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75.初デート

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ベヒトハイム宰相に王宮へ来るように伝令を受けた俺は、スイと共に王都の路地へと転移した。

そして王城の門番に紋章を見せ、兵士の案内によりベヒトハイム宰相の執務室へ向かう。

執務室の扉を開けると、机で書類整理をしていたベヒトハイム宰相は俺をジロリと見る。

「よく来たなアクスよ。私の言いたいことはわかるか?」

「……プラ商品のことでしょうか?」

「そうだ。商売をしていいと言ったが、世間を騒がせろとは言っていないぞ。王国南部でプラ商品は売られているのに、王都では売られていないと王城へ庶民達からの苦情が殺到しておる。これはどういうことだ?」

あ……王都の本屋『こもれび』は全てベレント商会が経営しているから、王都でプラ商品を売るのを忘れていたぞ。

俺は体をモジモジとさせてベヒトハイム宰相から視線を外して俯く。

「……ちょっとした手違いで……王都で売ることを忘れてました……」

「王都はリンバインズ王国の中心であり、王陛下や王族がおられ、貴族達が集う都市。そのことを蔑ろにするとは何事だ。早急に対処しろ」

俺は深々と礼をして、急いで執務室を飛び出した。

そして、そのままの勢いで王城を出て、街の中央通りにあるベレント商会の本店へ向かう。

ベレント商会の会長であるタイマンと商談を済ませた俺は、その日は王都の宿に泊まることになった。

翌日、フレンハイム伯爵領へ転移しようとすると、スイが手首を持って俺を止める。

「私との約束を忘れたでござるか。今日は王都でデートでござる」

「え? 本気で言っていたのか?」

「主は女性に興味がなさすぎでござる。私とてクノ一。女としての技量を磨いてござる」

俺も女子に興味がないわけではない。

今まで領地経営で忙しすぎて、それどころではなかっただけだ。

俺は胸の前で両腕を組んで、大きく頷く。

「わかった。今日一日だけスイに付き合おう」

「それでは一時間待たれよ」

そう言ってスイは強引に宿の部屋から俺を追い出した。

一時間ほどノンビリと街を散歩し、宿に戻って部屋の扉を開けると、着物姿で髪をアップにしたスイが立っていた。

スイは元々スタイルがよく、切れ長の目が美しい日本人顏の女子である。

薄く化粧が施され、唇の薄紅色と桃色の着物がよく合っていた。

俺は「行くぞ」と素っ気なく言い、スイと二人で街へと繰り出した。

大通りを行き来する人々の視線がスイに集中し、隣を歩く俺のことをジロジロと見る。

普通にしていればスイは美少女だし、それが着物を着て歩いてるのだから目立つことこの上ない。

「主、スタスタと歩かれては追いつけぬ。私は着物を着ているゆえ、もう少しゆっくり歩いてほしいでござる」

スイはそういうと俺の腕に自分の腕を絡ませる。

慌てて腕を抜こうとするが、スイの力は強く一段と体を密着された。

「今日はデートでござるよ」

「わかった……だから、そんなにくっつくな」

俺とスイが大通りを歩いていると、五人の厳つい男達に囲まれた。

男達はそれぞれに手に剣を持って、ニヤニヤと笑っている。

その中の一人が剣で肩をポンポンと叩いて一歩前に出る。

「へへへ、兄ちゃん、いい女を連れてるな。金持ちのボンボンか? 俺達に女と金を渡せよ。そうすれば見逃してやる」

あー、スイが美少女だから狙われたか。

俺は運動も苦手だし、喧嘩なんて大嫌いだ。

五人も相手にできないぞ。

俺が悩んでいると、隣のスイの体から霊気にも似たオーラが放たれる。

「せっかく主と初めてのデートでござるのに。絶対に許さん」

スイはそういうと、転移で瞬間移動し、瞬く間に五人の男達を蹴り倒していた。

一瞬すぎて、スイが何をしたのか全くわからなかったぞ。

スイ怒らせると恐いタイプかもしれないな……覚えておこう。

俺とスイは気分を切り替えるため、錬金術師が経営する道具屋へ立ち寄った。

するとスイが小物の置いてある棚を見つめて立ち止まる。

隣からスイの視線を辿ってみると、一本のかんざしが置かれていた。

「かんざしとは珍しいな」

「遠く東にある異国で流行っていると聞いて、樫木で作ってみたんだけど、まったく売れなくてな」

一応、これはデートだから、スイに贈り物ぐらいはしていいだろう。

俺は懐から革袋を取り出し、その中から金貨を一枚、店主に手渡した。

「これを貰おう。釣りはいい」

「私に買ってくれたでござるか。嬉しいでござる」

かんざしを両手で持ち、スイは頬を赤らめる。

こうして見ると普通の女の子なのにな。

俺達は道具屋を出て本屋『こもれび』に向かった。

店の前にはりりー、アンナ、クレア、バトラーの等身大フィギアが立っていた。

店の中に入り、テーブルに着くと、スイは手を上げてメイドに声をかける。

「スーパージャンボパフェ、大食いチャレンジに参加するでござる」

え?

パフェは俺がバトラーに教えたメニューではあるが、大食いチャレンジって何だ?

メニューを見ると、確かに大食いチャレンジと書いている。

食べきれば無料だが、食べ残した時は金貨一枚を支払うと書かれている。

かなりハードな設定だな。

メイドが透明のボールのパフェをテーブルの上にドンと置く。

それを見て、スイは目を輝かせる。

「これを食べるのが夢だったでござる。いただきますでござる」

スイはスプーンを持ち、次々のパフェを口の中へと放り込んでいく。

これってデートの時に食べるモノか?

スイがそれで機嫌がいいなら、問題はないけどさ。

食べ始めてから二十分ほどで、スイはペロリとジャンボパフェを平らげた。

俺は呆れた表情でスイに声をかける。

「それだけ甘いモノを、よく食べられるな」

「女の子にとって甘い菓子は別腹でござるよ」

スイは満足そうに微笑む。

俺達は夕暮れ時までデートを楽しみ、領都フレイムへと転移した。

それから一週間後、執務室にリリー、アンナ、クレア、リーファ、フランソワの五人が訪れた。

アンナが皆を代表するように一歩前に出て胸を張る。

「スイだけデートするなんて反則じゃない。私達も平等に扱ってよ」

「は? どこでそのことを聞いたんだ? 俺は誰にも話していないのに?」

「スイが自慢して話してるわよ。もう邸で知らない人はいないわ」

しまった! スイに口止めするのを忘れてた!

アンナは鼻息を荒くして、俺に詰め寄る。

「スイとデートしたんだから、私達ともデートしなさいよね」

「そうですー。スイさんだけズルいですー」

リリーは目を潤ませて俺に訴える。

あー、どうして、毎回、毎回、ややこしい事になるんだよ!

そっと静かに暮らさせてくれ!
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