎまで何度も繰り返し流された。
これは賢者であるオーラルだけが使える念写記録という魔法だ。
それを投影魔法で大空に映し出しているのである。
陽が傾く頃、俺、オーラル、リーファ、ジーク、スイの五人は執務室に集まっていた。
スイの報告では、あの映像の影響で領都の人々は、道に立っているイーリア教の信徒の声に一切耳を傾けなくなったという。
ジークの報告では、ゲスリング司教の誘いをはねのけた俺の評価はうなぎ上りだそうだ。
逆にゲスリング司教の評価は下がり続けているという。
スイとジークの報告を聞いたオーラルはニヤニヤと微笑む。
「アクスのおかげで、楽しませてもらったよ。しかし、こんなことをして大丈夫なのか?」
「別に俺はエルスハイマ聖教国に喧嘩を売ったわけではないし、イーリア教団のことも批判していない。俺は俺の主張を言っただけだ。だから問題ないだろう」
俺は肩を竦めて手をヒラヒラとさせる。
映像が流れてから二週間後、ゲスリング司教はフレンハイム伯爵領から忽然と姿を消した。
街の様子を見ようとコハルと一緒に邸を出る。
大通りを歩く人の数も多く、人族も亜人族も獣人族も仲違いすることなく歩いている。
そんな人々を見て安堵していると、コハルが警戒の雄叫びをあげる。
周囲を見回すが、人込みには何の異変もない。
戸惑っていると、一瞬の間にスイが現れ、短刀で何かを薙ぎ払う。
「毒の吹き矢でござる。主よ。暗殺者が近くに潜んでいるでござる」
スイは身を屈め、短刀を構えて周囲を警戒する。
コハルとスイのおかげで助かった。
俺一人で歩いていれば命はなかったな。
しばらくするとコハルは警戒を解いて、俺の足に体をこすり付ける。
スイも短刀を懐に締まって、大きく息を吐いている。
俺は邸へ戻り、ジーク、リーファ、オーラルの三人に、街中で暗殺者に襲撃されたことを伝えた。
リーファは小さな唇に指を当てる。
「アクスって、けっこう恨まれたりしてると思うのよ。羊皮紙の生産業者、陶器の生産者とか」
……紙を作ったり、プラ商品を作ったりしているからな……そう言われると否定できない……
「今回は違うだろう。最近、特にアクスが恨まれたのはゲスリング司教とイーリア教団の信徒達だ。あの映像の一件以来、領都の教会に来る人々の数は減ってるっていうからね」
「ここで推理していても仕方ないぜ。俺が裏を洗ってやるよ。アスクは俺を守る盾だからな。殺られると困るからな」
オーラルの言葉にジークはへらへらと笑う。
いつから俺はジークの盾になったんだ?
それから五日後、執務室へジークがやってきた。
ジークはソファにドカッと座ると、険しい顔を俺に向ける。
「領都に徘徊している連中は『漆黒の六芒星』っていう裏の組織だ。『漆黒の六芒星』はリンバインズ王国で暗躍する組織では大手でな。盗み、誘拐、暗殺、何でも請け負う厄介な連中だ。『漆黒の六芒星』ボスは謎が多くて、まったく情報が掴めねえんだ」
「さすがはジーク殿、もうわかったでござるか。追加の情報でござる。イーリア教団は『漆黒の六芒星』を雇って、邪魔者を暗殺しているでござる。王都へ戻ったゲスリング司教が主の暗殺を依頼したでござるよ」
天井の板を外して顔をだしたスイが、ジークの話しに付け加える。
ジークは楽しそうにニヤニヤと笑む。
「アスク様のことは俺とスイが守ってやるよ。二十四時間中、鳥がこの邸を警戒している。不審人物が邸に近寄れば、そいつらは鳥の餌になるだけさ」
ジークの肩の上でフクロウが翼を大きく広げた。
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