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78.北西部の戦い①

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ベッドで寝ていた俺は、急に体が動かなくなる感覚に襲われて目を覚ます。

すると俺の体の上に馬乗りになって、スイが俺の顔を覗いていた。

「北西部の戦いの状況報告でござる」

「わざわざ、俺の寝込みを襲って報告せんでいいわ」

俺の大声に、スイはベッドからシュタッと飛び降り、床に片膝をついた。

「あまりに可愛い寝顔でしたので、食べてしまおうかと」

「俺は菓子でもケーキでもない。そんなことより報告しろ」

「北西部の戦いは、ハルトマン伯爵軍が領都にこもって籠城戦になっているでござる。守るハルトマン伯爵軍の数は千、攻めている。ダメンハイン共和国軍は二千でござる」

城を落とすには、攻撃側は三倍の軍勢が必要という。

数字だけでいえば、ダメンハイン共和国軍が領都を攻め落とすには難しいが。

スイはそのままの姿勢で顔を上げて、話しを続ける。

「ドレムラート侯爵軍千人が援軍としてハルトマン伯爵の領都へ向かっておりますが、ダメンハイン共和国軍の増援軍二千人もハルトマン伯爵領へ向かって進軍中でござる」

ドレムラート侯爵軍とダメンハイン共和国軍の増援軍の戦力差は倍。

リンバインズ王国側は不利だな。

このまま長期戦が長引けば、ジリ貧でハルトマン伯爵軍とドレムラート侯爵軍が負ける可能性のほうが大きい。

領都フレイムからハルトマン伯爵領の領都まで行くには、リンバインズ王国の中央西部を抜けて北西部へ行くルートとなる。馬車でなら三か月近くかかる行程だ。

『タンク一号』であれば一ヵ月以内に戦場へ到着するだろう。

俺は服を着替えて執務室へ行き、スイに指示してオルバート、カーマイン、ドルーキン、オーラル、ジーク、ジェシカ、ハミルトン、フランソワ、クレトの九名を呼び出す。

そして俺は椅子から立ち上がり、机に両手を着く。

「これより北西部の戦いへ「タンク一号」十台で援軍に行く。それぞれに戦準備を始めろ。明朝には出発する」

俺の言葉にジェシカが難しい表情をする。

「なぜ北西部の戦いに顔を突っ込む? 南部のアタシ達には関係ないことだろ?」

「もし北西部の戦いで北西部の連中が負ければ、必ず王宮が動く。王国軍の近衛騎士団を派兵するだろうが、南部にも援軍の要請がくる。それを待ってから動くか、先に動くかの違いだ。今のほうが自由に動けるだろ」

「なるほど、アクスは北西の連中が、このままいけば負けて、ハルトマン伯爵領がダメンハイン共和国軍の占領下となると踏んだわけか。よくわかった。援軍に向かおう」

俺は皆を見回し、拳を天井へ向けて上げる。

「北西部の戦いに参戦だ」

翌日、俺はオルバートに当主代理を任せ、「タンク一号」十台で領都フレイムを出発した。

カーマイン達が作製した「タンク一号」は通常の馬車の倍ほどの長さがあり、後部にはボウガンの弓のセット、矢、手投げ弾など荷を積めるようになっている。

そして「タンク一号」はリミッターが解除されており、最高速度は八十キロだ。

しかし、リンバインズ王国の街道は整備されていないので、全速では走れないけど。

俺達、戦車部隊は一ヵ月で王国中央部を通り抜け北西部へと向かう。

領都フレイムを出発して四十日後ハルトマン伯爵領の領都付近へ到着した。

スイとジークに戦場を偵察してもらったところ、ハルトマン伯爵軍とドレムラート侯爵軍の北西部連合軍はダメンハイン共和国軍に圧され、領都で籠城戦に突入しているという。

設営した天幕の中で、俺は皆に指示をだす。

「北西部連合軍は籠城戦に持ち込んでいる。だからダメンハイン共和国軍はどこからも攻撃されないと油断しているはずだ、俺達はその横っ腹を突く。皆は『タンク一号』の指揮を取れ。敵兵を殺す必要はない。怪我をさせて行動不能にするだけでいい。戦場では『タンク一号』の足を止めるな。走り続けていれば、攻撃は回避できる。『タンク一号』の性能を信じて走り続けろ」

「俺が指揮を取るなんてできないよ。誰かのタンクに俺を乗せてくれよ」

俺の作戦を聞いてクレトが情けない声をあげる。

俺は彼を見て、ゆっくりと顔を左右に振る。

「この中で『タンク一号』を一番上手く操れるのはクレトだ。自信を持ってくれ」

「アタシがクレトの面倒を見てやるよ。アタシと並走すればクレトも安心だろう」

ジェシカは優しい表情でクレトを見る。

クレトが幼い頃から、ジェシカはよく彼のことを面倒見ていた。

根が優しい彼女は、クレトのことを弟のように思っているのだろう。

俺は椅子から立ち上がり、皆に向けて号令を出す。

「明日の明け方、ダメンハイン共和国軍へ急襲をかける」

俺達は太陽が登り始めた頃、野営地を出発して、領都の近くで野営をしているダメンハイン共和国軍を目指す。

『タンク一号』は、カーマイン、ドルーキン、オーラル、ジーク、ジェシカ、ハミルトン、フランソワ、クレトの八名がそれぞれに指揮を取る。

俺とスイは『タンク一号』に同乗し、俺が運転でスイが攻撃の指揮をする。

一台の『タンク一号』は、非常用として野営地のテントに置いてきた。

敵軍を野営地が見えてきた。

俺は後ろのいるスイへ向けて大声をだす。

「手投げ弾を投げて、目を覚まさせてやれ!」

「了解でござる。派手に起しましょうぞ」

スイは手投げ弾に着火すると、『タンク一号』の上部のハッチを開けて、外へ身を乗り出す。

そして野営地へ向けて手投げ弾を投下した。

手投げ弾が爆発する中を、俺達の『タンク一号』が敵軍へ向けて爆走する。

戦闘準備を整えていた敵軍は、俺達の『タンク一号』を発見し、俺達にむけて進軍してきた。

俺、ジェシカ、レクトの三台の『タンク一号』が正面から敵軍へ向かい、オーラル、カーマイン、ドルーキンの『タンク一号』は左へ、ハミルトン、ジーク、フランソワの『タンク一号』は右へと回り込む。

敵軍が大勢で迫ってくる迫力に俺は思わず大声を上げた。

「おわぁー、大群がめちゃ恐い顏で迫ってくるぞ」

「当たり前でござる。相手は主を殺そうと必死なのですでから」

「澄ましてないで、どんどん手投げ弾を投げ込め!」

スイは「御意」と言った後、車内の攻撃部隊へボウガンの指示を出し、自分はハッチを開けて手投げ弾を連投する。

手投げ弾の爆発が左右で起き、敵兵は衝撃と爆音で次々と吹き飛ばされていく。

そして車内の兵がボウガンに弓をセットして、次々の矢を射って敵兵を負傷させていく。

俺達の乗る『タンク一号』は止まることなく敵兵を薙ぎ倒し、敵陣地を阿鼻叫喚の坩堝へと変えていった。
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